今後も市民とともに、さまざまなイノベーションを推進していきます。」
科学技術の研究施設が数多く置かれる茨城県つくば市では、全国の企業や研究機関、教育機関などの Society 5.0 推進にかかわる社会実装に向けた実証実験を支援しています。そこで新技術を活用した企画提案を選ぶコンテストの最終審査の一部に『ネット投票』を導入。ブロックチェーンを活用したセキュリティに加え、クラウドによる短期構築、システムリソースの増大に対しての柔軟な拡張性は、これからの投票システムの新たな可能性を広げるものです。
茨城県の南西部に位置し、筑波山をはじめとする豊かな自然に恵まれるつくば市。特に、国や民間企業が運営する約 150 もの研究機関が市域に林立する、筑波研究学園都市として広く知られています。近年は、国連が採択した SDGs(持続可能な開発目標)、あるいはそれと連動するかたちで内閣府が提唱する、テクノロジーが社会課題を解決していく将来像 『Society 5.0』 に沿った取り組みにも注力。2018 年 2 月に 『持続可能都市ヴィジョン』 を公表する一方、同年 3 月には市議会において 『つくば市政に SDGs の理念を反映するための取組を求める決議』 が可決されるなど、市民、議会、行政が一丸となって各方面での施策を展開しています。
「つくば市では、SDGs や Society 5.0 のコンセプトを支える先端技術の研究開発を支援し、当市をフィールドとしたそれら技術にかかわる実証実験なども積極的に受け入れながら、その成果をもって地域や国、さらには世界の社会課題解決に貢献していくことを重要なミッションと位置づけています。」と語るのは、つくば市 政策イノベーション部 科学技術振興課 課長の岡野渡氏です。
つくば市では、2017 年度から毎年『つくば Society 5.0 社会実装トライアル支援事業』を実施しています。これは、全国の企業や研究機関、教育機関などの Society 5.0 推進にかかわる新技術をコンテスト形式で審査して、そこで選ばれた技術の社会実装に向けた実証実験を、つくば市をフィールドとして展開、支援するものです。
2 度目となる 2018 年度の同事業の実施に際して、ネット投票のためのプラットフォームの構築で知られる企業で、前年度からコンテストにかかわっていた株式会社 VOTE FOR(以下 VOTE FOR)から、専門の審査員の審査に加えて『ブロックチェーンを使ったインターネット投票』による審査を実証実験として取り入れてはどうかと提案がありました。仕組みとしては、市民が投票を行う際、マイナンバーカードの読み取りによって個人認証を行います。一方、仮想通貨と称される暗号資産の基盤技術として知られるブロックチェーンを活用して投票データの改ざんや消失を防止するなど、完全性を保持して安全な管理を実現しようというものでした。
「当市としても、イノベーティブな技術にかかわるコンテストには、選考過程にもイノベーティブな仕組みを取り入れていくべきではないかと考えました。また、つくば市が“科学のまち”という認識はあっても、市民が科学技術の恩恵を直接感じる場面は少ないというアンケート結果もあります。そこで、技術イノベーションに市民が積極的にかかわる良い機会になるという観点からも、ネット投票に踏み切りました。」と岡野氏は振り返ります。
VOTE FOR は、つくば市のネット投票を支えるシステムインフラの検討を進め、AWS を採用しました。
「ネット投票は、あらゆる人がいつでも、どこからでも投票できるようにするため、もともとクラウド前提で考えていました。インフラ要件としてはブロックチェーンに対応できる高スペックに加え、当初は投票数の想定が難しく、ネットワーク、ストレージの消費量が予想できなかったので、ミニマムから大規模まで柔軟かつ迅速にシステムリソースを拡張していけることが重要でした。」と VOTE FOR 代表取締役社長の市ノ澤充氏は説明します。
つくば市が、ネット投票の仕組みの採用を正式決定したのは 2018 年 5月。投票が行われるのは同年 8 月末で、VOTE FOR は約 3 か月でシステムの構築を完了させる必要があり、AWS であれば短期構築にも応え得る選択肢でした。また、VOTE FOR のグループ会社パイプドビッツで民間事業者向けのネット投票の仕組みを AWS をベースに構築した経験があり、ノウハウやドキュメントの蓄積があったことも選定を後押ししました。
VOTE FOR によるシステム構築は 2018 年 7 月中に完了し、8 月初頭にテスト運用を実施。つくば市は、同月末に本番のネット投票を円滑に実施できました。その背景には、市長をはじめ、市の上層部から現場職員までが今回のようなイノベーティブな取り組みを率先してやっていこうという明確な目的意識を持ち、『アジャイル型行政』を掲げて円滑でスピーディな意志決定を行ったことが大きかったといいます。
実際に行われたネット投票では、投票を行う市民が市庁舎内に置かれた専用端末からコンテストのサイトにアクセスするとログイン画面が表示されます。そこでカードリーダー経由でマイナンバーカードによる個人認証を行うと、『つくば Society 5.0 社会実装トライアル支援事業』にエントリーしている企業や研究機関、教育機関などの企画提案のうち、一次審査を通過した候補が一覧表示され、そこから候補を選択するというかたちです。
この先進的な取り組みは、各種選挙なども含め、公的機関が市民の意見を収集する手段としてネット投票の可能性に大きな期待が寄せられていることもあり、各方面から注目を浴びました。テレビや新聞、IT 専門誌や Web など数多くのメディアによって取り上げられたほか、国会議員や地方議員も視察に来訪。海外の自治体などからの問い合わせもあったといいます。
インターネットを使った投票システムが普及すれば、投票用紙やポスターなどの紙資源、掲示板といった木材の大量消費を抑制することになり、SDGs にもつながります。また、場所を問わず参加できるため、住民票を居住地に移していない学生や国外に居住する日本人も投票できるようになります。ゆくゆくは『宇宙からでも投票できる仕組み』を目指している点に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の事業所も立地するつくば市ならではの意気込みが感じられます。
SDGs、Society 5.0 の要請に応えるための先端技術の活用に向けたつくば市の取り組みは、継続的かつ広範囲に推進されていきます。そのため VOTE FOR だけでなく、さまざまなベンダーや研究機関などの参画を得ながら、コンソーシアム型によるオープンイノベーションの取り組みを進めていくことも検討しています。そうした観点からも、さまざまな技術をインフラ上で容易に統合できる AWS の基盤は今後大きく貢献していくはずです。
「『世界中に共通する課題解決のヒントを、つくばで生み、それを発信していきたい』という市長の思いを共有し、常に国や自治体のモデルケースとなり得る取り組みを進めていきます」と岡野氏は語っています。