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企業のクラウド移行におけるコスト削減戦略

イントロダクション

今日のデジタル時代において、クラウドへの移行は「なぜやるのか」ではなく、「いつやるのか」というトピックになりました。インフラコストの削減以外にも、クラウドには柔軟性、機動性、信頼性の向上など多くの利点があります。しかし、クラウド移行には多くの利点がある一方で、進捗を妨げる予期せぬ費用が発生する可能性もあります。移行コストは、組織の規模、アプリケーションの複雑さ、移行プロセスの期間によって大きく異なります。さらに、現在の経済状況下では、限られたIT予算と効率性の必要性がクラウド移行の取り組みをさらに複雑にしています。
このブログでは、大規模な企業のクラウド移行におけるコスト削減戦略について考えていきます。

クラウド移行を開始する前に

クラウド移行を成功させるためには、組織全体の利害関係者を結集させるビジネスドライバーを特定することが不可欠です。これには、移行プロジェクトの範囲、利点、およびタイムラインを概説したデータドリブンなビジネスケースを作成する必要があります。移行タイムラインをデータセンター退去などの具体的なビジネス成果と合わせることで、進捗状況を評価する具体的な基準が得られます。AWS Migration Evaluatorなどのツールを活用して、コスト効率の良い移行のための説得力のあるビジネスケースを作成してください。

クラウド移行の複雑さに立ち向かうことは大変な作業ですが、適切なパートナーがそばにいれば、その旅路は容易で報われるものになります。AWSは、顧客の移行コストを軽減するために、AWS Migration Acceleration Program (MAP)を提供しています。AWS MAPは、ツール、ベストプラクティス、AWS パートナーネットワーク(APN)へのアクセス、および移行への投資を提供します。プログラムの早期段階からAWSに相談することで、クラウドマイグレーションジャーニーの各ステップを確認し、最適化されたアプローチを確保することができます。 MAPでは、移行に3ステップのアプローチ(図1参照)を推奨しています。Assess(評価)、Mobilize(準備)、Migrate & Modernaize (移行とモダナイズ)です。

Figure1
図1 – AWS MAPの3ステップアプローチ

評価フェーズ

このフェーズの目標は、クラウドで運用する組織の準備状況を評価することです。

現在のオンプレミスのIT資産(Assets)を理解することは、移行作業とクラウドコストを見積もるために不可欠です。移行を検討する際に組織が直面する一般的な問題の1つが「ダブルバブルコスト」であることを覚えておいてください。このバブルは、組織が現在のオンプレミスインフラの費用を負担しながら、新しくクラウド移行のコストが発生することで形成されます。 インフラストラクチャの組み合わせに基づいて適切なディスカバリーツールを選択するには、AWS規範的ガイダンスを参照してください。ディスカバリーには、移行計画時に見落とされがちな、サードパーティのライセンスコストの評価を含める必要があります。AWS MAPには、ライセンスコストを理解するための実証済みのフレームワーク「Optimization and Licensing Assessment (OLA)」が含まれており(図2参照)、クラウドネイティブで費用対効果の高い代替案を提供します。多くのAWSの顧客がOLAを活用することで、大幅なコスト削減を実現しています。この包括的な発見は、(1)コミットメント支出に基づいた割引価格を提供するAWSホスティングプラン(Savings plansとリザーブドインスタンス)の選択、(2)移行の加速と「ダブルバブルコスト」の削減のための移行計画に役立ちます。

古い機器の保守コストを削減することで、ダブルバブルコストを軽減する別の選択肢は、ReluTechなどのAWSパートナーが提供するIT売却のアプローチです。このアプローチには、ITメンテナンスの外部委託、高額なITリフレッシュの回避、オンプレミスアセットの購入とリースバックなどのコスト削減戦略が組み込まれており、顧客がクラウドへの移行を迅速かつ費用対効果の高い方法で行えるようサポートします。

 


図2 – ライセンス: 移行コスト削減の大きな要因

次のステップは、クラウドへの移行と運用の準備状況を評価することです。AWS Migration Readiness Assessment (MRA) は、ビジネス、人材、ガバナンス、プラットフォーム、セキュリティ、運用の6つのAWS Cloud Adoption Framework (CAF) の柱に沿って組織を評価する無料のワークショップです。MRAの出力には、特定された課題に対処するための計画と、AWS Learning Needs Analysis (LNA) などの追加ワークショップの推奨事項が含まれます。LNAはAWSスキルの準備状況を評価し、カスタマイズされた学習計画を推奨します。AWS Immersion Daysは、移行イニシアチブに参加する従業員にクラウドサービスのハンズオントレーニングを提供します。 詳細なポートフォリオの発見、ホスティング計画、およびMRAの出力により、プログラムはモビライズフェーズに移行する準備ができます。

モビライズフェーズ

このフェーズの目標は、移行のためのベースラインとなるクラウド環境を構築し、再現可能な移行パターンを持ったアプリケーションの移行戦略を策定することです。

これには、(1)クロスファンクショナルチームであるCCoE(Cloud Center of Excellence)を設立し、クラウド移行におけるガバナンスとベストプラクティスを標準化する。(2)適切に設計された基礎となるクラウド環境(ランディングゾーン)を構築する。(3)評価フェーズで実施したMRAから特定されたギャップに対処する ことが含まれます。

