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リフトアンドシフト:クラウドトランスフォーメーション中にサーバーを AWS にリホストする

訳注:本ブログにおいての「リフトアンドシフト」はリホストと同義としています。AWSではリフトとシフトは別のステップではなく、現行の物理サーバーや仮想サーバーの構成をそのままクラウドに移行することをリホストとしています。

クラウドを最大限に活用するには、大抵の組織でプロセス、ガバナンスモデル、およびテクニカルアーキテクチャを変更する必要があります。しかし、それは単にアプリケーションを「リフトアンドシフト」するだけでは価値がないという意味ではありません。「リフトアンドシフト」は、クラウドジャーニーの素晴らしい第一歩になりえます。アジャイルな作業方法に沿って、リスクを管理し、徐々に進捗させ、しかし迅速に利益を得られるようにするのはアイデアとして申し分ありません。まずは、リホストするだけでも、価値の向上の最初の段階として役立ちます。その後、クラウドネイティブアーキテクチャで再構築し、プロセスとガバナンスモデルを変更することで、(かなりの) 付加価値がもたらされます。このブログ記事では、ダミアン レナーとヤニフ エールリッヒが説明します。

−マーク

執筆者:シニアマイグレーションスペシャリスト、ダミアン レナー

AWS Application Migration Service 事業開発、ヤニフ エールリッヒ

大抵の企業が (数千とまではいかなくても) 数百ものアプリケーションを実装している現状で、これらすべてのアプリケーションをクラウドネイティブアーキテクチャに再構築していくとなると、デジタルトランスフォーメーションのメリット実現を過度に遅らせることになるので、実際は実行不可能であることがよくあります。ただし、クラウドに移行することで、イノベーション、競争力の維持、リスク軽減の能力を大幅に向上させることができるなどメリットは計り知れません。移行による中断を最小限に抑えた、素早く費用対効果に優れたアプローチは、アプリケーションを最小限の変更で移行させるだけのリホスト(一般に「リフトアンドシフト」と呼ばれます) になります。アプリケーション、ビジネスプロセス、監視、またはマネジメントインターフェイスを変更する必要がないため、アプリケーションのリホストは、アプリケーションを変更したり、新しいアプリケーションを最初から作成したりするよりも面倒がかからず、労力も時間もかかりません。

この記事では、アマゾン ウェブ サービス (AWS) のお客様がワークロードを AWSにリホストすることで得られる一般的なメリットについて説明します。

  • スピーディーな移行
  • コスト削減
  • ビジネスの俊敏性と迅速な伸縮性
  • オペレーショナル レジリエンス
  • スタッフの生産性

スピーディーな移行

リホストによる移行を実行して得られる最大の利点の1つは、こうした移行の実行とすべての利点の実現がスピーディーにできることにあります。基幹システムをクラウドに移行するのに、5年以上かける必要はありません。「リフトアンドシフト」によるリホストを使用すると、繰り返し作業ができるメカニズムを作成して移行を加速し、実証済みのプロセスで動作済みの一連のアプリケーションを使用して、マイグレーションファクトリーを内蔵したかのような方法を実装します。何らかのアプリケーション群を一つでも移行できたら、プロセスを一般化し、他のチームも追随できるようなフレームワークを提供できます。

CloudEndureMigration および Application Migration Service (MGN) などの AWSツールは、ライセンス料なしでありながらも高度に自動化された移行アプローチを採用し、ヒューマンエラーの可能性を減らしながら、リフトアンドシフトによる移行プロセスを迅速化および簡素化します。英国を拠点とする世界的な衛星通信のリーダー企業である Inmarsat は、月平均120台のペースで合計1,500台を超えるサーバーを AWSに移動しました。また、 ENEL は9か月で5,500台のサーバーを AWSに移行しました

コスト削減

多くの場合、企業がクラウドジャーニーを体験して最初に認められるメリットは、インフラストラクチャの保有と管理に関わる IT コストの削減になります。たとえば、 TC Energy (北米有数のエネルギーインフラ企業の1つ) は、データセンター設備を刷新するにあたって5,000万ドル規模の設備投資が必要と分かりました。そこで、その代わりに、 TC Energy は AWS への大規模なリホストを実行することを決定し、マイグレーションファクトリーを構築しました。また、 GE Oil and Gas は、 AWS にリホストするだけで、コストを約30%節約できました。

フェーズ 1 とは、コスト削減、俊敏性、耐障害性、その他のクラウドのメリットを活用するために、 AWS クラウドにリフトアンドシフトすることです。フェーズ2では、クラウドを最大限に活用できるようにアプリケーションを再設計します。すでにクラウドでアプリケーションが実行されている場合は、再設計がより簡単であることが判明しています。これは、そうした企業においてはリホストするためのスキルが熟達していることと、アプリケーション、データ、トラフィックがすでに AWS でホストされていることも一因です。 AWS では、各アプリケーションに対して最も低コストのインフラストラクチャを推奨する機能がある Migration Evaluator などのツールも提供しています。これにより必要な分だけのリソースを利用したり、数分前に通知するだけで必要に応じてスケールアップおよびスケールダウンすることができます。前述のまるで工場を内蔵したかのような移行方法を実装すると、サーバーのグループがリホストされると、最適化フェーズに特化したチームにサーバーが引き渡されます。 インフラストラクチャの適切なサイジングによるコストの最適化に関する詳細は、このブログ記事を参照してください

オンプレミスのアプリケーション構築と管理を行うチームは、アプリケーションの総コストを完全に把握するのに苦労しています。アプリケーションが AWS にリホストされると、コストを把握し、チームがコストを削減するために必要な目標を設定するために使用できる多岐にわたるデータとツールを手に入れることができます。これにより、所属組織におけるクラウドに関する成熟度が高まり、企業の複数の領域  (IT、財務、ビジネス)  が統合され、共通の目標に向かって取り組めることになります。

