SAP ERP を中心とした基幹業務システムのインフラを AWS に移行
SAP 系システムのサーバー運用コストを 50% 削減、パフォーマンスを大幅に向上(約 2 分の 1 に短縮)

2020

“がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業”をビジョンに掲げる第一三共株式会社。利益創出力の強化に向けてクラウドファーストの方針を掲げてきた同社は、2013 年に再構築した SAP ERP を中心とした基幹業務システムのインフラを、オンプレミスからアマゾン ウェブ サービス(AWS)に 2019 年 8 月に移行。SAP 用システムのサーバー台数を約 30% 削減するとともに、パフォーマンスを大幅に向上させました。その結果、サーバー運用コストを約 50% 削減するとともに、IT 要員の運用負荷を軽減し、デジタルトランスフォーメーションに備えたデジタルデータ活用施策に注力する体制を整備しました。

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AWS を選定した理由は、製薬業務に必須の GxP 要件や CSV ガイドラインに対応し、国内の CSV 支援を多く手がけた実績があったことです。国内外で SAP ERP の稼働実績が豊富なことも後押しになりました

白井 千里 氏
第一三共株式会社
DX 推進本部 IT ソリューション部
主幹

「がんに強みを持つ創薬企業」に向けて IT インフラのクラウド化を推進

第一三共は、「革新的医薬品を継続的に創出し、多様な医療ニーズに応える医薬品を提供することで、世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」を企業理念とし、「がんに強みを持つ先進的グローバル創薬企業」を 2025 年ビジョンとして掲げております。「『2025 年ビジョン』の実現を支える重要基盤と位置付ける IT インフラは、クラウドファーストを方針とし、積極的な導入を進めてきました」と語るのは、第一三共株式会社 DX 推進本部 IT ソリューション部 主幹 白井 千里 氏です。

IFRS 対応を目的に構築した SAP ERP を中心とした基幹業務システム(以下、GERP)は、2013 年に稼働してから約 5 年が経ち、対応を迫られていました。そこで同社は長期的なシステムライフサイクルやデジタルトランスフォーメーションへの移行を考慮し、IT インフラを最新化することにしました。基幹業務システムの開発・運用を支援する株式会社日立医薬情報ソリューションズソリューション第 2 本部 ERP システム1 部 1G グループマネージャの國廣 隆嗣氏は次のように語ります。

「業務継続性の担保、セキュリティの維持、コストの低減、拡張性・可用性の確保、パフォーマンスの向上、災害対策(DR)の効率化などを目的に、次世代の IT インフラがどうあるべきかを検討しました」

医薬品における GxP/CSV への準拠と 製薬業界での豊富な導入実績を評価

新たな IT インフラは、オンプレミス、オンプレミスとクラウドのハイブリッド、フルクラウドの 3 方式を検討。最終的にフルクラウドを採用し、複数のクラウドサービスを比較した中から AWS を選択しました。

「当初はクラウドの信頼性に不安があったものの、調査を進める中でさまざまな対策によって十分な可用性を確保していることが確認でき、コスト面でもメリットが大きいと判断しました。AWS を選定した理由は、製薬業務に必須の GxP 要件や CSV(コンピュータ化システムバリデーション)ガイドラインに対応し、国内の CSV 支援も多く手がけた実績があったことです。国内外で SAP ERP の稼働実績が豊富なことが後押しになりました」(白井氏)

その他、SAP 認定クラウドとしてのサイジング基準(SAPS 値)が明示されていること、豊富な SAP HANA 認定インスタンスに対応していることなど、SAP に特化したプラットフォームが準備されていることも選定のポイントでした。

また、同社は以前より GERP 以外の自社業務システムも AWS への移行を推進しており、すでに約 300 台のサーバーが AWS 上で稼働しています。そのため、標準化・共通化の観点からも AWS の選定がベストと判断したといいます。

GERP の AWS への移行プロジェクトは2018 年 10 月にキックオフ。業務停止の影響も考慮して、2019 年 8 月、2020 年 1 月、2 月の 3 回に分けて移行を実施。移行時は専用ツールの AWS Server Migration Service と CloudEndure Migration を利用し、本番環境は 3 日間のダウンタイムで切り替えを実現しました。

第一三共株式会社 DX 推進本部 I T ソリューション部 課長代理 の石井 雄二 氏は「従来のプロジェクトではサーバーの構築や、スペック変更にかなりの時間を要していましたが、今回の AWS 移行では大幅に短縮することができました。また、従来のインフラとは異なり、アプリケーション実装のタイミングで必要な EC2 インスタンスをその都度立ち上げて、検証やリハーサルを実施してから停止する等、利用の管理を行うことでコストを最小限に抑えることができました」と話します。

