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Volta Trucks が AWS IoT FleetWise を使用してコネクテッド・カー・プラットフォームを構築した方法

はじめに

コネクティッド・カー・プラットフォームを活用すれば、フリートオペレーターは車両の位置情報、使用状況、ステータスについてニアリアルタイムのデータを取得できます。このようなデータをすぐに利用できることは、フリートオペレーターがより効率的にフリートを管理、運用コストを削減、ドライバーのパフォーマンスを改善し、車両のダウンタイムを短縮できます。コネクティッド・カー・プラットフォームは、自動車メーカー (OEM) にとっても、自社の遠隔操作ソリューションを、優れた付加価値サービスとして法人顧客に提供する機会をもたらします。しかし、コネクティッド・カー・プラットフォームの構築には課題もあります。独自のデバイス・ソフトウェアを構築し、いつ、どのような条件でデータを収集かを指示するオーケストレーション機能を開発し、データを復号および処理し、最後にデータを整理してお客様に有用な分析情報を提供する必要があります。AWS IoT FleetWise のような AWS サービスは、このような課題に伴う大きな負荷を軽減し、ソリューションを迅速に構築できます。

Volta Trucks は、イギリスのロンドンに本社を置く商用の電気トラックメーカーです。最近では、都市部での走行を想定した完全電気式の 16 トントラック Volta Zero を発表し、2024 年後半から納車を開始する予定です。Volta Trucks は、車両の予知保全、ルート最適化、パフォーマンス管理を提供するデジタル・カー・プラットフォームの立ち上げも控えています。このプラットフォームでは、データ収集とガバナンスを実現し、コストを削減、そして車両の運用を迅速に調整・改善できるデータ主導型の機能を提供します。リアルタイムのデータ分析により、Volta Trucks は生成 AI 機能を活用し、車両の稼働率、フリートマネージャーの生産性、ドライバーの快適性向上を図ります。

図 1: Volta Zero は、走行距離が最大 200km (125 マイル)、最高時速が 90 km/h (56 マイル/時) の電気トラック。

「当社の顧客は運送会社、フリートマネージャー、ドライバーで、柔軟性と個別化への要求はそれぞれ異なります。AWS IoT FleetWise を使えば、必要なデータに焦点を当てたデータ収集キャンペーンを構築し、顧客と車両ユーザー向けにカスタマイズした分析と機能を提供できます。必要な時に必要なデータだけを収集することで、新しいソリューションを構築し、ドライバーのミッション、コンテキスト、要求に合わせて車両を AI 化できるサービスを開発できるのです。」 – Volta Trucks 最高技術責任者 兼 最高情報責任者 Martin Hofmann

ソリューションの概要

Volta Trucks は、必要となる様々なデータポイントを車両から収集するコネクティッド・カー・プラットフォームを構築し、社内外の顧客のためにフリート全体の洞察を抽出する基盤を整えました。プラットフォームを構築する上での課題は、トラックから生成される膨大なデータの転送およびストレージコストを削減しながら、顧客に対して意味のあるニアリアルタイムの洞察を提供する方法を決定することでした。 Volta Trucks は、AWS の IoT FleetWise をプラットフォームの基盤としています。このプラットフォームでは、ルールベースのデータ収集が可能で、特定の車両タイプの温度や速度の変化などのパラメーターに基づいて、クラウドにデータを転送するためのルールやイベントを Volta Trucks が定義できます。Volta Trucks の顧客は、コネクティドカープラットフォームをアセット追跡に活用することが多く、電気トラック Volta Zero の重要な車両テレメトリと位置情報をニアリアルタイムで追跡する必要があります。

EV ラリー – ロンドンからジュネーブへ

機能のデモンストレーションとして、AWS IoT FleetWise 対応のコネクティッド・カー・プラットフォームに接続された Volta Zero は、ロンドンからジュネーブへ 2,000 km を超える往復の旅に成功しました。このイベントは、ゼロエミッションカーと技術の限界を試すために作られた EV ラリー の一環として、6 月 22 日から 24 日まで行われました。以下の画像は、レース中に有効化された機能と、収集されたデータのタイプを示しています。例として、位置情報、気温、バッテリー残量などです。

図 2: 車両の地理位置情報。

図 3: 外気温、ブレーキと加速。

図 4: 充電状態 (SoC) のリアルタイム洞察とデータ収集。

ソリューションの手順

車両ドメインでは、Volta Trucks 社が Linux ベースの車載制御ユニット (TCU) 上に、AWS IoT FleetWise 用の Edge Agent を導入しました。同社の Edge Agent は オープンソース C ++ ライブラリのセット で、車両がクラウドに接続し、どのデータをどのような条件で収集するか、クラウドからの指示を受け取ります。

