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ビジネス価値を実現する IT 人材育成計画の立案
こんにちは。カスタマーソリューションマネージャーの長倉です。
カスタマーソリューションマネージャーとしてお客様の CCoE をご支援する中で、クラウド人材、 IT 人材の育成に関するご相談を多くいただきます。
このブログでは、ビジネス成果を実現する人材育成計画を立案するためのポイントとして、人材育成計画のゴール設定、現状分析の重要性、実際のラーニングパス作成する上で活用できる AWS のプログラムを、一部お客様の事例とともにご紹介していきます。
人材育成のゴールの設定
人材育成において、ゴール設定はきわめて重要です。人材育成計画を立案する際は、知識やスキルの底上げだけを目的とするのではなく、育成した人材によってどのようなビジネス価値を実現したいのかを明確にすることが肝要です。例えば、「内製要員を中心とした体制で次期システムの AWS 上での構築と運用を実現し、ビジネスアジリティ向上を実現する体制を構築する」というゴールを設定し、ゴールを達成するための目標を「 AWS の運用業務をこなせる人材を現在の5名から15名に増やす」「次期システムの設計ができるアーキテクトを10名育成する」と数値を含めた指標として設定することで、具体的な計画の作成が容易となり、ゴールから逆算しての計画立案が可能となります。また、トレーニング完了後も、目的を達成したかの評価が容易となります。
ゴール設定に当たっては、教育のスポンサーとなる経営陣と十分に協議し、合意形成を図る事が重要です。人材育成計画を立案する部門/担当(例えば CCoE )が、現状の課題を踏まえた人材育成のゴール、それによって実現するビジネス価値について経営陣との合意形成を図ってください。また、ゴールに設定したビジネス価値実現のために育成した人材の実業務やプロジェクトへのアサインが必要となる場合は、計画時点で育成した人材のアサイン計画を経営陣と合意してください。育成した人材を実務にアサインすることで、設定したビジネス価値の実現に初めてつなげる事ができます。
人材育成計画で設定したゴールの達成と学習する文化の醸成には、人材育成への投資やアサイン計画の後押しといった経営陣のバックアップが必要不可欠となります。
現状分析の実施
具体的な計画を立てる前に、人材育成の対象者に対する現状分析を実施し、ゴールとのギャップを特定する必要があります。人材育成対象者の所属部門や役割が異なる場合、習熟度も異なります。個別の状況を考慮した人材育成計画を立てるために現状分析は不可欠です。現状分析の実施にあたって、対象者が少ない場合は有識者によるヒアリングが効果的ですが、対象の人数が多くなるとヒアリングによる把握は困難になるため、アンケートを元にスキルマップを作成する方法が有効です。
AWS では、Web アンケート形式で対象者の AWS に関するスキルや学習状況を収集し、結果をレポートとして提供するツールとして LNA(Learning Needs Analysis) を提供しています。この情報をゴールの検討や組織内のクラウドに関するスキルギャップ特定に活用することができます。教育の定着状況を把握するために、定期的に年次で実施するといった活用も有用です。ご興味のある方は担当の AWS 営業にご相談ください。また、 LNA に関しては AWS ブログ「LNAによるギャップ分析を活用した効率的なAWSスキル育成計画の立案」で説明されていますのでぜひご参照ください。
ラーニングパスの設定
設定したゴールと現状分析の結果を元に、どういったギャップがあるかを確認し、それを埋めるラーニングパスを作成します。具体的には、ゴール達成のためにどういったロールの人材が必要になるのか、そのロールにはどういったスキルレベルが必要になるかをブレイクダウンします。ロールと求めるスキルレベルを具体化することで、現状とのギャップがより明確になります。具体化したギャップを埋めるために、どういった研修や学習コンテンツが必要かを検討し、それを組み合わせてラーニングパスを作成していきますが、ロールやスキルレベル別にラーニングパスを検討するのは骨が折れる作業です。
AWS ではロール別/ソリューション別/業種別のラーニングパスをAWS Ramp-Up Guidesとして公開しています。AWS Ramp-Up Guides では、 AWS Skill Builder のコンテンツやクラスルームトレーニング、動画やドキュメントを組み合わせ、スキルを習得するためのラーニングパスがまとめられています。それ以外にも、クラスルームトレーニングのデータシートではロール別/ソリューション別のスキル習得に必要なクラスルームトレーニング が確認でき、 AWS Skill Builder でも Learning Plan として、ロール別のスキル習得に必要なオンラインコンテンツを活用したラーニングパスがまとめられています。これらの情報を参考にカスタマイズしていくことでラーニングパスを作成ください。
