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寄稿: サンエー様 基幹システムモダナイゼーションの挑戦 – 序章 –
本稿は、沖縄県の小売企業である株式会社サンエー(以降、サンエー)様の内製によるモダナイゼーションのお取り組みをご紹介する AWS との共同寄稿です(サンエー: 丸山氏、高原氏、宮良氏、AWS: 中島)。
はじめに
サンエーは、1950 年創業、1970 年設立の沖縄県を拠点とする総合小売企業です。食料品、衣料品、家電、日用雑貨等の住居関連用品の小売業を主力事業とし、沖縄県内で78店舗(2025 年 10 月現在)の小売店舗および外食レストラン等のフランチャイズを展開しています。2025 年 6 月にはサンエー石垣シティをリニューアルオープンするなど、ビジネス拡大を進めています。また、2024 年度は過去最高益となる売上高 2,275 億円を達成しました。ビジネスが成長する中でシステムのモダナイゼーションへの機運も高まり、基幹システムのモダナイズを始められたサンエー様のこれまでの活動と AWS の支援を紹介します。
モダナイゼーションのきっかけ
AWS 中島: モダナイゼーションの取り組みのきっかけを教えてください。
サンエー丸山氏: そうですね、きっかけをお伝えする前に、まずは弊社の内製化の歴史を少しご紹介させてください。もともとサンエーでは IBM AS/400 というメインフレームで社内システムを内製にて構築していました。それを約 10 年ほど前から、アプリケーションをスクラッチでつくり直しながら内製で AWS に移行し続けています。利用しているプログラミング言語がシェルスクリプト形式ということもあり、移行先のアーキテクチャは EC2 と EFS をメインで利用しています。DBを使わずにファイルを量産するプログラミング言語なので、どうしてもEFSの利用料が常に膨らんでいきます。モダナイゼーションの初期の検討では RDBMS を用いた IaaS での 3 層 Web を一度経由する案もありましたが、その構成の知見が社内に多いわけでもありませんでした。そのような背景もあり、今後、内製でスクラッチ開発するシステムでは、サーバレスを採用したいと考えていました。
AWS 中島: 2021 年に参加された (ANGEL Dojo) も同じような思いがあられたからでしょうか?
サンエー丸山氏: そうですね。サーバレスを知識としては知っていたものの、実際に作ってみたことがほとんどなくて。このイベントに参加して手触り感が欲しかったというのもあります。ただ、当時は今回のテーマのモダナイゼーションに本腰を入れていたというよりは、サーバレスという便利なものがある、AWSは EC2 と EFS だけじゃない、というのをチームメンバーや会社に知って欲しかったという意図の方が大きかったです。
AWS 中島: なるほど、ありがとうございます。では、モダナイゼーションに本腰を入れて活動を開始されたのはいつ頃からでしょうか?
