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Amazon Connect でさらにサステナブルなコンタクトセンターを実現
今日の世界では、サステナビリティ ( 持続可能性 ) があらゆる業界の企業の大きな関心事となっています。気候変動や天然資源の減少という課題に直面する中、組織にとって、環境への影響を減らすために積極的な措置を講じることは不可欠です。
廃棄物を削減し、環境負荷を最小限に抑え、再生可能エネルギーへシフトすることで、私たちはサステナビリティを促進できます。これは、すべての人々と企業に関わる目標であり、より持続可能な未来を実現するための集団的行動の必要性を強調しています。
環境・社会・ガバナンス(ESG)投資は、より多くの投資家が財務リターンだけでなく、社会にポジティブな成果をもたらすことを求めるようになるにつれて勢いを増しています。この傾向は、より持続可能で責任ある事業慣行が企業の全体的なパフォーマンスとリスクプロファイルに関連しているという信念の高まりを反映しています。
特にコンタクトセンターは、データベースやコンタクトセンターソフトウェアをホストする専用のサーバー、コンタクトセンターの電話システム、エージェントのワークステーション、エージェントが所在する建物に電力を供給するためのエネルギー消費によって、カーボンフットプリントが大きくなります。したがって、コンタクトセンターソリューションを選択する際、 ESG 基準やより持続可能で責任ある事業を実施すれば、長期的な利益を得たり、企業の評判を向上させることができます。
このブログでは、AWS が提供するフルマネージドでクラウドベースのコンタクトセンターサービスである Amazon Connect を使用してコンタクトセンター運用を構築するためのサステナビリティのベストプラクティスについて説明します。クラウドを活用し、リソース利用を最適化し、AWS のサステナビリティへの取り組みに沿うことで、組織がコンタクトセンター運用の環境への影響をどのように削減できるか説明します。
一般的なコンタクトセンター
論文 Markov Models and Their Use for Calculations of Important Traffic Parameters of Contact Center (Erik Chromy, Jan Diezka, Matej Kavacky) で示されている通り、従来のコンタクトセンターアーキテクチャは、通常、コンタクトセンター電話システム ( 構内交換機 (PBX) と自動着信呼分配 (ACD)) と、コンピュータ電話統合 (CTI) 、音声自動応答 (IVR) 、コールマネジメントシステム (CMS) 、音声録音 (VR) 、キャンペーンマネージャー (CM) などのコンタクトセンターシステムで構成され、これらはすべてデータセンターで稼働しています。さらに、ワークステーションと電話回線を備えたエージェントとスーパーバイザーの職場があります。
コンタクトセンターのデータベースやシステムをホストするデータセンターは、専用サーバーの電力供給、冷却、インフラストラクチャ、およびデータセンター運用に関連するその他の活動のためのエネルギー消費により炭素を排出します。電話の発信や受信のための PBX や IP-PBX システムを含むコンタクトセンターの電話システムも、そのエネルギー消費により炭素を排出します。アナログ PBX システムは、物理的なハードウェアと銅線配線の必要性により、通常より多くのエネルギーを使用し、セットアップの規模と複雑さに応じて 100W から 500W のエネルギー使用量となります。デジタルおよび IP-PBX システムはより省エネルギーで、エネルギー使用量は 50W から 200W の範囲です。
さらに、コンタクトセンターは通常、各エージェントに顧客とのやり取りを処理するための専用デスクトップコンピューターとモニターを提供しています。Journal of Corporate Real Estate の Govil, M., & Panda, M. (2013) による「Sustainable Contact Centers: Strategies for reducing energy consumption and carbon emissions」によると、デスクトップ PC は 60W から 250W の電力を消費し、モニターはワークステーションの消費電力を 30% から 50% 増加させる可能性があります。
世界経済フォーラムの調査によると、世界のエネルギー関連の炭素排出量の 40% はコンタクトセンターのような施設を含む建物から発生しています。さらに、従業員が集中型のコールセンターに通勤することで、交通渋滞、炭素排出、大気汚染が増加しています。
