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デジタルトランスフォーメーション:誇大広告?それとも戦略的必然?

『デジタルトランスフォーメーション』という用語はつかみどころがなく、乱用されてきましたそれにもかかわらず、それは多くのビジネスおよびテクノロジーエグゼクティブの優先事項であり続けています。このブログ投稿では、Amazon Web Services(AWS)プロフェッショナルサービス部門のシニアトランスフォーメーションアーキテクトであるDr. Saša Baškaradaが、デジタルトランスフォーメーションのドライバーとその3つの相互依存するステージについて説明します。結果として得られる概念モデルは、より効果的なトランスフォーメーション戦略の構築を容易にするでしょう。

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AWSプロフェッショナルサービスのシニア・トランスフォーメーション・アーキテクトであるSašaBaškarada博士によるゲスト投稿

人生において唯一変わらないことは、「変わる」ということだ

ヘラクレイトス

『アジリティ』という用語と同様に、『デジタルトランスフォーメーション』は、人によって意味が異なり、意味がなくなるリスクがある使い古された用語の1つです。デジタルトランスフォーメーションは、アジリティと同様に、今日のダイナミックなビジネス環境で成功を続けるために不可欠な根本的に重要な概念であるため、これはかなり残念なことです。そのため、少し概念的な説明をさせてください。

デジタルトランスフォーメーションの必要性は、新しいデジタルテクノロジーの出現と普及の加速による、競争圧力の高まりによって加速されています。デジタルテクノロジーは、新しい価値の創造、リスクの軽減、業務の最適化に役立つ可能性がある一方、(参入障壁を低くすることで)新しい競合他社の脅威を増大させ、製品やサービスを代替します。同時に、テクノロジーに精通した顧客は、期待することおよび行動を変えていきます。ほんの数例を挙げると、Airbnbによって引き起こされたホテル業界の混乱や、さまざまなBNPL(Buy Now, Pay Later)プラットフォームによって引き起こされた金融サービス業界の混乱によって証明されるように、どんな業界でもこの変化から免れることはできないでしょう。

デジタルトランスフォーメーションは、レガシーな業務モデルとビジネスモデル再発明を強いられてきた、歴史ある企業にとって特に意味を持ちます。組織はデジタルテクノロジーを活用して、持続的な競争優位性を獲得するための既存の能力を改善したり、新しい能力を開発したりできます。これは、より多くの価値を生み出して獲得することと同様に、新しい市場や業界に参入することによります。たとえばノキア社は、単一の製紙工場としてのつつましい起源から、主要な多国籍通信企業に至るまで、過去155年間にわたり何度か自らを再発明してきました。

デジタルトランスフォーメーションは、デジタルテクノロジーによって市民の政府サービス体験を向上させることに焦点を当てている公共部門の組織にも同様に、関連しています。同じように、品質とイノベーションのスピードに依存しているクラウド生まれのデジタルネイティブ・ビジネスは、立ち止まっている暇はなく、常に変革し続ける必要があります。

以下では、デジタルトランスフォーメーションの相互に依存する3つのステージ、すなわち、技術、業務、戦略について説明します。以下の説明は直線的(左から右への移動)ですが、実際には、右から左へ移動することにより、同時に複数のステージに取り組むことを余儀なくされる場合があります。たとえば、競争の激しい市場からのプレッシャーにより、戦略トランスフォーメーションにおいて、至急のビジネスモデルの再発明が必要となる場合があります。これにより業務トランスフォーメーションが誘引され、ついで、技術トランスフォーメーションも同時に誘引されます。Stages of Digital Transformation

技術トランスフォーメーション

理想的には、デジタルトランスフォーメーションを進める最初のステップは、既存の技術的負債を返済することです。これには、ワークロードのクラウドへの移行や、レガシー技術のモダナイゼーションが含まれる場合があります。テクノロジーに重点を置いていますが、このステップでは、既存のIT機能と運用モデルにいくつかの変更を加える必要もあります。結果として生じるビジネス成果には、TCOの削減、ITスタッフの生産性向上、運用の強靭性向上、および技術的な俊敏性向上が含まれます。経験的には、オンプレミスシステムからクラウドベースのAWSに移行すると、平均インフラストラクチャコストが31%削減され、ITインフラストラクチャ管理が62%効率化され、年間3倍の機能を提供でき、計画外のダウンタイムは69%削減され、年間のセキュリティインシデントが43%少なくなることが分かっています。技術的負債を返済したら、今度はビジネスオペレーションの最適化に注意を向けるべきです。

業務トランスフォーメーション

技術的負債の返済を終えたら、次は企業の業務モデルを最適化して、データドリブンな組織になるべきです。これには、新しいデータおよび分析プラットフォームを活用して実用的なインサイトを生成し、顧客体験を向上させることや、機械学習を使用してビジネスプロセスを自動化することが含まれるでしょう。たとえば、カスタマーサービス体験従業員の生産性と意思決定ビジネス予測不正の検出と防止生産工程などの改善に焦点を当てることができます。このステップは企業全体の変更を伴うため、技術トランスフォーメーションよりもはるかに複雑となりえますが、結果として生じる業務効率、有効性、およびアジリティの向上は、より大きなビジネス成果につながると言えます。業務トランスフォーメーションは生産性の向上に役立ちますが、継続的に進化するビジネス環境を考えると、包括的なビジネスモデルの再評価が必要になる場合もあります。

戦略トランスフォーメーション

技術的負債を返済し、業務を最適化してデータドリブンな組織になったら、ビジネスモデルの『再発明』に取り掛かりましょう。ビジネスモデルの再発明は、自社がどのように顧客価値を作り出し、結果として得られる利益を獲得するかを考え直す、戦略的実践と言えます。これには、デジタルテクノロジーを活用して新しい市場や業界に参入することが含まれる場合があり、現在のビジネスモデルが持続不可能なものになってきている場合は特に、重要性が高くなります。逆に、現在のビジネスモデルが脅威にさらされていないなら、戦略トランスフォーメーションは優先事項ではないでしょう。ビジネスモデルを変更するには、新しいビジネス機能または改善されたビジネス機能が必要になる可能性があります。それは、さらなる業務トランスフォーメーションおよび技術トランスフォーメーションを促すものです。

継続的なデジタルトランスフォーメーションー戦略的必然

技術革新は減速の兆しを見せておらず、継続的なデジタルトランスフォーメーションの必要性は、時間の経過とともにさらに差し迫ったものになっていくでしょう。究極の目標は、戦略においても業務においてもアジャイルになり、継続的なトランスフォーメーションをいつでも使える常套手段とすることなのです。


著者について

Saša Baškarada博士は、Amazon Web Services(AWS)のシニア・トランスフォーメーション・アーキテクトであり、AWS Cloud Adoption Framework(AWS CAF)のグローバルリーダーです。 AWSに入社する前、Sašaはオーストラリア国防省で科学技術のエグゼクティブとして10年間、大学の学者および研究者としてさらに10年間を過ごしました。 Sašaは様々なトピックについて幅広く出版しており、情報システムの博士号とソフトウェアエンジニアリングのBIT(優等学位)を取得しており、現在、パブリックリーダーシップとポリシーの修士号を取得しています。

この記事はアマゾンウェブサービスジャパン株式会社の大塚信男が翻訳を担当しました。(オリジナルはこちら