Amazon Web Services ブログ
CX向上に向けたコンタクトセンター変革 — 全国複数拠点・数千席規模の環境で挑む 東京電力エナジーパートナーの Amazon Connect Customer × 生成 AI 活用
本ブログは東京電力エナジーパートナー株式会社 サービスソリューション事業部 今野拓也様の監修のもと、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 橋井雄介が執筆いたしました。
みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクトの橋井です。
電気・ガスなど大規模なインフラを提供する企業にとって、コンタクトセンターはお客さまとの重要な接点となっています。だからこそ、その体験の質が企業への信頼に直結します。「コンタクトセンターに生成 AI を導入したいが、大規模環境で実用的な精度が出るのか」「導入後に組織として使いこなせるのか」——そんな課題をお持ちの方に向けて、Amazon Connect Customer(旧 Amazon Connect)と Amazon Bedrock を活用した変革を推進している東京電力エナジーパートナー様(以下、TEPCO EP)の事例をご紹介します。
TEPCO EP が取り組むコンタクトセンターの課題
TEPCO EP は、電力・ガスの小売事業を担い、全国複数拠点・数千席規模のコンタクトセンターでお客さまの契約手続きや問い合わせに対応しています。サービスソリューション事業部は「人 × IT の融合により、パーソナライズされたサポートを安心と感動とともに届ける」というビジョンを掲げ、CX 向上を推進しています。
同社のコンタクトセンターでは、デジタルチャネルの比率が向上する中でも電話が約 4 割を占めており、以下の課題がありました。
- IVR(Interactive Voice Response: 自動音声応答)が複雑でオペレーターに繋がるまでの導線がわかりにくい
- オペレータースキルと用件のミスマッチが発生しやすい
- 応対後の処理負荷が大きく、保留や管理者へのエスカレーションも多い
- 利用システムが拠点ごとに異なり、会話データの横断的な活用が困難
今回、オンプレミス環境の保守期限を迎えてシステムを刷新するタイミングで、CX 向上と業務効率化を同時に実現するプロジェクト「SEEDS(Smart Engagement and Efficient Data System)」を立ち上げました。
図 1 受付チャネルの現状と課題
SEEDS Phase1 で実現したこと
Phase1 では、Amazon Connect Customer をベースとした新たな受電環境を構築し、全国にある拠点のうち 18 拠点の切替を完了しました。
要件整理からリリースまで約 10 ヶ月、拠点切替は約 3 ヶ月で完了しています。できる限り標準機能を活用してスクラッチ開発を最小限にしたこと、生成 AI のチューニングやオペレーター画面の構成は検討開始後、早期から実際の挙動などを確認しながら段階的に精度を高めていくアプローチをとったことが、このスピードの鍵でした。
Phase1 で導入した主な機能は以下のとおりです。
- 音声テキスト化: お客さまとオペレーターの会話をリアルタイムで文字表示(課題 3, 4 に対応)
- 会話要約: 生成 AI が応対内容を自動要約し、オペレーターが利用するカスタム CCP(Contact Control Panel)画面に表示(課題 3 に対応)
- コールリーズン分析: 通話内容から問い合わせ理由を自動分類し、データ活用を促進(課題 4 に対応)
- 法令チェック: オペレーターの説明漏れ等を生成 AI で全件自動チェック(課題 3 に対応)
- ダッシュボード: リアルタイムの応答状況や実績データを可視化(課題 4 に対応)
図 2 会話要約の活用イメージ
図 3 コールリーズン分析・法令チェックの活用イメージ
技術ポイント: 生成 AI の活用
ここからは、SEEDS の中で技術的にチャレンジングだった要素の一つとして、生成 AI の活用について掘り下げます。
アーキテクチャ設計
Amazon Connect Customer を中心に、AWS Lambda と Amazon Bedrock を連携させた構成です(図 4)。生成 AI の処理を Amazon Connect Customer の外部に配置し Lambda から Amazon Bedrock を呼び出す設計としたのは、AWS マネージドサービスの中で多様な AI モデルを柔軟に活用できるためです。電力・ガス事業特有の表現や複雑な業務ルールに対応するプロンプトを自由に設計・改善できる柔軟性を確保することを重視しました。また、業界知識の深い実務担当者が単独でプロンプトの修正や評価を行える環境を別途用意し、プロンプトの更新の際には直接プログラムを改修せずにプロンプトファイルの差し替えで環境に反映できる構成としています。
