統合 ID で学内サービスの向上と効率化を実現
共通データプラットフォームに多様なデータを集約して活用
最新の大学 IT 情報を得られる共創関係
概要
大阪大学は「社会との共創による生きがいを育む社会の創造」を掲げた『OU(Osaka University)マスタープラン 2027』に基づき、デジタル化(DX)を推進しています。その第一歩として、分散管理されていた人財情報を統合する ID 基盤をクラウドサービスで構築。さらに ID に基づく『OU 人財データプラットフォーム』で多岐にわたる情報を蓄積し、同学に関わる多様な人財が長期にわたって「つながりつづける」コミュニティの共創を目指しています。
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課題 | 人的資本の長期的な連携に向けた人財データ活用構想
大阪大学は 1931 年に創設された大阪帝国大学から続く国立大学であり、2007 年には大阪外国語大学と統合しました。また、2018 年に文部科学大臣から指定国立大学法人の指定を受けています。
同学は、中長期的な経営ビジョン『OU マスタープラン 2027』のもと、「生きがいを育む社会を創造する大学へ」を掲げ、単なる社会貢献にとどまらず「社会を創造していく」大学を目指しています。このプランでは、大学の中核となる教育・研究・経営を横断的に支える情報基盤整備の必要性についても示されており、このような基盤整備を含む DX 推進に向け、2022 年 4 月に OUDX 推進室が設置されました。
OUDX 推進室が打ち出した『OUID(Osaka University IDentity)サービス構想』では、大阪大学の関係者全員に一意の生涯 ID を提供し、顔認証技術も活用した高付加価値サービスの実現を目指しています。「従来は各部局にさまざまな情報が分散されていたため、まずは関係者の ID を統合する基盤を構築しました。全学共通のデジタル ID をベースに学生サービスの向上や効率化を進める方針で、2025 年 1 月からは顔写真付きのデジタル学生証・教職員証を導入し、学内の建物の入退館や出欠確認でも使えるようにしていきます」と、大阪大学 OUDX 推進室 副室長 教授の鎗水徹氏は語ります。
デジタル学生証に先駆けて、2023 年度から OUID と連携した顔認証技術による入退館管理の仕組みを学内に設置して検証し、チューニングを経て実装。現在、この仕組みは吹田キャンパスの本部棟ほか 30 か所で運用されており、今後は図書館の入退室管理などにも拡大を予定しています。
さらに同学は OUID に基づいて、学外も含めた大阪大学コミュニティ人財の知識・経験・役割・人脈といった人的資本を共有する『OU 人財データプラットフォーム』を構想しています。学内共通のプラットフォームで統合的にマスターデータ管理を行うことでガバナンスを効かせるとともに、入学前から卒業後に至るまで一貫した学修データの蓄積や、研究の DX を推進。教育・研究・経営の強化、卒業生との終身交流を通じて全学の DX 推進と国際競争力強化、新たな価値創造につなげる方針です。
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OU 人財データプラットフォームは『共創』の観点から広げていくものと考えており、将来はこのような共通プラットフォームで他の大学とも連携し、日本の国際競争力を高めていくことも検討しています"
鎗水 徹 氏
大阪大学 OUDX 推進室 副室長 教授
ソリューション | 膨大なデータをセキュアかつスケーラブルに管理できるクラウドの活用
大阪大学 情報推進部 OUDX 推進対策室 専門職員の喜多真一氏は「OU 人財データプラットフォームで管理する ID は、卒業生など学外関係者まで加えると数十万を超えると予想されます」と語ります。この規模に耐えうるスケーラビリティを備えたシステム基盤として、クラウドサービスを構築しました。
多くの大学は共通のプラットフォームを持たず、学部や学科がそれぞれサーバーやサービスを管理しているため、学生や教職員のマスターデータ管理では定期的に名寄せを行う作業が発生します。部門横断型の連携が難しいためデータが共用されることは稀で、全体で見ると二重、三重の投資になりかねません。大阪大学でもこれまでは、学部や学科ごとにオンプレミスやクラウドなどさまざまな基盤上でアプリの構築/運用が行われてきました。現在は ID 情報とともに、これらのアプリの集約が進められています。
