AWS Startup ブログ
インフラ費用を 67% 削減。運用工数もほぼゼロに。テックタッチ社の Amazon QuickSight 活用
「テックタッチ」は、Web システムの画面上にリアルタイムでナビゲーションを表示するプラットフォームです。システムに「テックタッチ」を組み込むと、画面上にガイドを表示してステップバイステップでユーザーの操作を支援します。また、画面内の自由な場所に配置できるツールチップにより、わかりにくい入力ルールや忘れがちな入力規則をリマインドすることもできます。
「テックタッチ」を開発・提供するテックタッチ株式会社はインフラ環境に AWS を活用しており、分析環境を簡単に構築できるビジネスインテリジェンス(以下、BI)サービスの Amazon QuickSight を利用しています。かつて同社は他社製の BI サービスを用いていましたが、Amazon QuickSight にはさまざまな利点が存在することから、利用ツールの移行を行ったのです。
今回はテックタッチ社へのサポートを行うアマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 アカウントマネージャーの井上 遼とスタートアップソリューションアーキテクトの野口 真吾が、テックタッチ社の方々にお話を伺いました。
<テックタッチ株式会社 インタビュー参加者>
取締役 CTO 日比野 淳 氏
データエンジニア・テックリード 西野目 卓弥 氏
データエンジニア 阪田 篤哉 氏
データアナリスト 照沼 頌 氏
各種のシステムを“より簡単に操作可能”にするプロダクト
井上:テックタッチ社の事業概要についてご説明ください。
日比野:テックタッチは 2018 年 3 月創業で、当初から「テックタッチ」の開発・提供を続けています。「テックタッチ」は「デジタルアダプションプラットフォーム」と呼ばれる領域のプロダクトです。システムを利用しているユーザーが、そのシステムをより簡単に利活用できるように支援するためのプラットフォームになります。大手企業や官公庁・自治体などにも導入されており、ユーザー数は合計で 200 万人を超えています。
私たちのお客さまは、大きく分けてエンタープライズ企業とサービス提供事業者という 2 種類に分類されることが多いです。エンタープライズ企業向けには主に、その会社の従業員の方々が業務システムを簡単に利活用するための支援をしています。サービス提供事業者向けには主に、エンドユーザーのオンボーディングを簡単に実現するための支援を行います。
「テックタッチ」には、利用傾向を分析するアナリティクスの機能があります。その機能でシステムの利用状況の課題を可視化したうえで、画面上にガイドを表示して操作を説明したり、ツールチップによって入力ルールや入力規則を伝えたりといったことを実現します。大きな特徴は、対象のシステムを改修することなく「テックタッチ」をノーコードで組み込むだけでそういった改善を行えることです。
井上:御社はグッドデザイン賞などを多数受賞されており、経済産業省が選ぶ J-Startup にも認定されていますよね。この要因はどのような点にあると思いますか。
日比野:ありがとうございます。私たちの主要顧客のひとつであるエンタープライズ企業では、内製の社内システムに加えて、Salesforce などの SaaS 型のツールの導入を進めており、その会社独自にカスタマイズして IT システムを使っていらっしゃいます。そうしたシステムに対してガイドやツールチップを表示する場合は、表示する内容が各社オリジナルのものとなるため個別で設定していただく必要があります。
導入企業でその設定作業に携わるのは技術職ではないメンバーというケースが多いため、「テクノロジーにそれほど詳しくない方でも使いやすいエディター」を提供することを私たちは大切にしてきました。創業当初からエディターの UI・UX を磨き込んできたため、それが認められて、グッドデザイン賞などを受賞できたと考えています。
また、現在は多くの日本企業が業務の DX 化に注力していますが、私たちの「テックタッチ」はその活動を底上げできるプロダクトです。導入企業での成功事例が増えており、そういった実績が認められて J-Startup に認定いただいたのだと思います。
コストパフォーマンスに優れる Amazon QuickSight へ移行
野口:どのような用途で Amazon QuickSight を活用されていますか。
照沼:主に、テックタッチ社内のメンバーが各種の指標を確認する目的で Amazon QuickSight を利用しています。それぞれの職種ごとに話すと、カスタマーサクセスは「テックタッチ」を導入いただいた企業のコンテンツ作成の進行状況やシステムの利用状況などを可視化する目的で、Amazon QuickSight を利用しています。
また、プロダクトマネージャーは North Star Metrics の策定と実装のために定量的に測定できる指標値を可視化したり、機能の利用度合いといったユーザー行動を可視化したりします。それ以外にも、SRE のメンバーが「サーバーは動作しているがユーザーがシステムを使えない場合」のトラブルシュートなど、サービスの可用性モニタリングのために用いるケースもあります。
