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クラウドで農業DX。データ駆動形アプローチで作物栽培の持続可能性を向上。
今回のブログでは、 AWS ジャパン・パブリックセクターより、「AWS のビルディング・ブロックを用いて、農業生産性を著しく向上させている事例」について紹介します。ご不明の点、「Contact Us」までお問合せください。(以下、「Improving the Sustainability of Crop Farming Using a Data-driven Approach」と題された投稿の翻訳となります。)
ビジネスケース:
AWSで精密農業を可能に
大手農業企業である Corteva Agriscience 社は、気候変動、生物多様性の保護、食糧需要の増加への対応など、人類が直面している課題を理解しています。持続可能な作物栽培と生物多様性は、同社の戦略的ビジョンに統合されています。欧州では、農業投入物のスマートな使用による農学的意思決定の効率性を向上させるためのデジタルソリューション群を継続的に増やしています。
今年、同社は新製品であるグラニュラー™リンクと、それに対応した可変施肥量(VRA)マップを発売しました。このアプリは、同社の物理的製品(種子や作物保護剤)を補強し、意思決定支援ツールに統合されたスマートな推奨事項を提供するものです。これは、リスクを低減し、収量を最大化するための現場レベルでのデジタル農業機能の統合製品セットとなります。Granular™ Linkは以下を提供します。
- 最高水準の衛星画像
- バリアブルレートマップおよび機械との統合
- 最適な収穫日の予測
- 作物病害の予測
- 水分の必要性の推奨
- 写真観察、フィールドノート
- 超ローカルな圃場天気予報
- コンピュータビジョンによる病害の特定
- 農家とコルテバアドバイザーのためのフィールドレベルでのコラボレーションプラットフォーム
Granular™ Link 提供の初日から、Corteva Agriscience Europeのデジタル農学・イノベーション責任者であるフラビオ・コッツォーリ氏と彼のチームは、商業展開を成功させるために克服しなければならない複数の課題に直面しました。データソースは互いに矛盾しており、利用可能なデータ量は常に増え続け、数百テラバイトに達しています。数百万ヘクタールの規模で、負荷のピーク時に一貫性のあるVRAマップを数分で生成することのできるエンジンが必要だったのです。また、農業のタイムラインという課題もあり、一つの農作期をスキップしてしまうことは、技術を検証するための年間計画に影響を及ぼす可能性があります。
採用されたアプローチ:
作物の遠隔監視
農地は、複雑な多因子からなる生態系です。土壌、微量栄養素、物理的・化学的特性、気象条件、作物品種、詳細な地形、農作業など、さまざまな要素が含まれています。作物の成長プロセスを正確に記述するためには、単一のデータレイヤーでは決して十分ではありません。そこで GeoPard は、複数のさまざまなデータレイヤーを収集し、数百万ヘクタールにわたって自動的にスケーリングして、その中から洞察を生み出します。最終的には、得られた知識によって作物生産方法が改善され、精密農業が統合され、作物の遠隔監視とデータ駆動型の持続可能な農業への移行が可能になります。
利用可能なデータソースの種類は増え続けています。現在、データは以下のものによって生成されています。
- 人工衛星、有人飛行機、設置されたセンサーの物理的特性を考慮したドローン
- 農業投入物の正確な散布のために採用された機械(可変量生産技術)
- 高密度スキャナー
- 実験室の土壌サンプル
データソースを調和させることで、人工知能(AI)によるモデリングと人間の解釈を効果的に組み合わせて並行させることができます。特定の、固有の状況に置かれた農業システムを理解することが不可欠です。GeoPard 社のチームは、国や地域によって「違い」があることを理解しています。そのため、画一的なソリューションを押し付けることなく、それぞれを独自の農業プロセスを確立したユニークな存在として扱っています。
スケーラビリティと成熟度は、GeoPard 社と AWS が提供するサービスの本質的な特徴です。初日から、チームは AWS のクラウドコンピューティング機能をコスト効率よく、かつオートスケール可能な構成で利用することに注力してきました。
AWS と GeoPard 社。両者が提供する顧客サービスには、特定の要求された農学上の規則に合わせてソリューションを調整するだけでなく、通常のプロセスへの組み込みや、既存のデジタルソリューションへの柔軟な統合の観点も踏まえられたものとなっています。
多様なデータソースをクラウドで処理
データソースは、あらゆるデータプラットフォーム構築の出発点となるものです。衛星画像、地形、高密度スキャナー、機械が記録した作業データなど、元々様々なものがあります。
元々、Geopard 社は衛星画像の自動パイプライン生成からビジネスをスタートしました。当初は、1988年以降の歴史的アーカイブを持つ Landsat4-8と Sentinel2ミッションからのマルチスペクトル画像に主に焦点を当てました。過去の植生を理解し、それを収穫量、天候、土壌と関連付けることで、圃場の変動を理解し、収穫量を予測するための優れたツールとなります。高解像度のデータをほぼ毎日提供する最大の地球観測衛星ネットワークである Planet で衛星画像セットを拡張することは、次に踏みだれた簡単なステップとの位置づけでした。さらに、Sentinel1ミッションの合成開口レーダー(SAR)画像も加わり、衛星画像のバリエーションは常に拡大しています。
