AWS Startup ブログ
【開催報告&資料公開】ML@Loft 第8回 「量子コンピュータ x 機械学習」(Part 2: パネルディスカッション編)
ML@Loft #8 「量子コンピュータ x 機械学習」(後半:パネルディスカッション)
AWS 機械学習ソリューションアーキテクトの宇都宮 ( Twitter: @shokout ) です。本ブログでは、2019年11月20日に実施された ML@Loft 第8回 「量子コンピュータ x 機械学習」の開催概要の後半編、パネルディスカッションの模様を書き起こし形式でお伝えします。
ML@Loft は AWS 上で機械学習を開発・運用しているデベロッパー・データサイエンティストのための、コミュニティイベントです。第8回は「量子コンピュータ」と「機械学習」について、アカデミック・ビジネスの第一線で活躍されている方々をお迎えし、後半は参加者全員参加型のパネルディスカッションで意見・知見の共有を行いました。大阪大学の根来さん、メルカリの久保さん、大阪大学 藤井さん、MDR 湊さん、東芝 後藤さんの10分ずつライトニングトークに続き、後半は slido で会場にお越しの皆様からいただいたご質問・フィードバックを元に、パネルディスカッション形式でのお悩み相談会を行いました。
前半のLTの様子は、【開催報告&資料公開】ML@Loft 第8回 「量子コンピュータ x 機械学習」(Part 1: LT編) でお伝えします。
【参考リンク】 togetter: ML@Loft 第8回 「量子コンピュータ」x「機械学習」#MLLoft #AWSLoft
パネルディスカッション
- 量子超越性とは?量子コンピュータの実用化は間近?実現されたら何が解けるようになるのか、その実力は?本当に使えるようになるの?量子コンピュータの研究者や開発者はどんな世界を目指しているのか?会場から寄せられたご質問をベースに、量子コンピュータに関する素朴な疑問を、量子コンピュータ業界を牽引している登壇者の方々とパネル形式でディスカッションを行いました。非常に興味深かったので、書き起こし形式で会場の温度感をそのままにお伝えします。
量子超越性について
写真)右から、根来さん(大阪大学)、藤井さん(大阪大学)、久保さん(メルカリ)、後藤さん(東芝)、湊さん(MDR)、宇都宮(AWS・ファシリテート)
根来氏(大阪大学):実験家からすると、どういうものを作らないといけないかという難しさを想像できる分、作りますと2016年に宣言して、Martinis が本当に実機を作ったということに感動しましたし、勇気をもらった。僕らもああいう仕事をしたいなと思えるすごい結果だったと思いました。
久保氏(メルカリ):僕は割と最近量子計算を始めたので、根来さんがおっしゃったようにとてもすごいことだと認識しているが、実機の実現がどのくらいすごいのかは正直分かっていない部分がある。アルゴリズムの研究開発をやる上では、実機ができてもらわないと困るというところがあるので、実機が確実にできているっていうのはうれしいことだと思う。
後藤氏(東芝):量子超越性の実験は、一昔前だと本当に夢のようなマシン。もちろん何年もの積み重ねの結果だが、ここ最近すごい進歩が明らかになって、あそこまでいった。他のスパコンで近いところまでいけるかもしれないですけど、スパコンをフル活用してやっと近くまで行けるようなものを実際に量子で作ること自体が、昔の量子コンピュータのハードの人からすると、夢のようだったので、科学技術の進歩という意味では十分な成果だと感動した。ただ、実際に使えるソフトウェアを扱う物理系という観点からすると、いろんな意味での実用化はもうちょっとかなという感じはする。
湊氏(MDR):MDR でも量子回路を作っているが、実機使ってどんな問題が解けるっていうのは、今後期待が大きくなってくる。D-Wave が2015年に発表したときに、たまたまその直後にロサンゼルスの Google にいて、当時は D-Wave は絶対流行んないよねみたいな雰囲気で、ひと悶着あったが結局前に進んだ。今回の論文に関しても、スピード面に関しては疑いようがなく早いのは間違いないと思うので、この業界が前に進んでいくのは変わらないと思う。
宇都宮(AWS):ちなみに、今回ご登壇者の方々、根来さんは実験家、湊さんはベンチャー、残りの3名は理論家の方々、という立場で量子コンピュータを考えられていると思うのですが、量子超越性のような実験結果が出ることによって、理論家の方々の研究というのは実験の進歩によって変わってくるものなのでしょうか。
藤井氏(大阪大学):僕が研究を始めたときは、机上の空論みたいなもので、2006年の時の研究では10^10個の量子ビットを扱うという、絶対実験できない理論研究をしていました。それが今や50量子ビットだけれど本当に実験で動く世界になってきたので、理論を考えて提案すると実験で検証できるという、本来物理学のあるべき姿になってきたっていうのが、すごくエキサイティングだと思う。
光量子コンピュータについて
宇都宮:まず一番いいねがついている人気の質問から。みなさんもよくご存じの東大の古澤明先生は光の量子コンピュータを研究されていますね。「大規模な光の量子回路ができると報道されている一方、すぐに使える感じがしないのですが、どういうところがネックだと思われていますか?」難しい質問ですがいかがでしょう?
