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越境するクラウド CoE(CCoE)〜組織を越えて広がる、イノベーションの共創(後編)〜

※今回は「後編」です。前編はこちらをご確認ください。

エンタープライズのお客様でクラウドを効果的に推進するためには、クラウド活用推進組織(クラウド Center of Excellence、クラウド CoE、CCoE)もしくは、クラウドに限定しない xCoE の立ち上げが必要だという認識は既に多くの方々が持たれていると思います。一方で、そのストラクチャーは汎化が困難であり、他社事例の流用が必ずしも最短経路ではないという認識を持つお客さまもいらっしゃいます。その存在意義や、効果的な立ち振る舞いはどこにあるのか、各社にとって効果的な CCoE はどうやって定義するのかに悩む方々は少なくありません。

私たちは、以前公開したブログ記事において、CCoE が奏功する環境条件や心構え、その活動内容の検討に関する考え方ステップを紹介しました。また 2024 年には、生成 AI をはじめとする新しい技術の価値訴求と推進力を追求するビジネスを加速させる組織としての xCoE について紹介するウェビナーを開催しました。より具体的な組織設計を学んでいただけるよう、CCoE 設立に向けた Black Belt をリリースしています。

変化の激しい世の中にあってクラウド活用を進めることは、珍しい選択肢ではなくなりました。一方で、その活用の成熟度を高め、クラウドを活かしてビジネスを良くする、良くし続けるためには、構成メンバーのスキル充足だけではカバーできない課題も見えてきました。その課題は組織文化に類するもので、単純に他社(者)の成功事例を再利用できないところがあります。ここから、形式知化が難しいと当事者が感じる領域(いわゆる暗黙知)にこそ価値があるのではないかと考える方がいらっしゃり、我々にご相談いただくことがあります。

クラウド活用における暗黙知に価値を見出した CCoE は、その活動範囲を広げ始めています。業界や企業規模が異なる企業同士が組織を越えてナレッジを共有し、新たなビジネス価値の創造に向けて共に考える機会が提供されるようになりました。「もはや一社だけでは、急速に進化するクラウド技術やビジネストレンドに追いつけない」そのような危機感が、企業間の越境的な連携を加速させているのかもしれません。

本記事では、前編と後編とにわけ、この革新的な取り組みに挑戦されている数社の CCoE メンバーが一堂に会し、その胸の内を明かした2024 年末のミートアップの様子を紹介します。なぜ今、組織の境界を越える必要があるのか。そこにどんな可能性が潜んでいるのか。デジタル時代における新たな共創モデルの最前線に迫ります。後編となる今回は、ポーラ・オルビスホールディングス 堀氏、インフォコム 高山氏、樫原氏、そしてSOMPOホールディングス 靍井氏にお話を伺います。前編はこちらです。

(前編のあらすじ)聞き手:SOMPOホールディングス 神庭氏、AWS 山泉

  • 挑戦する社員のプレゼンスアップに集中する – SOMPOホールディングス
    • 参加するすべての方にスポットライトをあてたい;CCoE はその舞台を用意する裏方として働く
    • 多様なアクティビティやイベントを通じて、IT や クラウドに関心を強く持つ人を探す
    • 社という枠を越えて(考えることなく)交流し、切磋琢磨する文化を作りたい
  • 人と人とをつなぎ、カルチャーを変える – 三菱電機
    • 自分の仕事を面白くしたい、そんな思いからいろんな人へ声掛けをし、外へ連れ出している
    • まずは自ら楽しみ、アウトプットを企画して実施する
    • 『ものづくり』から『ことづくり』へのシフトを目指し、新しい文化を取り入れたい

 己を知り、他者を知る – ポーラ・オルビスホールディングス

(AWS 山泉)越境活動を行う目的についてお聞かせください。

(ポーラ・オルビスホールディングス 堀氏)大きく 3 つあります。まず企業認知度の向上です。自社の技術力や取り組みを広く知っていただき、ブランド価値の向上につなげることです。次にシナジーの創出。異業種の知見と自社の強みを掛け合わせることで、新たな価値を生み出したいと考えています。そして社内活性化。他業種から得た学びを社内に還元し、全体のレベルアップを図りたいです。市場の動きに後手に回ることなく、先頭を走れる存在になるために、『己を知り、他者を知る』という姿勢を大切にしています。会社としてもコミュニティ活動を重要視しており、私が担当者として活動しています。