圃場景観の包括的なプロフィールによって、作物の植生パターンを説明することができます。これは、リモートセンシングまたは機械で記録された GPS データを使って収集することができます。リモートセンシングには、Aster、SRTM、高解像度 LIDAR といった種類があります。
地上の機械に取り付けられたセンサーから収集されたデータは、適用された農業投入物の精度を映し出します。収穫、散布、植え付け/種まき、施肥など、現場で行われる作業の詳細を表しています。また、高密度土壌スキャナーの種類も増えています。土壌センサーは、電気伝導度や土壌水分だけでなく、微量栄養素やマクロ栄養素のデータも収集することができます。このように、土壌スキャナーは従来の土壌サンプリング調査に代わるものとなりつつあるのです。主な利点は、連続的なフィールドカバー(選択した場所との比較)とスキャン頻度(最新の土壌状態を把握しやすい)です。
GeoPard は毎日データを受信しているため、データの流れは継続的であり、途絶えることはありません。しかし、データ駆動型の合理的な意思決定を行うには、生データだけでは十分ではありません。有用で意味のある結果を出すためには、さらなる処理が必要です。取得したデータから大規模に知識と洞察を抽出することは、農業産業にとって大きな課題となっています。
農業データのためのパワーハウス
技術的には、GeoPard 社のパワーハウスは、データ処理パイプライン、データレイク、および保護されたインターフェース──の 3 つの主要コンポーネントで構成されています。生のオリジナルデータを処理して調和されたデータセットを作成し、人工知能と農業の専門家が効率的にデータを探索および分析することを可能にします。
データ処理パイプラインは、オートスケーラブルな方法で実行されます。負荷のピーク時には必要なだけのコンピューティングリソースが AWS から供給され、処理が終了すると再びメーターはストップします。データパイプラインの実行には、人工知能(AI)や機械学習(ML)のアルゴリズムが組み込まれているのは、上の AWS サービスの構成図のとおりです。
データストレージは、データを保存し、スケーラブルにアクセスできるAWS Data Lakeのアプローチに基づいています。データサイズや同時読み書き容量に連動した制限はありません。このストレージは、テラバイト単位のデータの保存(書き込み)と抽出(読み込み)を同時に行うことも容易にできます。さらに、さまざまな形式のデータをオンデマンドで変換できるため、あらゆるソリューションとの統合が容易になります。
GeoPard と対話するための安全なインターフェースは、Amazon API Gateway、AWS AppSync、および Amazon Cognito の上に構築されています。これにより、内部および外部のアプリケーションやプラットフォームとのシームレスな通信が可能になっています。
現場のソリューションを、AWS で構築
GeoPards 社の最終製品は、農業におけるより大きなデータ駆動型革命の一部です。これらの製品は、精密農業技術の容易かつ迅速な統合を可能にします。そして、精密農業は、持続可能な作物栽培への移行を加速させます。
精密農業は、農作物の農地間および農地内の変動を観察、測定、対応することに基づく農場管理の概念です。特に、圃場ベンチマーキングは、作物の季節ごとのパフォーマンスを追跡し、過去の不均質性と生産性を測定し、収穫や薬剤散布などのシーズン中の活動に優先順位をつけるのに役立ちます。
スマートスカウトとサンプリングは、訪問すべき場所を正しく検知し、必要な測定を実行し、サンプルを収集することを支援します。可変量施肥マップの活用により、必要な場所に必要な量の投入物を投入することができます。
最適な輪作を行うことで、生物多様性と生態系のバランスを保ち、炭素貯留量と温室効果ガス排出量を削減することもできます。
これらの機能はすべて、何百万ヘクタールもの大規模な測定が可能です。GeoPard 社は、初日から、今後10年間で来るデータの量が集中的に増加することを認識していました。そして、AWSの最も効果的なアプローチ(Data Lake や State Machine など)に基づいたクラウド基盤は、優れたスケーリング能力を持つものとして確立されています。
クラウドと現場の知恵を組み合わせる
2050年までに、世界はさらに20億人の人々を、現在よりも少ない投入量で、より持続可能な方法で養う必要があります。気候変動の観点からも、時間は刻々と過ぎており、農業界には早急な対策が求められています。変革を成功させるためには、企業間の協力が不可欠です。AWS のようなデータおよびクラウド コンピューティング プロバイダー、精密農業ソフトウェア会社、農業資材会社、そしてソリューションベースおよびコンサルティングサービスを組み合わせた相乗効果を生み出し、維持することが、迅速な変革のための最も有望な方法であると信じます。
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このブログは英文での原文ブログを参照し、アマゾンウェブサービスジャパン合同会社 パブリックセクター 統括本部長補佐(公共調達渉外担当)の小木郁夫が翻訳・執筆しました。
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