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【寄稿】両備システムズが挑む、地方自治体ガバメントクラウドのコスト最適化 ~共同利用(ネットワーク分離方式)で長期継続割引を使いこなし、クラウド利用料を削減~
本稿は、株式会社両備システムズ ガバメントクラウド推進室 岩倉 竜太 氏による寄稿です。
※本記事でご紹介する効果は、両備システムズの環境における実績であり、すべてのお客様で同等の効果を保証するものではありません。
はじめに
みなさん、こんにちは。株式会社両備システムズでガバメントクラウドの構築・運用を担当している岩倉と申します。私たちは、岡山県を基盤に全国の地方自治体の情報システムを支援しており、現在はデジタル庁が提供するガバメントクラウド上で、複数の地方公共団体の業務システムを運用しています。
図表1:株式会社両備システムズ事業紹介
当社は、行政、医療、ヘルスケアなど、地域社会を支える幅広い分野でシステムを提供しています。 私たちがご支援している地方自治体のシステムは、ガバメントクラウドの「共同利用方式」のうち「ネットワーク分離方式」を採用しています。これは、1つのAWSアカウント(LinkedID)を複数の団体で共同利用し、団体ごとにVPC(Virtual Private Cloud)を分離して構成する方式です(図表2)。各団体のリソースはコスト配分タグ(以下、タグ)で識別し、利用状況に応じて費用を按分しています。現在、複数の地方公共団体のシステムを本方式で運用しています。
図表2:ガバメントクラウド共同利用(ネットワーク分離方式)のアーキテクチャ
※本図は考え方を示す概念図であり、実際のシステム構成を示すものではありません。
ガバメントクラウドへの移行が進むにつれ、多くの自治体にとってクラウド利用料の最適化が共通の課題となっています。中でも Amazon EC2 や Amazon RDS といったコンピューティング・データベースの利用割合は大きく、ここに「長期継続割引」(Savings Plans および Reserved Instance)を適切に適用できるかどうかが、コスト最適化の成否を大きく左右します。 一方で、「ネットワーク分離方式では長期継続割引を適用できないのではないか」という声を耳にすることがあります。単独利用方式やアカウント分離方式にはない課題があるなど、適用にあたり検討する要素が多いことは事実です。しかし、AWSの仕様を正しく理解し、利用状況や将来計画を踏まえて長期継続割引を適切に活用することで、ネットワーク分離方式においてもクラウド利用料の削減が期待できます。本記事では、私たちがどのようにこの課題と向き合い、実践してきたのかをご紹介します。
コスト最適化の取組みの経緯
私たちがコスト最適化に本格的に取り組み始めたのは、ガバメントクラウドでの運用を開始し、システム運用が安定した時期からです。移行の初期は、まず安定稼働を最優先に環境を構築し、運用が軌道に乗った段階で、クラウド利用料の最適化の取組みを本格化しました。具体的には、2025年度を検討・準備の期間と位置づけ、2026年度は4月1日から長期継続割引を適用できるよう準備を進めてきました。
自治体情報システムの標準化においては、移行後の運用経費を含めたコストの適正化が重要なテーマとなっています。当社においても、この趣旨を踏まえ、クラウド利用料の継続的な最適化に取り組みました。当社が運用する環境には、原則として24時間365日のサービス提供を前提とする業務システムがあるため、稼働時間の調整だけでなく、長期継続割引の活用も必要と考えました。コスト最適化に向け、Cost Explorerを中心としたコストの可視化・分析、インスタンス等のAWS環境の見直し、そして本記事の主題である長期継続割引の適用に、段階的に取り組んできました。2026年度からは、AWS Cost and Usage Report(CUR)等の利用データを基に、各団体の利用状況を確認しています。また、割引適用後の費用については、契約条件および当社が定める算定方法に基づき、各団体への説明可能性を確保しながら取り扱っています。AWSの各種分析・推奨情報も参考にしながら、アプリケーションの性能要件や運用条件、検証結果を総合的に確認し、最適化方針を判断しています。
長期継続割引適用に向けた課題と解決方策
ネットワーク分離方式ならではの課題
長期継続割引(Savings Plans / Reserved Instance)は、1年または3年の期間にわたり、一定の時間当たり利用額または対象リソースの利用をコミットすることで、オンデマンド料金より低い料金が適用される料金モデルです。ガバメントクラウドでは、デジタル庁のガイドラインに基づき、Amazon EC2についてはCompute Savings Plansを、Amazon RDSについてはReserved InstanceまたはDatabase Savings Plansを、いずれも前払いなし(No Upfront)で利用できます。(購入可能なプランや期間などの詳細は、デジタル庁のGCASガイドに掲載されています。参考として本記事にも一覧を掲載します。)