ラーニングパスの作成に加えて、効果的な学習を実施するためには、学習時間の確保/チームとして学びを進める体制/学習のためのコンテンツの用意/学習の途中経過の確認とフィードバック といった点に留意する必要があります。以下で留意いただきたいポイントをご紹介します。
業務時間中に学習時間を確保する
学習のための時間を自主的に確保するのは難しく、また、育成対象者のスキルレベルや学習意欲の違いにより、コンテンツのみを用意して実施を自主性に任せた形式とすると、進捗や習熟度にばらつきが出てしまいます。人材育成のゴールを達成するため、組織全体として人材育成を支援している姿勢を明確に示すためにも、人材育成計画をリードする部門が主体となり、経営層に対して業務時間内に一定の学習時間を確保するよう調整してください。
一緒に学んでいくチーム/コミュニティを作る
IPAによるデジタル時代のスキル変革などに関する調査(2022年度)全体報告書の中で、 IT 人材の学びを阻む障壁として、「共に学ぶ仲間や相談相手がいないために挫折してしまう」という課題が挙げられています。学習時に相談できる仲間がいる事によって、モチベーションを維持して継続的な学習の実施が期待できるだけでなく、学習した内容をアウトプットする機会を持つ事につながり、知識の定着・学習効率のアップが期待できます。また、一緒に学ぶチーム/コミュニティを組成し、その中に講師やメンターを設定することで、習熟度に応じた学び合いが実現できます。育成対象者に加えてメンターや講師をアサインするのが難しい場合もあると思いますが、あるお客様の事例で、学びの各テーマごとに人材育成の対象者どうしで講師を分担するという取り組みをされていました。自分が講師となった領域についてはみなさん積極的に学習されたそうです。その結果、入社歴2,3年の若いメンバーが特定のテーマに詳しくなり、ベテラン社員が若いメンバーの詳しいテーマについて、日常的に質問するようになったそうです。一緒に学んでいくチーム/コミュニティを作ることで、効率的で継続的な学習の実現に加えて、組織全体で人材育成に取り組む文化の醸成につなげる事が期待できますのでぜひご検討ください。
学習のためのコンテンツの用意
人によって最適な学習環境は異なります。効果的な人材育成のためには多様なコンテンツ、学習者の特徴に合わせた環境を用意する事が重要です。知識を体系的に学ぶ学び方を好む方もいれば、手を動かして学びたいという方もいるでしょう。学習者に合わせた様々な学習機会提供の重要性については「日本におけるデジタル人材育成の現状と推進する上での勘所(後編)」でも詳しく紹介しているので、ぜひご参照ください。
AWS では学習者の特徴にあわせることが可能な、多様なコンテンツ、トレーニングを用意しています。クラスルームトレーニングでは、短期集中で集合研修形式による AWS の学習が可能です。会社ごとで実施するプライベートトレーニングも提供しておりますので、ご興味のある方は担当の AWS 営業にご相談ください。また、 AWS Skill Builder ではオンラインのコンテンツを提供しており、学習者が自由な時間に好きなコンテンツを選んで学習が可能です。座学でのデジタルトレーニングに加えて、学習者が楽しんで学べる「 AWS Cloud Quest 」「 AWS Industry Quest 」といったゲームベースで学習ができるコンテンツや、演習用の AWS アカウントが払い出され、 AWS サービスに触れてみることができるハンズオンラボである AWS Builder Labs 、個人またはチーム単位で発生する様々な課題(セキュリティ、インフラ、 DevOps 、 ML 、サーバレスなど)を解決してスコアを競う実践的な演習の「 AWS Jam 」といったコンテンツがあります。「 AWS Jam 」は、チーム対抗で課題解決を目指す「 AWS Jam イベント」と、個人で解決を目指す「 AWS Jam Journey 」が用意されており、実際の AWS 環境で発生する障害や課題の解決に取り組んでいくコンテンツとなっています。詳細な説明や、解決策が提示されない中、個人・チームで試行錯誤しながら課題を解決していきます。課題には難易度ごとにスコアが設定されており、スコアを競いながら実際の業務で発生する障害対応や、各種課題の解決を手を動かしながら体験できる事で、実践力を強化するとともに、 AWS スキルの可視化が可能となります。同様のコンテンツとして、「AWS Jam」がクラスルームトレーニングの一環としても提供されております。ご興味のある方はクラスルームトレーニングのデータシートから全コースのデータシートをダウンロードすることでご確認いただけますので、ぜひご確認ください。
演習の実施が難しい場合は、メンターの十分なフォローの元、実務の実施を人材育成計画に組み込むのも効果的です。学習者に合った多様な学習コンテンツの提供とチームで学ぶ機会を適切に組み合わせていくことが、人材育成の成功につながります。
学習の途中経過の確認とフィードバック