組織はこの段階で、初期のワークロードの選択と移行の順序付け、移行戦略の曖昧さ、セキュリティとコンプライアンスのフレームワーク、有識者や専門家の有無など、潜在的な障害に気づく必要があります。これらの懸念に早期に対処することで、分析の停滞を防ぎ、移行の期限を守ることができます。AWS Experience Based Acceleration(EBA)は、アジャイルでハンズオンのアプローチで、摩擦点と障害を解決することを目指しています。EBAでは、お客様の主要な意思決定者とAWSの専門家が集中的なワークショップ環境に集まり、「実際にやってみて証明する(do it to prove it approach)」アプローチで障害を解決するのを支援します。プラットフォームEBAと移行EBAを組み合わせると、モビライズフェーズの目標を達成するのに最適です。プラットフォームEBAでは適切に設計されたランディングゾーンを作成し、移行EBAではいくつかのアプリケーションを素早く移行してランディングゾーンをテストします。CCoEは引き続きガードレールを見直し、繰り返し可能なパターンを確立し、コスト最適化の管理を実装します。

社員の余力や専門知識が限られている場合は、AWS MAP パートナー資金調達プロセスを活用して、適切に設計されたランディングゾーンと繰り返し可能な移行アプローチの構築に関連するコストを、AWS Professional Services またはAWSパートナーを起用して補填することができます。

この段階で最も重要な活動の1つが移行のwaveの計画です。事前に移行のwaveを計画しておくと、チームが移行プロセスに慣れるにつれ、プロジェクトがスムーズに進むようになります。 適切に設計されたランディングゾーン、テスト済みの移行アプローチ、移行のwaveの計画ができれば、移行を加速させる時が来ます!

移行フェーズ

このフェーズの目標は、ダブルバブルコストを抑え、ビジネスケースで概説されているクラウド導入の利点を実現するために、ワークロードをクラウドに迅速に移行することです。

AWS Cloud Migration Factoryは、ワークロードをAWSに大規模に移行するための移行ガバナンスと自動化レイヤーです。Maydenは、AWS Cloud Migration Factoryを活用して、6週間でAWSに300台のサーバーを移行しました。

AWS Application Migration ServiceAWS Database Migration Service(DMS)などのAWSツールを活用して、ビジネス運用を中断することなく移行を迅速化し、コストを削減します。これらのツールは幅広いアプリケーションをサポートしており、追加の投資は必要ありません。また、段階的な価格設定オプションが用意されています。

最初は小さく始め、その後の各waveで移行の速度を上げていくことを計画します。最初のwaveでは、単一のアプリケーションまたは依存関係の少ないアプリケーションから始めます。複雑なアプリケーションは後続のwaveに加えることで、チームが学習し調整する時間を確保できます。さらに、チームはプロセスの改善を特定し実施して、後続のwaveの速度を上げることができます。

移行が進行中は、AWS Cost Optimization の専門家と定期的に打ち合わせを行い、コスト削減の機会を確認することが重要です。

また、この時点で次の大きなステップである「モダナイゼーション」を開始することも重要です。
移行とモダナイゼーションの両方が、継続的なコスト最適化と、クラウドの利点を完全に実現するためのキーです。(図3参照)。


図3 – マイグレーションとモダナイゼーションは、クラウドの恩恵を完全に実現するために重要

まとめ

企業のクラウド移行を主導することは難しい課題ですが、実証されているコスト削減戦略を活用することで、成功の可能性を最大化できます。

このブログで参照されているAWSクラウドサービスの詳細については、以下のリンクを参照してください。

Cloud Migrations Services on AWS
AWS Migration Evaluator
AWS Migration Acceleration Planning (MAP)
AWS Migration Readiness Assessment (MRA)
AWS Optimization and Licensing Assessment (OLA)
AWS Learning Needs Analysis (LNA)
AWS Cloud Adoption Framework (CAF)
AWS Experience Based Acceleration (EBA)
AWS Application Migration Service
AWS Prescriptive Guidance Strategy and best practices for AWS large migrations

翻訳はソリューションアーキテクトの柳 嘉起が担当しました。原文はこちらです。


著者について

Sai S Jeedigunta

Sai S Jeedigunta Sai Jeediguntaは、AWSのシニアカスタマーソリューションマネージャーです。クラウド変革の取り組みを推進し、クラウドの恩恵を実現するために、経営陣や部門横断的なチームとパートナーシップを組むことに情熱を注いでいます。20年以上にわたり、大手企業向けのIT インフラストラクチャ関連の業務を主導してきました。


Joe Rader

Joe Rader Joe RaderはAWSのシニアカスタマーソリューションマネージャーで、2020年から在職しています。Joeは、お客様がクラウドで成功を収められるよう支援し、長期的な成功に焦点を当て、常にコスト削減を意識しています。Joeには30年以上のIT経験があります。