(出典)内閣官房「国・地方デジタル共通基盤推進連絡協議会ワーキングチーム(第10回)」
図表3:ガバメントクラウドにおける長期継続割引の適用方針
ネットワーク分離方式には、単独利用方式やアカウント分離方式とは決定的に異なる難しさがあります。それは、長期継続割引が「アカウント単位」で適用されるという AWS の仕様です。
具体的には、次のとおりです。
・ 長期継続割引は、AWS 側のロジックに基づき、購入条件に合致する利用へ自動的に適用されます。タグを付けて購入した場合でも、タグ単位で割引の適用先を指定することはできません。
・ Savings Plans の使用率(Utilization)レポートやカバレッジ(Coverage)レポートも、アカウントやリージョン、インスタンスファミリー単位での表示となり、タグ単位(=団体単位)での内訳は確認できません。
・ 単独利用方式やアカウント分離方式では、AWSアカウント が団体ごとに分かれているため、割引はその団体のアカウントに正確に反映されます。
しかしネットワーク分離方式では、1つの AWSアカウント を複数団体で共有しているため、「この団体に、この割引を」とタグ単位で割り当てることが仕組み上できないのです。 私たちはこの点を正しく理解したうえで、「だから適用できない」と諦めるのではなく、「どうすれば使いこなせるか」という視点で戦略を組み立てました。
長期継続割引適用に向けた戦略と実行
私たちは、長期継続割引の購入を次の検討ステップに沿って進めています。各ステップで、ネットワーク分離方式ならではの難所をどう乗り越えたかをご紹介します。長期継続割引の適用方針は、まず当社で取りまとめたうえで各自治体に説明し、合意を得たうえで進めています。
STEP0:コミット前の最適化
長期継続割引の購入前に、まず不要なリソースの削除やインスタンス構成の見直しなどを実施し、環境の最適化を十分に行います。最適化しないままコミットすると、過大な利用量を前提とした契約となり、無駄なコストを長期間固定化してしまうためです。
また、RDSについては、現行構成をそのまま長期継続割引の対象とするのではなく、費用対効果、性能要件、動作条件および今後の構成変更の可能性を確認しました。そのうえで、本番稼働前の環境については、検証結果を踏まえて第7世代のDBインスタンスファミリーへ変更しています。 このように、長期継続割引の購入を検討する前に、継続利用するリソースと今後変更する可能性があるリソースを整理しました。これにより、最適化後も安定的に利用することが見込まれる範囲を見極め、必要以上のコミットを行わないようにしています。
STEP1:購入量(ベースライン)の決定
次に、どれだけの利用量をコミットするかを決めます。私たちは、Cost Explorerのデータをもとに、毎時の最小利用量であるベースラインを見極め、コミット額を算定しています。具体的には、1時間当たりの利用実績を把握したうえで、ガバメントクラウドの料金体系やGCASガイド等を参照し、購入量を検討しました。 Compute Savings Plansについては、稼働中のインスタンスをタイプ別に把握し、24時間連続して稼働する利用量を基準として、Savings Plans適用後の時間単価を積み上げています。ただし、現在の利用量のすべてを対象とするのではなく、構成変更や利用量の変動があった場合にも継続して利用することが見込まれる範囲をベースラインとしています。 RDSについては、Reserved DB Instanceの購入条件と、共同利用アカウント全体における継続的な利用量を確認しました。本番環境については、DBエンジン、DBインスタンスクラス、リージョン、配置方式および数量等を確認し、第6世代のDBインスタンスファミリーを使用し、継続的に稼働する本番環境の利用量を基に、条件に合致するReserved DB Instanceを購入しています。 Reserved DB Instanceの割引は、特定の団体や特定のDBインスタンスを指定して適用するものではなく、共同利用アカウント内で購入条件に合致する利用へ自動的に適用されます。このため、個別の団体やリソースを基準とするのではなく、共同利用アカウント全体で継続的に利用することが見込まれる本番利用量を基に購入量を決定しました。 なお、本番稼働前の環境は、STEP0で記載した構成の最適化を行うとともに、今後も構成を変更する可能性があります。変更後を含めた継続的な利用量を現時点で確定することが難しいため、RDSに対するDatabase Savings Plansは2026年度の購入対象としていません。