「OUDX 推進室が用意したシステム基盤に、学内のさまざまな部局で使うアプリ群を移行すれば、各部局はインフラ、開発、メンテナンスなどに費用をかけることなく、アプリの開発費のみに予算を集中できます。一方、扱うデータには個人情報も多く、留学生や海外の研究者も対象になるため、GDPR(EU 一般データ保護規則)などにも準拠する必要があります。欧州地域内にデータ基盤がないと利用できない可能性もあるため、そこも考慮してグローバルに活用できるクラウドサービスを構築しました」(鎗水氏)
OUDX 推進室 准教授の廣森聡仁氏は「OU 人材データプラットフォームを構築する過程で、センシティブなデータを取り扱うことができるよう、セキュアな環境を整備するとともに、大規模言語モデル(LLM)をさまざまな用途に駆使してデータの質向上を図りました」と語ります。
導入効果 | グローバル視点で大学 IT を進化させる共創関係
建物の入退館に使われている顔認証は教職員にも好評で、OUID サービス構想への関心を高める一役を担っています。「システムの全体予算を重複なく活用していければ、必要なところに費用をかけられるようになります。活動としてはまだまだ知られていないため、今後も ID 活用、ひいては人財データプラットフォームの将来性について周知していきたいです」と、大阪大学 情報推進部 情報企画課長の中村太氏は語ります。
大阪大学に出願する高校生から卒業生、地域コミュニティ住民まで網羅する ID 管理により、生涯を通じて学修データや健康情報が一元化できます。これらの多様な情報を学部や学科横断的に利用できれば、新たな研究にもつながっていきます。「大学から高校生、学生、教職員、卒業生にも有益な情報を発信できる可能性を秘めています。さらにデータ収集を継続し、活用を推進していきたいです」と、大阪大学 情報推進部 情報基盤課長 兼 OUDX 推進対策室長の西出一廣氏も語ります。
また教育機関として着目しているのが、システム開発を通じた教育です。「学内のシステム開発に学生も巻き込んで内製化を進め、学生のスキル習得、キャリア形成に役立てることを検討しています。そういうときにスモールスタートで始められ、スケールもできる、すぐ停止もできる、といった柔軟な対応が取れることを求めます」と、大阪大学 OUDX 推進室 特任准教授の釜池聡太氏は語ります。
さらに、国際競争力向上を目指す大阪大学は、最新技術や海外の動向の情報共有を通じた「共創」関係を重視しており、鎗水氏は次のような展望を描いています。「将来的には、本学の仕組みをほかの大学にも使ってもらえる共通プラットフォームを実現し、教育や研究は競争関係にあっても大学同士が連携して日本の国際競争力を高めるプラットフォームに成長させられればと考えています。そのためにも、海外からも新しい知見、情報を収集して最先端のサービスを提供していきたいです。最新の大学 IT 情報を得られるグローバルなネットワーキングに期待しています」
教育研究を通した社会への貢献を使命とし、「地域に生き世界に伸びる」をモットーに、社会とともに歴史を積み重ねてきた大阪大学には、社会と連携して活動する精神が息づいています。学内の ID そしてデータ基盤の統合から始まり、卒業生や地域コミュニティへの長期的な貢献へと広がっていく OU 人財データプラットフォーム構想は、さらなる進化を続けています。
カスタマープロフィール:国立大学法人 大阪大学
1931 年に大阪帝国大学として設立された国立大学。11 学部・15 研究科(うち 1 研究科は他大学との連合)を擁し、約 23,000 人の学生が在籍している。「いのちとくらしを守る強靭で持続可能な未来社会を切り拓く」を掲げ、大阪府内の吹田、豊中、箕面の 3 つの主要キャンパスで、研究、教育、共創に取り組む。国際化にも力を入れており、留学生は全体の約 11% を占めている。これまでにも多くの社会変革をリードする人材を輩出している。
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鎗水 徹 氏
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喜多 真一 氏
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廣森 聡仁 氏
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中村 太 氏
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釜池 聡太 氏
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西出 一廣 氏
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