株式会社エイチ・アイ・エス(以下、H.I.S.)は、1980年、日本の旅の変革を求め、リーズナブルな海外航空券の販売からスタート。35年目を迎えた現在、旅行会社世界進出国数No.1。安心の海外支店網海外 60 カ国 124 都市 181 拠点を展開 (2014年12月現在)。旅行業のみならず、ホテル事業、運輸事業、テーマパーク事業など多様な旅行商品とサービスで、“いい旅を、世界中のお客様に” 提供しています。
お客様に海外での滞在時間を十分に楽しんでいただくためにも、システムがスムースに稼働していることは非常に重要です。しかしデータセンターを借りてシステムを稼働させるというオンプレミスの IT 基盤であったために、グローバル展開にあたって大きく 4 つの課題が発生していました。
1つめはヒューマンリソース、人材の課題です。H.I.S. はあくまで旅行会社なので、システムのための人材を各国に配置することは非常に困難です。国内でも IT の人材は確保しにくいのに、グローバルでこのリソースを確保するのはさらに難しい。また、間接部門であるシステム要員は最小限にしたいという事情もあります。
2 つめはキャパシティの課題です。オンプレミスだとどうしてもピーク時のキャパシティを想定したシステムを設計しがちです。結果として通常時にはほとんど使われることのない過剰なリソースを抱えてしまいます。かといって、ピーク時に望む性能を得られるかというとそうは限らず、非常にムダの多いシステムになってしまいます。ストレージについても適切なキャパシティを見込むことは難しく、最初は余分でもあとから足りなくなる、ということの繰り返しに陥りがちです。
3 つめはコストです。オンプレミスはとにかく初期費用が高額です。とくにハードウェアは高価であるだけでなく、一度導入したら最低でも 5 年は変更ができず、保守が切れたらほとんど自動的にリプレースを迫られます。データセンターの保守費用や人件費も相当なコストで、しかも年々上昇しています。
最後の課題はスピードです。他社との差別化を図っていくためにはスピード感をもって新しいサービスを展開していく必要があります。しかしオンプレミスの場合、ハードウェアの調達に 1 - 2 カ月、その後のシステム構築にまた数カ月というケースもめずらしくありません。また、ビジネスのスピード、我々のやりたいことのスピードに IT が追いつかない状況が続いていました。
H.I.S. がグローバル戦略を進めていくためには、時代に適合した新しいシステムが必要でした。上層部も同じ危機感を抱き始めたようで、2013 年にクラウドを含む新しいシステムの構築を検討するプロジェクトに Go サインが出ました。
ほかにもいくつかのベンダーから見積を取りましたが、最終的には「AWS Direct Connect(後述)」を含む、数多くのクラウドサービスを提供する AWS を選びました。決め手となったポイントは以下の5つです。
- グローバル: インターネット接続さえあれば世界のどこからでも管理可能、世界 9 カ所のリージョンを利用できる
- 安価: 高額な初期費用が不要で高い専門スキルがなくてもシステムの構築が可能、定期的なリプレースも必要ない
- 柔軟性: 通常時には必要最小限、ピーク時のみ増設というサイジングいらずの弾力的なリソース設計、ストレージも必要になったときに増設可能
- スピード: ハードウェアの調達に時間をかける必要がなく、使いたいときにすぐ使える
- 変化に対応: 思い立ったらすぐ行動、失敗したらすぐ撤退というビジネスのシナリオに合わせて自社主導でシステムを構築できる、プロジェクトのリードタイムを大幅に短縮
H.I.S. が AWS の"凄さ"を本当に実感したのは AWS Direct Connect を使ってからです。このサービスはクラウドに対する意識を根底から変えました。「エンタープライズで AWS を利用するなら AWS Direct Connect は標準装備」と言っても言い過ぎではありません。
なお、接続にあたっては金融業界での実績が高い KVH の「KVH SmartGiga」というマネージドサービスを選びました。当初は自力での直接接続も検討しましたが、機材や回線の手配/管理に煩わされるよりもマネージドサービスを利用したほうが大幅に運用の負荷を減らせると判断しました。
