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CCoE構想のステップ

昨今、クラウドがビジネスにもたらす経済的価値を追求し、会社や組織全体としてこれを享受するための施策を立案/推進するチームを立ち上げるお客さまが珍しいものではなくなりました。このチームは「クラウド活用推進組織」や「クラウド CoE (Centre of Excellence)」、もしくは省略して「CCoE」と呼ばれています。

皆様、こんにちはカスタマーソリューションマネージャー (CSM) の越川です。CSMとして様々な業界のお客様のCCoEの設立や支援を行っております。CCoE設立を考えるお客様と接する中で、共通して観察された悩み事は以下3点ございます。

  • ビジネス戦略と合致する効果的なCCoEをどのように設立すればいいか
  • ビジネス戦略を支援するためにどのような機能をカバーすればいいだろうか
  • どのようにCCoEを設立し、発展してばいいのだろうか

本ブログでは、このような悩み事を解消する一助となるように過去のブログを参照しつつ、CCoE構想のためのステップをご紹介させていただきます。

この記事は、以下のような方を読者として想定しています。

  • まだ CCoE を組成していないお客さまで、CCoE について知りたい もしくは CCoE を組成しようと考えている方

ステップ1. 課題の洗い出し

CCoE 活動検討のはじめの一歩ではAWS クラウド導入フレームワーク (AWS CAF)を紹介し、課題を起点に考えることをお伝えしました。また今から始める CCoE、3つの環境条件と3つの心構えとはではCCoEが組織をまたがる課題を解決する重要性をお伝えしました。それではまだCCoEが存在していない組織ではどのようにクラウド活用/統治における課題を考えればよいでしょうか。

課題を考える際には複数の視点で考えることが重要です。例えば現在クラウド利活用で直面している課題を洗い出す際にも、考える人が属しているレイヤーにより洗い出される課題が異なります。組織の戦略を考えるマネジメント層では、クラウド含む様々な新たなテクノロジーが現れ、それらをビジネス戦略を実現しつつどのように利用していくかという点が課題であることもあるでしょう。翻ってマネージャー層ではビジネス戦略に対応するための人材を揃える必要があり、人材育成が課題であったり、人材の分配 (アロケーション) の部分が課題であったりするでしょう。担当者レベルでは、プロジェクトの中で発生する技術的課題/問題に対しての対処が課題であったりするでしょう。

課題検討の時間軸を変えてみたらどうでしょうか。現在直面している課題ではなく将来直面するであろう課題は何でしょうか。
お客様の数が急激に増え、例えば10倍になった場合に、現在の体制/プロセス/ルールで発生する課題は何でしょうか。お客様の急激な増加にシステムは耐えられるでしょうか。

状況を変えるといかがでしょうか。現在は日本国内で営業しているかもしれませんが、ヨーロッパで同じように運営する場合にEU一般データ保護規則 – General Data Protection Regulation (GDPR) – に準拠する必要があります。その場合、各種データ取り扱いに関するプロセスを整えることも課題となりますが、データ保護やシステム的な観点では課題はございませんでしょうか。

このように課題の洗い出しを様々な観点で行うことにより会社としての潜在的な課題を洗い出すことが可能となります。そのためこの課題の洗い出しを行う際は、一人で実施するのではなく、複数の異なる視点をもつ関係者を集めてブレインストームを行うことが肝要となります。

CSMチームが実施するCCoE設立支援のためのワークショップ – CCoE Initiation Workshop – でも上記の考え方を取り入れ、複数の観点が得られるように以下の参加者を推奨しております。

  • 意思決定者であり、人的/戦略的判断をする方
  • 将来CCoEメンバーとなると想定される方
  • 現在のクラウド活用の中で課題を感じている方

ステップ2. 課題に対して会社としての対策を考える

課題の次に対策を考えます。このステップで重要なことは CCoE が実施可能な対策やタスクを考えるのではなく、会社として実施をするべき対策という点で考えます。多くの課題はCCoEが直接解決するものではなく、他部門/他部署と調整して解決に向けて進めていく必要があるタスクとなります。またCCoE 活動検討のはじめの一歩に記載の通り、CCoEの役割や注力範囲はビジネスの状況やクラウド成熟度に応じて変化します。そのためCCoEとしてではなく、ゼロベースで様々な制約を考えずにステップ1で出た課題に対して会社としてどういった対策を実施することが最良かを考えます。