野口:かつては他社製の BI サービスを使用されていたそうですが、なぜ Amazon QuickSight への移行を考えたのでしょうか。
西野目:約 2 年半前に大規模な分析機能のリプレイスプロジェクトがあり、その際に開発スピードを重視して、ツール選定にあまり時間をかけずに他社製の BI サービスを導入しました。しかし、運用を続けていく過程でいくつかの課題が生じてきたのです。
まず、そのサービスのオンプレミス版を利用していたのですが、サーバーのメンテナンスにかなりの工数が必要だったこと。そして、その BI サービスの利用料金が高額かつアカウント管理が煩雑だったことです。その BI サービスの契約更新を行う前に、他のツールに移行したいと考えて調査していたところ、Amazon QuickSight の存在を知りました。
Amazon QuickSight はフルマネージドのサービスであり、サーバーの運用に工数を割く必要がないことに加えて、他社製の BI サービスよりもかなり安価なのが決め手でした。分析に用いるレポートの機能についても、自社のユースケースを充分に満たしていました。
井上:移行はスムーズに進んだのでしょうか。
西野目:かなり楽でした。フルマネージドであるため、サービスのアクティベートや認証、アカウント作成はすぐにできました。認証について話すと、私たちは各種システムのアカウント作成・認証・管理に Auth0 を用いているのですが、シングルサインオン設定は Web 記事などを参考にして 1 日以内で完了しました。その後、もともと他社製の BI サービスで出力していたレポート情報などは、データアナリストの照沼が旧画面と Amazon QuickSight を用いた新画面を比較しながら、段階的に移行を進めました。
照沼:レポート表示に関連した話をすると、2023 年 5 月にリリースされた Amazon QuickSight のデータセットパラメータ機能がすごく便利だと感じています。この機能の登場前までは、全量のデータセットを取ってきて、それらをフィルタリングしてから表示していました。そのため、データ量が多くなるとパフォーマンスに課題が生じていたのです。データセットパラメータ機能によって必要な情報だけを指定して取得できるようになったため、パフォーマンスも大幅に改善しました。
Amazon QuickSight を活用したデータ分析基盤
野口:Amazon QuickSight に関連する部分はどのようなアーキテクチャになっていますか。
西野目:上図のような構成になっており、まず社内のビジネスサイドのメンバーが使っている Salesforce の各種データを、Amazon AppFlow を用いて日次の RawData で Amazon S3 に出力しています。それを、AWS Glue のデータカタログ機能を使用して構造化し、構造化データを Amazon Redshift Serverless の Redshift Spectrum を利用して参照します。また、「テックタッチ」のログ情報を Amazon S3 上に収集していまして、これも同様に AWS Glue を用いた変換処理と Redshift Spectrum による参照を行っています。
さらに別の情報源として、プロダクトで利用するマスターデータが格納された Amazon Aurora クラスター(MySQL)があります。このデータベースに対しても、Federated Query を用いて Amazon Redshift Serverless からの参照を行います。つまり、Salesforce の各種データと「テックタッチ」のログデータ、「テックタッチ」のマスターデータという 3 つを Amazon Redshift Serverless で集約し、テーブルを作っています。
アーキテクチャ図の中央に、Amazon Redshift Serverless のクラスターが 2つあります。左側が、私たちデータプラットフォームチームのデータエンジニアがメンテナンスしているクラスターです。このクラスターから、dbt(data build tool)を経由して右側にある DataOps チームが管轄するクラスターに情報を共有しています。この右側のクラスターに Amazon QuickSight がつながっているという構造です。
阪田:もともとは、Amazon Redshift のプロビジョニングされたクラスターを使っていましたが、Serverless を用いるとストレージが無制限になり計算リソースのスケーリングも自動的に行われるという大きな利点があるため、Serverless に移行しました。また、dbt によるデータ変換処理を行うことで、データパイプラインの構築や管理の負担を軽減できています。
野口:テックタッチ社は、データ分析基盤の構築・運用やチーム体制などを含めて、かなりうまく回っている企業だと感じます。事前にアーキテクチャ資料を拝見した段階でもそう思っていたのですが、今回の説明を受けて改めてそう認識しましたね。
