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実践企業に学ぶ生成 AI 導入の勘所 〜眠るデータを企業価値に変える〜 – AWS Local Executive Roadshow 博多編(#6/8)開催レポート

こんにちは。Amazon Web Services Japan のソリューションアーキテクト、田中 里絵 です。

本ブログは、2026 年 4 月〜5 月にかけて全国 5 拠点・計 8 回で開催した「AWS Local Executive Roadshow」シリーズの第 6 回レポートです。シリーズの背景や全体像については、初回の大阪・事業会社編レポートをご覧ください。

大阪・名古屋・広島に続き、2026 年 4 月 28 日は福岡にて、AI を自社の業務に活かしたい企業のエグゼクティブ・情報システム部門の皆様をお迎えし、「実践企業に学ぶ生成 AI 導入の勘所 〜眠るデータを企業価値に変える〜」と題したイベントを開催しました。

イベントの流れ

当日はまず、Amazon Web Services Japan のソリューションアーキテクト木村 友則から「AWS で一歩先へ!生成 AI 時代のビジネス変革の打ち手」と題したオープニングセッションをお届けしました。生成 AI が「アシスタント」から「仕事を任せられる」存在へと進化してきた流れ、人手不足という社会課題に対して AI エージェントが果たせる役割、そして AI コーディングツールの Kiro と AI エージェントプラットフォームの Amazon Quick を、デモを交えてご紹介しています。セッションの詳細については初回の大阪・事業会社編のレポートをご覧ください。

ソリューションアーキテクト木村によるオープニングセッション

写真: ソリューションアーキテクト木村によるオープニングセッション

AWS 側のセッションを通じて生成 AI 活用の全体像とイメージをつかんでいただいたあと、パネルディスカッションへと進みました。ここからは、実際に社内への生成 AI 展開に取り組まれた企業様に、その現場で得られた知見をお話しいただきました。

事例紹介:株式会社オーレックホールディングス様 〜「禁止から活用へ」中堅製造業の現場主導 AI 展開〜

事例紹介は 株式会社オーレックホールディングス 様です。福岡県八女郡広川町に本社を置く農業機械・草刈り機のメーカーで、グループ全体での従業員数は約 580 名、創業 1948 年の中堅企業です。乗用草刈り機の部門で国内トップクラスのシェアを持ち、フランスの農業機械ブランドの展開を含めグローバルに事業を展開されています。当日は AWS 木村がモデレーターを務め、経営本部 ソリューションシステム部の岡原 徹 様・月足 浩騎 様・次郎丸 雪衣 様に、実際に社内で進められている生成 AI の展開についてパネルディスカッション形式でお話しいただきました。

きっかけは、全社的な AI 活用の方針転換

お取り組みのきっかけは、2024 年 7 月、社長から「競争力強化のため、安全な環境で生成 AI を積極的に活用していこう」という方針が打ち出されたことでした。実は、オーレックホールディングス様は、生成 AI が話題になり始めた 2022〜2023 年頃、社内情報が外部に学習されることに対する懸念から、社員による生成 AI の利用を一律で禁じていた経緯がありました。しかしながら、生成 AI の活用が世の中的にどんどん広がる中で、「禁止しているだけでは取り残されて競争力が落ちてしまう」という認識に変わり、安全な基盤のもとで活用していこうという方針の転換を経て、AI 活用のプロジェクトが始まりました。

セキュアな基盤と、社員のリテラシー向上の両輪で

AI 活用を推進するにあたり、同社が重視したのは 2 つの柱です。1 つ目は、セキュアな AI 基盤を社内に整備すること。2 つ目は、利用者となる社員の AI リテラシーを引き上げることです。ツールを配るだけでは、機密情報の意図しない入力や、AI のハルシネーションを鵜呑みにしてしまうといったリスクが残ります。安心して使える基盤の構築と、正しく使うための教育を同時に進める方針を立てました。

社内 IT 基盤のツールとして選定したのが、AWS が公開する OSS の生成 AI アプリケーション Generative AI Use Cases(GenU) です。選定の決め手は「セキュアに利用できること」と「スモールスタートできる価格設定」の 2 点でした。経営層の方々は、AI 活用の初期の段階から大きな投資をするのではなく、効果を見極めながら段階的な投資をしたいという考え方があったため、トークン単位の従量課金で、比較的安価に利用開始できる GenU がニーズに即していると考えました。また、GenU は、すぐ使えるユースケースがあらかじめ用意されていて、非 IT の担当者でも使い方のイメージが持てた点も選定のポイントになりました。選定から導入までスピード感を持って進め、2024 年 12 月末には導入を完了、運用をスタートさせることができました。