根来氏:古澤先生は、光方式の「量子テレポーテーション」という実験をアメリカで成功させて、そのまま日本に帰ってきて、光の量子コンピュータを作るようになった、本当に僕からしたらスーパースターの人です。「量子コンピュータの冬の時代がきても、量子コンピュータを俺は作るんだ」とずっと、言い続けて、いろんな方式が盛り上がる中、ずっと光を貫いて、大規模実装の方法を最近提案されている方です。この方法を本当に進めていったら面白いなと思います。さきがけの一期下の武田さん(古澤研出身)の研究開発を目の当たりにして、すごい覚悟を持ってしっかりと前に進んでいるので、本当に応援しています。光のボトルネックは宇都宮さん詳しいでしょうか。
宇都宮:光のボトルネックというと、波長が1マイクロオーダー程度と比較的長いために、チップにする際の集積化のボトルネックになりがちかと思います。そのため、時間領域で量子ビットを多重化させるタイムビンという考え方を古澤先生も採用され、大規模化を目指されていますよね。集積化やスケーラビリティという観点で頂いている質問をご紹介します。「スケーラビリティという観点では、どんな量子コンピュータが主流なのでしょうか」。湊さんからはイオントラップをご紹介いただきましたが、様々な実装方式のメリット、デメリットなど教えてください。
量子コンピュータの様々な実装方式とスケーラビリティ
根来氏:今回の53量子ビットの実験結果が示された超伝導ですが、John Martinis が Caltech で講演した際、1000量子ビットまでは考えているという話をしていました。さらにその先はどのくらいの冷凍機が必要になるかを考えていて、その冷凍機の大きさになるかは秘密だとか。多くの専門家は100万とか1000万にたどり着くような実装方法がどこまで現実できるのかはなかなか詰め切れていないのが現状かと思います。一方イオントラップの場合、今70量子ビットとか出てきていますが、イオンの量子状態と光とを結合させ、光を使って隣のイオントラップ同士をつなげるという方式が、僕と同じ阪大の量子情報生命研究部門の高橋優樹先生(2020年4月から OIST 沖縄科学技術大学院大学)によって研究されています。こういった技術開発がどんどん進んでいけば、大型のイオントラップによる量子コンピュータができるのではないかと期待しています。
宇都宮:ありがとうございます。藤井さんからは量子ムーア則という興味深いグラフを示していただきましたね。
藤井氏:量子ムーア則は、1000量子ビット以上に本当にスケールするような方式っていうのはないとか、えいやと線を引いています。面白いなと思うのは、量子力学に従う系でも色々個性はあって、例えば超電導の量子ビットは人工的に作った回路なので設計がしやすい代わりに、サイズの不均一性がある。イオントラップのイオンは神様が作った原子なので、特性も揃う一方で、制御しようと思うとトラップしているところからポロっと逃げてしまったりするし、一万個を同じトラップでトラップすると冷却が難しくなる。そうすると光と結合させ拡張性を担保する必要がある。究極的な量子コンピュータにどう攻めるかっていうパスはいくつかあって、「量子ビットを一つ作る方法は一万通りあるけど、一万ビットを集積化する方法は一通りしかない」みたいな名言もあったりします。量子コンピュータの実現方法には、多様性があって、研究者としてはそこが面白いなと思っています。
量子誤り訂正と機械学習
宇都宮:誤り訂正を実装するためには、実機のスケーラビリティを担保するのが難しいという課題が常につきまとうかと思います。今日の久保さんのお話で、誤り訂正がない場合でも、厳密解ではないが、近似解法として有用な計算が実現できるという話がありました。本日のイベントは「量子コンピュータ×機械学習」というタイトルなのですが、量子誤り訂正のない世界では、量子超越×機械学習といった観点でどんな結果が期待できるのでしょうか。
久保氏:応用先として一番近いなと考えているのは、変分量子計算です。量子系に対して、何かしらの古典的なパラメータを用いて、欲しい関数を近似する事を考えています。元々量子コンピュータが二準位の量子系に対応しているので、電子や原子核など二準位の物理系の量子化学計算をマップする自然な流れです。変分量子計算は機械学習と考え方がとても近いと考えていて、機械学習分野からもそういった応用が考えられる事を期待しています。