AWS Direct Connect は本当に引いてみないとその良さがわからないサービスだと思います。高速で安全な接続が確立することができ、しかも KVH のようなマネージドサービスを利用すれば管理の手間も省ける。大量のデータ転送も、既存システムとの連携も高速に行うことができます。
おそらく海外拠点のスタッフを含め、社内のユーザはクラウドを使っているという実感はないかもしれません。専用線という安心感がこれほどクラウドのイメージを変えるとは、正直驚きでもありました。実は AWS を本格導入する前にも、小規模なクラウドサービスを利用したことは何度かありましたが、AWS Direct Connect ははっきり言って"別物"です。第 3 のデータセンターと表現してもいいくらい、その安心感は群を抜いています。
AWS を本格導入してからは、新規にシステムを構築する際や、既存システムからのリプレースを行う際は必ず AWS を第1案として検討することにしています。クラウドファーストというよりは"AWS ファースト"なアプローチですね。その"AWS ファースト"な事例が 2014 年 6 月に AWS にサービスのほとんどを移行した「H.I.S. Vacation(http://his-vacation.com/)」です。
H.I.S. Vacation は海外旅行の各種パーツ(ホテル、オプショナルツアー、海外レンタカーなど)をインターネット上で予約/販売するサービスです。現在、海外ホテルを除く全メニューが AWS 上でサービスが動いています。
移行のきっかけは既存環境の機器保守切れに伴うリプレースです。データセンターを使ったオンプレミスにするか、もしくは AWS に移行するのか、さまざまな観点から検討した結果、自社構築による AWS への移行を決定しました。機器の調達に必要なコストや期間、今後 5 年間を見越したランニングコスト、拡張性、冗長性、障害対応など、あらゆる面で AWS のほうがメリットが大きく、また AWS は 5 年後に機器リプレースを必要としないことも大きな判断理由になりました。
移行の検討を開始したのは 2014 年 1 月に入ってからです。検討期間に 2 カ月ほどを要しましたが、3 月末に移行を決定してからテストサイト構築までは数週間で済みました。4 月には実際にテストサイトを動かし、6 月には本番サイトのローンチにこぎつけています。このスピード感はやはりクラウドならではと実感します。オンプレミスなら機器調達に数カ月、テストサイト構築に数カ月…と時間の進み方が全然違いますから。
また、AWS への移⾏に伴い、Multi-AZを活用し、徹底した冗長構成を取るようにシステムを実装いたしました。これにより、全体のサービスレベルは以前に比べて格段に向上しています。
コストに関しても、トータルで年間 10 - 20 % の削減を試算できており、さらにリプレース費用も今後は削減できます。全体的に大きなメリットがあった移行だったと実感しています。
今後の展開
クラウドファーストに移行しつつあると言っても、社内にはまだ老朽化したサーバーがいくつか残っていますので、これらの環境で動いているサービスをどう AWS に移行することが現状の課題のひとつです。Windows Server 2003 のサポート終了もあるので、早急に取り組む必要を感じています。
また、アプリケーションのパターン別に AWS CloudFormation テンプレートを作ることを検討しています。Java システムのテンプレートとか PHP のテンプレートといった具合に分類しておき、要件に応じてすぐに対応できるようにしたいと考えています。テンプレートを作っておけばシステムの標準化も進みますし、手順の簡素化や構築のスピードアップなども期待できます。
さらに今後はビッグデータ分析においてもクラウドを利用していくことになります。
AWS には数多くのサービスがありますので、これらを組み合わせて使いこなすことで、短期間で高品質なシステムを構築していく予定です。
- 株式会社エイチ・アイ・エス
本社情報システム本部 基盤システムグループ インフラソリューションチーム チームリーダー 榎本 貴之 様
本社情報システム本部 基盤システムグループ インフラソリューションチーム 山崎 奈緒美 様
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上記は 2014 年 11 月時点での情報です。