Amazon Connect: サステナブルなコンタクトセンターソリューション
従来のオンプレミスのデータセンターで運用されるコンタクトセンターとは対照的に、Amazon Connect は AWS が提供するフルマネージドのクラウドコンタクトセンターサービスです。Amazon Connect のワークロードは、以下のレイヤーに分けることができます:電話、Amazon Connect インターフェース/API、コンタクトフロー/IVR、エージェントワークステーション、メトリクスとレポーティングです。これらは従来のコンタクトセンターにおける、CTI、IVR などのコンタクトセンターアプリケーションと対応しています。
Amazon Connect のアーキテクチャには、炭素の排出を削減できる複数のコンポーネントがあります。
- Amazon Connect は、AWS のグローバルインフラストラクチャ上で実行されるマネージドクラウドサービスとして、AWS クラウドのサステナビリティの利点を最大限に活用しています
- Amazon Connect は、同じ効率的なインフラストラクチャ上で実行されるマネージドな電話サービスを提供します。これにより、電話の発信と受信のための PBX や IP-PBX システムの必要性が排除され、それに伴う炭素排出量も削減されます
- WebRTC 通話により、PBX システムや専用のエージェントワークステーションが不要となり、コンタクトセンターのハードウェア要件が削減されます
- ブラウザベースのエージェントワークステーションにより、エージェントはコンタクトセンターのオフィスに集中する代わりに在宅勤務が可能になります
- エージェントがコンタクトセンターのオフィスに通勤する必要がなくなり、輸送による炭素排出量が削減されます。Our World Data によると、自動車やバスを含む道路輸送は、世界の輸送による炭素排出量の 45.1% を占めています
効率的なインフラストラクチャと再生可能エネルギー
AWS のインフラストラクチャ規模により、一般的なオンプレミスのデータセンターよりも高いリソース利用率とエネルギー効率が可能になります。最近の報告書「How moving Onto the AWS Cloud Reduces Carbon Emissions (AWS クラウドへの移行による炭素排出量の削減 ) 」によると、AWS のインフラストラクチャはオンプレミスと比較して最大 4.1 倍効率的であり、AWS 上でワークロードが最適化された場合、関連するカーボンフットプリントを最大 99% 削減できると推定されています。
また AWS は冷却効率を継続的に革新し、時期に応じて異なる冷却技術を使用し、リアルタイムのセンサーデータを活用して変化する気象条件に適応しています。2019 年、Amazon(AWS を含む)は、2030 年までに消費する電力の 100% を再生可能エネルギーで賄うという野心的な目標を設定しました。Amazon は 7 年早く 2023 年にこの目標を達成し、Amazon が消費する電力の 100% を再生可能エネルギー源で賄っています。
よりサステナブルなコンピューティングと AI
AWS クラウドへの移行により炭素排出量が削減されるという調査結果にあるように、人工知能 (AI) は世界最大の課題に取り組むためのテクノロジーの使用方法を急速に変革しています。AI の利用拡大と同時に、その環境への影響を最小限に抑えることが重要です。AWS が委託し Accenture が実施した調査によると、AI ワークロードのカーボンフットプリントを削減する効果的な方法は、オンプレミスのインフラストラクチャから世界中の AWS データセンターに移行することです。
Amazon Connect は、顧客とのインタラクションのあらゆる段階に AI を組み込んでいます。顧客の声を認識し、顧客が何について電話をしているかを理解し、生身のエージェントの代わりに AI が顧客に対応したり、顧客との会話を分析して顧客の問題を見つけ出し、顧客の感情を認識したりします。Amazon Connect は、リアルタイムの通話分析や通話後のサマリーを行う Contact Lens や、生成 AI エージェントアシストとしての Amazon Q in Connect など、顧客とのインタラクションに生成 AI 機能を組み込んでいます。
