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2020 日本郵船株式会社

乗船中の給与送金や決済を実現する電子通貨プラットフォームを AWS 上に構築。数百億円の現金管理の負担を軽減

概要

世界最大手の海運会社として、世界経済に寄与する日本郵船株式会社。近年デジタライゼーションに力を入れる同社が新たに取り組むのは、船上で活用できる電子通貨プラットフォーム『MarCoPay(マルコペイ)』です。QR コードを使って船員の給与支給や生活用品の購入、自国への送金などができるキャッシュレスアプリをアマゾン ウェブ サービス(AWS)上で開発。船上で扱う数百億円規模の現金管理のリスクを軽減するとともに、船員とその家族の利便性向上を図っていきます。
Promotional image for MarCoPay featuring a mobile phone displaying the MarCoPay app with the tagline 'A Cashless App for Seafarers' on a blurred bokeh background.

デジタライゼーション戦略の一環として電子通貨プラットフォームを構想

1885 年の創業以来、“モノ運び”を通じて世界経済の発展や人々の生活の向上に貢献してきた日本郵船。現在は、中期経営計画『Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green』の中で、デジタライゼーションの推進を掲げています。

船員向け電子通貨プラットフォーム『MarCoPay』は、このデジタライゼーション戦略の一環として構想されました。「背景には、船舶の運航に欠かせない外国人船員とその家族の生活の利便性向上に貢献したいという願いがありました」と語るのは、事業会社の MarCoPay Inc. の CEO を務める藤岡敏晃氏です。

船上で電子通貨が求められる主な理由の 1つは、多額の現金を扱う管理のリスクです。日本郵船の場合、日本人船員の給与は銀行振込が一般的ですが、多数を占める外国人船員の給与の一部は現金で支給されており、船内に多くの現金が持ち込まれてきました。一度航海に出れば約 6 ~ 9 ヶ月は船上生活を送ることになる海運業界において、世界中の船上にある現金は 800 億円ともいわれ、安全確保のためのコスト負担や、給与の支給に伴う出納管理などの業務負荷軽減が課題でした。

もう 1 つは、外国人船員のステータス向上です。特に世界の海運業の主力を担うフィリピンの船員は、自国でもトップ 5% に入るほど高額な給与所得を手にしながら、期間契約という船員業務特有の事情や当地の金融包括の現状から、経済的ポテンシャルが正しく評価されずにいます。

「船上での現金管理のリスクを軽減し、運航業務に安心して集中できる環境を作ることと、外国人船員が本国でのステータスを高めて金融機関からの融資や保険の加入を受けやすくし、生活や将来の安定化・レベル向上を目指して、独自の電子通貨プラットフォームを構築することにしました」(藤岡氏)

将来の利用者増加や機能拡張に備えクラウドネイティブなアーキテクチャを構成

日本郵船は MarCoPay の戦略策定から、システムやネットワークの構築において、金融業界で多くの導入実績を誇り、デジタルテクノロジーに関して最先端の知見を備えたアクセンチュア株式会社と共同で開発を進めました。プラットフォームに関しても協議を重ねた結果、インフラ基盤に AWS の採用を決定。その理由について、アクセンチュア株式会社 テクノロジーコンサルティング本部 シニア・マネジャーの伊藤啓介氏は次のように語ります。

「サービスをスピーディに提供できる AWS のアジリティと、金融サービスに求められるセキュリティの高さ、ユーザーを徐々に獲得しながらサービスを順次拡大できるスケーラビリティを重視しました。加えて、世界中の洋上で多国籍のユーザーがアプリを利用する要件から、世界のさまざまなユーザーの利用実績があり、運用拠点が全世界にあることもポイントになりました」

そして、MarCoPay Inc. の CTO を務める正木元幸氏は「今後のシステム連携のしやすさと将来性を考慮しても、AWS の採用にメリットがあると考えました」と語ります。

AWS の採用決定後、2019 年 4 月からプラットフォーム設計に着手し、約 10 ヶ月で開発を完了。プラットフォームには AWS のコンテナサービスである Amazon ECS と AWS Fargate、データベースサービスの Amazon Aurora を活用し、クラウドネイティブなアーキテクチャを構成しています。

「事業会社立ち上げ時から、スモールスタートで独自に機能拡張やコスト削減を進めていきたいという構想をお聞きしたため、今後の AWS 利用のデファクトスタンダードになっていくサービスを選び、できる限りマネージドサービスを利用したアーキテクチャを設計しました。その結果、インフラの運用負担を軽減し、また定型作業は自動化できる構成を実現しています」(アクセンチュア伊藤氏)

システムはシンガポールリージョンに構築し、さらに天候や環境の影響でネットワークのアクセスが不安定になる船上での接続を確実にするために、PoC を繰り返しながら最適なネットワークを構築しています。

