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丸紅グループが描く生成AI活用の全貌 〜内製開発・AIエージェント活用で変わる総合商社の姿〜

本ブログは 【寄稿】AI民主化に向けた丸紅の取組(丸紅株式会社)の続編です。

みなさん、こんにちは。総合商社を担当しているソリューションアーキテクトの林です。

前回のブログでは、丸紅株式会社 デジタル・イノベーション部が内製で開発した社内生成 AI プラットフォーム「Marubeni Chatbot」の誕生から、7,500 人以上への展開、そして業務時間 25〜65% 削減という成果をご紹介しました。

あれから約1年半。丸紅グループの生成AI活用は、さらに大きく進化しています。前回のブログに引き続き、デジタル・イノベーション部 芹川 武尊 氏からお話を伺いました。

今回は、Marubeni Chatbot のその後の進化に加え、新たに立ち上がった 3 つの取り組みをご紹介します。丸紅グループが生成 AI をどのように業務や開発の現場に根付かせてきたか、ぜひご覧ください。

Digital Experts 株式会社について

丸紅グループの生成 AI 活用を語る上で欠かせない存在が、Digital Experts 株式会社 です。丸紅グループ各社の新たな取り組みに対し、高いエンジニアリング力で実証から実装・運用まで一気通貫で支援する会社です。

Digital Experts の最大の特徴は、全社員がコーディングエージェントを用いて日常の開発業務を行っている点です。

社内プレゼン作成ツールをはじめ、業務に必要なシステムを自分たちで開発・活用するなど、生成 AI を日常の開発業務に深く組み込んでいます。本ブログで紹介する取り組みの多くは、丸紅 デジタル・イノベーション部と Digital Experts の緊密な連携によって実現したものです。

取り組み1:Marubeni Chatbot — エージェント AI への進化

前回ブログでご紹介した Marubeni Chatbot は、登録ユーザー数が 7,500 人以上から 10,000 人以上へと拡大し、丸紅グループ全社の日常業務に欠かせないプラットフォームへと成長しました。

AI エージェントの搭載

基本的な対話 UI に加え、LLM が自律的に試行錯誤を行い複雑なタスクをこなすエージェント機能の搭載を進めています。

このエージェント機能の中核を担うのが、Amazon Bedrock AgentCore です。AgentCore Runtime を活用することで、従来のサーバーレス構成では課題となっていた長時間実行のタイムアウト問題を解消し、複雑なエージェントタスクを安定して実行できる環境を実現しています。

Marubeni Chatbot のアーキテクチャ図

Marubeni Chatbotのアーキテクチャ図

今までの機能に加え、新たに以下のような機能も追加されています。

  • PowerPoint 自動生成ツール:高品質なプレゼンテーションを半自動で生成。社内プレゼン作成の工数を大幅に削減
  • データ分析・ドキュメント生成システム:社内情報を参照した上で、データ分析からドキュメント生成までを一気通貫で実行
Marubeni Chatbot の画面イメージ

Marubeni Chatbotの画面イメージ

取り組み2:競合分析システム — 対話形式で市場を読み解く

総合商社において、市場や競合の動向を迅速に把握することは、事業判断の精度を左右する重要な要素です。丸紅は、外部データソースや Web 上の情報を AIと組み合わせることで、競合分析を支援するシステムを構築しました。

本システムでは、財務データベース、Web データ、ユーザーがアップロードした PDFなど、複数のデータソースを横断的に蓄積・参照できる基盤を整備しています。LLM が Tool useを通じて必要なデータへ動的にアクセスすることで、競合企業の候補を AI が列挙し、各社の事業概要や財務状況の要約、比較分析からレポート作成までを対話形式で AIが支援します。

競合分析システムの画面イメージ
競合分析システムの画面イメージ

競合分析業務では、多数の企業情報の収集・整理に加え、財務指標の横断分析や市場ポジションの評価など、長時間かつ複雑な処理が求められます。こうした要件に対応するため、AI エージェントの実行基盤として Amazon Bedrock AgentCore を採用しました。これにより、AWS Lambda の実行時間制約を超える長時間の自律的な情報収集・分析を実現しています。

さらに、Web 上の公開情報に加え、信頼性の高い外部データソースの定量データを組み合わせることで、実務の意思決定に活用できる分析品質を確保しています。

ユーザーは、「このセクターの競合他社の財務状況を比較して」「最新のニュースを踏まえてリスクを整理して」といった自然言語での問いかけを行うだけで、AIがリアルタイムに関連データを参照しながら回答を生成します。

競合分析システムのアーキテクチャ図
競合分析システムのアーキテクチャ図

取り組み3:水道管路 AI 劣化予測診断サービス — 作業時間を 99% 削減

丸紅株式会社 環境インフラプロジェクト部と Digital Experts 株式会社が共同で開発した、水道管路の AI 劣化予測診断サービスです。日本全国の自治体が抱える水道インフラの老朽化問題に対し、人手不足・技術継承の困難・予算制約という課題を AI で解決することを目指しました。

