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Amazon Connect Customer による音声・ビデオ・チャットを統合したコミュニケーションの構築
1. はじめに
Amazon Connect Customer は音声/ビデオとチャットを個別のチャネルとしてサポートしており、それぞれ独自の API を備えています。ネイティブウィジェットやカスタムウィジェットを使う場合、各チャネルは独立して動作します。一般的なコンタクトセンターのシナリオではこれで十分です。
しかし、顧客とエージェントのやり取りが通話だけでは済まない場合はどうでしょうか?
たとえば、顧客がローン申請の最終手続きのために電話をかけてきたとします。エージェントは事前承認を確認しますが、顧客は書類を確認して署名する必要がありますが、郵送された書類はまだ届いていない状況です。エージェントは顧客に電話を切って郵便を待つよう伝えるか、別でチャットを開始するしかありません。複数のやり取り、異なるエージェント、場合によっては数日の遅延が発生します。
もし通話中にエージェントが書類を送信できたらどうでしょうか? 顧客はその場で署名して返送できます。同じエージェント、同じやり取りで済ませられ、数日ではなく数分で完了することができるでしょう。
本記事ではこのような課題を扱います。音声/ビデオとチャットを統合し、シームレスな顧客体験を実現するソリューションを紹介します。
1.1. Amazon Connect Customer で実現できる理由
根本的な課題はシンプルです。ライブ通話中に顧客がエージェントとテキストメッセージやファイルをやり取りするにはどうすればよいか、ということです。
Amazon Connect Customer は必要な API とツールを提供しています。StartWebRTCContact API で音声・ビデオ通話を開始し、DescribeContact API でエージェントが応答した後のエージェント ID を取得できます。コンタクトフローは特定のエージェントにルーティングするための属性をサポートしており、チャットウィジェットは初期化時にコンタクト属性を受け取れるため、チャット開始時にアプリケーションからエージェント ID を渡せます。
これらの機能はいずれも新しいものではありません。新しいのは、それらを組み合わせる方法です。カスタム UI がアクティブな通話からエージェント ID を抽出し、チャットのルーティングロジックに渡します。チャット中も顧客は同じエージェントに接続されたままで、切断や別のキューでの待機は不要です。
1.2. ビジネス価値
1 回の顧客・エージェント間のやり取りでチャネルを統合することで、具体的な効果が得られます。
顧客にとって: コールバックや転送、別のキューでの待機が不要になります。先ほどのローンの顧客は、数日ではなく数分で申請を完了できます。
運用面: エージェントが顧客対応をエンドツーエンドで完結できます。重複作業、引き継ぎの手間、フォローアップタスクによるエージェントの負荷がなくなります。
コンプライアンス面: すべての音声・チャットのやり取りが 1 人のエージェント、1 人の顧客、1 つのケースに紐づきます。規制の厳しい業界では、チャネルをまたいだコンタクトレコードの紐づけにより監査が容易になります。
2. ソリューションのアーキテクチャ
このソリューションは、カスタムフロントエンドを 3 つのレイヤー (ホスティングと配信、認証と認可、リアルタイム通信) で AWS サービスに接続します。
2.1. 概要
以下の手順は、図の番号付きラベルに対応しています。
ステップ 1 — 認証。顧客がユーザーインターフェースにログインします。フロントエンドが認証情報を Amazon Cognito ユーザープールに送信し、検証後に ID トークンが返されます。
ステップ 2 — 認可。フロントエンドが ID トークンを Amazon Cognito アイデンティティプールに渡し、AWS STS の AssumeRoleWithWebIdentity を呼び出します。IAM ロールが Amazon Connect に対する最小権限を付与し、一時的な認証情報がフロントエンドに返されます。これは重要な設計上のポイントです。フロントエンドは長期間有効なシークレットを保持せず、すべての認証情報はスコープが限定され、短期間で失効します。
ステップ 3 — 音声・ビデオ通話。顧客が通話を開始します。フロントエンドは一時的な認証情報を使って StartWebRTCContact API を呼び出し、WebRTCQueueRouting コンタクトフローをトリガーします。このフローが対応可能なエージェントに通話を割り当て、Amazon Chime SDK のミーティング設定を返します。フロントエンドは Chime SDK セッションを初期化し、リアルタイムの音声・ビデオストリームを管理します。同時に、フロントエンドは DescribeContact API を呼び出してアクティブなコンタクトからエージェント ID を取得し、ローカルに保存します。
ステップ 4 — 同じエージェントとのチャット。顧客がチャットを開くと、フロントエンドは保存済みのエージェント ID を Amazon Connect Customer チャットウィジェットに渡します。チャットウィジェットは Amazon Connect Customer のホストエンドポイントから読み込まれます。チャットコンタクトが ChatAgentRouting コンタクトフローをトリガーし、エージェント ID を使って通話中の同じエージェントに直接ルーティングします。このステップで、音声/ビデオとチャットが 1 人のエージェントに集約されます。やり取りが終了すると、フロントエンドは StopContact と DisconnectParticipant API を呼び出してセッションを適切に終了します。
2.2. フロントエンドコンポーネント
ユーザーインターフェースは 5 つのコンポーネントで構成され、それぞれ異なる役割を担います。

Authentication State Manager は、Cognito ユーザープールのフローを通じてログインを処理し、ID トークンを生成します。
Credential Manager は、そのトークンを Amazon Connect Customer API にスコープされた一時的な AWS 認証情報と交換します。
Session Manager は通話のセッション全体を管理します。暗号化されたセッションコンテキストをローカルストレージに保存し、通話の開始を制御し、チャットウィジェットのルーティング先となるエージェント ID を取得します。
WebRTC Manager はリアルタイムメディアを管理します。StartWebRTCContact の呼び出し、Chime SDK セッションの初期化、音声/ビデオストリームの管理を行います。
