Amazon Web Services ブログ

AWS 上に構築された ONE Order システムで次世代の小売業を実現

国際航空運送協会(IATA)が定義する ONE Order は、航空会社の予約、配送、会計システムの簡素化を目的とした業界主導のイニシアチブです。現行の予約、旅客名記録(PNR)、発券記録、エチケット、電子雑書類(EMD)を段階的に廃止していきます。この仕組みの一環として、IATA は ONE Order システムのメッセージング標準、プロセス、および実装ガイドラインを文書化しました。

この仕組みは、次世代航空小売業に向けた大きな一歩であり、小売業を非常に忠実に模倣しています。これにより、航空会社は複雑なプロセスから解放され、収益決済を含む小売エコシステムにおけるデータの保存、共有、パートナーとのやり取りが簡素化されます。

私は現在の職務において、航空会社、空港、ホテルの顧客と幅広く話をする機会がありました。これらの会話の中で、航空会社は ONE Order に準拠したオーダー管理システムを構築または購入し、既存のエコシステムと統合することを検討していると話してくれました。このブログでは、Amazon Web Services(AWS)上で ONE Order システムをクラウドネイティブに構築し、そのシステムを航空会社の IT やパートナーのエコシステムと統合するためのアイデアを共有したいと思います。

ONE Order による標準化とモデル化

ONE Order の仕組みは、フルフィルメントパートナーやマーケティング パートナーの違いに関係なく、注文の作成、管理、追跡のプロセスをシンプルにします。 これにより、当事者間の支払い決済処理が大幅に高速化され、エコシステム全体で注文の変更をニアリアルタイムで確認できるようになり、業務効率と顧客エクスペリエンスが向上します。

この仕組みの一環として、IATA は以下のものを定義しました:

  • XML 標準による注文データ構造のモデル。このデータ構造には顧客注文のすべての詳細が含まれ、小売業界の典型的な注文に酷似しています。
    • これは、現在ほとんどの航空会社システムに存在する PNR、EMD、ETK データ構造に代わるものです。
  • ビジネスイベント。注文のライフサイクル、および注文のライフサイクルイベントを他の対象システムにプッシュするイベントになります。
    • これには、社内の IT システム(収益管理システムやフルフィルメントシステム)であったり、またはコードシェア・パートナーや、ホテル、陸上製品、小売店などの航空以外の製品・サービス提供者などの外部パートナーも含まれます。
  • 実装ガイダンス。
    • これは、新しい一連のプロセスについて、注文エコシステム内での連携についてのガイダンスになります。

AWSネイティブでのONE Orderシステム構築

次の図は、AWS 上でネイティブに ONE Order システムを構築するための潜在的なアーキテクチャを示しています。

上記の設計は、チャネル、注文ストア、その他の IT システム、エコシステム内のパートナー間のシームレスな情報交換を容易にするイベント駆動型アーキテクチャの構築に重点を置いています。注文の主要業績評価指標(KPI)をニアリアルタイムで監視し、さらなる洞察を得るために企業データレイクに情報を公開しています。ONE Order システムと従来の PNR ベースの旅客サービス・システム(PSS)との共存にも取り組んでいます。

コアとなる注文データストアは、Amazon DynamoDB を使用して構築されています。Amazon DynamoDB は、高速で柔軟性の高い NoSQL データベースサービスで、事実上あらゆる規模のワークロードに対してミリ秒単位のパフォーマンスを実現します。Amazon DynamoDB は、保存時の暗号化、自動バックアップとリストア、および最大 99.999 パーセントの可用性のサービスレベル(SLA) によって保証された信頼性をサポートしています。DynamoDB Streams は、注文テーブルのアイテムレベルの変更の時間順のシーケンスをキャプチャし、この情報をストリーム配信を配信することで、他のアプリケーションやパートナーが注文の作成、変更、履行、キャンセルについて知らせます。注文サービスは、完全なマネージドコンテナオーケストレーションサービスである Amazon Elastic Container Service(Amazon ECS)上のコンテナワークロードとしてデプロイされ、API エンドポイントは、開発者が事実上あらゆる規模で API の作成、公開、保守、監視、および保護を容易にする完全なマネージドサービスである Amazon API Gateway を通じて安全に公開されます。

