トヨタ自動車だけでなく、さまざまなパートナーが利用するオープンな自動地図生成プラットフォームには、
スピード開発が容易でスケーラブルに拡張できる AWS のサービスが最適でした。
 
マンダリ・カレシー 氏 トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社 Automated Driving VP

トヨタの自動運転のソフトウェア開発を担うトヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社(TRI-AD)。同社は自動運転車向け高精度地図の普及を目指し、パートナーなどと共同利用できるオープンソースの『自動地図生成プラットフォーム Automated Mapping Platform(AMP)』の構築を進めています。今回、パートナー各社との PoC を実施するプロトタイプの開発に、AWS のサーバーレスアーキテクチャとマネージドサービスを採用。データのリアルタイム収集、大量データのバッチアップロード、開発ポータルなどの機能を持つプラットフォームをわずか 2 ヶ月で立ち上げました。


 

トヨタ自動車、デンソー、アイシン精機の共同出資によって 2018 年 3 月に設立された TRI-AD。同社は、自動運転に必要なソフトウェアの先行開発を通して、研究と量産の間をつなぎ、自動運転の早期実現に貢献する役割を担っています。

制御系技術や AI 技術により、自動運転の“判断”と“操作”を司るプロセスは急速に進化を遂げています。一方、日々変わる道路の地図情報をメンテナンスし、鮮度を維持し続けるのは容易ではありません。「結果として現時点では、特定の国や地域および、更新情報の収集が比較的容易な高速道路などの地図に限られていました。」と語るのは Automated Driving 分野の VP であるマンダリ・カレシー氏です。

しかし、一般道の地図を高精度化して情報を更新し続けるのは、一企業グループだけで進めるには大きな負荷となります。そこで TRI-AD は地図作成や地図利用に関わる企業であれば参加できる『自動地図生成プラットフォーム:Automated Mapping Platform(AMP)』の構想を 2019 年 1 月に発表しました。

AMP は、トヨタ自動車などの自動車メーカー、タクシー会社、宅配会社などの車両から得られるセンサーデータの情報と、衛星画像などから得られる情報をインプットし、これらを基に効率的に高精度の地図を生成、更新していくものです。自動車メーカーやサプライヤーの開発者は、AMP を通して地図の利用が可能になり、自社の自動運転のアプリケーション開発が加速されます。

この AMP は「現在、トヨタグループの自動運転関連企業をはじめ、外部からも衛星写真、車載カメラなどの技術を持つベンダーが PoC への参加を表明しており、今後もパートナーを増やしていきます。」とカレシー氏は語ります。

TRI-AD は AMP の構想を発表後、パートナー企業と PoC を実施するためのプロトタイプの構築に着手しました。開発スピードを優先するため、当初からクラウドサービスの利用を前提に検討し、AWS を採用しました。TRI-AD では、機械学習や深層学習など多くのプロジェクトで AWS がすでに採用されており、同社では標準的な IT インフラの 1 つとなっています。シリコンバレーにある AI 技術の研究機関であるトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)においても AWS の採用が多く、両社の開発効率の点でもメリットがありました。これだけでなく AWS 採用の決め手になったのはマネージドサービスの活用にあったといいます。AMP の開発担当エンジニア五十嵐諒氏は「開発メンバーの人的リソースが限られている中で短期間の開発を実現するために AWS の豊富なマネージドサービスの活用は不可欠でした。また今後、PoC に参加するパートナー企業が増え、新たな機能の開発が生じても、リソースやサービスの拡張が容易なスケーラビリティの高さも評価のポイントになりました。」と語ります。

TRI-AD が構想する AMP は、データの収集・蓄積、高精細地図の開発、高精細地図の配信の 3 つの機能で構成しています。データ収集・蓄積の基盤は、走行中の自動車のプローブから収集するリアルタイムアップロードと、タクシー会社などデータパートナー企業が収集したデータを一括で収集するバッチアップロードの 2 種類があります。地図の開発では、AMP に参加したベンダーの開発者が Developer Portal にアクセスし、独自のアルゴリズムを開発して地図情報を生成します。生成した地図は専用の Map Marketplace に登録・格納され、必要に応じて各社の自動運転の車両に配信します。

「AMP のプロトタイプは“まず作って動かしてみる”という方針を立て、使いながら変更していくアジャイル開発としました。パートナーとの PoC が進めやすい環境作りを優先し、本番環境を見据えた拡張性も意識しました。」(五十嵐氏)

プロトタイプの開発は、2019 年 4 月から着手し、2 ヶ月後の 6 月にはリリースとなりました。TRI-AD の開発者が、AWS のソリューションアーキテクト、プロフェッショナルサービスのコンサルタントと連携することで、短期間の開発を実現しました。

「ソリューションアーキテクトには最適な設計の提案をいただきました。プロフェッショナルサービスのコンサルタントからはアプリケーションの開発手法や AWS のサービス活用方法などのレクチャーをしてもらい、必要な技術を素早く習得することができました。」(五十嵐氏)

プロトタイプは、サーバーレスアーキテクチャを積極的に利用して構築しました。データを収集・蓄積する機能のリアルタイムアップロード基盤では、AWS IoT が発行したクライアント証明書を利用。AWS STS からトークンを取得して Amazon API Gateway で認証する方式を採用し、データをセキュアにアップロードできるようにしました。バッチアップロード基盤では Amazon Cognito でユーザーを認証、車両走行データは Amazon S3、メタデータは AWS AppSync を介して Amazon DynamoDB に蓄積する構成としています。

「AWS Lambda や Amazon DynamoDB などを活用したことで、運用コストを最小化する構成を設計することができ、開発者のリソースが限られた中で 2 ヶ月の短期間で開発することができました。」(五十嵐氏)

プロトタイプの構築を終えた TRI-AD は、複数のグローバルなパートナーと PoC を実施・計画しており、今後は、本番環境のサービスインに備えて運用方法を検討していく考えです。

PoC を重ねた後にはサービスインに向けた本番環境の構築がスタートします。将来的にはアメリカ、欧州、アジアなどへのグローバル展開に向けて、プラットフォームの海外対応と海外パートナーとの連携強化を進めていく計画です。カレシー氏は「AMP によって自動運転のイノベーションを加速させ、パートナーとともに社会課題の解決に貢献していきます。」と話します。

 

トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント株式会社は、AWS Summit Tokyo 2019 において、自動運転地図プラットフォームの AWS 活用事例について詳細なプレゼンテーションを行いました。下記のリンクより講演の模様をご確認いただけます。

マンダリ・カレシー 氏

五十嵐 諒 氏



AWS が IoT ソリューションにどのように役立つかに関する詳細は、AWS IoT の詳細ページをご覧ください。