さらにメリットが大きいのが、調達にかかる手間と時間です。オンプレミス環境では 2、3 カ月かかるところ、AWS であれば数時間ですみます。これは圧倒的なスピードの差です。
山九株式会社は、大正 7 年に創業し、2018 年には 100 周年を迎えるグローバル企業です。物流、機工、構内操業支援を融合させた独自の事業展開を行っており、プラント・エンジニアリング、ロジスティクス、オペレーション・サポートを有機的に結びつけ、顧客をトータルにサポートしています。
プラント・エンジニアリングでは、『物流と機工が一体となったトータルサポート』を最大限に発揮させるために『EPTC = 一貫責任施工体制』を確立しています。それを活用し顧客の管理コスト、施工コストの削減や、施工品質の向上、メンテナンス業務の効率化、継続的な改善などのメリットを享受しています。また、ロジスティクスのビジネスでは、グローバルネットワークで世界を結んでおり、顧客ニーズに合わせタイムリーで信頼性が高く、安全性の高いサービスを展開しています。オペレーション・サポートの事業では、長年に亘り培った技術、ノウハウを駆使し、顧客の生産ラインの確実な支援を行っています。
「物流には IT が不可欠で、事業に直結しています。業務生産の向上や安全性の確保など、IT への期待は大きなものがあります。」と言うのは、技術・開発本部 IT 企画部 情報インフラグループ グループマネージャーの石澤 剛 氏です。
ものを移動させるためには、運ぶものは何か、時間、場所、運送に関わる人など、IT を使って管理すべきさまざまな情報があります。さらに国をまたがってグローバルで展開することになれば、さらに多くの情報を正確に扱わなければならなりません。「今や IT システムがなければ物流は成り立たないとも言えます。」(石澤氏)
山九がビジネスを推進するためにグローバルで利用される IT システムは、当初 3 カ所のデータセンターに分散配置されていました。これを効率化するために 1 カ所のデータセンターに集約しましたが、その後東日本大震災が発生したこともあり、1 カ所のデータセンターで運用される IT システムの災害対策が新たな課題となりました。
山九では、東日本大震災が発生する以前から将来的な構想にクラウドの活用はありました。その構想が、震災をきっかけに大きく動き出します。「災害対策、BCP(事業継続計画)用に第 2 データセンターを構築する案もありましたが、我々はIT が主軸の会社ではありません。なるべくコストをかけずにできないかを考えた結果、バックアップ用第 2 データセンターの構築ではなく、クラウドを活用する方法を選択することとなりました。」(石澤氏)
その後いくつかのクラウドサービスを比較し、選択したのが AWS クラウドでした。「AWS を選んだ理由のまず 1 つ目は実績です。大手企業などを含めすでに数多くの事例があり、クラウドと言えば AWS という印象がありました。また、クラウドサービスの中でも圧倒的な規模感があり、コストが安価な点、小さく始めて必要な時だけ大きくできる拡張性の高さについても評価しました。」(石澤氏)
山九では、事業継続性を担保するため、まずはバックアップのシステムをクラウドに置く検討が行われました。バックアップシステムのために AWS の上に IT 基盤を作り、システムを移行する計画が具体化するにつれ「災害対策用のバックアップだけでなく、本番環境にもクラウドをフルに活用した方が IT 部門として会社により貢献できるのでは、と考えました。」(石澤氏)
こうしてバックアップだけでなく、山九はすべての IT システムをクラウドに移行する方針を決めましたが、AWS クラウドへの移行を本格的に進めるにあたり、経営層への説明と承認が必要不可欠でした。その際 IT部門では、AWS が米国政府機関や国内の大手金融機関など、安全性や信頼性に対する基準の厳しい組織がすでに利用しておりセキュリティ面でも信頼できることや、第 2 データセンターを設置した際の費用を試算し、クラウドを活用した方がコスト面でもトータルで安価になることを説明し、経営層からの承認を得ることができました。
また、導入前からの充実したサポート体制も AWS を導入した理由の 1 つとなっています。「AWS のパートナー企業には、クラウド移行の方針を決めた段階からコンサルティングのサービスをお願いしており、クラウド活用の考え方から、クラウドでの基盤構築方針に至るまでついて、具体的なアドバイスを頂きました。その結果から、IT 基盤を全面的に AWS へ移行してもなんら問題ないと判断することができました。」(石澤氏)