湊氏:たくさんの人に量子技術を使ってもらうために、MDR としてもいろいろな仕事をしてきましたが、機械学習のフィルターを一個かませてうまくラップするということが必要になります。というのも、お客さんが直接量子回路技術を扱うには、一から勉強してもらうと2〜3年かかってしまい、かなり大変だからです。うまくフレームワークを作ってそこにデータ入れ、変分パラメータ調整である程度の解が出てきます。状態ベクトル量だけちゃんと読めれば、ある程度機械学習に取り組めるのかなと。量子機械学習の場合、物理の知識とかを使う分ハードルは少し高いですが、こういった領域がどんどん広がっていくと、結構面白くなってくるかなと思います。
たくさんの人が量子コンピュータを使えるようになるには
宇都宮:後藤さん、東芝さんでは AWS 上に SBM というイジングソルバーを、ユーザーが今すぐに使えるような形で提供されていますね。色々な人が専門性の高いマシンを使えるようになるという観点で、何かお話いただけますでしょうか。
後藤氏:量子コンピュータを量子ゲートから書ける人は、量子コンピュータの専門家じゃないと現状難しいと思います。先ほど紹介したイジングマシンも、イジングマシンを使いこなしていられる人にしか使ってもらえないようなお試しサービスであるのが現状です。将来的にはもうちょっと非専門家の人も使える形で提供しないと、裾野が広がっていかない。量子コンピュータもゲート操作レベルからユーザーが書かないといけないという時代がいつかなくならないと、量子コンピュータをみんなが使える世界は広がらないので、そのポイントは大事かなと思います。
宇都宮:ありがとうございます。会場からも「量子コンピュータを我々普通のプログラマーが、プログラミング可能な領域に落ちてくるのでしょうか」というのが人気のご質問として上がっています。
久保氏:僕がメルペイに在籍していた時は、ソフトウェアエンジニアで、チーム内にはブロックチェーンをやっている人がいました。例えば、低レイヤーの物理はハードルが高いので、アプリケーションレベルのアルゴリズムの SDK や、ライブラリなどが充実して来たらいいなと思っています。今の量子回路は、アセンブラの感覚に近いので、フレームワークみたいなものが出てくれば、もっと使いやすくなるじゃないかと思います。
藤井氏:僕はかなり低レイヤーが大好きで、そもそも開発環境がないころから手計算でやってきていて、量子回路を見ると大体気持ちが分かる人です(笑)。最近、いろんなツールが出てきています。今僕たちは、Python 上で動く Qulacs という量子コンピュータのシミュレータを作って、Yao というシミュレータと共に世界最速のシミュレータを競い合っています。そういったツールを使って、量子ビットって何?というところからはじめる、「Quantum Native Dojo」というオンライン教育教材を公開しています。最初からいきなり難しいところをやるとしんどいので、そういったツールやマテリアルを使って徐々に専門分野に慣れていくのが一番重要なのかなと。一見とっつきにくいですが、実際触ってみるとベクトルと行列の積など単純なので、慣れてしまうっていうところが重要なんじゃないかなと思います。
量子コンピュータの海外スタートアップ動向
宇都宮:ありがとうございます。ちなみに、会場の皆様に質問です。量子プログラミング的なものにふれたことがある方、どのくらいいらっしゃいますか? 3分の1ぐらい、すごい、さすが本日は意識高い方々がお集まりになっていますね。そして次の質問です「海外に比べて、日本の量子ベンチャーは少なく感じます。大規模な投資を見込めない日本では、量子の事業化は難しいと思われますか」こちらに関して、湊さんいかがでしょうか。
