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機会リスクと遅延コスト

Risk私たちは、徹底的な分析とデューデリジェンス (訳註:当然に実施すべき注意義務) はマネージャーの仕事の重要な部分であると教えられています。決定を下す前に、時間をかけて深く分析することには確かに安心感があります。トレードオフがあることを指摘するためだけに、このことに疑問を投げかけるつもりはありません。 優れたマネージャーは、意思決定をサポートするために多過ぎず、また少な過ぎない「適切な量」の分析を行う必要があります。より少ない分析を支持する要因と、より正当化する要因があります。

遅延コストと機会コスト

もし、検討中のアクションがビジネス価値を生み出す場合、そのアクションを 1 日先延ばしにするたびに毎日、コスト (機会コスト) が発生しており、それはビジネス価値を毀損するものです。たとえば、投資 A により会社は年間 1 億ドルを節約できるとしましょう。もちろん、 A によりどれだけ節約できるかを事前に正確に知ることはできませんが、暫定的な見積もりは 1 億ドルだと考えてください。 つまり、アクション A を実行するかどうか最終決定するまでの毎日、会社は支出せずに済んだ 27 万ドル (訳註: 1 億ドル / 365 日) を払い続ける可能性があります。意思決定のための分析を行う毎日には、27 万ドルの価値があるのです!同様に、年間 1 億ドルの収益が見込まれる新製品の開発を検討している場合、意思決定するために分析を続ける毎日のコストは 27 万ドルであり、これは機会損失のコストです。 これらの機会コストや実際のキャッシュアウトは、株主価値に影響を与えます。

このことを取り上げるのは、クラウドへの移行を検討している企業が、彼らの分析を「終わらせる」ために多くの時間を費やしてインスタンスコストのスプレッドシート (訳註:クラウド移行後のランニングコストを試算するためのスプレッドシート) をいじっているのを、よく目にするからです。そうして得られる追加の精度が、決定に影響を与える可能性は低いと言えます。なぜなら、結果としてどのようにクラウドを使用することになるかについては非常に多くの不確実性があり、企業がクラウドに期待する主な利点はアジリティ (俊敏性) 、レジリエンス (回復性) 、イノベーション (革新) 、そして市場投入スピードなどであって、これらはスプレッドシート上にあるものではないからです。計画とデューデリジェンスが悪いと主張するのは難しいですが、実際、悪くはありません。それらは義務です。 しかし、それに費やされる時間にはトレードオフがあり、価値を失わせる可能性があります…そして、経営幹部の責務は、生み出す価値を最大化することですよね?

機会リスク

「機会リスク」という用語が、他の誰かによって使用されているかどうかはわかりません。 私が言いたいのは、機会コストと同様に、会社が不必要に負担しているリスクのことです。もし、あなたが、ビジネスリスクを軽減する活動を検討している場合、その活動を検討するために費やす毎日は、会社が必要以上のリスクを抱えている日々と言えます。機会コストと遅延コストは、具体的で識別可能な ROI を持つ活動と関連づけられます。機会リスクも同様に重要ですが、確率、選択肢、および未知の事柄に関連しています。ただし、機会リスクは遅延コストと同様に、意思決定の分析に費やす必要のある時間とのトレードオフがあります。 リスクを必要以上に長く負担することは、効果がそれほど明白でなくても、ビジネス価値を毀損します。

これは、クラウドとDevOpsへの移行を検討している企業にとって、さらに大きな要素となる場合があります。多くの企業は、クラウドとDevOpsへの移行を検討しています。これは、革新的な競合他社に対して大きな遅れがあることに気付いたためです。 これは、たとえば金融サービスではよくあることです。彼らの戦略的必須事項は、破壊的な競争によるリスクを減らすことですが、毎日、クラウド移行を延期するたびに、リスクにさらされ続けています。ここに緊急性の意識が必要です! このリスクは本当にそこにあるのです。僅かな金額差のためにスプレッドシートをあれこれいじり続けるのは、おそらくリスクに見合う価値がありません。これは、企業が直面する多くの機会リスクの1つにすぎません。クラウドでは、セキュリティ、コンプライアンス、レジリエンス、さらには市場の変化に応じてインフラストラクチャがニーズを満たさなくなるリスクを減らすことができます。

機会リスク、機会コスト、および遅延コストを強いるのは、スプレッドシートいじりだけではありません。 多くの場合、リーダーシップチーム全体で合意形成する必要があり、議論のための経営幹部のスケジュール確保が遅延していることがあります。また、複数年に渡る長期の移行計画を作成しようとして多くの時間を費やしてしまっている場合があります (早期の価値実現には、短期計画を作成し、後行程で更なる計画立案する方が有益です。)

繰り返しになりますが、厳密な分析、デューデリジェンス、および計画策定が悪いと言っているのではなく、トレードオフがあり、これらの活動に費やされるべき「適切な」時間の長さがあることを申し上げたいだけです。極端に言うと、クラウド移行にポジティブな価値がある場合、分析を続ける停滞した毎日には遅延コストが発生しています。

ここでもう1つの要素、一種の隠れた遅延コストをご紹介します。それは、遅延の文化的影響、またはリーダーシップが重要な決定を下すのが遅いときに送り出されるメッセージです。企業がクラウド移行に期待する最も重要な利点の1つはスピードであるため、経営幹部による決定の遅れは、スピードが重要であるという従業員へのメッセージを弱体化させる可能性があります。クラウドの真の価値を活かすには、スピードと緊急性を意識した行動 (sense of urgency) に価値観が置かれる企業文化へと変わっていく必要があります。遅延コストは、機会コストと機会リスクだけでなく、デジタル世界のスピードで戦略実行する企業文化のコストでもあります。

Mark

Mark Schwartz

Mark Schwartz

Mark Schwartz は、アマゾンウェブサービスのエンタープライズストラテジストであり、The Art of Business Value and A Seat at the Table:IT Leadership in the AgeofAgility の著者です。 AWS に入社する前は、米国市民権および移民局 (国土安全保障省の一部) の CIO、Intrax の CIO、および Auctiva の CEO を務めていました。 彼はウォートン大学で MBA を取得し、イェール大学でコンピューターサイエンスの理学士号を取得し、イェール大学で哲学の修士号を取得しています。

この記事はアマゾンウェブサービスジャパンの大塚信男が翻訳を担当しました (オリジナルはこちら。)