これらの複雑な AI、特に生成 AI ワークロードの実行に関して、AWS は幅広いハードウェアの選択肢を提供しています。パフォーマンスとエネルギー消費を最適化するために、AWS Inferentia2 のような目的に特化したチップを開発しました。これは、同等の EC2 インスタンスと比較して最大 50% エネルギー効率が高くなっています。AWS が AI 向けのより効率的なハードウェアへの投資を続けるにつれて、Amazon Connect のお客様は個別の努力を必要とせず、自動的に効率性の向上の恩恵を受けることができます。
クラウドのサステナビリティに関わるベストプラクティス
Amazon Connect のクラウドサステナビリティの利点を活用することに加えて、組織は Amazon Connect ベースのコンタクトセンターアーキテクチャを最適化することで、サステナビリティ効果を最大限に享受できます。 AWS Well-Architected Framework の持続可能性の柱は、最適化のための 6 つの重要な領域に焦点を当てています:コンタクトセンターを配置するリージョン、需要に合わせた調整、ソフトウェアとアーキテクチャ、データ、ハードウェアとサービス、開発とデプロイメントプロセスです。これらの重要な領域におけるベストプラクティスに従うことで、コンタクトセンターはリソースの無駄を減らし、利用率を最大化し、運用をサポートするために展開される総コンポーネントを最適化することで、クラウドフットプリントを最小限に抑えるのに役立ちます。
より持続可能な地域に業務を誘導する
Amazon Connect の導入において、組織はビジネスの優先事項とサステナビリティの目標の両方に基づいてリージョンを選択すべきです。ビジネスの優先事項、コンプライアンス、レイテンシー、コスト、顧客とエージェントの所在地、サービスの可用性に基づいて、選択可能なリージョンを検討します。
AWS のブログ記事「How to Select a Region for Your Workload Based on Sustainability Goals (サステナビリティの目標に基づいてワークロードのリージョンを選択する方法) 」では、Amazon Connect で適切な AWS リージョンを選択するためのマーケットを起点に考える方法と場所を起点に考える方法について説明しています。マーケットを起点とする方法では Amazon の再生可能エネルギープロジェクトの近くにあるリージョンを選択できますし、場所を起点とする方法では公表されている電力消費に対する炭素強度が低いリージョンを選択できます。
ユーザーの行動に合わせた調整
このサステナビリティのベストプラクティスは、実行される活動に使用されるリソースを最適化することに関するものです。使用されるリソースは、ユーザーの需要に応じて規模を調整する必要があります。
Amazon Connect では、ユーザーがコンタクトセンターに電話をかけたり、その他の方法で対話したりすると、需要に基づいてスケールアップ・スケールダウンし、過剰なプロビジョニングを回避します。
さらに、顧客は Amazon Connect で一般的なクラウドコンタクトセンターのアーキテクチャを最適化して、自社のコンタクトセンターのニーズに合わせることができます。
- 設計時に、コンタクトセンターソリューションに必要のないサービスを削除することで、実行されるサービスが少なくなり、消費エネルギーが減少します。例えば、ソリューションにテキスト読み上げ機能が不要な場合、Amazon Polly を除外することで、このサービスに関連するエネルギー消費と炭素排出を削減できます。さらに、ソリューションにアウトバウンドキャンペーンが含まれていない場合、設計時に Amazon Pinpoint をアーキテクチャから除外できます。メールが不要な場合は、Amazon Simple Email Service についても同様です。
- Amazon Connect 自体においても、 Cases、 Tasks、 Contact Lens、 予測、キャパシティプランニング、スケジューリングなどのオプション機能は、顧客のソリューションで必要とされない場合は有効化されません。機能が有効化されていなければ、実行されず、エネルギーを使用せず、炭素排出も発生しません。
- Amazon Connect コンタクトセンターアーキテクチャの主要コンポーネントは、サーバーレスコンピューティングサービスである AWS Lambda を使用しています。AWS Lambda 関数はトリガーされた時のみ実行され、アイドル状態のリソースを回避します。上記のアーキテクチャ図のように、このサービスは効率を最適化するイベント駆動型アーキテクチャのために Amazon Kinesis や Amazon Lex などの他のサーバーレステクノロジーを活用しています。
