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第 45 回 医療情報学連合大会 (JCMI 45th) 出展レポート

2025 年 11 月 12 日(水) ~ 11 月 15 日(土) の 4 日間、兵庫県姫路市のアクリエひめじにて第 45 回医療情報学連合大会が開催されました。大会テーマは「医療 DX がもたらす医療情報新時代」。参加登録者数は 3,800 名を超え、現地では 2,900 名が参加されました。AWS は本大会において、スポンサードセッション「生成AIとヘルステックの融合が拓く、次世代の医療サービス」と展示ブースでの情報提供を通じて、医療関係者・研究者の皆様と医療 DX と生成 AI 活用の最新動向を共有する機会をいただきました。本ブログでは、セッションの登壇内容と展示ブースでの取り組みについてご報告します。

生成AIとヘルステックの融合が拓く、次世代の医療サービス

AWS のスポンサードセッションでは、はじめに AWS 公共部門 ヘルスケア事業本部 本部長の大場から、医療における生成 AI の展望と Agentic AI の可能性について説明しました。続いて、株式会社メドレー様から、医療現場での生成 AI 活用の実践事例をご紹介いただきました。

医療における生成 AI の展望と Agentic AI の可能性

AWS 公共部門 ヘルスケア事業本部 本部長 大場 弘之 登壇 [slide]

AWS では、医療機関が安全かつ効率的に生成 AI を活用できるよう、Amazon Bedrock を中核とした包括的なサービスを提供しています。Bedrock では、お客様のデータが基盤モデルの学習に利用されることはなく、プライベートかつセキュアな利用が可能です。Claude Sonnet 4.5/ Claude Haiku 4.5 / Nova 2 Lite 等の一部のモデルでは日本国内に限定したクロスリージョン推論を提供しています。これらにより、お客様が医療情報ガイドラインをはじめとした、高いコンプライアンス要件に準拠するための実装をサポートしています。

セッションでは、生成 AI の進化の中でも特に注目される Agentic AI について説明しました。従来の Chatbot が単純な質問応答を行い、RAG(Retrieval-Augmented Generation)が組織固有の知識を活用した回答を提供するのに対し、Agentic AI は多様なツールやシステムと連携しながら、複雑なタスクを自律的に実行できる点が特徴です。医療現場では、この Agentic AI が診療記録の作成や検査オーダー、文書作成など、医療従事者の業務を包括的に支援する可能性を持っています。

AWS Japan は ヘルスケア・ライフサイエンス業界向けの生成 AI デモ・AI エージェントツール群として「HealthData x Agent」を 10月に公開しました。医療現場で Agentic AI がどのように活用できるのか、具体的なユースケースを通じて体験いただけます。AWS では、医療における AI エージェントの展開を支援するため、開発から本番環境への展開まで、段階に応じた多様なサービスを提供しています。AI エージェント開発のためのオープンソース SDK (Software Development Kit) の Strands Agent のほか、Amazon Bedrock Agents ではエージェント開発からクラウドへのデプロイまでフルマネージドに利用できます。さらに Amazon Bedrock AgentCore を活用すれば、任意のフレームワークや基盤モデルで開発したエージェントを大規模かつ安全に運用できます。これらの強力なサービスを通じて、医療における AI エージェントの展開を推進してまいります。
AWS を活用されているお客様の最新事例は「医療機関向け これから学ぶ AWS クラウド」をご確認ください。

医療 AI の現在と未来:クラウド電子カルテが描く未来の世界観

株式会社メドレー 医療プラットフォーム本部 医科診療所プロダクト開発室長 佐藤 雄介 様 登壇 [slide]

医師の働き方改革が進む中、特に診療所では医療文書作成が多くの業務時間を占めており、医師が診療や患者との対話により注力できる環境の整備が急務となっています。2024 年 4 月に施行された「医師の働き方改革」により時間外労働の上限規制が適用され、医師の長時間残業は全体として減少傾向にありますが、診療所における経営者である医師の長時間労働は依然として常態化しています。こうした背景から、医療 AI 市場の成長が期待されています。次世代医療プラットフォームを提供する メドレーの佐藤様からは、人件費の AI 置換率が 5 年で 2.5%、10 年で 5% というベースケースを仮定した場合、生成 AI の技術革新により医療 AI 市場が 2035 年には約 1.5 兆円規模に達するとの予測を紹介いただきました。