(SOMPOホールディングス 神庭氏)具体的な活動内容を教えてください。

(堀氏)企業ユーザーコミュニティにおいてイベント企画をミッションにした活動をしています。単なる参加者ではなく、コミュニティの中心に入り込んでネットワークを広げることを意識しています。他にも AWS re:Invent などの国際的なイベントにも参加し、グローバルなトレンドのキャッチアップも行っています。これらの活動はグループ内にも発信し、CCoE の存在価値を高めていくことにも注力しています。社内では IT セクションに CCoE をプレゼンする機会が多くありましたが、これからは IT に限らず、グループ全体に発信していくフェーズに移していきたいです。越境活動は、社内外への営業活動のような感覚かもしれません。

(神庭氏)越境活動で得られた経験はいかがですか?

(堀氏)他社とのネットワークが広がり、将来的なコラボレーションの土台ができました。異業種の課題解決プロセスから多くの学びも得られています。最近では re:Invent で出会った AWS コミュニティビルダーの方々から大きな刺激を受けました。

(山泉)今後の展望についてお聞かせください。

(堀氏)企業横断型の交流会を自ら企画・開催していきたいですね。まずは re:Invent でいただいたビルダーズカードを使った大会の開催を検討しています。また、2023 年から始めた Qiita での情報発信も継続していきます。外部イベントで『記事を見ました!』と声をかけていただくことも増えてきて、大きな励みになっています。地道な活動ですが、確実に企業価値の向上につながっていると実感しています。

(神庭氏)越境活動に参加するだけでなく、「企画」について意欲的な理由についてお聞かせください。

(堀氏)私たちは IT を積極的に活用し、常に新しいことにチャレンジしている企業であることを広く認知していただき、それを採用活動にも活かしていきたいと考えています。加えて、ビューティー業界の IT 部門を牽引していきたいという強い思いがあるからです。コミュニケーションのハブとなることで、業界全体の発展に貢献できると考えています。これは私たちが主体的に行動することでしか実現できないと確信しています。


ポーラ・オルビスホールディングス 堀 瑞希 氏


まず第一歩を自分から – インフォコム

(山泉)越境活動を始められた理由をお聞かせください。

(インフォコム 高山氏)価値観を広げることが最大の理由です。組織内や社内だけの人間関係では、どうしても視野が狭くなってしまう。新しい刺激を受けて気持ちを活性化させたかったんです。それに、単純に人脈が広がって世界が広がっていくのは楽しいですよね。特に重要視しているのは、単に『見る』だけでなく『参加する』という姿勢です。

(神庭氏)越境活動に積極的な理由は何でしょうか?

(高山氏)私自身のためではなく、『組織のメンバー』を外の世界に連れ出すことを目的としています。そのために自分が積極的に社外活動に取り組んでいます。越境活動は従業員の成長を促進する効果があると確信しています。

(神庭氏)どのような効果が期待できますか?

(高山氏)基本的にはいいことづくめですね。社員のアウトプットの場として、またコミュニケーションスキルやプレゼンテーションスキルの向上に大きく成長できる場として期待しています。会社としても、社員のプレゼンス向上によるリクルーティング効果や、将来的なビジネス関係の構築につながる可能性があります。

(山泉)具体的にはどのような活動をされていますか?

(高山氏)ユーザーコミュニティ、特定の役職者が集うコミュニティ、各種勉強会などに参加しています。社内では最近、直接コミュニティを推進する立場から、推進者をサポートする立場に変わりました。機械学習やアジャイルのコミュニティ支援などですね。多くの社員が成長を実感できる仕組みづくりに関わっています。

(山泉)越境活動で得られた経験について教えてください。

(高山氏)素晴らしいスキルやエネルギー、経験を持つ方々と出会えることが大きな収穫です。例えば、先日、ユーザー会で知り合った他社さまと、その後 CCoE について情報交換して互いのベストプラクティスを共有する機会をいただきました。これは越境活動でしか経験することができない魅力です。ただ、課題としては活動の効果の可視化が難しいですね。しかし、興味深いのは、越境活動と社内評価に相関関係がありそうだということです。今後、タレントマネジメントシステムを通じて分析してみたいと考えています。

