Amazon Web Services ブログ
3 か月で開発スピード 3 倍を達成:キヤノン IT ソリューションズ様が実践した AI Coding Agent 導入・普及の仕組みづくり
本ブログは、キヤノンIT ソリューションズ株式会社様と Amazon Web Services Japan が共同で執筆しました。
みなさん、こんにちは。AWS ソリューションアーキテクト木村、アカウントマネージャーの池田です。
本記事では、キヤノン IT ソリューションズ株式会社様が 、Amazon Q Developer を開発現場に導入し、3 か月間効果検証を実施した取り組みをご紹介します。コード生成やレビュー支援による効率化、現場での活用事例、そして検証から得られた知見について詳しく解説します。
なお、本ブログに登場する Amazon Q Developer は2026 年 4 月 30 日に AI 駆動開発IDE「Kiro」へと進化的に統合されることが発表されています。 本検証で培ったAI駆動開発のプラクティスやノウハウは、Kiro の仕様駆動開発(Spec-driven Development)へとそのまま活かせるものであり、キヤノン IT ソリューションズ様 の取り組みはまさにこの進化を先取りしたものと言えます。
背景/課題
キヤノンITソリューションズ株式会社様(以下、キヤノン ITS )では、生成 AI ツールの社内推進活動を積極的に実施しています。今後 SIer としての競争力を維持していくために、生成 AI の活用は不可欠です。しかし、個人レベルでの試行には限界があるため、企業として活用のための基盤整備や推進を進める必要がありました。
そこでキヤノン ITS 様は、2024年に「生成 AI ビジネス検討委員会」を立ち上げて、生成 AI ビジネスにおける 5 年後のありたい姿と戦略を策定し、その具体的な施策を推進するための「生成 AI ビジネス推進室」を発足。社内の利用ガイドラインの整備、生成 AI ツールの全社的な導入を推進してきました。
生成 AI ツールの導入後に現場への定着をいかに進めるかは、多くの企業にとって共通の課題です。キヤノン ITS 様は全社横断向けの複数回に渡るイベント形式で「AI 駆動開発の普及」を行うことで、より深い活用推進を実施しました。
なぜ Amazon Q Developer を選択したのか(導入当時)
全社利用が可能な生成 AI ツールは導入済みではありましたが、「AI 駆動開発の普及」という目的に対し、コスト・運用・性能のバランスに優れた選択肢であることから Amazon Q Developer を選択しました。
- コスト:
- 月額ユーザー数の固定料金で予算計画が容易
- 同機能の固定費用で使えるサービスとしては最も安価
- 運用:
- 既存の AWS 環境(情報システム部門の管轄)でアカウント管理可能
- AWS から導入・普及の支援を受けることができる
- 性能:
- Claude Sonnet 4(実施当時)による高精度の生成
- MCP 対応による拡張性の高さ
- セキュリティ・脆弱性診断、モダナイゼーションなど SI に役立つ機能搭載
AI駆動開発の普及をする上での工夫ポイント
本施策が単なるツール導入だけで終わらぬよう、事前に懸念事項を洗い出し、キヤノン ITS 様と AWS にて、役割分担を行い施策設計をしました。
- 懸念事項
- Amazon Q Developerのリリース・キックオフがなされただけで、ツールが使われない
- 事業部側での予算制限があり、積極利用がなされない
- ツールの認知はされているが、使い方が分からずに利用がされない
- AI駆動開発の取組自体が限られた少数のメンバーにしか知られない
- 対策
- オペレーション整備
- ツールを使ってもらえるような申請フローの整備(キヤノン ITS)
- 興味喚起
- 「このツールは面白い」と思ってもらえるイベント。継続するための仕掛けづくり(AWS)
- 障壁排除
- ハンズオン/定期的なオフィスアワーを行うことで技術的な懸念点を払拭(キヤノンITS/AWS)
- イベント化
- 打ち上げ花火のようなオンラインイベントで終わらせず、興味喚起、ハンズオン研修、利用者のトラッキングを行いランキング発表等、全社向けの年末までのロードマップを敷いて継続施策として打ち出す(キヤノンITS/AWS)
- エグゼクティブスポンサー
- エグゼクティブスポンサーである、金澤社長からの支援と声かけを実施(キヤノンITS)
- オペレーション整備
ロードマップ全体像
AI駆動開発の社内展開に向けて、Amazon Q Developer の業務適用検証を実施しました。本取り組みは、9 月 5 日に開催した「AI Agent DAY」をキックオフとし、Amazon Q Developer を実際の業務に適用した際の有効性を約 3 か月間にわたり検証したものです。
キックオフイベントには約 250 名が参加し、100 名以上の技術者が Amazon Q Developer のハンズオンを体験しました。その後の業務適用検証フェーズでは、生成 AI ビジネス推進室がツール利用費を負担する形で施策を企画し、57 名が参加しています。検証期間中は、インフラおよびアプリケーションを対象としたハンズオンセッションやオフィスアワー、中間イベントを実施しました。あわせて、Teams 上の「生成 AI 交流広場」での情報共有やアンケートを通じた成果の可視化にも取り組んでいます。