AWS 環境を活用し開発工程でさまざまなテストを実施

MarCoPay プラットフォームの構築を終え、フィリピン中央銀行から電子通貨発行業のライセンスを取得した後、2020 年 2 月には他社運航船を含む(日本郵船と日系他船主の船舶)数隻を対象に試験運用を実施。QR コードを使った電子決済、給与送金、電子マネーからの再現金化などの基本的な機能が利用できることを確認しました。

その後は、COVID-19 による渡航制限の影響も受けながらも、本サービスの開始に向けて準備を進めています。藤岡氏は「外国人船員の期待に応え、海運業全体のプレゼンスを高めていくためにも、継続的に機能を改善し、付加価値の高いサービスに進化させていきます」と話しています。

一方、オンプレミスが主流だった同社にとっては AWS を活用してさまざまなメリットが得られたといいます。

「インフラ提供のリードタイムが短いため、開発工程で必要な環境をすぐに立ち上げて、機能追加や改善と並行しながらテストができることは新たな発見でした。コスト面でも従量課金制はスモールスタートに最適です。使わない時にはサーバーを止めておけば料金もかからないため、COVID-19 に起因する急激な環境変化で試験運用を止める必要があった状況においても余分なコストが発生せず、BCP 対策としても効果を実感しました」(正木氏)

セキュリティ面では、オペレーションミスが発生しても機密情報の漏洩が起こらないように 2 重、3 重の防御策を施しながら、Amazon GuardDuty(脅威検知)、AWS CloudTrail(ログ取得)、AWS Shield(DDoS 保護)などのマネージドサービスを活用し、組み合わせて構築を行ったため、開発期間の短縮に役立っているといいます。またアクセンチュアからはこのような、ベストプラクティスに沿ったシステム構成を実現するだけではなく、今後フィリピン現地法人でのシステム運用保守や開発内製化をよりスムーズに行えるよう、運用手順書と合わせて設計詳細の説明、シャドウイング、リバースシャドウイングといった引き継ぎ会なども実施され、ノウハウの共有なども行われています。

MarCoPay を業界全体に拡大しグローバルなプラットフォームへ

日本郵船では将来構想として、MarCoPay を自社以外の船主や管理会社にも展開し、さまざまな小売店やサービスとの提携を進めていく考えです。

「MarCoPay を世界中の船員と家族が使えるグローバルなプラットフォームへと進化させ、日本郵船グループの基本理念である “Bringing value to life.” の実現に務めていきます」(藤岡氏)

デジタライゼーション戦略として同社は業務の共通プラットフォーム化などにも取り組んでおり、MarCoPay のプロジェクトで得たクラウド活用のノウハウは、他の領域にも広く活かされていくはずです。

Logo of NYK Line (Nippon Yusen Kaisha), featuring a stylized red and white flag and the company name.
AWS のマネージドサービスを活用して、高いセキュリティレベルとスケーラビリティを備えた電子通貨プラットフォームを構築することで、船上の数百億円といわれる現金を管理する負担を軽減していきます

藤岡 敏晃 氏

MarCoPay Inc. President Director, CEO

アーキテクチャ図

A Japanese-language infrastructure overview diagram illustrating an AWS Cloud architecture for shipping and management, showing components such as Amazon EC2, AWS Fargate, Amazon RDS, Amazon S3, AWS Lambda, Elastic Container Registry, NAT Gateway, CloudTrail, and CloudWatch, with network and user interaction flows.

日本郵船株式会社

  • 設立年月日:1885 年 9 月 29 日
  • 資本金:1,443 億 1,900 万円
  • 従業員数:34,857 名
  • 事業内容:一般貨物輸送事業(定期船事業、航空運送事業、物流事業)、不定期専用船事業、その他事業(不動産業、その他の事業)

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • インフラ提供のリードタイム短縮

  • 高度なセキュリティ機能の開発期間の短縮

  • 従量課金制によるスモールスタートの実現

  • COVID-19 によるサービス停止下での事業継続性確保

  • MarCoPay で得たノウハウを、他の案件にも拡大

本事例のご担当者

Missing alt text value 藤岡 敏晃 氏
Missing alt text value 正木 元幸 氏

アクセンチュア株式会社

APN コンサルティングパートナー

アクセンチュアは「ストラテジー & コンサルティング」「インタラクティブ」「テクノロジー」「オペレーションズ」の 4 つの領域で幅広いサービスとソリューションを提供する世界最大級の総合コンサルティング企業です。また、AABG(Accenture AWS Business Group)を立ち上げ、AWS と協働してお客さまのクラウド活用を推進し、新たなビジネス価値の創出を支援しています。

Logo image displaying both the Accenture and AWS (Amazon Web Services) logos side by side.