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岩崎電気株式会社様の AWS 生成 AI 事例「カメラ付き照明で冠水検知を実現。照明の専門メーカーとして80年以上の歴史を持つ製造業のモノとコト融合

本ブログは岩崎電気株式会社様と Amazon Web Services Japan 合同会社が共同で執筆いたしました。

みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの瀧田です。

2024 年から2025 年にかけて、多くのお客様に生成 AI の活用にチャレンジいただきました。製造業のお客様においても、生成 AI を活用した新しい製品・サービス開発の取り組みが増えてきています。

今回は、照明の専門メーカーとして80年以上の歴史を持つ岩崎電気株式会社様 が AWS の生成 AI サービスである Amazon Bedrock を活用して、カメラ付き照明による冠水検知システムを開発した事例をご紹介します。

岩崎電気様の状況と経緯

岩崎電気様は安心、安全、快適な社会を支える 路面冠水警報表示システム というサービスを提供しています。このサービスは、冠水しやすい場所に水位検知器を設置し、しきい値を超える水位を検知すると近くの警報表示板に「冠水通行止」などの警告を表示します。ゲリラ豪雨による突発的な道路冠水時に注意喚起を行うことができます。またカメラ付きの照明を設置することで遠隔での状況確認をすることができます。

しかし、冠水を自動で検知するためには依然としてセンサーが必要でした。カメラ映像だけでは、実際に冠水しているかどうかを人の目で確認する必要があり、センサーを設置できない場所では自動での冠水検知が困難でした。

そんな中、日本最大の ” AWS を学ぶイベント” 「 AWS Summit Japan 」に岩崎電気様が来場されました。このイベントは、技術者だけでなく、あらゆる業種の方々がクラウドイノベーションについて学び、交流できる場です。岩崎電気様はカメラを使った新たなアイデアを探していたところ、製造業向け展示の「生成 AI によるカメラ映像からの危険判別」ブースにお立ち寄りいただきました。 AWS のエキスパートとの対話を通じて、岩崎電気様は生成 AI で課題解決できるのではないかという着想を得られました。 AWS Summit Japan 終了後、岩崎電気様は早速カメラ映像から自動で冠水を検知できるシステムの検証に着手されました。

ビジネス検証 / ソリューションと構成

従来の AI/ML だと学習コストがかかり、導入までのハードルが高く、かつ成果が出るかも分からない状況でした。生成 AI を使うことで事前学習なしで検知できる可能性を感じ、 AWS と GenU を活用し、迅速に実現可能性を検証できる環境を構築しました。
早速冠水画像を入れてみたところ、思いの外精度良く判定してくれることに気が付きこれは生成 AI の指示 (プロンプト) を検証していくことで十分製品化できると判断することができました。

ビジネス検証のイメージ

ビジネス検証は GenU を使い以下のように実施していきました。
初めは冠水画像を入れて単純に生成 AI に「道路が冠水しているか簡潔に教えて」という質問をしてみるところからスタートしています。その後、様々なモデルを選択しながら生成 AI への指示を工夫し、精度やコストを検証しています。

その結果、コスト効率を考慮して、安価な Claude 3 Haiku で大部分の判定処理を行い、判断が難しいケースのみ高性能な Claude 3 Sonnet で最終判断を行うアーキテクチャを採用しました。このような使い分けにより、ほとんどの処理を Haiku で効率的に行いながらも、精度が必要な場面では Sonnet の高い判断能力を活用することで、コストパフォーマンスに優れた商品化レベルのシステムを実現できました。

( GenU の検証画面 – 初期検証 プロンプト調整前)

・Generative AI Use Cases JP ( GenU ) とは
https://aws-samples.github.io/generative-ai-use-cases-jp/
AWS 環境にデプロイしてセキュアに利用できる、生成 AI のビジネスユースケースを検証できるアプリケーション

ソリューションと構成

1分間隔でカメラ画像を元に、生成 AI が冠水しているかをチェックし、冠水していると判断した場合利用者へ通知を行います。システムは AWS のサーバーレスアーキテクチャを中心とした構成で構築され、コスト効率の高いシステムとなりました。
開発は非常にスピーディーに進み、企画から約2ヶ月でプロトタイプが完成しました。

(ソリューションのイメージ)

(構成のイメージ – 概略)

構築を支援したパートナー企業

開発にあたっては、AWS パートナーである株式会社 Benjamin(ベンジャミン)様にご協力いただきました。ベンジャミン様は AWS やサーバーレスアーキテクチャに精通しており、今回の Amazon Bedrock を使った追加機能開発もスムーズに行うことができました。

導入効果

Amazon Bedrock を利用したアプリケーションの導入により、以下の効果が得られました:

1. AI 技術により 24 時間リアルタイムかつ幅広い状況の道路監視を自動化
・常時監視が不要になり、監視員の監視労力を 80% 削減
・データ活用による道路・排水路計画など都市開発へも貢献
2. 遠隔での状況確認が可能に

さらに、実証実験を行っているお客様からは、生成 AI を活用したシステムに高い関心が寄せられています。
特に暗所での冠水検知は難しかったが、カメラ+照明が一体となっていることで鮮明なカメラ画像を取得することができ、生成AIを活用したことにより効率的に検知できるようになりました。

お客様の声

・岩崎電気様の声
AWS はスモールスタートできる環境が揃っており、新しい技術でもすぐに低コストでビジネス検証できる点が魅力的でした。
GenU を使うことでセキュアな環境で手元の画像を使ってすぐに生成 AI の価値を試せたという点も良かったです。

・エンドユーザ様の声
生成 AI を活用することで、自動で冠水していることを教えてくれるようになりました。監視業務に非常に負荷がかかっていたため助かっています。

今後の展望

岩崎電気様では、本システムのさらなる進化を目指しています。具体的には以下の点に取り組む予定です:

1. 通知方法の拡充(電話、LINE など)
2. 検知対象の拡大(火災、交通事故など)
3. 従来型 AI と生成 AI の使い分けによる精度向上

まとめ

本事例は、製造業の企業が自らの得意分野であるモノ(照明)に対して、生成 AI を活用してコト(自動検知)を追加し、新製品開発を加速させた好例です。岩崎電気様の新技術への積極的な姿勢と、AWS が提供する使いやすい生成 AI サービス、そしてパートナー企業との柔軟な協力関係が、短期間での開発成功につながりました。

生成 AI を活用した新製品開発、業務の効率化、AWS が提供する様々なサービスの選択肢にご興味をお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

岩崎電気株式会社: 大脇 理 様(中央)
Amazon Web Services Japan : アカウントマネージャー Wenjia Liu(右)、ソリューションアーキテクト 瀧田 直斗(左)

ソリューションアーキテクト 瀧田 直斗