湊氏:海外ベンチャーはやっぱり人が多くて、CQC (Cambridge Quantum Computing ) って今ロンドンだと100人研究者がいるという話です。中くらいでも30名〜50名ぐらいいて、資本金も数十億〜百億。日本もベンチャーが足りないって雰囲気ではないと思います、地道にやっていく時期かなと思いますし、投資を受けるタイミングでいうと、日本では意外と金融機関の方も待っている状況だと思うので、あと2〜3年はチャレンジできるかなと思います。
宇都宮:「量子コンピュータに関する企業に転職したいです」こちらはいかがでしょう。
湊氏:MDR でも最近、インドのハイデラバードで一名採用したばかりです。非常に人材が豊富なので、今募集をかけていないところでも、メールすれば採用するところもあると思います。転職活動されている方は、いろんな企業にメールをひたすら打つのがいいかなと思います。
宇都宮:ちなみに日本の量子ベンチャー、どういったところがあるのでしょうか。藤井さん、根来さんもいろいろ関わられていますよね。
藤井氏:僕は QunaSys というソフトウェアのベンチャーの顧問をやっていまして、この会場の後ろに CEO がだらっと座っております(笑)。ベンチャーの方では、実際の社会にある問題を量子コンピュータに実装するところに力を入れています。大学では実装する人をいい給料で確保するのが難しい一方で、基礎研究をやるのは、アカデミックな要素が必要。我々大学サイドでアルゴリズム作り、QunaSys の方でそれを社会実装するというコラボレーションを進めています。そこでハードウェアが絡んでくれば、量子コンピュータとして発展するエコシステムができるはず。アメリカなどではエコシステムとかが出来つつあるので、日本でもその潮流がどんどんできていくといいなと思います。
根来氏:日本の量子ベンチャーが少ないという話、研究と開発とが入り乱れたビジネス状況の中海外の事例を見てみると、トップサイエンティストが事業化の最初のステージや顧問に関わったりします。量子機械学習でも有名なベンチャーにトップサイエンティストが直接関わっていて、そういったプレーヤーを大学からも、大学の周りでも出していく必要があります。量子機械学習は本当に難しくて、何が優れていて、いつ古典系よりも優れたものが出てくるのかなんて全然わからない魑魅魍魎とした状況で、研究者がどこに攻めていくべきかに関われるフェーズだと思います。研究者とビジネス側の人間が一緒になってできる分野だと思うので、大学はやるべきことを頑張ってやっていかないと、と思っています。
量子コンピュータ、学術界・企業で求められる人材
宇都宮:量子コンピュータ、量子機械学習分野で求められている人材とは?
藤井氏:最近、僕の研究室にもいろんな人が入って来ています。量子コンピュータのいいところは、情報と物理の境界領域で、かつアプリケーションを考えると化学や流体計算や、いろんなところに接点があるので、その人の強みを最大限に生かす方法はあると思います。それぞれが強いところを出し合って、多少の線形代数やベクトル行列の知識はちょっと勉強して頂いて、あとはそれぞれの強いところを活かすっていう、そういうコミュニティも重要だと思います。
根来氏:実装っていう観点で必要な人材っていうのは、量子力学のことが好きですごく勉強してくれる人がやはり重要だと思うんです。それに加えて、FPGA エンジニアのすごい人とか、マイクロ波エンジニアのすごい人とか、ロジックを作るのが上手な人とか、そういう人で量子コンピュータに右足だけじゃなくて両足突っ込むぞって言う人が増えてきたら、日本から量子コンピュータへの貢献ももっと増えていくのではないかと思っています。
宇都宮:後藤さん、今企業側で量子コンピュータなどの研究に求められているのはどんな人材でしょうか。
後藤氏:量子コンピュータはすぐに実用化が難しく、そういうものを会社でやるための、ストーリー作りとして、実際に事業化までどうやってもっていくか、基礎研究と両立できるような視点がもてる人がいいのではないかと思います。まだまだ基礎研究の分野なので、それがなかなか難しいのですが、やはり出口をちゃんと常に描きながら研究もできる人っていうのが大事かなと思います。
量子アルゴリズムのボトルネック
宇都宮:先ほどハードウェアのボトルネックの話がありましたが、「アルゴリズム的なボトルネック」についてはいかがでしょうか?