サンエー丸山氏: 以前より検討はしていたのですが、2023年にパートナーの支援を受けながらポイントシステムをサーバレスで内製構築した経験がきっかけとなり、徐々に本格化し始めました。実際に組織体制を変更して、目にみえるかたちで活動し始めたのは 2024 年からだと思います。前述のコストの話だけではなく、これまでの技術スタックでは、社内からの開発要望に機能的に答えられないものが出てきたり、開発体験やシステム運用の課題に気づいたり、と、そういうものが積み重なってモダナイゼーションを本気で実行しないと先がないのではないかと思うようになりました。そういう意味ではトップダウンで発令されたとか、大きな事故があったとか、そういう大きなきっかけではないんです。でも、ビジネスをさらに成長させるためには必要だと感じていました。
モダナイゼーションへの一歩目を踏み出す
AWS 中島: では、2024 年からの活動について教えてください。
サンエー丸山氏: サンエーのシステムのあり方は、今まで、世の中のベストプラクティスに則ったかたちがあまり取れていませんでした。ですので、自分たちのやり方で進める前にきちんと学んでみようと思ったんです。そこで出会ったのがストリームアラインドチームという考え方でした。マイクロサービスを技術として取り入れるだけでは成功せず、組織も変える必要があることを知ったんです。AWS との打ち合わせの中でも、そういうお話をしてくださいましたよね。
AWS 中島: はい、コンウェイの法則(※)などを含めてお話しさせていただきました。チームトポロジーの本を握りしめて会話したことを覚えています。その後、本当に組織を変えられたと聞いた時は正直驚きました。
※システム(広義に定義)を設計するあらゆる組織は、組織のコミュニケーション構造をコピーした構造を持つ設計を生み出す。
サンエー丸山氏: モダナイゼーションに必要なことはやろうと決めていましたので、上司に掛け合ってチームを再編しました。組織を変える目処がついた後に困ったのが EC2 + EFS からどういう形に変えていこうかということでした。サーバレスがいいなとは思っていたのですが、具体的にどういうかたちが良いのかについては不透明でした。社内エンジニアのスキルセットはバニラ (素の) html, js と sh をラップした有償製品のコマンドに偏っており、いわゆる Web アプリケーションフレームワークや汎用プログラミング言語に明るい人間もいない。そんな時、AWSからご提案をいただいたんです。
AWS 中島: 貴社を日々ご支援する中で、課題は広く難易度は高いが、それらが点になっており、うまく整理がついてないように感じました。そこで、1/デベロッパートランスフォーメーション (以降 DevTx) チームから Discovery ワークをご提供することによって課題の整理と短距離の目標を定義すること。2/内製メンバーで作れるようになるきっかけ作りのためにプロトタイピング (以降 Proto) チームと協業で開発してみること。3/協業の期間は短くそれだけで作れるようになるわけではないため、プロトタイピング後、実際の開発において伴走しながらスキルアップを支援してくれる AWS パートナーのご紹介。ここまでを 1 セットでご提案しました。
サンエー丸山氏: どこまでやれるのか不安もありましたが AWSの提案に乗ってみようと思いました。2024 年11月のキックオフ後、Discovery ワークを進める中で、コスト以外にも、開発テスト、運用、認証、UI など幅広い課題を整理することができました。また Proto の方をテックリードとして一緒に開発してみることで、サーバレス, REST, SPA + API, フロントエンド Framework, OSS の活用などの開発方法を実際に作りながら学ぶことができました。言語を全て TypeScript で統一したのもプロトタイピングの進め方として良かったと思います。様々な体験が得られましたが、ワークショップ後にモダナイゼーションへの投資を役員と合意することができたことはとても大きな成果でした。先述のとおり、モダナイゼーションはトップダウンで降りてきたものではないため、モダナイゼーションを進めるためには役員との合意が必須だったんです。役員合意が取れたのは 2025年3月のことでした。
図は プロトタイピングの成果物に対して DevTx チームと実施したリスクストーミングの一コマ
AWS 中島: ここで、Discovery ワークとプロトタイピングにご参加いただいたメンバーの高原様と宮良様にご感想を聞いてみたいと思います。高原様いかがでしたか?
サンエー高原氏: 協業で開発したのは 2 週間という短期間でしたが、モダンな開発手法やツールに触れることができて非常に勉強になりました。Git の使い方や サーバレスに関する AWS のサービスについて実際に手を動かしながら学べたのは大きな収穫でした。TypeScript は フロントエンドでもバックエンドでも CDK でも使えることを体感したため、今後もしっかりと学習していく必要があると感じています。エラーメッセージを読む習慣やドキュメントを参照する姿勢は身についたので、これを継続していきたいと思います。チーム開発の楽しさも実感できました。モブプログラミングで他の人の考え方を知ることができたり、困った時にすぐに相談できる環境があったのは心強かったです。中島さんがライブラリの調査やドキュメント読みを実際にやってみせてくださったのが非常に参考になりました。本番開発に向けて、基礎的な部分をしっかりと固めて、チームにより貢献できるよう頑張りたいと思います。
AWS 中島: ありがとうございます。高原様はメンバーの中で IT 経験が一番少ない中でご参加くださいました。では、続いて宮良様、いかがでしょうか?