セッションでは、医療現場での実証実験を通じて、生成 AI がカルテ作成や医療文書作成業務の効率化に貢献できることが紹介されました。診察中の発話をリアルタイムで文字起こしし、AI が自動要約する仕組みでは、SOAP 形式など複数のフォーマットに対応し、1 クリックでカルテに転記できます。これにより、医師が「メモを取ることに集中しなくてよい」という安心感を提供し、患者との対話により集中できる環境を実現します。

実際の医療機関での先行利用では、カルテ作成時間を約 11.3% 削減されることが確認されました。医師からは「1 日あたり 30 分〜 1 時間程度、カルテ入力にかかる時間が短縮している」との声があり「メモを取ることに集中しなくてよい」安心感が大きいとのフィードバックが得られています。患者からも「最新技術を取り入れている」「話したことをきちんと記録してもらえる」と好意的な反応が得られており、生成 AI は医療従事者の業務効率化だけでなく、患者体験の向上にも寄与することが示されました。詳細はメドレー様のプレスリリースをご参照ください。

セッション後半では、生成 AI が医療プロセスをどのように変革していくかというビジョンについてご発表いただきました。
まず、今後の展望として、主治医意見書作成のような個別業務において生成 AI がアシストする機能が拡張されていくとのお話がありました。さらに、AI エージェントが患者とコミュニケーションを行うことで、早期のリスク検出や診療前の事前準備が可能になるなど、エージェント技術が医療の質向上に貢献する可能性についてもご紹介いただきました。

具体的なユースケースと将来展望を交えたセッションの内容は、医療現場での AI 活用を検討される聴講者の皆様にとって、大変有益な示唆に富むものとなりました。

展示ブース

展示ブースでは、パネルとデモを通じて医療分野における生成 AI 活用についてご紹介しました。特に、デモ展示では包括的な生成 AI を活用したビジネスインテリジェンスプラットフォームの Amazon Quick Suite をはじめ、生成 AI 関連のサービスやソリューションを展示しました。データの可視化と自然言語によるデータ分析をテーマにデモンストレーションを実施し、来場者の皆様に実際にご覧いただき、操作も体験いただきました。会場では多くのご質問やフィードバックをいただきました。

パネル展示で特に注目を集めたのが、医療機関が直面する生成 AI 活用の課題を解決するための「ANGEL Dojo」という内製化支援プログラムです。ANGEL Dojo は参加組織から選出された 10 名程度のメンバーでチームを組み、約 3 ヶ月間でサービスの企画から開発までを行うトレーニングです。特徴としては、 AWS パートナーによる「共創型内製化」を実現する点にあります。2025 年 10 月に開催された ANGEL Dojo 2025 では、初めて医療機関からご参加いただき、2 つの病院から成果を上げられました。兵庫県立リハビリテーション中央病院様では、富士ソフト株式会社と協力し、スケジュール作成時間を 80% 短縮し、60% の自動化を実現されました。特筆すべき点として、IT 知識ゼロの総務部の方が、90 日間で AWS の上での開発におけるベストプラクティスである Well-Architected フレームワークに則ったシステム構成を実装されました。熊本中央病院様では、キヤノン IT ソリューションズ株式会社と協力し、月 800 時間の文書作成時間削減を実現し、月 2,000 件以上の文書作成業務を効率化されました。看護師をはじめとした病院内の方々がチームを構成し、実用的なシステムを開発された点が特筆されます。両病院の取り組みの詳細については、ANGEL Dojo のブログ記事「地方病院がシステムの内製化に挑戦!? IT 知識ゼロから始めた生成 AI による業務効率化への 90 日」をご参照ください。

おわりに

第 45 回医療情報学連合大会を通じて、医療 DX における生成 AI の可能性と、それを実現するための具体的なアプローチについて、多くの医療従事者・研究者の皆様と議論を深めることができました。ANGEL Dojo の事例が示すように、IT 知識がない状態からでも、適切な支援とパートナーシップがあれば、医療機関自らが生成 AI を活用したシステムを構築することが可能です。

AWS は今後も、医療機関の皆様が安全かつ効率的に生成 AI を活用できるよう、包括的なサービスとサポートを提供してまいります。医療 DX や生成 AI 活用についてご関心がある方は、ぜひ AWS までお問い合わせください。本大会でお会いできた皆様、貴重なご意見をいただいた皆様に、この場を借りて御礼申し上げます。

Yohei Katayama

片山 洋平 は AWS Japan のパブリックセクターのソリューションアーキテクトです。主に医療機関をはじめとしたヘルスケア業界のお客様のソリューション構築の支援を行なっています。週末は登山を嗜んでいます。