藤井氏:アルゴリズムについても、ボトルネックだらけです。量子コンピュータで何かを早くするという時に、いろいろ制限がかかります。例えば、量子機械学習を使う場合、逆行列が出てきますが、行列がスパースである必要があるとか、逆行列をかける右辺のベクトルが量子状態で与えられていないといけないとか、一定の条件下で量子加速ができると言う際に、従来の古典的な機械学習に制限を設けた上で同じ土俵で比較した際にどうなるかというのは、これまで検討されていなかったため比較が難しいと言う問題があります。
宇都宮:「量子コンピュータでサンプリングが早い理由を教えていただきたいです」、こちらはいかがでしょうか。
藤井氏:常にサンプリングが早いわけではないですが、量子コンピュータの出力ってある種の確率的なサンプリングになっているために、同様のサンプリングを古典コンピュータでどう実現するか考えなくてはいけないので、ある意味早くて当然という考え方です。量子と関係ない何かのサンプリングをしたいときに、量子コンピュータ使った方がサンプリング早いよ、というのが出てくれば、本当のアプリにつながると思いますが、そういう問題はまだまだこれからです。
社会人学生の日常
宇都宮:「社会人学生の日常、大学に行く回数とか研究の進め方、仕事の両立の方法などを教えてください」
久保氏:会社内では基本的に事業化につなげる部分は意識しなければいけないのですが、僕の場合は、基礎研究に近い部分で論文を出すとか、学会で発表するとか、そういったものが成果として認めてもらえるところにいます。僕は普段東京にいて、大阪大学の藤井研究室に月に一回ぐらい行ってゼミで発表したり。社会人博士として意識していることは特になく、割と特殊なケースだとは思います。
根来氏:量子コンピュータ業界がホットになってきて、量子のドクターをどんどん排出したいと言う大学が増えてきたと思います。大阪大学は本当にそう思っていて、社会人ドクターも増えてきて、これから制度ももっと整備していかないといけない。一方どう整備していいかわからないところもあり、社会人ドクターに興味ある人には、こういう風にしてくれたら行きたい、と言った希望があればぜひ教えて欲しいです。一緒にそういう仕組みを作っていって、日本から量子のドクターがどんどん出てくるようになってくればいいなと思っています。
量子コンピュータをどうやって勉強すればいいでしょうか? 〜 量子コンピュータ勉強会の提案 〜
宇都宮:今日ご参加いただいているみなさまの中にも、これから量子コンピュータを勉強される方も多いかと思います。実は本日参加されている、量子コンピュータの勉強仲間でエンジニアの中井さんと、量子コンピュータの勉強会を企画していますので、中井さんから少しお話いただきます。
中井氏(量子コンピュータ勉強仲間):こんにちは、中井と申します。私自身は現在、量子コンピュータの研究に関わっているわけではありませんが、数年前に量子コンピュータの勉強をはじめていくつかの書籍をあさっている内に、ある教科書に出会って、量子コンピュータの本質がものすごく腹落ちして理解できました。Michael NielsenとIssac Chuang (MIT の教授である Issac は私の出身研究室の先輩でもあり、私も2003年にこの本を読んで量子情報の勉強を始めました)が書いた、こちらの本(Quantum Computation and Quantum Information: 10th Anniversary Edition by Michael A. Nielsen & Isaac L. Chuang)です。教科書としての完成度が高く、量子コンピュータの基礎に関しては、これでほぼ完璧に理解できると考えて、身内のメンバーでこの内容を元にした勉強会を開いたりもしたのですが・・・これが意外に理解されませんでした。ITを専門とするメンバーでコンピューターサイエンスには詳しい人も多いのですが、どうやら、量子力学の基本原理のあたりが、理解のボトルネックになるようなのです。私自身は、たまたま大学で物理学を専門にしていたので、そこはクリアできたのですが、そうでない人が量子力学を本当に一から勉強するのも敷居が高いだろうと考えて、「量子コンピューターを理解するために必要最低限な知識」にしぼったブログ記事を2年近く前に公開してみました。