井上:Amazon QuickSight を取り入れたアーキテクチャに変えてから、どのような利点がありましたか。
日比野:まず必要なサーバー費用に関しては、以前に他社製の BI サービスを使っていた頃と比較すると年間で 140 万円ほど、前年対比で 67% のコスト削減につながりました。また、マネージドサービスであるためサーバーのメンテナンスにかかっていたエンジニアの運用工数がなくなりました。
ユーザー 1 人当たりのアカウント費用も安くなったため、社員のほぼ全員にアカウントを付与しています。アクティブなレポート利用者・レポート数が増え、事業部に供給できるレポート数が前年対比で 150% 向上しました。それから、AWS のロールと Auth0 との連携も容易であるため、アカウント管理の手間も大幅に減っています。
さらなるシステム改善とデータの民主化を
井上:事業やシステムアーキテクチャの今後の目標をお話しください。
日比野:冒頭でお伝えしたように、私たちは主にエンタープライズ企業とサービス提供事業者に向けて事業を展開しています。最近では、官公庁・自治体といった公共機関に対してもサービスを提供しており、今後もさらに公共システムに「テックタッチ」が導入されていくと考えています。それに伴って、自分たちの社会的責任も大きくなっていきます。
私たちはデータ分析の機能を持つプラットフォームを提供していますが、このデータを用いてお客さまが意思決定を行うわけですから、通常のアプリケーション開発で求められる品質よりも、さらに高い品質でサービスを提供する必要があります。
だからこそ、今回の事例であったようにデータ分析関連のアーキテクチャも最善を尽くしてきました。そして、データエンジニアやデータアナリストのメンバーたちも、システムの改善を続けています。今後もより良い形で、サービスを提供できるようにしたいです。さらに言えば、データは可視化するだけではなく価値のあるものに変えてこそ意義があるので、データの活用方法についても日々考えていかなくてはならないと思っています。
照沼:今回の Amazon QuickSight の事例でお話ししたようなデータ分析基盤のアップデートは、これからも推進していきます。大事にすべき基本は、日比野が言ったように信頼性の高いデータを取り扱うことです。大量に入ってくるデータを適切に処理して価値のある出し方ができるような基盤を作っていきたいです。
西野目:先ほどの図にあったアーキテクチャは社内ユーザーに向けたデータ分析基盤ですが、これとは別に顧客向けのデータ分析基盤もあります。そちらの基盤も、スピード感を重視して作ってきたという背景から、運用の課題などが出てきています。社内でデータエンジニアチームが組成されたのが直近 2 カ月くらいです。このチームを中心として、そうした運用の課題を解消するためにデータ分析基盤の刷新を進めているところです。
さらに、データ分析機能の社内の利用者をもっと増やし、PDCA を回しながら、データの民主化やデータドリブンに意思決定する文化を組織に浸透させていきたいです。
井上:その体制を実現していくために、どのような要素を持ったメンバーに参画してもらいたいですか。
阪田:データエンジニアチームは立ち上げて間もない組織であり、まだまだこれからという段階です。このチームではデータの民主化を進めていくためにも、社内・社外のさまざまなステークホルダーとのコミュニケーションやコラボレーションが重視されます。そうした活動に楽しく取り組める方がいいですね。最新技術を取り入れながらデータ分析基盤の刷新を進めていますので、技術的な学習意欲の高い方がマッチすると思います。
照沼:私はデータアナリストなので、収集・分析したデータをレポートにして、ビジネスサイドに届ける役割を担っています。そのためには、事業のことを深く理解して、ビジネスサイドのニーズを把握したうえでデータアナリストの仕事を全うする必要があります。今後弊社に参画してくださる方も、私たちの事業や顧客のことを理解して、適切なコミュニケーションの提案ができる人だとありがたいです。
また、今回のインタビューで「データの民主化」という言葉が何回か出ましたが、やはり誰もが必要なタイミングで必要なデータを利用できる環境を構築していくことが重要だと思っています。そのためのシステム構築は大変なことも多いですが、そういった仕事に前向きに取り組んでくれるような、スタートアップマインドを持っている人がいいですね。
日比野:データ分析に関する技術は日進月歩を続けているので、自分たちも積極的に新しい技術を取り入れていくことが必要だと思っていますが、いま提供しているサービスのアーキテクチャを安易に組み替えることはできないので、ここに相反する難しさがあります。
「データ分析基盤のシステムを安定稼働させつつアーキテクチャの改善を続ける」という両方を実現するには、技術的なトレンドをしっかり追いかけることはもちろん、実直な性格であることが大切だと思っています。テックタッチにはそういう要素を持ったメンバーが多いですし、これから参画する方もそういった要素を持っていてほしいと思います。
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