Volta Trucks の技術者は、クラウド上で AWS IoT FleetWise API を使用して、車両のナレッジグラフを作成し、車両全体でシグナル、センサー、アクチュエータの標準化されたデータディクショナリー (300 以上のデータポイント) を提供します。さらに、これらのデータポイントに対する復号ルールを設定し、それらを車両ドメインに渡すことで、AWS IoT FleetWise が生の バイトデータを人間が読めるデータに変換できるようになりました。最後に、時間ベースとイベントベースの両方のキャンペーンを使って GPS 位置情報、走行距離計の読み取り値、バッテリーの状態などのデータを定期的に収集するため、 AWS IoT FleetWise を使用しました。

一つずつ手順を見ていきましょう:

  1. Volta の AWS IoT FleetWise Edge エージェントが車両にデプロイされます。
  2. AWS IoT Core を使用して車両と AWS 間の接続が確立されます。
  3. AWS IoT FleetWise は、AWS IoT Core の接続を使用して、データキャンペーンと復号情報を車両にプッシュします。クラウド上で、AWS IoT FleetWise はキャンペーンや車両識別子と、タイムスタンプ情報を追加することでデータを強化します。
  4. AWS IoT FleetWise は、 Amazon CloudWatch にサービス・メトリクスとログを自動的に収集することで、チームが必要に応じて簡単にトラブルシューティングを行えるようにしています。
  5. 収集された車両データは、Amazon TimestreamAmazon S3 へ送信されます。その後、データに対して自社の分析と洞察のプラットフォームで問い合わせ及び分析を行います。
  6. Volta チームは、トラックが切断され、再接続したタイミングを追跡するための簡単なアラートシステムも設定しています。このアラートでは、AWS IoT Core の ライフサイクルイベント を使用し、これらのイベントを ルール を使って Amazon SNS トピックにパブリッシュしています。オペレーターは、このトピックをサブスクライブできるため、車両が長時間接続されていない場合に適切な対応ができます。
  7. Volta は ARM ベースの Graviton インスタンス に、テスト目的で AWS IoT FleetWise エージェントをデプロイし、車両をシミュレートすることで開発のフィードバックサイクルの短縮を可能にしています。

まとめ

Volta Trucks は、 AWS IoT FleetWise を活用することでコネクテッド・カー・プラットフォームを構築し、商用車両の顧客に対して、ニアリアルタイムで車両の追跡、運転手の行動監視、車両の状態と健全性の評価などの機能を提供することができるようになりました。 Volta Trucks は、 AWS のサービスを活用することで、このような機能を迅速に開発することができ、スケーラビリティを実現するために開発を繰り返し行うことで、市場投入までの時間を短縮することができました。詳しくは、AWS IoT FleetWise サイトをご覧ください。皆様からのご意見・ご質問をお待ちしています。


About the Authors

AKSHAY TANDONAkshay Tandon は、Amazon Web Services のAWS IoT FleetWise チームのプリンシパル・プロダクト・マネージャーです。あらゆる自動車とプロダクトに情熱を持っており、顧客の声に耳を傾け、ニーズを満たすための革新的な製品やサービスを構想することに喜びを感じています。 Amazon では、Akshay は Alexa による AI/ML 分野と、Amazon Transportation Services によるフリート管理分野での製品イニシアチブを主導してきました。 10 年以上の製品管理の経験があります。

NUNO SECONuno Seco は、AWS を活用することでスタートアップ企業の成長を加速できるよう支援するシニア・ソリューション・アーキテクトです。 25 年以上のソフトウェア エンジニアリング経験を持つ彼は、様々なトレードオフを理解し、スタートアップ企業が十分な情報に基づいて適切な意思決定が行えるよう支援しています。

MARCO MASSARAMarco Massara は、AWS 自動車および製造業ビジネスユニットのプリンシパル・ビジネス・デベロップメント・マネージャーであり、ソフトウェア・デファインド・ビークルとコネクテッド・モビリティに関する主要な取り組みで EMEA の自動車顧客を支援しています。

この記事は Akshay Tandon, Nuno Seco, Marco Massara によって書かれた How Volta Trucks built a connected vehicle platform using AWS IoT FleetWise の日本語訳です。この記事は 広域事業統括本部 ソリューションアーキテクト 久次米が翻訳しました。