SAP ERP を中心とした約 100 のサーバーを AWS に移行
業務アプリケーションのパフォーマンスを向上するとともにインフラの維持運用コストを 5 年間で数億円削減見込み

2020

「おいしく、たのしく、すこやかに」をビジョンに、「食」を通じた価値と感動の提供に努める森永製菓株式会社。2003 年に SAP ERP を導入以来、周辺システムも含めてすべてオンプレミス環境で運用してきた同社は、デジタルトランスフォーメーション(DX)によるビジネス変革を見据えて、2020 年 1 月にアマゾン ウェブ サービス(AWS)へ全面移行しました。パフォーマンスの向上によって原価計算関連の処理が約 4.7 時間から 1.4 時間に短縮されるなど、業務の効率化に貢献。インフラの維持運用コストは今後 5 年間で数億円の削減を見込んでいます。

AWS 導入事例  | 森永製菓株式会社
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AWS への移行で SAP ERP の処理時間が大幅に短縮されました。特に月末の原価計算関連の処理が 4.7 時間から 1.4 時間に短縮された効果は大きいといえます。コスト面ではインフラの維持運用コストを今後 5 年間で数億円の削減を見込んでいます

杉田 直昭 氏
森永ビジネスパートナー株式会社
IT グループ長

DX に備えたシステム基盤作りを目指し SAP ERP のクラウド移行を決断

1899 年の創業以来、『森永ミルクキャラメル』を筆頭に、『ハイチュウ』『チョコモナカジャンボ』など、数多くのヒット商品を通して日本の食文化に彩りを添えてきた森永製菓。現在、2018 年度を初年度とする中期 3 カ年経営計画を遂行中です。中期経営計画では基本方針を「経営基盤の盤石化と成長戦略の加速」とし、国内菓子食品・冷菓の「既存領域」の強化、成長を担う「ウェルネス(健康食品)領域」、および米・中・アジアを中心とした「グローバル領域」の拡大の 3 つを進めています。

ビジネスを支える IT システムにも戦略的な活用が求められており、SAP ERP のAWS への移行も経営戦略の一環として決断したものです。同社は 2003 年に SAP ERP の会計システムを導入し、メインフレームからオープン環境へ移行したのを皮切りに、2009 年にかけて在庫管理、生産管理、販売管理と順次拡大してきました。その後、2011 年 3 月の東日本大震災でデータセンターが計画停電の対象となり、自家発電での対応を迫られたことから、事業継続計画(BCP)の強化とインフラの最適化を検討しました。

2011 年にクラウド移行を検討したものの、当時はまだ SAP ERP の運用実績が少なかったことから見送り、ベンダーのプライベートクラウド環境でオンプレミスの運用を継続しました。その後の 2017 年、サーバー機器の更新を機に再びクラウド移行に挑戦することになります。

「一番の目的は、デジタルネイティブな開発環境を手に入れ、デジタルトランスフォーメーションによるビジネス改革への一歩を踏み出すことにありました。加えて、適切なパフォーマンスの維持、将来に備えた拡張性の確保、サーバーの更新負荷からの解放、コストの適正化、全システムを対象とした災害対策(DR)サイトの構築を目的としました」と語るのは、森永製菓グループのシェアードサービス会社である森永ビジネスパートナー株式会社 IT グループ長の杉田直昭氏です。

SAP ERP の稼働実績と運用効率性 DR サイトを評価して AWS を採用

2017 年 5 月からインフラの検討を開始した森永製菓は、複数のベンダーの提案を吟味し、AWS の採用を決定しました。クラウドありきではなく、さまざまな対応策を視野に入れてパートナーの選定を進める中、最適解を選択した結果が AWS だったと杉田氏は言います。

「国内外のクラウドサービスを広く検討していく中で、SAP ERP の稼働実績も含めて、AWS の優位性は明らかという印象が強くなっていきました。特に AWS は 運用保守性に優れ、DR サイトがシンガポールリージョンに構築できることがわかり、全システムを AWS 上に統合することで安定的に運用ができると判断しました」(杉田氏)

AWS への移行作業は、2 つのフェーズで進めました。2018 年 6 月から 10 月までのフェーズ 1 では、SAP ERP 本体以外の周辺システムを先行して移行。2019 年 4 月から 2020 年 1 月までのフェーズ 2 では中核の SAP ERP を移行し、2020 年 3 月に DR サイトの稼働確認を実施して完了しました。安全を優先して、SAP ERP のアプリケーション改修やデータベースのバージョンアップは実施せず、最短期間で移行する方針としています。

