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ユーザー体験を向上させるカギは “分断の解消” 〜絶対に止められないスマートロックを扱うシステムの裏側【AWS Summit Tokyo】

AWS について学べる日本最大のイベント「AWS Summit Tokyo」が、2023 年 4 月 20 日(木)、21 日(金)の 2 日間にわたり開催されました。「AWS Summit Tokyo」では各種の基調講演や 150 を超えるセッション・企画、会場内のブースによって AWS の知識を身に付けられるだけではなく、参加者同士でベストプラクティスの共有や情報交換ができます。オンデマンド配信登録はこちら

今回は開催された事例セッション「ユーザー体験を向上させるカギは “分断の解消” 〜絶対に止められないスマートロックを扱うシステムの裏側」(スピーカー:株式会社ビットキー Vice President of Product 町田 貴昭 氏)のレポートをお届けします。

ビットキー社は、住宅の専有部住戸に設置するスマートロックや、共用部エントランスドアを制御するコントローラーなどの提供を通じて、あらゆる場所をシームレスにつなぐ「スマートアクセス化」を推進する企業です。暮らしの領域では「homehub」、働く領域では「workhub」という、スマートロックと連携したプラットフォームを提供しています。

「入室・退室ができて当たり前」である鍵という分野において、ユーザー体験をデザインしサービスレベルを向上させるための方法や、AWS IoT を活用したシステムアーキテクチャなどを町田 氏が紹介しました。

「homehub」「workhub」の根幹を支える AWS IoT

ビットキー社は 2018 年 8 月に創業された会社です。「テクノロジーの力であらゆるものを安全で便利で気持ちよく『つなげる』」というミッションを掲げています。そして、人の営みを「暮らし」「仕事/働く」「非日常体験」という 3 つの領域に分け「Home」「Work」「Experience」それぞれの事業を展開しています。

本セッションでは「Home」のプロダクトにあたる「homehub」と、「Work」のプロダクトにあたる「workhub」についての解説が行われました。「homehub」は「暮らし」がテーマです。自宅の鍵を各種の方法で開閉する、家事代行や荷物配送などのサービスと連携して生活をより便利にするなどの機能を実現します。「workhub」は「仕事/働く」がテーマです。オフィスの入退出管理や会議室予約、受付管理などの機能をサポートします。そしてこの 2 つのプロダクトで、共通した位置付けや目的のために AWS IoT が使われています。

「homehub」と「workhub」は、同一の Core Value を持っています。それは、「さまざまな『ソリューションの分断』を解消する体験の実現」です。

たとえば、インターネットの普及によって人々は Web サイト上で物件を探せるようになりましたが、契約の際には不動産の店舗まで鍵を取りに行ったり、仲介業者が立ち会わなければ内見ができなかったりという不便さがあります。また、オフィスにおいても入館証を持ち歩く必要があり、入館のために煩雑な手続きを踏まなければならないこともあります。ビットキー社は、こうしたデジタル領域と物理空間の間にある分断の解消を目指しています。

その目標を実現するためには、スマートロックがどのようなタイミングでも確実に動くことが必須条件になります。それを実現するのがビットキー社の「bitlink」という IoT デバイスです。「bitlink」は、スタンドアローンで動いている各種スマートロック(バッテリー駆動)の状態監視をします。「bitlink」では AWS IoT を用いて、可能な限り SLA を向上させるために 3 つの機能を提供しています。

1 つ目は現地に設置されているデバイスの状態監視です。「bitlink」がオンライン状態であるかどうかに加えて、周辺にあるデバイスが動作しているか、BLE 通信が行える環境下にあるかを常に監視しています。

2 つ目はバッテリー情報の取得です。「bitlink」を通じて毎日電池の残量を取得し、適切なタイミングでバッテリー交換をエンドユーザーに案内します。

3 つ目は操作履歴の取得です。デバイスの中に操作履歴を保存しておき、その情報を「bitlink」が取得します。これらの機能を実現するために、AWS IoT をはじめとした以下のような AWS のコンポーネントを使用しています。

プロダクト改善のための新たなるアーキテクチャ

町田 氏はセッションの後半から、ビットキー社が AWS IoT を選定した理由について解説しました。2019 年末頃から、ビットキー社は「bitlink」の開発に着手しました。当時は「プロダクトを可能な限り早くリリースすること」が最大の目標だったといいます。

AWS IoT はフルマネージドのサービスであり、MQTT の TLS 対応などが容易でした。そして、他のリソースとの連携も簡単であり、標準機能として提供されている AWS IoT Analytics だけで分析や監視を行えます。こうした数多くの利点から AWS IoT を選定して「bitlink」を開発・リリースし、これまで大きなトラブルもなく運用できていたのです。

しかし、プロダクトがスケールしていく過程で、大きな壁に直面しているといいます。前述の通り「bitlink」にはデバイスのバッテリー残量を取得する機能がありますが、バッテリーの持ちは現地の気温や通信頻度などの影響を受けます。正確なバッテリー残量を算出するには、デバイスごとに異なる計算方法を用いる必要があるのですが、それを今はまだ実現できていません。

また、「bitlink」が行う BLE 通信は周囲の電波環境の影響を受けやすいため、通信の成功確率を高めるために複数回のリトライ処理が行われます。ビットキー社のデバイスは日本全国に数十万台設置されており、その中には現在は使われていないものもあります。そうしたデバイスに対して、無駄なリトライ処理をすることによってコストが増加しているという課題もあります。

こうした課題を解決するために、ビットキー社はさらなるアーキテクチャ改善を目指しています。実現するのは「各デバイスの特性や設置環境、利用状況に応じた監視」です。これを「デバイスの生き死にを生き様に合わせてシステムが判断する」と町田 氏は表現しました。改善後のアーキテクチャは下図のようになります。

アーキテクチャ改善のポイントは大きく 2 つ。まずは ‎Amazon Kinesis Data Streams の導入です。AWS IoT から取得したデータをストリームとして扱い、パイプライン処理を実現します。スタンドアローンデバイスの操作情報などを、データウェアハウスなどの外部システムに非同期で連携することで、より高度な異常検知や分析を行えるようにします。

次が Amazon SageMaker の導入です。AWS IoT を経由して取得したデータを、すべて Amazon S3 に蓄積します。それに加えて、設置されている環境や利用頻度といった関連情報もまるごと Amazon S3 に蓄積し、それらの情報を Amazon SageMaker で学習させます。デバイスごとのパーソナライズを行うことで、より適切なタイミングでバッテリー交換の案内や設定変更の案内などをエンドユーザーにレコメンドしようと構想しているのです。

「AWS のさまざまなサービスを使うことで、『homehub』『workhub』それぞれの当たり前品質の底上げと、パーソナライズされた気持ちよさの追求をしていきたい」と町田 氏はセッションを結びました。


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