最終的には、技術者向けイベント「CITS Day 2025」において、Amazon Q Developer を効果的に活用した取り組みを表彰しています。なお、表彰対象検討のための利用状況のデータ分析においても、Amazon Q Developer を活用しました。
Amazon Q Developer の利用状況を示すダッシュボード
Amazon Q Developer へ利用率ランキングを集計するプロンプト
CITS Day 2025 での表彰
活用事例
CITS Dayのイベント内では、複数の事例が共有されました。
事例1: 開発ツール×生成AI(佐野様の発表)
抱えていた課題
- プログラミングの抽象化レイヤーの進化と開発ツールの変化への対応
- 開発業務の効率化と生産性向上
- 資料作成やアイデア整理などのコーディング以外の作業の効率化
導入した理由・きっかけ
- 新しい開発スタイルで「速さ」「安全性」「柔軟性」を実現するため
- Kiro との出会い(2024年夏)がきっかけ
- 生成 AI の柔軟性を活かしつつ、課題(コード品質のばらつき、非機能要件への対応不足など)を解決するため
導入して得られた結果
- バイブコーディングモードを活用することで、マークダウン形式で効率的に資料作成が可能に
- レイアウト案をアスキーアートで事前確認するなど、視覚的な提示が可能に
- 仕様駆動開発モードではプロトタイプの迅速な作成が実現
- バーコードスキャナーアプリの要件からタスク分解、実装まで効率的に進行
事例2: PoCでのAmazon Q Developer活用(可知様の発表)

抱えていた課題
- SNS バズ検知を需給マネジメントに繋げるための PoC を短期間・低コストで実施
- SNS API や可視化技術など、未経験の技術を習得して実装
- 技術検証フェーズに時間やコストをかけられない
導入した理由・きっかけ
- 社内からの提案で、生成 AI の活用が適した題材と判断
- 低コスト($19/月)で社内環境も整備されていたため
- 短期間での技術獲得とプロトタイプ開発、生成 AI 活用のノウハウ獲得を目指して導入
導入して得られた結果
- 新規技術(SNS API 活用技術、Streamlit によるアプリ開発技術)の習得が迅速に進んだ
- 開発スピードが約 3 倍に向上(通常 2 週間かかる作業が 3 日で完了)
- コスト削減(10 人日 → 3 人日+$19の料金のみ、約 1/3 のコスト)
事例3: Amazon Q Developerを使用したインフラ構築(谷様の発表)
抱えていた課題
- インフラ構築業務での効率化とエラー削減
- Terraform の定義言語 HCL の習得や適切なコーディングの必要性
- インフラコード化(IaC)におけるコードレビューと品質確保
導入した理由・きっかけ
- インフラ構築業務の流れが「パラメーター設計 → コード生成 → デプロイ → テスト」に変わる中で効率化を図るため
- コード生成からドライテスト、デプロイまでのプロセスを改善するため
- Claude Sonnet 4.5 が API 課金ではなく使える点が魅力的だった
導入して得られた結果
- パラメーターシートやアーキテクチャ図を基に Terraform コードの自動生成が可能に
- AI によるコードレビューが人間のレビューを補完し、エラー検出が向上
- validate、plan、apply の各段階でのエラー検出と修正が効率化
事例4: 仕様駆動開発の手引き(古川様の発表)

抱えていた課題
- 「仕様が主、実装が従」という本来あるべき開発の構図が逆転しがち
- 仕様書の陳腐化や実装との乖離の発生
- vibe coding は業務で活用するには曖昧すぎる
導入した理由・きっかけ
- 自分で設計して自分で実装するケースが多く、生成 AI 導入の恩恵が大きいと考えたため
- 他の生成 AI ツールと Amazon Q Developer の比較検討を自分自身でやってみたかったため
- 仕様駆動開発が開発手法として確立しつつあり、業務に適用してみたかったため
導入して得られた結果
- ルール制定 → README記述 → 設計書作成 → TODOリスト作成 → 実装という流れで社内用の小規模なツールを効率的に開発できた
- AI が設計図やタスク分解などを自動化し、人間はレビューと意図合わせに集中できる
- 仕様駆動開発の考え方を取り入れることで、開発の最初に充実したドキュメントを作れるようになった
事例5: Amazon Q Developer 活用事例紹介(鈴木様の発表)

抱えていた課題
- 製品機能設計に向けて AI エージェント技術の理解と実験環境構築が必要だった
- AgentCore や CloudFormation など、大量コードの読解や IaC 化の負荷が高い
- 新しい技術領域で情報が少なく、定義ミスやドキュメント解釈間違いが発生しやすい
導入した理由・きっかけ
- Amazon Bedrock AgentCore を使った機能検討のため、AI エージェントの仕組み理解と環境構築を効率化したかった
