「クラウドの基盤に関しては AWS 一択で運用を行っています。7 年にわたり継続利用しているのは、
常に顧客中心の考えに立ち、我々の声を聞いて、具現化するプロセスを高く評価しているからです。」
 
楠本 貴幸 氏 協和キリン株式会社 ICT ソリューション部 企画管理グループ マネジャー

バイオテクノロジーと抗体医薬を強みとし、医薬分野における高度な技術とユニークな視点を背景に、高品質の製品をグローバル展開する協和キリン株式会社。同社は、事業環境および IT トレンドの変化に応じて迅速/安全かつ適正コストで提供できるインフラ基盤としてアマゾン ウェブ サービス(AWS)を採用。7 年にわたる継続利用で、基幹システムと CSV(Computerized System Validation)対象システムで利用するサーバーの 95% 以上、全サーバーの約 85% を AWS へ移行しています。


協和キリン株式会社は、「ライフサイエンスとテクノロジーの進歩を追求し、新しい価値の創造により世界の人々の健康と豊かさに貢献します」を理念としている製薬企業です。2016-2020 年中期経営計画に基づき、創薬から開発、製造、販売までをすべて自らで担うグローバルスペシャリティファーマとなることを掲げ、経営改革を進めています。2019 年 4 月から組織もグローバル体制に移行し、世界 4 極(日本、欧州、北米、アジア・オセアニア)でグローバル競争力の向上を目指しています。

医薬業界では、医薬品の研究開発、製造や安全性に関わる調査などに使用するシステムは、設計構築からテスト、運用管理、保守ならびに廃棄までプロセスとデータの信頼性を確保する必要があります。この活動は CSV(Computerized System Validation)と呼ばれており、協和キリンでも CSV を遵守したシステムおよびプロセスの開発、運用を続けてきました。

「AWS で CSV 対象システムを稼働させるために、品質管理部門など他の部門とも連携して検証、評価しながらシステムの導入、運用に取り組んでいます。運用の簡素化、リードタイム短縮、拡張性・可用性の向上、コスト軽減など、さまざまな課題を解決するうえで、クラウドの活用は必須であると考えています。」と話すのは、協和キリン株式会社 ICT ソリューション部 企画管理グループ マネジャーの楠本貴幸氏です。

協和キリンがクラウド導入の検討を始めた 2011 年は、まだクラウドの黎明期といえます。AWS に注目した同社は少数のサーバーを動かすところから検証を始め、Amazon VPC や AWS Direct Connect などのサービスがローンチされ、既存のデータセンター群と同じように AWS を利用でき、本番運用に十分耐えうると確信したのちに本格導入を決定。当時エンタープライズの企業がインフラとして使えるクラウドは AWS だけであり、他社のクラウドとは比較にならなかったといいます。

2013 年には『クラウドファースト宣言』を掲げ、サーバー更新タイミングのシステムを対象に AWS への移行をスタート。それから約 7 年、AWS へのシステム移行は拡大し、2019 年時点で基幹システムと、CSV 対象システムで利用するサーバーの約 95%、全サーバーの約 85% が AWS 上で稼働しています。

さらに、2017 年からはセキュリティ向上を目的に仮想デスクトップサービスの Amazon WorkSpaces も導入。2019 年現在は日米あわせて千数百台の Amazon WorkSpaces が活用されています。

「Amazon WorkSpaces は、セキュリティリスクの軽減を目的に導入しました。他の仮想デスクトップサービスと異なり、最低利用期間や利用台数の制限もなく、必要な利用者に渡してすぐに使えるメリットがあります。」と、ICT ソリューション部 インフラソリューショングループの田中幸代氏は語ります。

同社では、AWS 上にシステムを構築するにあたって 2 つのポイントを意識しています。1 つはシステムの重要性や事業継続性を考慮してマルチ AZ 構成にする、もう 1 つは必要なデータを海外リージョンにバックアップしデータ消失のリスクを低減することです。また、AWS を活用する際には ICT ソリューション部を通す運用ルールを構築しています。「あまりユーザーが自由に使ってしまうとガバナンスが効かなくなります。一方で、ルールで縛りすぎるとクラウドのメリットがなくなってしまうので、クラウドのメリットを活かしつつガバナンスを効かせられるような一定のルールを作って運用することで上手く回っています。」と、ICT ソリューション部 企画管理グループの太田芳照氏は説明します。

協和キリンでは AWS へのシステム移行により、さまざまな効果やメリットを感じていると楠本氏は語ります。

「従来ならサーバーの調達ひとつとっても初期投資金額が大きくなるため、計画を立て、何度もサイジングを検討して、と非常に時間が掛かっていました。AWS であればスモールスタートしてリソースが不足したら容易にスケールアップが可能となるため、リードタイムを大幅に削減することができます。」

その他にも同氏は、データセンターの使用コストの削減、可用性の向上によるビジネスリスクの低減、事業ニーズに対する安価かつ迅速なプラットフォーム提供などの効果も挙げています。そして運用に関する負担が減少した結果、運用のメンバーをビジネスに近い業務領域へ配置して、ビジネスへのタッチポイントを増やすことができていることもメリットだといいます。

当初はセキュリティリスクの低減が主目的だった Amazon WorkSpaces に関しても、セキュリティ強化はもちろんのこと、利便性向上の効果が出ています。

楠本氏はこれに加えて AWS の障害復旧時間の速さを評価しています。「障害の程度によりますが、障害が発生した場合、オンプレミス環境では復旧に数時間から数日掛かってもおかしくありませんでしたが、AWS なら短時間で解決してくれるため、むしろリスクは減っているとさえ考えられます。」

ICT ソリューション部だけでなく、ビジネス部門でも「AWS にシステムが乗っていないことがリスク」という認識が一般的になってきていると楠本氏は付け加えます。


 

CSV やグローバル化への対応など制約のある中で、これまで AWS を使い続けてきた理由について、楠本氏は次のように語ります。

「マルチクラウドは常時意識していますが、これまでクラウドの基盤に関しては AWS で移行を進めています。7 年にわたり継続利用しているのは、常に顧客中心の考えに立ち我々の声を聞いて具現化する AWS のプロセスを高く評価しているからです。」

2020 年前半には、オンプレミスに残っている CSV 対象システムも AWS への移行を完了する予定となっており、現在は社内 IT だけではなく、研究開発部門など製薬企業の根幹となる業務領域への展開を推し進め、ビジネスの加速化を図っています。近年では研究開発部門も AWS の活用に前向きで、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)領域に加え、AI や機械学習に関連して自然言語処理(NLP)サービス Amazon Comprehend Medical などの検証を始めているといいます。

「AWS への移行により、ハードウェアの更新というサイクルを回避できるようになりました。ただし、OS やミドルウェアのサポート、セキュリティ問題はまだ残っている状況です。マイクロサービスやコンテナなども活用して、今後は OS やセキュリティの更新サイクルからも抜け出したいと考えています。また AWS のサービスをフル活用した海外ネットワークの再構築などクラウドサービスのメリットを十分に活用したアーキテクチャの導入をしていきたいと考えています。」と、楠本氏は展望を語っています。

楠本 貴幸 氏

田中 幸代 氏

太田 芳照 氏



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