(神庭氏)今後の展望についてお聞かせください。

(高山氏)採用活動の観点でも、越境活動は自社のプレゼンス向上を進める上で重要なキーの一つであると考えています。社内外で認知される『スター』のような人材を育成することで、自社の社員にロールモデルを提供したり、より多くの方々に弊社を知っていただく機会を創出したりしたいと考えています。

(神庭氏)CCoE の高山さんから越境活動のお声がけをされた樫原さんにも伺います。営業職からエンジニアに転向されたばかりと伺いましたが、越境活動にご関心はあったのでしょうか。

(インフォコム 樫原氏)情報収集やアウトプットすることで自分の成長につながるのではないかという期待感から、元々、外に出ていくこと自体に興味がありました。しかし、『自分にはまだスキルが足りない』と躊躇していました。豊富な知識やスキルを持った方々が登壇したり、ネットワークを作ったりするものという印象を持っていましたので、私にはまだ先の話だと思っていたところ、高山さんからイベントの登壇に声をかけてもらったことで思い切ってチャレンジすることにしました。

(山泉)実際に活動をしていかがだったでしょうか。

(樫原氏)最初は『スキル不足だから登壇なんてまだ先』と思っていたんですが、実際に登壇してみたことで『他のことにもチャレンジしてみよう』という意欲で満ち溢れています。前回の登壇では自身のキャリアについて語ったのですが、営業職からエンジニアになったという私のキャリアに多くの方が興味を持ってくださり、自分の経験の希少性に気づかされました。また、私の話が他の方に影響を与えられたことを実感できたのは大きな収穫でした。

(山泉)越境活動に対する認識が変わっていますね。

(樫原氏)当初は自己成長が主な目的でしたが、活動を続けるうちに、組織や会社の成長への想いの方が強くなってきました。私自身、この活動を通じて多くのものを得ることができました。その貴重な経験を、より多くの方々にも体験していただきたいという気持ちが強くなっています。

(神庭氏)今後の展望についてお聞かせください。

(樫原氏)より多くの方々が越境活動にチャレンジできる環境を作っていきたいですね。そのためには、私のような駆け出しのエンジニアが活動することで、むしろ越境活動へのハードルを下げることができるのではないかと気づきました。特に大きな気づきは『必ずしも高度な技術的知識がなくてもアウトプットできる』ということ。この考え方の転換は、私にとって大きな一歩になりました。また、1 回のチャレンジで外に出ることへのハードルはかなり下がりました。社内には私以上に意欲的な社員がたくさんいます。そういった方々にもスポットライトが当たるよう、私自身も積極的に活動を続けていくことで、多くの舞台を用意していきたいです。

(高山氏)何も知識・スキルもない状態からアウトプットの機会を設ける…というのは私も実現したいと思っているので、樫原さんのようなケースをどんどん創りたいと考えています。


インフォコム 高山 篤史 氏(左)
インフォコム 樫原 里奈 氏(右)


社内と社外の橋渡し – SOMPOホールディングス

(山泉)越境活動を始められた理由についてお聞かせください。

(SOMPOホールディングス 靍井氏)個人的には、社外の素晴らしい方々から受ける刺激が大きな動機です。『こうなりたい』『ああなりたい』という思いが、自分のベクトルを前向きにしてくれる。CCoE という社内のクラウド知見者のトップ層にいる立場ですが、もっと上の世界を知るためには社外に出ていくしかないと考えています。会社としては、情報収集が大きな意義ですね。様々な事例が社内での行き詰まりを打開するヒントになります。また、CCoE は実プロジェクトでの実績作りが難しい面があるので、社外での活動実績が社内でのプレゼンス向上につながっています。

(山泉)具体的な活動内容を教えてください。

(靍井氏)AWS ユーザー会でのパネルディスカッション登壇や、AWS re:Invent、AWS Summit Japan などのイベントに積極的に参加しています。登壇すると声をかけていただく機会が増え、自然とコミュニティが広がっていきますね。また、社内でもコミュニティ活動を展開しています。その運営ノウハウを得るためにも、社外のコミュニティ活動には積極的に参加していますね。

(神庭氏)越境活動をする社員を増やしていく意向はありますか?

(靍井氏)CCoE という組織に所属している立場を活かし、グループ会社のクラウド人材を社外活動に積極的に巻き込んでいきたいと考えています。実際、SOMPOグループでは今年度から『クラウドキーパーソン』制度を設け、グループ会社のクラウド人材が集まる場を創設しました。この場を通じて、単なる情報のインプットだけでなく、アウトプットの機会も提供していく予定です。

(神庭氏)越境活動で得られた気づきは?