AWS Lambda は、関数に割り当てられたメモリ量に比例して中央処理装置 (CPU) パワー、ネットワーク帯域幅、ディスク入出力を割り当てることでサステナビリティをサポートしています。必要な時のみコードを呼び出し、受信リクエストの割合に応じて自動的にスケールします。これにより、ワークロードの環境への影響を効果的に最適化し、最小限に抑えることができます。
データ
Amazon Connect は最近、ゼロ ETL 分析データレイクの一般提供を発表しました。この機能により、複雑なデータパイプラインの構築と維持が不要になります。分析データレイクでは、レコードが重複排除されるため、保存するデータ量が少なくなり、使用するリソースも少なくて済みます。
AWS は、お客様がデータ管理戦略を最新化できるようにするツールとガイダンスを提供しています。これには、AWS のフルマネージド型のストレージサービスを使用して、アクティブな「ホット」データと非アクティブな「コールド」データセットを分離して保管することが含まれます。さらに、AWS はお客様のデータレプリケーションプロセスを最適化し、レプリケーションのサイズとスループット要件を削減することで、エネルギー消費と炭素排出量の削減を支援します。
従来のコンタクトセンターと Amazon Connect の比較概要
要素 | 従来のコンタクトセンター | Amazon Connect |
インフラストラクチャ | オンプレミスデータセンター、PBX システム | AWS クラウドインフラストラクチャ |
エネルギーの効率性 | 低い効率性、高い排出量 | 最大4.1倍の効率性 |
拡張性 | 過剰にプロビジョンされうる固定されたインフラストラクチャ | 実際の利用に基づいた柔軟なスケーリング |
必要なハードウェア | 専用のサーバーやワークステーション、電話 | ブラウザベース、WebRTC による通話 |
リモートワークの可能性 | 限定的 | 完全にサポート通勤やビルによる排出量の削減 |
結論
この記事では、最適なサステナビリティの実践方法について議論し、お客様がカーボンフットプリントを削減できる Amazon Connect クラウドベースのコンタクトセンターを構築する方法を示しました。管理されたインフラストラクチャ、最適化されたハードウェア、サーバーレステクノロジー、再生可能エネルギーの組み合わせにより、現在そして将来にわたって、より低いカーボンフットプリントで優れた顧客体験を提供するための、より持続可能な基盤が提供され、結果としてより持続可能な顧客体験につながります。
さあはじめましょう:
- コンタクトセンターのカーボンフットプリントを評価し、クラウドと Amazon Connect がどのようにそれを削減できるか探りましょう
- コンタクトセンターを Amazon Connect に移行し、AWS で最適化を行った場合、ワークロードのカーボンフットプリントを最大 99% 削減できる可能性があります
- Amazon Connect の導入をサステナビリティを考慮して設計しましょう。ワークロードの配置、ユーザー行動との整合性、サーバーレスアーキテクチャ、データと利用率に関するベストプラクティスの推奨事項に従いましょう
- AWS および Amazon Connect チームと協力して、組織の環境目標により適合した、より持続可能なコンタクトセンターソリューションの構築方法についてさらに議論しましょう
これらのステップに従うことで、コンタクトセンターをよりサステナブルに、エネルギー効率が高く、環境に優しい運用に変革することができます。
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筆者について
Nada Reinprecht は AWS のシニアソリューションアーキテクトで、業界を超えて革新的な技術ソリューションを作り出し、お客様の複雑なビジネス課題を解決することに情熱を注いでいます。AWS に入社する前は、Accenture や IBM などで働き、オーストラリア、米国、ヨーロッパ、英国のお客様向けにソリューションの設計と提供を行っていました。Nada はブッシュウォーキング、ヨガ、ランニングが大好きです。 | |
Mike Cairns は AWS のシニアソリューションアーキテクトで、多様な業界にわたる複雑なビジネス課題を解決するための革新的なクラウドベースのソリューションの設計と実装の経験があります。彼は AWS サービスに関する深い技術的専門知識を活かし、組織のインフラストラクチャの近代化、運用効率の向上、新しいビジネス機能の開拓を支援しています。 |
翻訳はテクニカルアカウントマネージャー高橋が担当しました。原文はこちらです。