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人に依存しないCRMによりEC事業者のLTV最大化を実現 Amazon Bedrock AgentCoreを活用したAIオートパイロット型CRM開発事例

 株式会社ダイレクトマーケティングエージェンシー(以下、DMA)は、2006年の創業以来、ECビジネス支援エージェンシーとして自社開発にこだわり、ITとBPOソリューションを提供してきました。近年のEC市場では、顧客行動の多様化やチャネルの増加により、データ活用の重要性が一層高まっています。DMAはこうした背景を受け、データレイクおよびAI機能を実装したEC基盤「D-Sales ECクラウド」を開発・提供してきました。

本ブログでは、DMAがAmazon Bedrock AgentCoreを中核に据えて開発した、AIオートパイロット型CRMプラットフォーム「リピートMAX」 の開発事例をご紹介します。

背景と課題

多くのEC事業者は、CRM運用において以下のような構造的な課題を抱えています。

1. CRM運用の属人化問題
従来のCRM運用では、施策の立案から実行まで、担当者の経験とスキルに大きく依存していました。優秀な担当者の異動や退職により、それまで築き上げてきたノウハウが失われてしまうリスクが常にありました。また、担当者によって施策の質にばらつきが出てしまうことも大きな課題でした。
2. 短期的施策への偏重
四半期ごとの売上目標達成を優先するあまり、タイムセールや一時的な割引施策に依存し、顧客の購買サイクルや中長期的な関係構築を考慮したCRM設計が十分に行われていないケースも少なくありませんでした。特に、初回購入から2回目・3回目の購入につながらないことが、LTV最大化の大きな障壁となっていました。
3. データ統合・活用の複雑さ
EC運営の現場では、複数のマーケティングツールが併用され、データが分散していることが一般的です。その結果、顧客行動の全体像を把握することが難しく、ツール間連携やデータ統合に大きな運用負荷がかかっていました。

ソリューションの概要

DMAは、単なるツール統合やルールベースの自動化では上述の課題解決が難しく、課題を根本から解決するために顧客行動を文脈として理解し、状況に応じて判断を変えるAIの活用が不可欠と考えました。そこで、Amazon Bedrock AgentCoreを中核とした次世代CRMプラットフォーム「リピートMAX」の開発に着手しました。「リピートMAX」に搭載されているAIオートパイロットが売上予測に基づいた最適なCRM施策を提案します。「ターゲティングからクリエイティブ/売上予測/事後検証」まで全てのCRMプロセスを対話形式で選択していきます。目的に応じた提案施策を選択するだけで最適CRM施策によるLife Time Valueの最大化を実現します。

図 1: リピートMAXについて

以下が「リピートMAX」のシステム概要になります。

図2:リピートMAXのシステム概要図

「リピートMAX」の処理の流れは以下です。

  1. ECサイト運営者はWebブラウザ上のWidgetを通じて、 売上予測、クリエイティブ生成、AIチャットなどの機能を選択し、必要な情報を入力する
  2. フロントエンドが入力された内容をAPI Layerに送信する
  3. API Layer は入力内容に応じて、対象者抽出、売上予測、クリエイティブ、AIチャットを行う
  4. 3 の処理を行う際、必要に応じて Amazon Bedrock AgentCore を利用したり、Amazon Redshift Serverless、Amazon Aurora 、Amazon S3から顧客データや過去の購買履歴を取得する
  5. ユーザーの操作ログ等の分析のため、外部連携も行う
  6. システムはユーザーの入力に応じて以下のアウトプットを生成・提供する
    ・対象顧客セグメントの抽出結果
    ・売上予測データとレポート
    ・マーケティング用のクリエイティブ素材
    ・AIチャットによる質問への回答

Amazon S3およびAmazon Redshift Serverlessに蓄積された顧客行動データを基に、AgentCore上のAIエージェントが推論を行い、その結果を再びデータレイクへフィードバックする循環型アーキテクチャを構築しています。また、「リピートMAX」は、以下の観点でAWSサービスを選定しています。

  • 日本国内リージョンでの運用によるセキュリティ確保
  • 豊富なAIサービスによる開発効率の向上
  • Amazon Bedrock AgentCore、Amazon S3、Amazon Redshift Serverless、AWS Lambda といったサーバーレスなサービスの採用による初期投資の最小化

代表取締役の芦塚氏は、AWS のサービス選定理由をこう話します。
” 従来のCRMの枠を超えた、真にインテリジェントなCRMを実現したいと考えました。そのため、データの統合と活用、コスト最適化、そして施策の自動化という点に重点を置きました。また、セキュリティ面では顧客データの取り扱いに特に慎重な取引先も多く、東京リージョンに閉じた環境を構築できる点が決め手でした。”

開発の体制とプロセスについて

DMAの開発責任者岡本氏および福田氏は、開発体制とプロセスについて、以下のように述べています。
”外部からAWS開発経験のあるエンジニア2名を採用し、アジャイル開発手法を採用してプロジェクトを推進しました。しかし、Amazon Bedrock AgentCoreという新技術の導入において、十分なリファレンスやベンチマークが存在しない中で、試行錯誤を重ねながら設計・実装を進めました。経験者を見つけることは困難で、一度ゼロから再構築しました。この過程を通じて、新技術開発に適したエンジニアの特性やプロジェクト管理の知見を獲得し、Amazon Bedrock AgentCoreの特性理解やデータレイク構築における既存システムとの統合やAI活用最適化のノウハウを蓄積しました。テスト段階では、機能ベースの○×判定に加え、AIチャットの回答精度を評価するシナリオテストを重視し、自社ECプラットフォームの実データを活用した検証や、顧客との協働による分析結果の妥当性確認を実施することで、実用性の高いソリューション開発を実現しました。”

導入効果と今後の展開

AIオートパイロット型CRMプラットフォーム「リピートMAX」を導入された大手百貨店 EC サイトにおいて、以下の効果が得られています。

  • リピート購入率が125%向上
  • 離脱予兆顧客のCVRが150%以上改善
  • CRM運用の工数が大幅に削減され、約1時間まで効率化

顧客は AIによる最適なターゲティングとタイミングの自動化により、従来は見逃していた顧客接点を効果的に活用できるようになったと評価しています。

DMAは、このプロジェクトを通じて得られた知見を基に、以下のような機能拡張を計画しています。

  • より高度なAI予測モデルの導入
  • クリエイティブ提案機能の強化

まとめ

AIオートパイロット型CRMプラットフォーム「リピートMAX」の事例は、技術革新とビジネスニーズの適切な統合を意識しつつ、いかにバランスを取りながら実践的な価値を生み出せるかが分かる好例です。この取り組みが、EC業界におけるDX推進の重要なベンチマークとなること、今後も機能拡充してより多くのEC事業者のビジネス成長に貢献していくことを期待します。

また、内製化でソフトウェアに生成AIや新技術を組み込む上での課題および解決方法は多くの方に参考になるのではないでしょうか。AWSのサービスを活用した本事例は、クラウドネイティブな開発アプローチの有効性を実証する好例です。AI活用をご検討の企業様は、ぜひAWSまでご相談いただければと思います。