システム運用の負荷軽減により IT 要員はデジタル活用施策にシフト

今回移行したシステムは、SAP ERP(会計、販売管理、購買在庫管理、生産管理、人事管理)に、製造実行系、倉庫管理、品質管理、経費精算などの周辺系システムを含めた 19 システム。サーバー OS と DBMS は最新版に更新し、アプリケーション改修や非機能要件を見直したうえで、再サイジングを実施。合わせて GxP/CSV 対応も実施しています。

事業継続性の観点で AWS の東京リージョンをメインで利用し、シンガポールリージョンに災害対策(DR)およびバックアップ環境を構築しています。

「主にバックアップサーバーを AWS に代替できたことがスリム化の要因です。合わせて不要なソフトウェアも整理できました。その結果、サーバー運用コストは移行前と比較して約 50% の削減を実現しています」(國廣氏)

パフォーマンスも向上し、移行後に実施した負荷テストでは処理時間が 2 分の 1 程度に短縮。特に、出荷処理については業務繁忙期に 2 時間を超過していた状態が劇的に改善し、10 分以内に収まりました。その要因はディスクの I/O 性能が 2 倍以上向上していることが影響していると分析しています。業務部門のユーザーからも処理が早くなったという声が聞かれ、業務全体の効率化にも貢献していることが明らかになりました。

「システムの運用面では、ハードウェア故障による業務の中断や停滞がなくなり、トラブル対応やメンテナンス調整などの負担が軽減されました。結果として IT ソリューション部の要員は、デジタルトランスフォーメーションに備えたデジタルデータ活用施策に注力することが可能になりました」(石井氏)

基幹業務データを活用した DX 推進に向けマネージドサービスやツールの採用を加速

直近の GERP での対応としては、オンプレミスで稼働している残りのシステム、機器の更新として、医薬品業界データ交換システム(JD-NET)や全銀 EDI などの通信機器のクラウド化、データベース等のマネージドサービスを活用したさらなる効率化・コスト削減をめざす方針です。また、業務プロセスとデータのグローバル標準化、意思決定のスピードアップに向けた SAP ERP のさらなる最適化を検討。SAP S/4HANA を候補の 1 つとし、AWS を活用した効率的な構築、業務プロセスの高度化、業務変革を実現していく計画です。

第一三共では、今回の移行ノウハウを活かし、より高速なレスポンスが求められる大規模な業務システムや、大量のデータを扱う研究開発・創薬系システムのクラウド化、クラウドを活用したリアルワールドデータの分析などに着手していく考えです。

「当社は 2020 年 4 月に持続的成長に向けた『DX 推進本部』を新設し、その傘下に『DX企画部』『データインテリジェンス部』『ITソリューション部』を創設しました。全社のシステム企画を担う IT ソリューション部では、DX 企画部やデータインテリジェンス部と連携しながら、経営戦略に沿ったクラウド対応を進めていきます」と白井氏は語ります。

白井 千里 氏

石井 雄二 氏

國廣 隆嗣 氏


カスタマープロフィール:第一三共株式会社

  • 設立年月日:2005 年 9 月 28 日
  • 資本金:500 億円
  • 従業員数:約 15,000 人(第一三共グループ)
  • 事業内容:医薬品の研究開発、製造、販売等

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • サーバー運用コストを約 50% 削減
  • パフォーマンスの向上で処理時間が約 2 分の 1 に短縮
  • 出荷処理の時間が最大 2 時間から 15 分に短縮
  • EDI 通信の Web 化と通信機器のクラウド化を検討
  • SAP S/4HANA を候補の 1 つとした ERP システムの再構築

ご利用中の主なサービス

Amazon EC2

Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。

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Amazon EBS

Amazon Elastic Block Store (EBS) は、Amazon Elastic Compute Cloud (EC2) と共に使用するために設計された、スループットとトランザクションの両方が集中するどんな規模のワークロードにも対応できる、使いやすい高性能なブロックストレージサービスです。

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Amazon S3

Amazon Simple Storage Service (Amazon S3) は、業界をリードするスケーラビリティ、データ可用性、セキュリティ、およびパフォーマンスを提供するオブジェクトストレージサービスです。

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Amazon Virtual Private Cloud

Amazon Virtual Private Cloud (Amazon VPC) では、AWS クラウドの論理的に分離されたセクションをプロビジョニングし、お客様が定義した仮想ネットワーク内の AWS リソースを起動することができます。

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