「プロジェクトは、コストや運用負荷の最小化を優先しました。2 つのフェーズに分けたのは、経営に与えるインパクトを小さくするためです。フェーズ 1 の周辺システムの移行では、自社要員の教育を実施して一部を自社要員で対応することで移行コストを抑えるとともに AWS の理解を深めました。フェーズ 2 ではその経験を活かすとともにパートナー企業の高い経験値と AWS のパフォーマンスの高さが発揮された結果、SAP ERP の本番移行時のダウンタイムを 1 日短縮することができました」(杉田氏)

今回同社が移行したサーバー数は、SAP ERP 本体と周辺システムを合わせて約 100 にのぼり、基幹系システムのほぼすべてが AWS 上で統合されたことになります。プロジェクト終了後の 2020 年 3 月には、オンプレミス環境のファイルサーバーも AWS に移行することを決定。過去履歴も含めて 60TB 超のデータを、大規模データ向け転送ツールの AWS Snowball を利用して移行しました。

月末の原価計算関連の処理が 4.7 時間から 1.4 時間に短縮

2020 年 1 月の本稼働以降、SAP ERP は安定稼働を続けています。導入効果としてはパフォーマンスの向上とコスト削減の 2 つが挙げられます。

「SAP ERP の夜間処理が大幅に短縮されました。特に月末の原価計算関連の処理が 4.7 時間から 1.4 時間に短縮された効果は大きく、夜間処理が終わらず翌朝からトランザクションが実行できないといった課題も解消できました。コスト面ではインフラの維持運用コストを今後 5 年間で数億円の削減を見込んでおり、経営層からも評価を得ています」(杉田氏)

大半のシステムを AWS 上に移行し、自社のデータセンターで運用するシステムがなくなったことで、運用をアウトソーシング先のパートナーに一本化し自社要員をコア業務に集中させることが可能となりました。DR 対策はコストの問題から生産・物流に直結する主要システムのみを二重化していたものを、すべてのシステムで二重化することができました。「全システムの DR 対応ができたのも、サーバーを使っていない時に停止しておける AWS のメリットです」と杉田氏は語ります。

AWS によるクラウドネイティブ化を推進しデジタルビジネスの発展に貢献

森永製菓は今後、戦略的なアプリケーション開発では、原則として AWS 上で実現することを最優先で検討していく考えです。クラウドネイティブを志向して、AWS をハブにビジネスに有用なサービスとつなげ、デジタルビジネスの発展に貢献していくといいます。

「具体的には、ソースコードを書かないローコード等の高速開発、運用の自動化、DevOps といった新たな運営体制を AWS ネイティブで実現できないかと考えています。ビッグデータの活用も AWS の各種サービスを活用することで実現可能となりましたので、SAP ERP 上のデータだけでなく、社内の各所に分散している POS データや顧客系データを含めてデータレイクで一元管理し、幅広いデータ利活用を進めていきます」(杉田氏)

今後の AWS 活用については、データベースを商用系から Amazon RDS に移行することを検討しています。SAP ERP に関しては、2027 年の保守切れに備えて SAP S/4HANA への移行も検討課題としています。

「今回のプロジェクトで眼前の目標はクリアできましたが、残された課題もあります。AWS には引き続き機能強化や新サービスの提供を期待しています」(杉田氏)

杉田 直昭 氏

川端 聡 氏 大久保 潤一 氏(左から)


カスタマープロフィール:森永製菓株式会社

  • 資本金: 186 億 1,000 万円
  • 設立年月日: 1910 年 2 月 23 日(創業 1899 年 8 月 15 日)
  • 売上高: 1,871 億 5,900 万円(2020 年 3 月期)
  • 従業員数: 1,414 名(2020 年 3 月 31 日現在)
  • 事業内容:菓子(キャラメル・ビスケット・チョコレート等)、食品(ココア・ケーキミックス等)、冷菓(アイスクリーム等)、健康(ゼリー飲料等)の製造、仕入れおよび販売

AWS 導入後の効果と今後の展開

  • インフラの維持運用コストを今後 5 年間で数億円削減の見込み
  • SAP ERP の夜間処理の短縮
  • 月末の原価計算関連の処理が 4.7 時間から 1.4 時間に短縮
  • 約 100 個の全サーバーの DR 対応が実現
  • クラウドネイティブを志向してさらなるAWS の活用を推進

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