自治体から管路データを受領し、データの前処理・AI での分析・レポーティングまでの業務全体の作業時間を 5 ヵ月から 1.5 ヵ月へ大幅に削減。さらに、AI を活用したデータサイエンス業務の自動化により、分析作業を約 99% 削減することに成功しました。

AI による分析結果を GIS(地理情報システム)上に反映することで、更新が必要な管路を視覚的に把握できるようになり、自治体の意思決定を大きく支援しています。スモールスタートから始め、ビジネスの成長に合わせて柔軟にスケールできる構成を採用しており、AWS Control TowerAWS IAM を活用したマルチアカウント構成により、異なるアクセスレベルのメンバーへの適切な権限分離を実現。機密保護と効率的な共同開発を両立しています。

水道管路 AI 劣化予測診断サービス アーキテクチャ図

水道管路 AI 劣化予測診断サービス アーキテクチャ図

取り組み4:AI DLC Unicorn Gym — 「AI と共に開発する」文化の醸成

Marubeni Chatbot の展開や競合分析・水道管路診断といった取り組みを通じて、丸紅グループ内で生成 AI の活用が着実に広がっていました。こうした流れを受け、AWS から「開発プロセスそのものに AI を組み込む」次のステップとして提案・実施したのが、AI DLC Unicorn Gym です。

2026 年 2 月、丸紅株式会社と Digital Experts 株式会社、丸紅I-DIGIOホールディングス株式会社 の合計 23 名が参加した 3 日間の AI DLC Unicorn Gym を開催しました。

AI DLC Unicorn Gym とは

AI-DLC とは、AI をソフトウェア開発の中心的な協働者として位置づけ、開発ライフサイクル全体に AI の能力を組み込む新しい開発手法です。AI が計画を立案・実行し、人間が重要な意思決定を担うという役割分担のもと、Inception(要件定義)・Construction(設計・実装)・Operations(デプロイ・運用)の 3 フェーズで開発を進めます。Kiro といったコーディングエージェントを活用することで、開発速度を大幅に向上させることができます。AI DLC Unicorn Gym は、この手法を実際のプロダクト開発を通じて体験する AWS のプログラムです。

実業務テーマで挑む 3 日間:開発から成果発表まで

「社内ユーザー用のサンドボックスアプリ基盤」「牛体重推定アプリ」「Marubeni Chatbot 内でのSkills 共有プラットフォーム」「稼働管理ツール」「議事録作成システムの高度化」と、領域・規模感の異なる 5 テーマに取り組みました。途中で方向修正が発生したチームもありましたが、生成 AI を活用することで修正コストを大幅に抑え、全チームが 3 日間で成果物を完成させました。最終発表では AWS にデプロイした環境を用いたデモを実施するチームもいました。非エンジニアはAIに要件を伝えるとともにビジネス上の意思決定を行い、エンジニアはAIが生成した成果物をレビューし、要件が正しく反映されていることを確認することで、「AI を使えば自分たちでも作れる」という実感を得る場となりました。「AI-DLC がいかに強力なツールであるかは、ワークショップを体験してみないとなかなか伝わりづらい」というアンケートコメントが象徴するように、実際に手を動かすことで初めて実感できる体験となりました。

最終発表会の様子

最終発表会の様子
議事録作成システム画面

議事録作成システム(成果物デモ画面)

おわりに

Marubeni Chatbot はエージェント機能を搭載し 10,000 人超の日常業務を支えるプラットフォームへと進化。競合分析システムや水道管路 AI 劣化予測診断サービスでは、AI が業務の中核を担い、定量的な成果を生み出しています。そして AI DLC Unicorn Gym では、エンジニア・非エンジニアが共同するAIネイティブなソフトウェア開発プロセスを体感できました。

AWS は今後も、丸紅グループの生成 AI 活用がさらに広がり深まるよう、技術・知見の両面から支援を続けてまいります。本ブログが、皆さまの生成 AI 活用の参考になれば幸いです。

著者プロフィール

Takeru Serikawa

芹川 武尊 (Takeru Serikawa)

丸紅株式会社 デジタル・イノベーション部

2022年 東京大学大学院情報理工学系研究科修士課程修了。情報理工学修士(数理最適化に関する研究)。大学院修了後、丸紅株式会社に入社。入社後は、物流関連最適化システムの開発や、生成AIを活用したグループ会社向けChatbotアプリの開発など丸紅グループを横断したプロジェクトに参画。

Ryutaro Hayashi

林 隆太郎 (Ryutaro Hayashi)

アマゾンウェブサービスジャパン 総合商社・エネルギー業界担当 ソリューションアーキテクト

大手ガス会社にてガススマートメーター・電力トレーディングのシステム開発を経験した後、総合商社にて全社の IT/DX 推進と国内外のエネルギー領域での事業投資・新規事業開発を担当。現在は AWS 総合商社・エネルギー業界のソリューションアーキテクトとして、業界知識を活かした AWS 活用に携わる。