JR 東日本が挑むオープンイノベーション

「失敗を恐れず挑戦すること」を奨励して創造性を引き出す

2020

Amazon が掲げる顧客志向のイノベーション文化を取り入れ『To Locca(トロッカ)』などの新サービスが続々と始動。

 

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徹底した顧客志向の実現には常に高い目標を掲げ、妥協することなく挑戦することが大切です。社員には、失敗を恐れず挑戦しろというメッセージを発信しています。

表 輝幸 氏
東日本旅客鉄道株式会社
執行役員 事業創造本部 副本部長 


生活サービス事業に経営資源を集中し

非運輸事業の売上比率拡大へ

発足以来、鉄道事業を起点に、Suica の利用拡大、駅ビルやホテルなどの生活サービスまでさまざまな事業を展開してきた東日本旅客鉄道(以下、JR 東日本)。現在、同社はグループ経営ビジョン『変革 2027』のもと、生活サービス事業と IT・Suica 事業に経営資源を振り向け、2027 年までに非運輸事業の営業収益をこれまでの 3 割から 4 割に引き上げる方針を掲げています。

また、今後 10 年を見据えた『生活サービス事業成長ビジョン(NEXT10)』も策定。表氏は NEXT10 について、「4 本柱は『のびる(事業エリアの拡大とオープンイノベーションを通じた事業創造)、ひらく(魅力ある多様なまちづくり(開発)の推進)、つなぐ(魅力発信と交流促進による地域活性化)、みがく(既存事業のバリューアップ)』です。IT やデータの活用によって長期の成長を実現し、2026 年度の生活サービス事業の営業収益・営業利益を 2016 年度比で約 1.5 倍とすることを目指しています」と語ります。

表氏はこれまで、エキナカ商業施設『グランスタ東京』の開発などを手掛け、駅弁の事業会社で業績の V 字回復を達成されたほか、ファッションビル『ルミネ』の専務などを歴任。現在はグループ 33 社とともに生活サービス事業を推進する事業創造本部を率いています。

“地球上で最もお客様を大切にする”

Amazon の経営理念に共感

JR 東日本は生活サービス事業の拡大に向け、2017 年からスタートアップや個人から事業アイデアを募る『JR 東日本スタートアッププログラム』を開始しました。アイデアの 1 つであったAI 無人決済システムは、高輪ゲートウェイ駅の無人 AI 決済店舗『TOUCH TO GO』として事業化されています。

また、2018 年からは JR 東日本グループ約 7 万 5,000 人が参加する新事業創造プログラム『ON1000(オンセン)』を推進。2018 年~2020 年の 3 年間で 2,500 件以上のアイデアが寄せられ、ベビーカーのレンタルサービスなどの実用化を予定しています。

さらに同社はイノベーション活動の一環として、アマゾン ウェブ サービス(AWS)のデジタルイノベーションプログラムにも参画。目的は、Amazon の徹底した顧客志向を取り入れることだったと表氏は語ります。

「比較的恵まれた立地環境のもと、当グループ自体に本当の意味での顧客志向の概念が足りていないという危機感がある中で、Amazon が“地球上で最もお客様を大切にする企業”として成果を出していることに衝撃を受けました。シアトルの本社も訪問して Amazon のカルチャーに触れ、高速にサービスを生み出していく現場を目の当たりにして、ここから多くのことを吸収して顧客志向の企業文化を作り、人を育てていこうと考えました」

多様性に富んだメンバーを招集

「喜ばれるエキナカサービス」を議論

AWS のデジタルイノベーションプログラムは Amazon 独自の顧客起点のサービスデザイン手法を学ぶことができるもので、Amazon/AWS のフレームワークを利用したワークショップの後、約 1 週間でプロトタイプを開発します。JR 東日本ではグループ会社から約 25 名が参加。本社メンバーも交えた 4 つのチームに分かれ、“お客様から喜ばれるエキナカサービス”をテーマに議論しました。

「グループ間の連携を強化して新たな価値を生み出そうという目的があったため、グループ会社には職種、年代、役職などにこだわらず多様性に富んだメンバーを出してもらいました。過去のマーケティングデータに基づいて分析することが多かった参加者にとって、顧客志向で仮説を立てて検証を繰り返す体験は新鮮だったようです。また、はじめにプレスリリースを書いてサービスの具体的なイメージを固める手法には、私自身の過去の事業経験からも大いに共感しました」