量子計算(量子回路)の考え方を理解するために最低限必要な量子力学の知識を(それなりに納得感のある形で)うまいこと導入する方法について考えてみた(目次)
これを書いている最中は、「500ブックマークぐらいついて絶賛がくるかも?!」と勝手な期待をしていたのですが、実際には、「なるほど、よくわからん」的な反応が多くて残念でした。で、改めて何がボトルネックなのかを考えると、やはり、量子コンピュータを「腹落ちして」理解するには、必要最低限ではだめで、量子力学や関連する分野をある程度普通のレベルで知っておく必要があるのかなぁと。量子力学を知らなければ量子コンピュータの勉強はできない、とまでは言いませんが、先ほどの教科書を読んで「なるほど。量子コンピュータの本質って、結局そうだったんだ!」という、あの「腹落ちする感動」を一緒に味わえる仲間を増やしたいと思っています。そのために、量子コンピュータを意識しつつも、量子力学をきちんと基礎から学んでいく、そのための勉強会を検討しています。
宇都宮:ご紹介いただきありがとうございます。量子コンピュータの勉強はなかなか敷居が高くて、物理や数学、コンピュータサイエンスといろんなことを吸収しないと理解できないハードルの高さがあり、適切な勉強材料を選んで効率よく勉強することはとても重要だと思います。そして勉強が進み、この辺の基礎はもうわかった、研究がしたいという方は、社会人博士で根来研や藤井研に進んでいただければと思います 🙂
最後に
お忙しい中ご登壇いただきました皆様、本音も交えた非常に貴重なお話をお聞かせいただき、そして多くの方に今回ご参加いただきどうもありがとうございました。登壇者の皆様に共通して、話題沸騰の量子コンピュータの現状とその背景にある技術力の深さを世の中に正しく伝えたい、そして何より量子コンピュータを着実に実現していきたいというとても熱い想いが共通して感じられる、素晴らしい時間でした。私自身も長きに渡って研究をしてきた量子コンピュータには非常に思い入れがあり、このような会が実現できて嬉しかったです。今回登壇者からも度々伝えられたメッセージである「正しく量子コンピュータを理解しよう」というテーマを、AWS でも勉強会の形でサポートしていきたいと思います。
2019年12月より、量子コンピュータ仲間中井さんと、量子コンピュータの名著である Nielsen-Chuangの「Quantum Computation and Quantum Information」を腹落ちして理解するための基礎固め勉強会を同会場 AWS Loft Tokyo にて開始しました。IT 系の方でこれまで物理の基礎を学ぶ機会が少なかった方、量子コンピュータを腹落ちして理解するための基礎知識を学びたい方など、月一程度の頻度で量子物理や線形代数などの基礎学問のエッセンスを、短時間で勉強するコミュニティです。大学で3ヶ月かけて教える解析力学をたった2時間でわかりやすくエッセンスを解説する、量子コンピュータ仲間、中井さんの物理講義シリーズからスタートしています。
詳細情報は、こちらの connpass ページで随時 update、 twitter ハッシュタグ #preNC でも情報発信しています。これを機に量子コンピュータの基礎から勉強したい!という方は是非、この勉強会にもご参加ください。皆様のご参加をお待ちしています。
【Connpass】 : 「“Pre Nielsen Chuang” 量子コンピュータ勉強会」
〜 量子コンピュータを「腹落ちして」理解するための基礎を勉強するコミュニティ〜
このブログの著者
宇都宮 聖子 (Shoko Utsunomiya)
AWS 機械学習ソリューションアーキテクト。自動運転、AI ヘルスケア・ライフサイエンス、ゲーム、スタートアップのお客様を中心に、機械学習と量子コンピュータのワークロードをサポートさせていただいています。好きなサービスは Amazon SageMaker と Amazon Braket。( Twitter: @shokout )
2003年〜2017年 国立情報学研究所にて、光半導体物性を用いた量子コンピュータ・量子情報研究に従事。2010年より 内閣府 ImPACT 研究開発責任者。