サンエー宮良氏: 2週間をとおして、一番の大きな変化は「調べる文化」が身についたことだと思います。既存の開発言語では調べても情報が少なく、誰かに聞くか、とりあえず書いてみるという文化でしたが、モダンな開発では豊富なドキュメントやコミュニティの情報があることを実感できました。技術的には、React の概念や TypeScript の型システムなど、既存の開発言語とはまったく異なる概念に苦戦し、従来の開発経験とのギャップが大きく、理解に時間がかかりました。ただ、何かを作る楽しさを久しぶりに感じることができたのは大きな収穫でした。コードの品質についても多くの気づきがありました。Proto 担当の和田さんからのレビューコメントで、命名規則や処理の順番、可読性の重要性を学びました。「動けばいい」から「他の人が読みやすいコード」を意識する必要があると強く感じました。本番開発に向けては、基礎的な概念の理解を深めることと、自分の理解を言語化する練習が必要だと思います。生成 AI に自分の理解が合っているか質問しながら学習を進めていきたいと思います。
AWS 中島: 宮良様ありがとうございます。宮良様は貴社独自の生成 AI プロンプト作成アプリの開発もしていただいているので、ぜひ基幹システムのモダナイゼーションでもご活躍いただきたいです。
基幹システム開発に向けて
AWS 中島: それでは、Discovery ワーク・プロトタイピング後の活動について教えてください。
サンエー丸山氏: 現在、システムのモダナイゼーションに向けて社内の認証認可基盤を作り直しています。これは Discovery ワークで明らかになった認証認可の課題を解決してから、アプリケーション側をモダナイズするという方針にしたためです。認証認可基盤は AWS のパートナーに伴走いただきながら進めています。
AWS 中島: 今の活動において Discovery ワークやプロトタイピングの効果を感じていただけているでしょうか?
サンエー丸山氏: こちらを見てみてください。これは高原さんと宮良さんが パートナー企業と議論して書いたホワイトボードです。Discovery ワークやプロトタイピング後に 2 人が追加で学んだ部分もありますが、それでも EC2 と EFS の現行のアーキテクチャの説明もおぼつかなかった 2 人が、このようにホワイトボードにアーキテクチャを描き、パートナー企業と議論する姿を見ると、ご提案いただいた活動の効果を感じています。現在開発中の認証認可基盤が完成した後、アプリケーション側のモダナイズを実施する予定です。高原さんと宮良さんにはぜひこのプロジェクトを引っ張っていってもらいたいです。
最後に
AWS 中島: 丸山様、高原様、宮良様、本日はありがとうございました。これからも是非 AWS と一緒にモダナイゼーションジャーニーを歩ませていただければと思っております。最後に我々アカウントチームへ今後期待することをお聞かせいただけないでしょうか?
サンエー丸山氏: AWSとの協業は、単なる技術導入に留まらず、私たちの開発文化そのものを変える大きなきっかけとなりました。深く感謝しています。
現在進めている基幹のモダナイゼーションは、その先に見据える AI 活用によるビジネス革新のための重要な布石です。この未踏の領域への挑戦においても、AWS には戦略的パートナーとして、最先端の知見と専門的な支援で私たちの成長を力強くリードしていただけることを期待しています。
AWS 中島: ありがとうございます。ちなみに今回、”序章” ということですが、次回があると思ってよろしいでしょうか?
サンエー丸山氏: そうですね。次回はモダナイズしたプロダクション環境がリリースされた後にまた寄稿させていただければと思います。
サンエー様 著者
![]() 丸山 海理 氏 |
![]() 高原 元来 氏 |
![]() 宮良 一輝 氏 |