京セラコミュニケーションシステム株式会社(以下、KCCS)は1995年に京セラの経営情報システム事業部がスピンオフした会社で、京セラ、 KDDI の出資を受けています。現在は KCCS グループとして、「ICT」、「通信エンジニアリング」、「環境エネルギーエンジニアリング」、「経営コンサルティング」の事業を展開しています。

KCCS は、2011年頃から企業が持つ膨大なデータ資産、いわゆるビッグデータの有効活用に関する研究開発を開始し、その一環として、ウェブサイト上の行動情報をもとに効果的なレコメンド広告を効果的なタイミングで配信するDSP(Demand Side Platform)を自社開発し、現在「KANADE DSP」という名称でサービスを提供しています。

  • DSP (Demand Side Platform) とは
    広告主や代理店から予算を預かり、RTB で広告の買い付けを行うプラットフォーム / サービスです。リアルタイムに1インプレッションごとの入札を行うため、非常に高速な処理が要求されます。より多くの取引を成立させるために、高度かつリアルタイムに広告のターゲティング・最適化が要求されます。
  • RTB (Real Time Bidding) とは
    ディスプレイ広告を 1 インプレッションごとに、媒体をまたいでリアルタイムに販売 / 買い付けできる取引の仕組みです。媒体社にとっては販売単価が向上する点、広告主にとっては媒体をまたいだ広告配信の最適化・効果の最大化を図れることがメリットです。DSP と SSP という 2 つのプレイヤーが RTB によって取引をします。
  • SSP (Supply Side Platform) とは
    媒体社から広告枠を預かり、RTB で DSP へ販売を行うプラットフォーム / サービスです。こちらもDSP同様、非常に高速な処理が要求されるシステムです。複数の DSP から同時に入札を受け付けるため、並列性の高いシステムが求められます。

DSP システムは、ビジネス規模に合わせてスピーディーにスケール可能なインフラを必要とします。また、SSP やデータ提供事業者などの外部のシステム環境や、売上増加などのビジネス環境の変化に大きく影響を受けるため、そのスピードに合わせて、システムキャパシティを容易に増減できる環境が必要でした。

前述のような DSP システムに要求されるキャパシティ操作に関する柔軟性や、仮想マシンのラインナップ、そしてビッグデータを扱うための各種サービス環境などに重点をおいて、いくつかのクラウド事業者を比較した結果、AWS を選定しました。

実装のプロセスは非常にシンプルでした。AWS が提供している Amazon Machine Images(AMI) には、サービスで必要となるミドルウェアが標準搭載されているため、悩むことなくサーバの起動までを進めることができました。このため、Amazon EC2 インスタンスを立ち上げてアプリケーションをインストールし、システム構築はわずか 1 日で、テストを含めても 2 日で完了することができました。また AWS へのシステム移行も 1 日で完了しました。

今回 AWS を利用するのは初めてだったため、調査・準備期間は長めにとりましたが、特に大きな障壁に当たることはありませんでした。Amazon EBS のIO 速度をさらに速くする必要があると判断した際も、Amazon EBS の Provisioned IOPS 機能を利用することで解決することができました。

KCCSは 2012年 11月から AWS の利用を開始しており、現在はインターネット側のデータを収集するサーバを AWS 上で運用するために、Amazon EC2、Amazon CloudFront、AWS Direct Connect を利用しています。

DSP ではインフラコストがビジネス原価の大部分を占めるため、コストの最小化は非常に重要な課題です。設備全体をオンプレミスで構築した場合と AWS で構築した場合を比較して、導入後 3 年間で、3 割以上のコスト削減となりました。また、システムの人的運用負荷が大きく軽減されたことにより、人件費も大きく低減できています。

例えば、大型のクライアントを受注した際、あるサーバの Amazon EBS を拡張する必要があったのですが、すぐにスケールアウトすることができました。オンプレミスであれば対応できなかったことを考えると、急激なクライアント増加にも柔軟に対応できることを実感しました。

また、当社では不明な点があった際のために、AWS サポートの「ビジネスサポートプラン」を利用していますが、サポートレベルに大変満足しています。夜間でも電話対応していただけますし、ピンポイントな質問をしても丁寧に回答いただけます。こちらから複数の者が同時に異なる問い合わせをすることもありましたが、それぞれ別の担当の方がすぐに対応してくださり、スピーディーに問題を解決できました。

これまでは AWS はトータルコスト(セキュリティ、運用、障害対応にかかるコスト)に強みがあると考えていたのですが、最近では Amazon EC2 のクラスターコンピュートインスタンスなど、新しいインスタンスの登場により、ハイパフォーマンスなサーバを必要としているケースでも AWS のコストメリットを活かせるようになってきていると感じており、今後、これらのインスタンスの利用も検討予定です。

今回初めて AWS を利用して感じたのは、想定していたより導入障壁が低いということでした。導入準備に関しては AWS の担当者も積極的に技術協力してくださいました。初めての方でも容易に使い始めることができるサービスだと思います。

KCCS では DSP に加え、企業が持つさまざまなデータを連携し、マルチチャネルのマーケティング施策を支援する DMP (Data Management Platform) や、企業の公式スマートフォンアプリを活用した O2O ソリューションを展開しています。サービス範囲の拡大に伴い、取り扱うデータが多様化し、その量も膨大になりつつあります。これらのデータをリアルタイムに処理していくために、Amazon Kinesis によるストリーム処理や Amazon Glacier の大容量バックアップの利用を計画しています。

 

-  三谷 陽 様(京セラコミュニケーションシステム株式会社 インターネットメディア事業部 商品開発部 部責任者)