デジタルイノベーションプログラムを通じて、JR 東日本グループ内で改めて事業化に取り組んだ成果は、Web サイトであらかじめ日時を指定してコインロッカーを予約するサービス『ToLocca(トロッカ)』などのサービスに結実しました。開発時は、プログラムで学んだ顧客志向が、分かりやすい料金設定などに活かされたといいます。

これらのプロジェクトを進める上で表氏が重視しているのは、“失敗を恐れず、挑戦する勇気”です。

「徹底した顧客志向の実現には常に高い目標を掲げ、妥協することなく挑戦することが大切です。失敗を恐れていては限界まで頑張ることはできません。鉄道事業においては『安全・安心』がトッププライオリティであり、失敗は許されません。しかし生活サービス事業においては、むしろ失敗を恐れて何もしないことの方が成長機会を失うことにつながりリスクといえます。社員には“失敗を恐れず挑戦しろ”というメッセージを発信しています」

顧客志向のマインドを持つ人材を

JR 東日本グループ全体に拡大

デジタルイノベーションプログラムの参加者を中心に、JR 東日本グループ内のマインドセットは確実に変わりつつあるという表氏。顧客志向で開発した To Locca が高く評価されていることからも、その効果を実感しています。

「プログラムで学んだことを実際の行動に移し、お客様から一定の評価が得られたことが社員の自信につながりました。頭で理解するだけでなく、小さな成功体験によって次の行動が変わっていく好サイクルが生まれています。今後もこのような体験を通じて、顧客志向のマインドを持つ人材をグループ全体に拡大していきます」

JR 東日本では、高輪ゲートウェイ駅を含む品川エリア一体を同グループが手がける新施設のショーケースとして、AI を活用した各種ロボットや QR コード改札機などのイノベーションを展開しています。さらに 2020 年 6 月には移動のシームレス化、多様なサービスのワンストップ化、データを活用した新サービスの導入の実現を目指して、『MaaS・Suica 推進本部』を本社内に設置。鉄道以外を含むくらし全体を視野に JR 東日本版 MaaS を推進し、ビッグデータを活用した新たなサービスの導入などに取り組んでいます。

「JR 東日本グループの持つ資産とデータを活かしながら、100 年先を見据えた心豊かなくらしづくりや社会課題の解決に貢献できるサービスなどを届けていくためにも、AWS には共にイノベーションを起こせるような新たなつながりや提案を期待しています」(表氏)


カスタマープロフィール:東日本旅客鉄道株式会社

  • 代表取締役社長 深澤 祐二 氏 
  • 従業員数 51,560 名(2020 年 4 月 1 日現在)
  • 事業内容 運輸業、駅スペース活用事業、ショッピングセンター・オフィス事業、その他

実施施策

  • AWS のデジタルイノベーションプログラムを通じて体得した顧客志向のアイデアをベースに新しいサービスをリリース

ご利用の主なサービス

Amazon EC2

Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) は、安全でサイズ変更可能なコンピューティング性能をクラウド内で提供するウェブサービスです。ウェブスケールのクラウドコンピューティングを開発者が簡単に利用できるよう設計されています。

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Amazon RDS

Amazon Relational Database Service (Amazon RDS) を使用すると、クラウド上のリレーショナルデータベースのセットアップ、オペレーション、スケールが簡単になります。

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Amazon EBS

Amazon Elastic Block Store (EBS) は、Amazon Elastic Compute Cloud (EC2) と共に使用するために設計された、スループットとトランザクションの両方が集中するどんな規模のワークロードにも対応できる、使いやすい高性能なブロックストレージサービスです。

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AWS プロフェッショナルサービス

AWS プロフェッショナルサービスは、AWS クラウドを使用して期待するビジネス上の成果を実現するようお客様をサポートできる、専門家からなるグローバルチームです。当社はお客様のチームおよび選任された AWS Partner Network (APN) のメンバーと協力し、エンタープライズクラウドコンピューティングの取り組みを実行します。

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