STEP2:長期継続割引の購入オプションの選択
デジタル庁のGCASガイドに従い、Amazon EC2 については Compute Savings Plans を利用します。Compute Savings Plans はインスタンスファミリーやリージョン、OS、対象サービスを跨いで柔軟に適用されるため、将来のモダン化にも対応しやすいという利点があります。RDS についてはReserved Instanceを選択しています。期間は1年を基本とし、前払いなし(No Upfront)で購入しています。期間を1年としているのは、デジタル庁のGCASガイドに沿った判断です。多くの環境では3年先までの運用状況を見通すことが難しいため、まずは1年での購入を基本としています。
STEP3:年に一度の購入オペレーション
ガバメントクラウドでは、長期継続割引の利用期間がガバメントクラウド利用権付与兼債務引受契約の期間を超えないようにする必要があります。当社の2026年度の購入においては、GCASで示された購入条件およびAWS上の基準時刻を確認し、4月1日午前9時から9時59分までの日本時間内に購入処理を完了する手順としました。Compute Savings Plansは、将来の開始日時を指定した予約購入(キューイング)が可能であるため、事前に予約内容を登録し、開始日時に購入が処理されるようにしています。一方、Amazon RDSのReserved DB Instanceは予約購入に対応していないため、上記の時間帯に担当者がAWSマネジメントコンソールから購入します。限られた時間内で誤りなく購入できるよう、購入内容の事前確認と当日の実施手順をあらかじめ整理しています。
STEP4:購入後のモニタリングと是正
購入後は、使用率(コミットをどれだけ使い切れているか)とカバレッジ(割引対象の利用のうちどれだけを割引でカバーできているか)を継続的に監視します。先に述べたとおり、これらのレポートはアカウント単位で確認するため、長期継続割引が全体として方針どおりの成果を上げているかをチェックしています。また、AWS Cost and Usage Report(CUR)等を用いて各団体の利用状況を確認し、契約条件および当社が定める算定方法に基づいて、割引適用後の費用を取り扱っています。これにより、各団体への説明可能性と透明性の確保に努めています。
取組みの効果
これらの取組みの結果、私たちは長期継続割引をネットワーク分離方式のもとでも有効に活用し、クラウド利用料の削減を実現しています。これらの取組みにより、対象となるAWS利用料について、長期継続割引適用前の料金との比較で最大20%の削減効果を確認しています。なお、削減効果は利用サービス、稼働状況、構成および為替等の条件により異なります。
また、各団体の利用状況と費用の関係を説明できるようにすることで、コストの透明性向上に取り組んでいます。
持続可能なFinOpsの推進に向けて
ガバメントクラウドにおけるコスト最適化は、一度行えば終わりというものではありません。団体の増減、業務システムの更改、AWS の新しいサービスやインスタンスの登場に合わせて、継続的に見直しを続けることが欠かせません。私たちはこれを、FinOps(財務とクラウド運用を密に連携させ、継続的にコストを最適化する取組み)の実践と捉えています。
私たちが最もお伝えしたいのは、ネットワーク分離方式であっても、AWS の仕様を正しく理解すれば長期継続割引は十分に使いこなせる、ということです。「適用できない」という誤解から最適化を諦めてしまうのは、自治体にとっても事業者にとっても大きな機会損失です。 そして、持続可能なコスト最適化を実現するには、自治体と運用管理補助者である事業者が、それぞれの役割を共有し、コスト、安定運用、継続的な改善のバランスを取ることが重要です。こうした協力関係を通じて、説明可能性の高い、持続可能なガバメントクラウド運用を目指します。 本記事が、同じようにガバメントクラウドの共同利用方式でコスト最適化に取り組む事業者や自治体の皆さまにとって、最初の一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
著者について
岩倉 竜太(株式会社両備システムズ ガバメントクラウド推進室 次長)
2000年入社。自治体向け健康管理システム「健康かるて」シリーズの導入・保守エンジニアとして、特別区、中核市、市町村を担当。ガバメントクラウド先行事業への参画を経て、ガバメントクラウド推進室の立ち上げからAWSを活用したガバメントクラウド環境の構築・運用を担当。現在は自治体のガバメントクラウド移行や運用最適化の推進に取り組んでいる。