人材育成の進捗と効果を測るために、第三者が客観的に評価できる基準を設定することが重要です。学習過程で定期的に理解度やスキル習得度を確認していき、基準を満たしていない場合は計画を見直し、目標達成に向けた改善を図ります。評価基準の例として、認定資格の取得や有識者によるスキルレベルのチェックが挙げられます。
AWSでは認定資格/認定試験を用意しています。認定資格の取得をラーニングパスに組み込む事で、人材育成の進捗を測れるようになるだけでなく、社内のクラウド知識とスキルの見える化を実現できます。また、認定資格/認定試験の内容は定期的にアップデートされるため、テクノロジーの進化へも対応が可能となるため、活用をご検討ください。
業務へのアサイン/経営陣との合意
ラーニングパスに基づいた学習の完了後、計画段階で合意した育成した人材の実案件やプロジェクトへのアサインを実施してください。人材育成が計画通りに進まなかったり、プロジェクトが予定通りに始まらないといったケースもあると思います。こういったケースで育成した人材のスキルが活かされない状況が発生しないように、学習の途中経過とあわせて、定期的に経営陣と人材育成の状況を報告・共有し、実案件へのアサイン計画についても状況に変化に対応できるよう調整を続けてください。人材育成をビジネス価値の向上につなげている事例として、オムロンソフトウェア様のクラウド人財育成の取り組みがあります。オムロンソフトウェア様では、トレーニングで獲得した知識をすぐに試せるように、事業部の壁を超えてクラウド案件に人財をアサインされています。スキルを高めるためのサポートは、独自の能力開発制度体系を用意し、職種別に必要な知識・スキルの習得を可能にする支援を行っており、特に重視されているのが、実践をとおして現場で使える技術を早期に身に付ける事と考えておられます。その他のお客様によるトレーニング実施の事例も、お客様インタビュー – クラウド人材育成でご確認いただけますのでぜひご参照ください。
学習する文化の醸成
継続して学習を実施していくため、学びによって得られた成果を業務評価につなげる事が大切です。評価につながる事により、各自の学習意欲が高まるという好循環につながります。ただし、その実現は簡単ではありません。人材育成計画検討部門(人事部や CCoE )が中心となり、人材育成の計画段階から、経営陣と密に連携を取りながら、学習によって発揮できる成果とその評価方法を明確化することが重要です。
学習の成果が適正に評価されることで、自律的なスキルアップの文化が生まれます。組織全体で学びを推進するための仕組みづくり(例えば人材育成の成功体験を共有会やイントラネットを活用して社内で共有)ができれば、自律的にスキルアップしていく文化を組織として醸成できるようになります。
現場主導での学習
ここまで、人材育成のゴールを設定し、教育の成果としてビジネスバリューを発揮するために経営陣と合意して実際の業務にアサインすることの重要性をご紹介させていただきました。一方で、経営陣と合意して大規模に教育を推進するのは難しいが、現場の取り組みとして教育を推進していく必要がある、というケースもあると思います。こういったケースでも、人材育成のゴールを設定し、現状分析を行ったうえでラーニングパスを設定するというプロセスは同様に有効です。ゴールの設定や、現状分析、ラーニングパスの設定は社内の有識者や既にスキルを保有している方の歩んできた道のりを参考としたうえで検討してください。また、学習にあたっては、チーム単位で勉強会を開催し、先に紹介させていただいたように相互に講師を務めるといった取り組みを実施し、各人が積極的に参加できる仕組みをぜひご検討ください。
まとめ
人材育成計画を実現するうえでのゴール設定と学習していくための仕組みづくりの重要性についてご理解いただけたと思います。経営層を含む関係者とゴールを共有し、現状とのギャップを洗い出すことができれば、そのギャップを埋める手段としてのコンテンツは AWS から多数提供されていますので積極的に活用ください。
IT 技術、特にクラウドサービスの技術の進歩は早いため、最新の動向を把握し、より効果的にクラウドを活用してビジネス価値を最大化するには、計画した期間の学習が終わったら完了ではなく、継続して学び続ける必要があります。継続して学び続けるための仕組みづくりを人材育成計画検討部門が推進していってください。
参考リンク
LNA(Learning Needs Analysis)
LNAによるギャップ分析を活用した効率的なAWSスキル育成計画の立案
AWS Ramp-up Guides
AWS Skill Builder
クラスルームトレーニング
クラスルームトレーニングのデータシート
Learning Plan
デジタル時代のスキル変革などに関する調査(2022年度)全体報告書
日本におけるデジタル人材育成の現状と推進する上での勘所(後編)AWSトレーニングデータシート
AWS Cloud Quest
AWS Industry Quest
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著者
カスタマーソリューションマネジメント統括本部
カスタマーソリューションマネジャー 長倉隆浩