NTTドコモ開発部門のクラウド移行と組織改革
顧客志向へのマインドチェンジとチームのレベル向上の両立
2020
巨大組織のサービス開発部門が率先してクラウドネイティブな組織を確立。全社のデジタル変革に波及する大きなインパクトに。
ビジネスのスピード感とオーナーシップをもって、周囲の理解を得ながら業務の実績をあげるとともに組織の変革を進めています
三井 力 氏
株式会社NTTドコモ
サービスデザイン部 第三クラウド推進
担当部長
AWS+準内製+アジャイルで
Biz、Dev、Ops の三位一体を実現
NTT ドコモはこれまでのモバイル通信の契約を中心とした顧客基盤から、ポイントプログラムの『d ポイントクラブ』を軸とした会員基盤への変革を進めており、コンテンツ配信、金融、決済、ショッピングなど多彩なビジネスを展開しています。同社の『サービスデザイン部』は、これらのビジネスを支えるデジタルマーケティング基盤や各種システム基盤を、ビジネス部門と連携をとりながら提供しています。NTT ドコモは 2012 年からアマゾン ウェブ サービス(AWS)を利用していますが、同部が開発を行うサービス基盤はオンプレミス環境が中心で、開発手法も基本的に外部ベンダーに委託契約し、旧来のウォーターフォール型で進めてきました。その中でいち早く、AWS の豊富なサービス群を組み合わせて開発を準内製化したほうが、スモールスタートでアイデアをスピーディに実現できると気付いたのが三井氏です。
「開発を外部ベンダーへ委託していたこともあり当事者意識が希薄で、お客様や競合他社を意識した開発ができていないと感じていました。そこで AWS 利用+アジャイル開発+準内製化に切り替えることで、社員が超高速開発をリードし、顧客価値の提供を実現できる体制を作ろうと考えました」
2016 年にサービスデザイン部に異動した同氏は、数年がかりで AWS ベースのアジャイル型開発体制へのシフトチェンジに乗り出しました。2019 年 8 月に全システムの AWS 移行を正式に決定し、急ピッチでクラウド化を推進。現在のサービス基盤の開発には、依頼元であるビジネス部門の担当者にも参加してもらい、Biz(ビジネス)、Dev(開発)、Ops(運用)の三位一体で進めています。
「3 者がワンチームとなることで風通しは格段によくなり、超高速開発、高速 PDCA による顧客価値の提供、自動化の推進、データ活用などが実現しています」(三井氏)
同氏の画期的な開発手法に周囲も注目するようになり、インフラ開発とアプリケーション開発と保守運用が一体となったほうが、結果としてスピードが早く自動化も加速して効率的という意識が次第に浸透していきました。
マネージドサービスを前提に設計
クラウドネイティブで再構築
2017 年以降、三井氏が率いる第三クラウド推進では、AWS のマネージドサービスの利用を最優先とする方針を掲げています。NTT ドコモのサービスを開発するにあたって、必要な機能をゼロから構築するのではなく、AWS 側で管理する OS やミドルウェア以下のレイヤーについてはユーザー側での故障に備えた冗長化やバックアップ、モニタリング、セキュリティ対策、パッチ管理、アップデート対応が不要になるマネージドサービスを組み合わせて実現するものです。三井氏が「世界で鍛えられたコードが埋まっている」と表現するように、AWS のマネージドサービスは開発者やお客様からのフィードバックにより改良、洗練されているため、確実に高速開発ができるという判断です。
マネージドサービスのみでは必要な機能や性能を満たさない場合は、AWS Lambda のサーバーレスに実行できる関数や Amazon ECS のコンテナで開発。コンテナの実行環境は AWS Fargate を主に使い、GPU 利用など現在 Fargate で対応がない部分は Amazon EC2 を使いますが、基本的にはクラウドネイティブな設計を前提に開発します。
「移行方針は、オンプレミス環境を AWS に載せ換えるリホスティングでなく、クラウドネイティブでゼロから再構築するリファクタリングです。これまでの 3 年間で 9 割以上の案件が方針どおりに実現しています」(三井氏)
また、復旧、監視、集計などマニュアル(手順書)に落とし込みができる作業はほぼ自動化し、運用を効率化。こうした取り組みは、今ではサービスデザイン部全体に波及しています。
やる気のある人が周囲を巻き込み
組織に改革の意識が拡大
三井氏は開発体制を整える一方、エンジニアが自ら AWS を使って開発できるようにするための意識付けを進めています。なかでも着目したのは、やる気とスキルのあるメンバーが加わると、全員のモチベーションが高くなることの効果です。
