Infrastructure as Code によるサーバー構築の自動化が実現できること、
OSS を低コストで柔軟かつ俊敏に利用できる環境が整っていたこと、の 3 点を評価して AWS の採用を決めました。
情報通信、自動車関連、環境・エネルギー、医療・ヘルスケアを中心に幅広い事業をグローバルに展開する京セラ株式会社。独自の経営手法である“アメーバ経営”のさらなる推進に向けて基幹システムの刷新を決断した同社は、インフラ基盤にアマゾン ウェブ サービス (AWS) を採用。UNIX/COBOL 環境のオンプレミスシステムから最新のアーキテクチャによるクラウドベースのシステムへと進化を遂げました。新たなインフラ管理手法として Infrastructure as Code を採用し、構築の自動化を実現。M&A やユーザーニーズの変化に対して、より迅速な対応が可能になりました。
情報通信、自動車関連、環境エネルギー、医療・ヘルスケアの 4 事業を重点市場に定め、グループの総合力で価値のある製品やサービスを提供する京セラ。開拓者精神で事業を推進する同社が指針としているのが、創業者の稲盛和夫氏が考案した“アメーバ経営”です。アメーバ経営とは、組織を小集団に分け、独立採算制によって運用するもので、全員参加経営を実現する経営管理手法です。
同社の経営を支える基幹システムは、1980 年代にメインフレーム上にスクラッチ開発した COBOL ベースのシステムでした。事業の多角化への対応や業務改善のためのサブシステムを、オープンシステムとして周辺に追加・拡大していきました。
結果として、機能やデータの重複やシステムの複雑化が進んでいました。「このままでは事業部の要求やビジネススタイルの変化に迅速な対応ができず、グループ経営の強化の阻害要因となってしまいます。そこでメインフレームを中心とした基幹システムを、Java やクラウドによる最新アーキテクチャに一新することにしました」と語るのは、経営管理本部 経営情報システム部 副部長の藤田正則氏です。
基幹システムの再構築プロジェクトは、アプリケーションの要件定義や設計から着手し、2014 年頃からインフラを検討。そこで同社が着目したのが AWS です。開発環境での評価試験の結果や、他社での利用実績なども踏まえて、2016 年に本番環境を稼働させるインフラとして AWS の採用を決定。選定の理由として、経営管理本部 経営情報システム部長の平野克幸氏は以下の 3 点を挙げます。
「1 つめは、海外のグループ展開を想定したグローバルなインフラサービスだったことです。海外売上高比率が 60% 超の当社にとって、ワールドワイドに展開する AWS は不可欠でした。2 つめは、新たなインフラ管理手法として Infrastructure as Code が実現できること。3 つめは、OSS を低コストで柔軟に、俊敏に利用できる環境が整っていたことです。セキュリティや DR の機能も充実していたので、基幹システムの基盤として採用することに不安はありませんでした」
2016 年にプロジェクトが本格的にスタート。ピーク時にはアプリケーションチーム、インフラチーム合わせて 400 名ほどが参加する大規模プロジェクトとなりました。AWS によるインフラ構築と、業務アプリケーションの開発、テストなどを経て 2019 年 1 月に本稼働を迎えました。最大のポイントは、Infrastructure as Code によってサーバーの構築を自動化したことです。プロジェクトチームは、インフラ設計構築と自動化の 2 つのチームで構成。AWS 上での開発は初めての経験でしたが、学習しながら進めました。インフラ構築を支援した京セラコミュニケーションシステム株式会社 プラットフォーム事業部 京都ビジネスプラットフォーム2課 の北外圭太氏は次のように語ります。
「開発、検証、本番の 3 つの環境を合わせて数百台のサーバーを用意する必要があり、手作業では構築が間に合いません。そこで、テンプレートを使って環境を自動構築する AWS CloudFormation とAWS OpsWorks を用いて工数を削減しました」
サーバー構築の自動化により、アプリケーションチームの要望にも迅速に対応ができたといいます。経営情報システム部 システムインフラ1課 情報基盤係責任者の関山太朗氏は「当初は、開発、検証、本番合わせて 4 つの環境を想定していたものの、各事業部の業務アプリの開発・検証チームから検証環境を用意して欲しいという要望がありました。検証環境を 8 個まで増やす事態が生じましたが、Infrastructure as Code のメリットを享受して大規模な検証環境を即座に用意でき、各事業部が必要な機能を検証することが可能になりました」と話します。
アメーバ経営のコアとなる新基幹システムは、販売(受注・出荷)、調達(発注・入荷検収)、物流(在庫管理・輸出入)、経理、財務(債権債務)、管理会計など 14 の機能ごとに構成されたシステムとなっています。これまでは国内のデータセンター 2 ヶ所で BCP 対応してきましたが、今回は新たに AWS のシンガポールリージョンに本番同等の DR 環境を構築しました。日本国内の直接子会社 8 社の京セラ本体への統合を経て、現在は 3 社、2 万 6 千のアカウントを用意しています。今後、事業部の改善要望に応えながらシステムの完成度を高め、2020 年以降に海外への展開を進めていく考えです。
拡張性を備えた新基幹システムは、同社の経営価値向上に大きな貢献を果たしていくことが期待されています。平野氏は「経営目標として 2022 年 3 月期の売上高 2 兆円、税引き前利益率 15% を掲げる中、注力分野での M&A を積極的に進めることになります。自由度が高く、要件変更にも迅速に対応できる AWS を活用することで、インフラが足かせとなることなく経営に貢献することが可能になります」と語ります。
新基幹システムにより、データのリアルタイム連携が実現し、製造現場から営業部門までタイムリーな情報提供が可能になりました。今後はイノベーションを創出するシステム(SoE: Systems of Engagement:“つながり”のためのシステム)の取り組みとして、生産性倍増に向けて AI などを活用した新サービスの導入を計画しています。顧客のインサイトを理解する SoI(Systems of Insight:知見のためのシステム)の取り組みとしても、次の一手としてビッグデータの活用を検討中です。
「膨大なデータを持つ経営情報システム部は、データ活用によってアメーバ経営に貢献することがミッションです。現在、経営管理の KPI を AI で分析して各事業部が活用できる BI ツールの導入に向けて、Amazon Redshift を用いた分析基盤の検証を進めています。また、SoI の活用の推進によって生産性の向上に寄与し、従業員が働きがいを感じられる環境の構築を通して、物心両面の幸福を追求する京セラの経営目標の達成に貢献していきます」(藤田氏)
同社では導入時から現在まで AWS のエンタープライズサポートを通して継続的な支援を受けています。今後に対しても期待は大きく関山氏は「導入時は技術的な課題に対して即座に回答をいただき、安心感が得られました。運用フェーズでも引き続きの支援と新サービスの提案を期待します」と語ります。
「2021 年初頭予定の AWS 大阪のフルリージョン化により、低レイテンシーが求められるシステムのクラウド移行や BCP 対策が国内で可能になることにもクラウドの可能性を感じています」(経営管理本部 経営情報システム部 システムインフラ部責任者 荒尾 堂司氏)