山九では 2014 年から 4 年間の時間をかけ、2018 年 3 月までにほぼすべてのシステムの AWS への移行が完了する予定です。今回の移行手順では、既存のデータセンターをさらに堅牢なデータセンターに一旦移行し、その段階でシステムの棚卸しを行っています。そして、棚卸し後の整理されたシステム群を、順次 AWS へ移行しています。
移行後の AWS 環境は、Amazon EC2 が中心となっており、ストレージとして Amazon S3 を、ロードバランサーに Elastic Load Balancing を組み合わせて構築しています。また、安全性確保のためにネットワークでは AWS Direct Connect を利用しており、VPN 経由で自社環境と接続しています。
事前の試算の段階でコスト試算をした結果、AWS のほうが大幅に削減できることが分かりました。第 2 データセンターの設置と AWS への移行のためのコスト比較では 10 分の 1 程度に、移行後のランニングのコストも 5 分の 1 程度に抑えることができています。
さらにメリットが大きいのが、調達にかかる手間と時間です。オンプレミスでシステム環境を用意する場合、システム負荷のピークに耐えうる性能を予測し、それに合わせてキャパシティを試算しなければなりません。その結果から適切なハードウェアを選び発注し、調達してセットアップするとなれば 2、3 カ月を要します。「それが AWS であれば数時間ですみます。サーバー 1 台程度なら、15 分もあればインスタンスが上がってきます。これは圧倒的なスピードの差です。」(石澤氏)
移行を開始当初は AWS の特性を理解していなかったこともあり、システムの一部ではレスポンスの低下もありました。これは、もともとオンプレミス用に構築したシステムをそのまま AWS へ移行したために発生した問題でした。また、他社の UNIX 環境で稼働するシステムを AWS に移行する際、そのシステムの OS 自体が他の環境へ移行できる汎用性を持っていないという問題もありました。この問題については、システムを手作業で作り直し、汎用的な OS 環境で稼働するよう対応が行われました。山九ではここにもっとも作業コストがかかりましたが、「ここで手間をかけておけば、今後長く使えるシステムになると判断しました。これら一連の移行過程を経験したことで、AWS でどのようにシステムを構築すればいいかのノウハウが蓄積されました。」(石澤氏)
AWS の特性に合わせた移行を行った結果、問題は解決することができました。こういったことを経験したことで、むしろ移行時にシステムの既存のバグが発覚しても即座に修正できたり、チューニングを施し高速化が可能となるような新たなメリットも出ています。今ではクラウドの活用には、AWS の特性を理解することも重要だと感じている、と言います。
山九では、移行の計画から実際の移行作業、さらには移行後の AWS の運用に至る一連の作業は、山九グループの IT 企業である株式会社インフォセンスへ依頼しています。インフォセンス社では、AWS インフラの構築からアプリケーションのポーティングまですべての面でサポートを行っています。今回の移行プロジェクトではインフォセンス社にも AWS の構築、運用のノウハウが蓄積されており、AWS を活用できることが今後のインフォセンスのビジネスにおいても新たな優位性となっていいます。
山九では、現在ライセンスの関係で自社環境に置かなければならないシステムが一部あるものの、これらのシステムについても更新のタイミング等時期を見ながら、今後も継続的に AWS への移行を行う予定となっています。現在ポーティング等には、ある程度の費用がかかっていますが、2018 年に一旦移行作業が終了すると、2019 年度にはコストが下がりメリットが見えてくる見込みです。「本来の目的はクラウド化による災害対策や BCP なので、それに加えコスト削減やクラウド本来の柔軟性のメリットが段階的に享受できることに期待しています。」(石澤氏)
また、Amazon RDS や Amazon Redshift、Amazon QuickSight 等を活用したAWS 上でのデータ分析基盤の構築を検討しています。さらに、現在は商用データベースの利用がほとんどであるものの、将来的に Amazon RDS などを活用し、オープンソース・ソフトウェアの利用にも積極的に取り組んでいく予定です。「クラウドの活用でハードウェアコストが下がるので、次のステップではソフトウェアのライセンス、保守費の削減に取り組み、脱商用ミドルウェアを実現していきたいと考えています。」(石澤氏)
AWS クラウドがエンタープライズ企業でどのように役立つかに関する詳細は、AWS によるエンタープライズクラウドコンピューティングの詳細ページをご参照ください。