「触ってもらう」から始めた段階的展開

展開にあたって、社員の皆様に段階的に利用を開始してもらうアプローチを取りました。AI 活用の第一期生として、英文ライティングが多い海外営業部門、すでに個人的に生成 AI を使っていた社員を含む 56 名に AI のアカウントを配布しました。少人数で自由に AI を活用した業務課題解決を探索してもらうことで、ユースケースの発見を促すとともに、早期のリスクの洗い出しにもつなげる戦略を取りました。その後、効果が出てきたタイミングで、第二期生として部課長や開発部門など 35 名に追加配布、さらに希望者には都度配布…といったように、利用範囲を段階的に拡大しました。

アカウント配布と同時に、AI の勉強会を実施しました。AI の得意不得意、業務利用時の注意点、プロンプトの作り方の基礎を利用者部門に伝え、より効果的な活用を促しました。さらに、「利用者同士の座談会」を開催し、活用率の高い社員が日頃どのように使っているかをざっくばらんに話してもらう機会を設けたり、アンケートを通して横展開を支援したりなど、細やかなケアを続けていきました。

もう一つ、ユニークな取り組みとして、チャットボットの名前を公募で選定した点を挙げられました。全社員が親しみを持てるよう、自社製品の乗用草刈り機「ラビットモアー」にちなんでウサギのキャラクターを設定し、名前を公募しました。最終的に、「AI ちゃびっと」という名称で社内で親しまれるようになりました。今では名前とキャラクターが広く浸透、定着しています。公募という形にしたことで、社員が自分たちのプロジェクトとして参加意識を持てたことも浸透を後押しできたと考えています。

成果:全社員の 40% が自発的に使い始めた

現在の利用状況は、全社員の約 40 %にあたる 200 名が活用しています。そのうち 100 名以上は「自分で使いたい」と手を挙げて始めたメンバーです。当初想定していた文章作成や検索だけでなく、特許調査への組み込み、営業向けのプロンプトの定型化、法令チェック、温暖化係数の計算・ライフサイクルアセスメント解析といった、より専門的な業務での活用まで広がっています。方針が出た時点では社内のどの業務に AI を使えるかというイメージが全く持てなかった状態からのスタートでしたが、情報システム部が一つひとつユースケースを発掘するのではなく、現場が自分たちの課題に AI を当てはめて使い方を見つけてくれた結果でした。

一方で残る課題として、3 点を率直に話していただきました。1 点目はリソース不足で、他のプロジェクトとの兼ね合いで生成 AI の推進が後回しになりやすいこと、また同じ立場で AI 展開を進めている社内外の仲間が少ないこと。2 点目は効果測定の難しさで、AI 活用の成果を定量的に示す手段がまだ整っていないこと。3 点目は社員の皆様への継続的な AI の知見のアップデートです。業務ツールへの AI 組み込みが増える中、継続的な取り組みの重要性を語っていただきました。月足様からも、「AI が質問者に寄り添った回答をしてしまう」という特性があるため、AI のリスクを正しく理解し、最終判断はあくまでも人間が下すという姿勢を社内に根付かせていく必要性を語られました。

横展開を支えた「信頼の土台」

岡原様は、「普段からクロスファンクションでコミュニケーションを取っていて、工場にはデジタルサイネージを設置して IT 部門の活動を発信していた。『IT 部門に頼めば、きっと期待に応えてくれる』という、社員の皆様からの信頼の土台があったから、今回の横展開もうまくいった」と振り返られました。AI のプロジェクトが始まる前から積み重ねてきた地道な活動こそが、全社展開の推進力になった——この話は、参加者の皆様にとっても示唆の大きいポイントでした。

オーレックホールディングス様によるパネルディスカッション

写真: 株式会社オーレックホールディングス 岡原様・月足様・次郎丸様、AWS 木村(営業)によるパネルディスカッション

まとめ

セッション後には参加者同士のグループワーク・ディスカッションやネットワーキングの時間を設け、自社の AI 活用における課題について活発な議論が交わされました。「IT に詳しくない担当者が手探りで進めた」というリアルな話に共感の声が多く、「同じ悩みを持つ方と話せた」「自分たちだけじゃないと安心した」といった声をいただきました。製造業・中堅企業という条件の中でも、小さく始めて着実に広げていくアプローチが確かに機能することを示してくれたセッションでした。

このブログシリーズでは、本イベントの開催レポートを各拠点の開催順にお届けしていきます。今回お届けした福岡編に続き、次回は北海道編を予定していますので、どうぞお楽しみに。

そして読者の皆様へ──もし本ブログを読んで「うちの会社の取り組みもぜひ発信したい」「AWS と一緒に自社の眠るデータを価値に変えたい」「AI で日本をもっと元気にしていきたい」と感じていただけたなら、ぜひ担当営業、あるいはお近くの AWS メンバーまでお気軽にお声がけください。

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執筆者

Amazon Web Services Japan 合同会社 ソリューションアーキテクト 田中 里絵