なお、同様のユースケースに取り組むお客さまにとっては、Amazon Connect Customer のビルトイン AI 機能(会話要約やテーマ検出など、日本語を含む多言語に対応)を活用し、カスタム実装なしで実現するアプローチも選択肢となります。
図 4 SEEDS Phase1 アーキテクチャ構成(ダイジェスト版)
この構成には、タスクの特性に応じて2つの処理系統を設けています。
リアルタイム系統(会話要約): 終話後すぐにオペレーターへ結果を返す必要があるため、通話中にストリーミングされるリアルタイム通話テキストを入力とし、高速な応答が得られる Anthropic Claude Haiku(Amazon Bedrock 上で利用可能な軽量・高速モデル)で処理します。レスポンス性を最優先とした設計です。
バッチ系統(コールリーズン分析・法令チェック・VoC 抽出): 後続の分析処理は翌営業日以降に行われるため、終話後に確定した完全な通話テキストを入力とし、より高い推論能力を持つ Claude Sonnet(同じく Amazon Bedrock 上で利用可能な高性能モデル)で処理します。処理結果の品質を最優先とした設計です。
いずれの系統でも、Amazon Bedrock の Tool use(関数呼び出し)機能を活用し、出力を JSON スキーマに沿った構造化データとして取得しています。自由形式のテキスト出力をパースする方式と比較して出力形式の安定性が高く、後続のデータベース保存やダッシュボード連携を一往復の API 呼び出しで確実に完結させています。
なお、基盤モデルはリリース時点では Claude 3.5 Sonnet / Claude 3 Haiku を使用していましたが、2026 年からはパフォーマンスが向上した Claude Sonnet 4.5 / Claude Haiku 4.5 に更新しています。マネージドサービスの利点として、このようなモデルの進化を迅速に取り込むことができます。
各タスクの実装ポイント
会話要約: 終話後カスタム CCP 画面へ要約を表示します。プロンプト開発時には現場のオペレーターにヒアリングを行い、業務用途を明確にした上で出力フォーマットに反映しました。現場からは「箇条書きで簡潔に読める」「応対後の処理業務などの参考になる」と評価されています。要約情報はオペレーター間の通話転送時にお客さま情報を引き継ぐ用途にも活用されているほか、お客さまの声(VoC)の自動抽出も実施し、従来人手で拾いきれなかった細かなニーズやご不満の声を網羅的に収集できるようになりました。
コールリーズン分析: 64 分類での自動判定を実現し、約 600 件のテストデータで網羅性 95%・正解率 85% と、目標を上回る精度を達成しました。精度向上の工夫として、生成 AI の出力に対してルールベースの後処理を組み合わせ、AI 単体では解消しにくい誤分類を補正しています。分類結果は呼量分析や呼量予測の精緻化に活用され、オペレーター配置計画の改善につながっています。
法令チェック: 従来はサンプリングによるモニタリングでしたが、生成 AI により低コストで自動実行が可能になったことで、全件の AI 自動検知を実現しました。検知ロジックでは、プロンプト内に判断フローを定義し、生成 AI が各ステップの判断根拠を出力しながら段階的に判定を進めます。これにより、複数の条件が絡み合う複雑なルールに対しても精度の高い検知を実現し、応対品質の向上とコンプライアンス遵守の両立を図っています。
生成 AI 活用を組織に定着させる
TEPCO EP にとって、コンタクトセンター業務への生成 AI 適用は参考にすべき前例がほとんどない技術チャレンジでした。業務で適切に活用できる高精度なプロンプトを作成するには、生成 AI の特性を理解した上で業務課題と正面から向き合う必要があります。そこで段階的に AWS の支援を活用し、生成 AI 活用を目的化せず業務課題の解消を明確に目的設定するプロセスを重視しながら、組織にノウハウを蓄積していきました。
まず、プロジェクト開始前に構築ベンダーと AWS Prototyping Team の支援のもと POC を実施しました。サーバーレスサービスを活用して最小限の MVP 構成を素早く構築し、実務担当者を含むステークホルダーに生成 AI の使用感を早期に体感してもらえたことで、その後の要件定義に大きく役立ちました。