様々なコンポーネント間のコアメッセージの連携には、Amazon Managed Streaming for Apache Kafka(Amazon MSK)を使用しています。Amazon MSK を使用することで、お客様は可用性の高い Apache Kafka および Kafka Connect クラスタのプロビジョニング、設定、メンテナンスなどの運用オーバーヘッドを大幅に削減できます。

注文と集計は、インタラクティブなログ分析、ニアリアルタイムのアプリケーションモニタリング、ウェブサイト検索などを簡単に実行できる Amazon OpenSearch Service に保存され、スケーラブルでセキュアなデータ可視化を提供する Amazon Managed Grafana を通じて、ニアリアルタイムの読み取り専用アクセスとダッシュボード表示を行います。

フォーマット間の変換や、注文ライフサイクル イベントに基づいたビジネス イベントの開始のための個別の変換ロジックは、サーバーのプロビジョニングや管理を行わずにコードを実行するためのサーバーレス コンピューティング サービスである AWS Lambda を使用して構築されます。 料金は、消費したコンピューティング時間に対してのみお支払いいただきます。

このアーキテクチャは、双方向のイベント交換メカニズムを提供することで、既存の PNR ベースの PSS システムとの共存を可能にし、従来の PSS システムで発生した変更と注文データの同期を保証します。

航空会社のITおよびパートナーエコシステムとの統合

ONE Order システムと航空会社の IT およびパートナー エコシステムの統合は、主にイベントまたは API を通じて行われます。 API は、他のシステムが ONE Order システムと直接対話し、オーダーの作成、変更、キャンセルを行うことを実現します。 一般的な航空会社の顧客チャネル (直接および間接) は、このメカニズムを使用して注文を作成、変更、またはキャンセルします。

IATA によって定義された注文ライフサイクル イベントにより、新しい注文が作成、変更、またはキャンセルされた場合に他のシステムに通知できるようになります。 これらのイベントは、収益管理、PNR ベースの PSS システム、在庫管理システムなどの他の航空会社の IT システムが、注文に何が起こったかを理解し、影響を評価し、下流の処理を開始するのに役立ちます。

またこれらのイベントは、エコシステム内の他のパートナー、例えば、航空会社が共同販売するホテル、空港サービス、その他の非航空小売プロバイダーのような他のサービスプロバイダーやフルフィルメントエージェントとの統合にも役立ちます。

そして、イベントを使用することによって、分離された非同期処理が保証され、このアーキテクチャをスケーラブルで耐障害性の高いものにしています。

次世代小売業

私のように航空会社で、あるいは航空会社と共に数年間働いてきた者にとって、航空業界の小売とパーソナライゼーションの取り組みの進化の一端を担えることはエキサイティングなことです。IATA ONE Order 標準に準拠した次世代小売・プラットフォームを AWS 上でクラウドネイティブに構築したいと考えている航空会社と一緒に仕事ができることを楽しみにしています。
このブログの続きとして、ONE Order システムと航空会社の収益管理システムの統合について詳しく説明しました。これについては、電子書籍「AWS for RMS:クラウドにおける最新の収益管理」で読むことができます。

著者について

Robin Kanthareuben
Robin Kanthareuben は、旅行、輸送、ホスピタリティ分野で 20 年以上の経験を持つ、経験豊富なテクノロジー リーダーです。 彼は、テクノロジー戦略とアーキテクチャのコンサルティングを通じて、大手航空会社、空港、航空連合、ホテル チェーン、旅行テクノロジー プロバイダーと協力してきました。 彼は現在、ドバイに拠点を置くアマゾン ウェブ サービスに勤務しています。 現在の役割では、旅行業界のビジネスおよびテクノロジーエグゼクティブと提携して、クラウドおよびデジタル テクノロジーを活用してビジネス目標を達成し、組織をその分野のリーダーに変革し、最高の顧客エクスペリエンスを提供できるように支援しています。

翻訳はソリューションアーキテクトの程が担当しました。原文はこちらです。