「飛び抜けて優秀な外部の人材をプロジェクトに招いたところ、マネージドサービスを手足のように使いこなして高品質なシステムを短期開発する様子を目の当たりにし、部内の雰囲気が一変しました。準内製チームに入りたいと志願してきたオンプレミスのエンジニアも AWS を活用して、オンプレミスのシステムで発生していた性能問題を、数名の若手と短期間で解決してしまいました。彼ら、彼女らがビジネス部門から評価、感謝されるのを見て周囲も大いに刺激を受けています」
また、チーム内のコミュニケーションの活性化、開発グループ全体の底上げも図っています。これまで手がけたプロジェクトの事例共有会を開催し、AWS の開発手法や成功・失敗の体験を議論しながらノウハウを共有。さらに社外のプログラムも活用し、新しい技術の習得やハンズオンなども奨励しています。
「AWS プロトタイピングプログラムを利用して、小規模の新サービスを高速に開発リリースする基盤の開発にチャレンジしました。プロトタイピングは知識が豊富な AWS の技術担当者から設計段階から支援してもらえるため、最適なアーキテクチャの検討・実装ができます。最新の開発手法を教わり、下位クラスだったチームが上位チームに肩を並べるまでに成長しています」(三井氏)
こうした取り組みが功を奏し、部内では「やりがいがある」「意見や提案をする人が増えた」「コスト意識が上がった」「笑顔が増えた」などの意見が出されるようになりました。自主的に勉強会などに取り組むエンジニアも増えたといいます。
開発手法を多くの部署に水平展開し
ドコモのデファクトスタンダードへ
サービスデザイン部が組織改革を断行できた背景には、AWS の存在が大きいと三井氏は語ります。
「組織や開発方法論が確立している大企業の場合、正攻法では難しい側面もあります。私が異動した当時は、現在の部署でも従来の開発手法で不都合はないという空気が漂っていました。そこで AWS の利点を活かして積極的にサービスを高速開発し、コスト削減や開発の効率化といった成果を目に見える形で示すことで、周囲への理解を深めていきました」
今後、三井氏はこの開発手法を全社に水平展開し、NTT ドコモのデファクトスタンダードにすることで、DX の推進に貢献していく考えです。「最近はスモールスタートの新規の案件で私たちのチームが指名されるケースが多く、社内の他部門からも内製化の方法や、高速 PDCA の回し方を教えて欲しいと依頼される機会も増えました。経営層にも実績を示し、今後も他部署に水平展開を進めながら、私たちは引き続きクライマーとして最短ルートを開拓していきます」
カスタマープロフィール:株式会社NTTドコモ
- 代表取締役社長 吉澤 和弘 氏
- 従業員数 単体 8,100 名、ドコモグループ 27,558 名(2020 年 3 月 31 日現在)
- 事業内容 通信事業、スマートライフ事業、その他の事業
実施施策
- 社内で高速にサービスを開発する『AWS+準内製+アジャイル開発』を実現する組織改革
- Biz(ビジネス)、Dev(ビジネス)、Ops(保守運用)の三位一体によるワンチーム体制の構築
- 優秀な人材の招聘や外部プログラムの活用によるスキル啓発とチームの底上げ
ご利用の主なサービス
Amazon Redshift
Redshift では、データウェアハウス、運用データベース、およびデータレイクにあるペタバイト規模の構造化データと半構造化データを、標準的な SQL を使用してクエリすることができます。
AWS Lambda
AWS Lambda を使用することで、サーバーのプロビジョニングや管理をすることなく、コードを実行できます。料金は、コンピューティングに使用した時間に対してのみ発生します。
Amazon ECS
Amazon Elastic Container Service (Amazon ECS) は、完全マネージド型のコンテナオーケストレーションサービスです。Duolingo、Samsung、GE、Cook Pad などのお客様が ECS を使用して、セキュリティ、信頼性、スケーラビリティを獲得するために最も機密性が高くミッションクリティカルなアプリケーションを実行しています。
AWS Fargate
AWS Fargate は、Amazon Elastic Container Service (ECS) と Amazon Elastic Kubernetes Service (EKS) の両方で動作する、コンテナ向けサーバーレスコンピューティングエンジンです。Fargate を使用すると、アプリケーションの構築に簡単に集中することができます。