(靍井氏)素晴らしい方々との出会いや参考事例の収集ができるのは言うまでもありませんが、特に印象的だったのは『越境のハードルが意外と低い』ということです。クラウド人材のコミュニティは、新規参加者にとても優しい。一度そのハードルを越えると、自然と情報が集まってきて、コミュニケーションの輪が広がっていくんです。

(山泉)越境活動でなければ実現できないことはありますか?

(靍井氏)公開されている情報以上の価値を得るためには、越境活動は不可欠だと考えています。特に、相手と有意義な情報交換ができる関係を築くためには、自分自身からも積極的に情報発信していく必要がありますが、得られるリターンをとても大きなものです。

(山泉)今後の展望についてお聞かせください。

(靍井氏)グループ内に越境の文化を根付かせたいですね。一人では踏み出せない人も多いと思うので、CCoE がアテンド役となって、気軽に越境できる環境を作っていきたい。特にクラウド初学者向けのイベントなど、参加のハードルが低いものから始めていければと考えています。クラウド初学者向けの研修の越境なども面白い取り組みになるかもしれません。

(神庭氏)越境の文化を築きたい理由は何でしょうか?

(靍井氏)最終的な目標は、職員が主体的に課題解決できる組織を作ることです。グループ内には数多くの優秀な人材がいます。そういった方々がより広い領域で活躍できる環境を整えていきたいと考えています。


SOMPOホールディングス 靍井 翔平 氏


今回は、ポーラ・オルビスホールディングス 堀氏、インフォコム 高山氏、樫原氏、そしてSOMPOホールディングス 靍井氏にお話を伺いました。前編では、SOMPOホールディングス 神庭氏、三菱電機 小川氏、辻尾氏にお話を伺っています。

前編と後編の 2 回にわけて、クラウド活用における暗黙知に価値を見出した CCoE にお話を伺ってきました。「もはや一社だけでは、急速に進化するクラウド技術やビジネストレンドに追いつけない」そのような危機感、と冒頭で記載しました。実際のところは、交流を通じた相互認識や、自己肯定感を得られたりと、危機感だけでない期待感もお持ちであると確信しています。それらこそが、企業間の越境的な連携を加速させているのかもしれません。

CCoE は、クラウドによってより加速されるテクノロジーの運用を進化させるため、ベストプラクティスやフレームワーク、ガバナンスを作成し、伝導し、制度化するための組織横断的な専門家チームであると私たちは考えています。また、その行動特性は利他的であるということも重要で、誰のため、つまり CCoE のお客さまは誰なのか、という点についても深く、そして定期的に振り返ることが肝要であると考えます。

これらは CCoE が遂行する業務には決まった形や正解というものがないことを示しており、ゆえに立ち上げや高度化に悩まれる方が珍しくありません。公開されている成功事例や、ユーザー会などで共有されるプラクティスに触れる機会において、参加された方から、その多様性と自由度に驚かれたというコメントをいただくことがあります。CCoE がどのような業務を遂行するのかは、クラウドに関わる事業や組織、業務の課題に依存します。つまり、これらの課題が会社や組織で異なることが CCoE の多様性と自由度の根源です。一方で、会社や組織をよくしたいという行動原理に違いはありません。

今回ミートアップに参加された皆さんに共通しているのは、「人、つまり仲間にとことん拘っている」ということです。言い換えれば、会社や組織としてのクラウド活用を推進するためには、テクノロジーやプロセスだけでなく「人」という要素の変革が欠かせないと考えていらっしゃいます。そして変革の実現のためには、形式知化できない暗黙知を伝承できる場が必要であり、その場の効果を高める効果的な手段の 1 つが今回のようなアプローチと言えると考えます。


ミートアップに参加された皆さん

参考資料:


山泉 亘(YAMAIZUMI Wataru)は、AWS のカスタマーソリューションマネージャー(CSM)です。人、プロセス、テクノロジーを横断する課題に総合的に対応することで、お客さま組織のクラウド活用の促進とビジネス価値実現を支援しています。事務機器製造業および金融業においてクラウド活用推進組織(CCoE)の組成と発展をリードした経験があります。また、多様性と柔軟性を持った組織文化を醸成するために技術コミュニティが果たす役割と重要性を確信しており、組織内外交流の促進に奔走しています。