課題の対策の考案に際して、洗い出す観点が必要な場合はAWS クラウド導入フレームワーク (AWS CAF) をご利用ください。それぞれの課題に対して、技術領域 (Platform、Security、Operations) と非技術領域 (Business、People、Governance) の観点から対策を考えることにより、対策案をより幅広く発案することが可能となります。

CAF3.0

またこのステップ2でも大切なことは複数の観点から、対策を考えることです。ある課題に対してセキュリティ担当者であれば、ルールやガイドラインの構築をすることを対策の一つとして考えるかもしれません。しかし同じ課題に対して、人材育成を行っているマネージャーであれば、トレーニングを実施することが対策として考えられるかもしれません。そのためステップ1と同様に複数の関係者を招き、ブレインストームを実施ください。


ステップ3. 対策の分類

課題があり、それらに対して対策が考えられました。最後のステップは対策の分類を行っていきましょう。課題対策の実施はCCoEだけでなく、会社内の様々な組織で実施する必要があります。また対策の内容によっては、パートナーの助けを借りる必要があるかもしれません。そのため課題を分類する中で、CCoEとしての作業、役割と必要な人材を考えると共に、どのようにCCoEが他組織と関わっていくかを検討します。

対策の分類は大まかに3つのカテゴリを利用して行います。

CCoEが直近実施するべき対策

新たに設立されるCCoEが設立1年間程度の間に実施しなければならない対策をこのカテゴリに分類します。

CCoEが将来実施するべき対策

CCoEが設立された後将来実施するべき対策をこのカテゴリに分類します。このカテゴリに分類する際に、2年後、3年後、4年後といった形で年単位で実施する対策を区切ることは推奨いたしません。これは将来実施するべき対策は直近実施するべき対策やCCoEのその時の優先度に応じて大きく変化するためです。そのためこのカテゴリに分類された対策は、いわばバックログという形で残しておき、将来CCoEの実施する作業を再度検討する際に利用します。

他部署・他部門に依頼する対策

全ての作業をCCoEが実施する必要はございません。クラウドセキュリティガイドラインの作成というタスクがあった場合に、セキュリティチームに作成依頼をだすこと、また作成されたガイドラインをレビューすることがCCoEのタスクとなることもあるでしょう。クラウド人材育成とそれに合わせた評価/キャリアパスの整備といったタスクであれば、人事部と調整をしたうえで進める必要があるでしょう。このような形で関係部署や組織をこのステップで洗い出しておき、CCoEがどういった目的でコミュニケーションや連携を行っていくかを明らかにします。

ここで分類が終わった後にもう一度各タスクを見直します。特に直近実施するべき対策はハードルや条件がないかを確認します。これらはイネーブラーとなり、タスクの実行を可能にします。例えば クラウド活用に向けた人材育成計画を立てるといったタスクがあった場合に、知識・経験がないといったハードルがあります。外部トレーニングを実施することにより、このハードルをイネーブラーに転換しタスクの実行可能性を高めます。このように各タスクのイネーブラー有無を、人・スキル・経験・プロセス・組織・権限・文化の観点から確認し、それぞれのタスクに付記し、これらに対してのアクションも検討します。

最後に、直近と将来実施するべき対策とそれぞれのイネーブラーに応じて、CCoE組織に必要な人材と役割を定義します。


まとめ

本ブログでは新たにCCoEの設立を検討されている方に向けて、構想のステップを紹介させていただきました。

  • クラウド利活用を組織全体に進めていく場合の課題を考える。
  • 課題に対して会社としてとりうる対策を洗い出す。
  • 洗い出した対策をCCoEが直近実施する作業、将来実施する作業、他組織に依頼する作業に分類する。分類した内容を基にCCoEに必要な人材、能力、役割を定義し、他組織との役割分担を検討する。

どのステップにおいても複数の観点で実施することが重要です。

CSMチームが実施するCCoE設立支援のためのワークショップ – CCoE Initiation Workshop – は上記のステップに従い構成されております。 CCoE設立にあたり興味がある方は担当のアカウントマネージャーにご相談ください。

参考情報

著者

カスタマーソリューションマネージャー 越川 浩治