Chat Widget は Amazon Connect Customer のホストエンドポイントから読み込まれます。Session Manager からエージェント ID を受け取り、チャットを同じエージェントにルーティングします。コンタクトの作成、WebSocket 接続、メッセージング、ファイル添付など、チャットのライフサイクル全体を処理します。
2.3. バックエンドサービス
バックエンドは 3 つのレイヤーの AWS サービスで構成されています。

ホスティングと配信: Amazon CloudFront がセキュリティヘッダーとキャッシュを使って UI をグローバルに配信します。Amazon S3 に静的アセットを保存します。
認証と認可: Amazon Cognito ユーザープール、Amazon Cognito アイデンティティプール、AWS STS、IAM が連携します。フロントエンドには必要最小限の権限のみが付与されます。
コミュニケーション: リアルタイムのやり取りが行われるレイヤーです。StartWebRTCContact API が WebRTCQueueRouting フローをトリガーしてエージェントを割り当てます。API は Amazon Chime SDK の設定を返し、フロントエンドがリアルタイムの音声・ビデオを確立します。DescribeContact API でエージェント ID を取得し、ChatAgentRouting フローがチャットを同じエージェントにルーティングします。StopContact と DisconnectParticipant API でセッションをクリーンアップします。
3. 前提条件
デプロイには、以下の準備が必要です。
- AWS アカウント
- ファイル添付が有効化された Amazon Connect Customer インスタンス
- AWS CDK v2 のインストールと設定
- Node.js v20.x 以降
- 適切な権限で設定された AWS CLI
4. ソリューションのデプロイとクリーンアップ
ソリューション全体は AWS CDK アプリケーションとして GitHub リポジトリにパッケージ化されています。このスタックは CloudFront、S3、Cognito、IAM ロール、Amazon Connect Customer コンタクトフローなど、すべてをプロビジョニングします。
README にリポジトリのクローン、依存関係のインストール、Connect インスタンスの設定、スタックのデプロイ、テストユーザーの作成、統合体験の検証まで、各手順が記載されています。
以下のステップバイステップのデプロイ手順に沿って進めてください。テストが完了したら、不要な課金を避けるためにすべてのリソースを削除してください。
5. まとめと次のステップ
本記事では、1 回の顧客・エージェント間のやり取りで、Amazon Connect の 1 人のエージェントを通じて音声/ビデオとチャットを統合する方法を紹介しました。この方法は StartWebRTCContact と DescribeContact API、コンタクトフローのルーティング、Amazon Chime SDK、標準のチャットウィジェット、Amazon Cognito と AWS STS による短期間有効な AWS 認証情報など、既存の機能を組み合わせたソリューションです。
これは 1 つのアプローチにすぎません。完全な柔軟性を求める場合は、音声/ビデオとチャットのカスタムウィジェットをゼロから構築することもできます。Amazon Connect API (StartChatContact でチャットを開始、CreateParticipantConnection で WebSocket 接続を確立、SendMessage でメッセージング、StartAttachmentUpload と CompleteAttachmentUpload でファイル共有) を使えば、すべてのインタラクションをきめ細かく制御できますが、実装の複雑さが増します。可能な限り Amazon Connect Customer の組み込み機能を活用し、必要な部分だけカスタマイズすることをお勧めします。
まず、書類への署名、ビジュアルトラブルシューティング、フォーム送信など、顧客がタスクを完了するために複数のタッチポイントを必要とするケースを特定しましょう。GitHub リポジトリからソリューションをデプロイし、実際に動作を確認してみてください。その後、1 つのチームと 1 つのユースケースでパイロットを実施し、導入前後の対応時間、初回解決率、顧客の手間の変化を測定しましょう。そのデータをもとに、ソリューションが自社のカスタマーサービス運用に適しているかを評価しましょう。
6. 関連資料
- ソリューションの GitHub リポジトリ
- Amazon Connect Customer 管理者ガイド: アプリ内、ウェブ、ビデオ通話、画面共有機能のセットアップ
- Amazon Connect Customer StartWebRTCContact API
- Amazon Connect Customer DescribeContact API
- Amazon Chime SDK for JavaScript
- Amazon Cognito デベロッパーガイド
- Amazon Connect Customer 管理者ガイド: ウェブサイトにチャットユーザーインターフェースを追加する
著者について
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Ying Qian は、コンタクトセンター技術分野で 19 年以上の経験を持ち、ソリューションアーキテクト、テクニカルプロジェクトマネージャー、ICT リードエンジニア、オペレーションエンジニアなどの経験があります。AWS ではサービス担当ソリューションアーキテクトとして Amazon Connect Telephony & Resiliency SME チームをリードし、AWS Well-Architected Framework の原則に沿った Amazon Connect
の導入を支援しています。仕事以外ではジョギング、家族とのアルプスハイキング、ボーデン湖での水泳を楽しんでいます。 |
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Nelson Martinez はシドニーを拠点とする Applied AI シニアソリューションアーキテクトです。コンタクトセンター、ユニファイドコミュニケーション、IP テレフォニー、ネットワーキングの分野でオーストラリアと米国にまたがり 31 年以上の経験を持ちます。AWS で 5 年以上にわたり、クラウドコンタクトセンターと Applied AI ソリューションを専門とし、グローバル規模で業界をリードする実装を直接お客様と進めています。 |
翻訳はテクニカルアカウントマネージャーの高橋が担当しました。原文はこちらです。