ビジネスの俊敏性と迅速な伸縮性

従量課金制のインフラストラクチャを数分でプロビジョニングできるため、ビジネスの俊敏性が向上します。開発者は即座にインフラストラクチャを取得し、コードを書き始めることができます。クラウドでは、不要になったリソースをすばやく簡単にシャットダウンできるため、たとえ開発に失敗したとしても、その失敗のコストははるかに少なくなります。これにより、支出を管理し、イノベーションや新しいビジネスモデルに資金を再投資することができます。

この柔軟性という価値は、 COVID-19 のパンデミックで実証されました。パンデミックの間、サービスの需要が減少したため、一部の顧客はインフラストラクチャの容量を削減しました。その一方で、たとえば Finnair は需要が少ないときにはコストを削減する必要がありましたが、旅行需要が増えたときに再びスケールアップする能力を維持する必要があり、こうした柔軟性はそうしたニーズに応えることができます。 CloudEndure と Application Migration Service を使用したことで、 Finnair は 70 件あるアプリケーションすべてを AWS に短期間でリホストし、需要に応じてスケーリングすることができました

オペレーショナル レジリエンス

アプリケーションを AWS でホストするだけで、運用上で大きなメリットをすぐに得ることができます。たとえば、AWS のすべての仮想サーバーは、それぞれがバックアップ電源装置を備えた2つの独立した電源によって提供されています。これらのアプローチは AWS では標準ですが、オンプレミスのデータセンターで実装するにはコストがかかり、複雑になります。さらに、 CloudEndure や MGN などのリホスト移行ツールは、移行プロセス中に AWS でデータを暗号化しておく機能をも提供します。 グローバル企業 33 社で使用されている 351 件のアプリケーションを調査した結果、 AWS への移行によりアプリケーションの可用性が大幅に向上し、計画的ダウンタイムと計画外のダウンタイムがそれぞれ 29% および 69% 削減されたことがわかりました。また、セキュリティイベントが43%減少するなど、アプリケーションのセキュリティが向上していることもわかりました。

これをさらに一歩進めたい場合は、アプリケーションを変更することなく、追加の AWS サービスを統合してプロセスを最新化することができます。 AWS BackupCloudEndure Disaster Recovery などのサービスにより、 AWS でホストされているアプリケーション全体のデータ保護アクティビティを自動化できます。

スタッフの生産性

オンプレミスを利用する企業では、従業員は自らの企業ビジネスを支えるはずのシステム関連作業にかえって多くの時間を費やしています。たとえば、自社ネットワーク内の各サーバーの調達、セットアップ、インテグレーション、および保守といった作業があります。 AWS を使用すると、これらの業務が軽減されるか、不要になります。 AWS のお客様は、オンプレミスの IT を使用する場合と比較して、従業員1人あたり平均で 2 倍の仮想マシンと 1.8 倍のデータを管理できます。これにより、従業員は所属企業に真に価値をもたらし、そして顧客に価値を提供するイノベーティブな作業を行うことができます。 General Electric の CIO であるJim Fowler は、次のように述べています

AWS は過去4年間にわたり私たちと一緒に価値創出に取り組んできており、信頼できるパートナーの1つになっています。どうしてでしょうか? AWS のおかげでグローバルコンピューティングファクトリーをうまく運営できているので、余計に航空機エンジンを販売しようと思いません。同様にユーザーがユーザーエクスペリエンスで極めて満足できるようにするには開発者はどのような設計をしたらよいか分かったので、余計に車輛を販売しようとも思いません。セルフサービスを実行し、私達のインフラストラクチャの周りにさまざまなストラクチャを構築するにはどのようにするのが最善であるかを理解できたので、余計に石油やガスポンプを販売しようとは思わないのです。

まとめ

クラウドは、コスト削減、ビジネスの俊敏性、およびスタッフの生産性を向上させながら、イノベーションを推進します。これらすべての要素が連携して、企業が業界のなかで一歩抜け出し、組織内の人材を最大限に活用できるようにします。このブログ投稿では、 AWS のお客様が、最初にアプリケーションをリホストし、その後それらをモダナイズすることで、いかに迅速にメリットを享受できるかについて説明しました。

AWS アカウントチームは、大規模な移行を実行する方法についてご案内できます。または、こちらから当社のマイグレーションアクセラレーションプログラムチームにご連絡ください。


ゲストについて

ダミアン レナーは、プロフェッショナルサービスチームのシニアマイグレーションスペシャリストです。

彼は企業と協力して、目標としているビジネスの成果を理解し、そうした成果が実現できるようにテクノロジーソリューションに変換します。

ヤニフ エールリッヒは、AWS Application Migration Service 事業開発チームに所属しています。

グローバルで、大規模な移行を簡素化および加速化することを専門としています。

Mark Schwartz

Mark Schwartz

マーク・シュワルツは、アマゾンウェブサービスのエンタープライズストラテジストであり、『The Art of Business Value and A Seat at the Table:IT Leadership in the Age of Agility』の著者です。 AWSに入社する前は、米国市民権・移民業務局 (国土安全保障省の一部) の CIO、Intrax の CIO、および Auctivaの CEO を務めていました。 彼はウォートン大学で MBA を取得し、イェール大学でコンピューターサイエンスの理学士号を取得し、イェール大学で哲学の修士号を取得しています。

この記事はアマゾン ウェブ サービス ジャパンの佐藤伸広が翻訳を担当しました。(オリジナルはこちら