- GitHub の AgentCore サンプルを活用する中で、Q を使えばコード理解・修正・IaC 化まで一気に進められると判断
- 大量コードの理解、React アプリ実装など AI に向いている作業が多かったため Q 活用を決断
導入して得られた結果
- AgentCore + Knowledge MCP + CloudFormation による再利用可能なAIエージェント実験環境を構築
- React チャットアプリやブラウザ動作確認まで実装〜テストの大部分を Q が自動化
- Rules 整備やレビューを通じて、Q を“正解を出す AI ”ではなく“協働する相棒”として運用する体制を確立
- Try & Error の混乱を Git コミットや TODO 管理で整理し、AI と協働できる実践的な開発フローを確立
定量的な成果
3か月間の業務適用検証期間において、Amazon Q Developerを利用した取組は以下の定量的な成果を達成しました。
コード生成・開発効率
- 開発スピード 3 倍向上: 通常 2 週間かかる PoC 開発が 3 日で完了
- 工数削減 67%: 10 人日から 3 人日へ削減、コストは約 1/3 に
- コード生成数: 検証期間中、57 名の参加者が累計で数千行のコード生成を実施
レビュー・品質向上
- レビュー時間短縮: AIによるコードレビュー支援により、人間のレビュー工数を削減しつつエラー検出精度が向上
- エラー早期発見: validate、plan、apply の各段階でのエラー検出が効率化され、手戻りコストを削減
継続利用
- 参加率 95% : 募集定員 60 名に対し 57 名が参加し継続して利用
- アクティブ利用: 検証期間中、定期的なオフィスアワーやTeams「生成AI交流広場」での活発な情報交換を実施
- イベント参加: キックオフイベントに 250 名、ハンズオンに 100 名以上が参加
定性的なフィードバック(利用者の声)
検証期間中のアンケートやCITS Day 2025での発表から、以下のような利用者の声が得られました。
- 「SNS API や Streamlit など、未経験の技術を短期間で習得できた。新規技術獲得へのハードルが大幅に下がった」
- 「PoC の進め方が大きく変わることを実感。人は課題抽出やロジック検討、結果確認に注力できるようになった」
- 「生成 AI と開発の構造を組み合わせることで、柔軟性・速さと品質・一貫性の両立が可能になった」
- 「仕様書を起点に、AI エージェントに任せながら効率的に開発できる。仕様駆動開発が現実的な選択肢になった」
- 「パラメーターシートやアーキテクチャ図を基に Terraform コードの自動生成が可能になり、インフラ構築業務が大幅に効率化された」
検証の総括
キヤノンITS 様は、生成 AI ビジネス推進室を中心に Amazon Q Developer の展開を推進し、3 か月間の業務適用検証を通じて組織的な AI 駆動開発の定着を実現しました。エグゼクティブスポンサーの支援と予算負担の工夫により現場の参加障壁を排除し、専用 Teams チャネルでのコミュニティ形成、定期的なオフィスアワー、実践的なハンズオンセッションという段階的な学習支援を提供しました。
検証期間中、57 名の技術者が実務で Amazon Q Developer を活用し、開発スピード 3 倍向上、工数 67 %削減という具体的な定量効果を達成。Amazon Q Developer 自身で作成したダッシュボードにより利用状況を可視化し、CITS Day 2025 での表彰制度により 5 つの優秀事例を全社で共有しました。
成功の鍵は、生成AIビジネス推進室の設立による組織的な推進体制、単発イベントで終わらせない年間ロードマップに基づく継続的な支援施策、そして実ビジネスでの活用という 3 つの要素にあります。キックオフから始まり、ハンズオン、中間イベント、表彰へと続く一連の取り組みにより、SNS バズ検知システムなど実際の PoC 案件での成果を創出し、新規技術習得の加速、PoC プロセスの変革、インフラ構築の効率化など、多様な領域での効果を実証しました。
キヤノンITS 様からAmazon Web Services Japanへの期待
今回の取り組みを通じて、Amazon Q Developer を開発現場の生産性向上に有効活用できることが実感できました。PoC からインフラ構築、既存システムの改善まで、多様な領域で活用の可能性が広がっています。
今後は、今回の検証で得られた知見をもとに、社内での活用パターンの整理やナレッジの共有を進め、より多くのプロジェクトで生成AIを活かせる環境づくりを進めていきます。また、Amazon Web Services Japan 様と連携しながら、新機能の検証や他サービスとの組み合わせなど、さらなる活用領域の拡大にも取り組んでいく予定です。
生成AI が IT ライフサイクル全般の在り方を大きく変えつつある中、私たちは、現場の開発体験を改善するとともに、社会やお客様へ更なる価値提供に向けて積極的に活用していくための取り組みを継続して進めていきます。