次に、各ユースケースの課題定義と実現方法の検討にあたっては、AWS 生成 AI イノベーションセンターを活用しました。「何を」「どのレベルで」実現するかというタスク設定を技術的に明確化し、評価の枠組みを整えたことで、後続のプロンプト開発を効率的に進める土台ができました。
続いてプロンプト作成・精度評価については、AWS Professional Services と協力して進めました。支援の前半は AWS 主導でプロンプトを開発し、後半は TEPCO EP のメンバーが主体となってプロンプト修正と結果分析の試行錯誤を繰り返す形をとりました。データ準備の重要性やプロンプト評価の手法など、プロジェクト全体を通じて幅広い知見を得ることができ、この過程で実務担当者 11 名が生成 AI の特性を理解した上でプロンプトを設計・評価するスキルを習得しました。2025 年 12 月の Phase1 完了以降は、実務担当者が単独で継続的な改善を行える体制が構築されており、今回の取り組みにより生成 AI 活用の基盤を築くことができたと考えています。
Phase2: よりエージェンティックなコンタクトセンターへ
Phase1 で得られた知見をもとに、TEPCO EP では Phase2 としてさらに高度な AI 活用を推進します。Phase1 では主に課題 3・4(応対後の処理負荷、データ活用)にアプローチしましたが、Phase2 では課題 1・2(IVR の複雑さ、スキルミスマッチ)の解消にも踏み込みます。目指すのは「オペレーター自己完結化」、すなわちオペレーターが必要な情報に迅速にアクセスでき、応対に集中できる環境の構築です。
TEPCO EP が検討している具体的な取り組みは以下の二つです。
- 一次応対の自動化: 従来の IVR を廃止し、自然な会話形式でお客さまの用件を聞き取り、適切なスキルを持つオペレーターに振り分けます。Phase1 で培ったコールリーズン分析の知見を活用し、お客さまが用件に合った窓口へスムーズに到達できるようにすることで CX 向上を図ります。
- オペレーターのリアルタイム支援: お客さまとの会話内容をリアルタイムに分析し、関連するナレッジや手続き情報を自動的に表示します。応対後の後処理についても、登録内容の自動入力や手順ガイドを提供することで、保留や管理者へのエスカレーションを削減し自己完結率を高めます。
これらの実現に向けて、技術的な選択肢を補足します。Amazon Connect Customer では Agentic AI 機能が大幅に強化されており、たとえば一次応対の自動化には自然言語による会話ボット機能が、オペレーター支援にはリアルタイムナレッジ検索やステップバイステップのガイド提供機能が、それぞれ活用できます。Phase1 で構築した Amazon Connect Customer 基盤の上に、これらの機能を段階的に追加していくアプローチが可能です。
図 5 Amazon Connect Customer の Agentic AI 機能概要
まとめ
TEPCO EP の事例から、実務担当者が中心となった CX 改善の取り組みにおける重要なポイントを整理します。
- CX を起点に技術を選定する: 業務課題を明確にし、それを解決する手段としてクラウドと生成 AI を位置づける
- マネージドサービス中心のシンプル構成: 標準機能の活用で開発スピードと保守性を両立し、モデル更新も迅速に取り込む
- 実データで試行し段階的に精度を高める: 生成 AI のチューニングは実データで検証し、精度と実用性のバランスを追求する
- スキルを組織に定着させる: プロンプトチューニングや精度評価のスキルを内製化し、自走での改善体制を構築する
コンタクトセンターの CX 向上や、Amazon Connect Customer と 生成 AI の活用にご興味のあるお客さまは、お気軽に AWS までご相談ください。
著者について

東京電力エナジーパートナー株式会社 サービスソリューション事業部 副部長
2007 年東京電力入社。オール電化推進営業、顧客向け Web サイト企画・構築を経て、2019 年より新サービス関連業務・システム構築に従事。2020 年に AI コンタクトセンター(AICC)構築を担当。2025 年よりコール・チャット等運営の統括責任者として新規音声基盤の企画・構築を推進し、現在はサービスソリューション事業部 副部長としてシステム全体統括および SEEDS プロジェクト PM を務める。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 ソリューションアーキテクト
エネルギー・ユーティリティ業界を担当するソリューションアーキテクト。お客さまのクラウド活用と生成 AI 導入を技術面から支援している。




