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【開催報告】AI 時代のアジャイル ── 異業種 4 社が語る実践と挑戦
イントロダクション
「変化を歓迎する」──それはアジャイルが一貫して大切にしてきた姿勢です。そしていま、生成 AI の急速な普及は、ソフトウェア開発に大きな変化をもたらしています。AI コーディングエージェントが日常のツールとなり、要件定義から実装、運用に至るまでのプロセス全体が再定義されつつあります。求められる人材のスキルも、内製化と外部パートナーの役割分担も、そのあり方が問い直されています。
だからこそ、計画に固執せず変化に適応し、短いサイクルで小さく試して学びを回し続けるアジャイルの真価が、AI 時代にこそ問われています。AI を開発のどこに委ねるのか、スピードと品質をどう両立するのか、文化を組織にどう根付かせるのか、各社の試行錯誤を持ち寄り、対話する場としてのイベントを開催しました。本記事ではその様子をご紹介します。
イベント概要
2026 年 6 月 9 日、AWS 麻布台オフィスにて「FY26 アジャイルへの取り組み 異業種情報交換イベント」を開催しました。本イベントには、株式会社サイバーエージェント様、東海旅客鉄道株式会社様、株式会社日立ハイテク様、富士フイルムホールディングス株式会社様の 4 社から、アジャイルに取り組んでいる実務者の方々にご参加いただきました(以降、参加企業名については情報保護の観点から、A 社、B 社などのアルファベット表記とします)。
参加各社が扱うプロダクトは、サプライチェーン最適化のための DX 基盤、社内向け AI プラットフォームなど多岐にわたり、業界や組織文化も大きく異なります。各社それぞれの特徴あるスタイルでアジャイル開発を推進されている点が印象的でした。
ラウンドテーブル
ラウンドテーブルでは、6 つのテーマで議論を行いました。
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AI、開発のどこに使っていますか?
各社共通して、コーディング支援とドキュメント生成は確かな成果が出始めている領域として挙がりました。一方、要件定義の上流や組織横断の意思決定を伴う領域では、AI を活かしきるための運用設計がまだ模索中であることが共有されました。A 社様からは「生成 AI 支援から自動化へ」、すなわち AI に手伝ってもらう段階から AI に任せる段階への移行が次のチャレンジとして語られ、B 社様からは、AI を前提とした内製プラットフォームの社内展開で月単位の業務削減効果を計測している事例が紹介されました。AI 活用は「何に使うか」だけでなく「フィードバックをどう次の改善に回すか」が決定的に重要、という認識が共有されました。
アジャイル文化の浸透、最初の突破口は何でしたか?
複数社から共通して挙がったのは、「動くものを早期に見せる」ことの強さです。机上の説明では伝わらない価値も、実際に動くプロダクトを目にすると一気に理解が進む、という経験は各社に共通していました。C 社様からは運用改善ワークショップを起点に Phase 分けで段階的に進め、現場の納得感を醸成しながら自動化アジャイルを浸透させている取り組みが、D 社様からは、3 年前にスクラムを始めた当初に社内の評価制度や承認プロセスとの摩擦を一つずつ解消してきた経緯が紹介されました。組織特性によってアプローチは異なりますが、「小さな成功を見せる」「現場の納得を起点に広げる」という点で各社の経験は一致していました。
スピードと品質、どう両立していますか?
A 社様からは、シフトレフト活動による後工程不良の低減と、リリーススピード重視で生まれた技術負債の精算を並行して進める取り組みが紹介されました。デプロイ頻度を継続的に伸ばす中で品質を担保し続けるための仕組み作りの重要性が強調されました。B 社様からは、機能規模の拡大に伴い毎週リリースが困難になりつつあり、リリースサイクルの見直しが必要になってきている、というリアルな悩みが共有されました。C 社様からは、ゲートキーパー型からガードレール型への運用転換、すなわち「事前審査で止める」のではなく「動きながらガードレールで守る」という発想転換が紹介されました。「品質を確保することが結果的にスピードアップにつながる」という、スピードと品質を二項対立で捉えない視点が印象的でした。
アジャイルの成果、社内にどう説明していますか?
A 社様からは、アクティブ開発者数、開発ステップ数、マージ済 MR 数、変更リードタイム、デプロイ頻度といった開発生産性指標を継続的に計測し、KLOC のような従来指標も含めた複数の物差しで価値を語るアプローチが共有されました。B 社様からは社内利用時間の業務削減効果や全社 MAU といったユーザー側の指標で価値を語る取り組みが、C 社様からは自動化による工数削減率など運用自動化ならではの ROI の見せ方が、D 社様からは、プレスリリースや AWS Summit といった外部発信を通じて社内に対しても「成果が世の中に届いている」ことを可視化する効果が紹介されました。経営層への説明においては、開発側と顧客・利用側の指標を組み合わせて多角的に価値を提示することの重要性が、改めて確認されました。
新メンバーの立ち上がり、何を工夫していますか?
A 社様からは、新規メンバーがスクラムチームへ参画する際の早期立ち上がりが現在進行形の課題として提起され、ドキュメント整備、ペア作業、徐々に責任範囲を広げる段階的アプローチが共有されました。C 社様からは運用改善ワークショップを通じて新規メンバーが業務全体像を可視化するところから始める手法が、D 社様からは自社内スクラムマスターの養成と、開発・運用・広報を並行して進める中で各役割を体験的に学ぶ仕組みが紹介されました。技術力だけでなく自律性と改善マインドを育てる重要性は過去にも取り上げられてきましたが、今回は「AI ツールに早く慣れることが立ち上がりを加速する」という新しい視点も加わりました。
ふりかえり、形骸化させない秘訣は?
お悩みのポイントは「同じ話の繰り返しになる」「アクションが実行されない」というものでした。これに対し、フォーマットを定期的に変える、外部ファシリテーターを入れる、アクションのオーナーと期限を必ず決める、次回冒頭で前回アクションをレビューする、といった具体的な工夫が共有されました。A 社様からは品質指標の推移を見ながらふりかえることで感覚的な議論ではなくデータドリブンなふりかえりを目指している取り組みが、B 社様からは Slack や Notion を活用してフィードバックを日常的に集め、ふりかえりを「2 週間に 1 度の特別なイベント」ではなく「常時走るプロセス」にする取り組みが紹介されました。「ふりかえりは儀式ではなく改善のエンジン」という言葉が印象的に残ったテーマでした。
参加者の声
イベント終了後のアンケートでは、多くの参加者から高い満足度と前向きなコメントをいただきました。
- 自分たちだけが持っている知見だけに捉われている部分があったので、各会社様の話を聞けて有意義な時間となった
- スピードと品質の両立において、品質を確保することによって手戻りが減少し、スピードアップにもつながること
- 他社の使用ツール、振り返り方法、要件定義から実装に移るまでのフロー、AI の活用方法を知れた
- 組織の制約の中でアジャイルを進める工夫をいろいろ伺えてよかった、今後の活動に活かしていきたい
一方で、「ディスカッションの時間がもう少しあると良い」「もう少し参加社数が多くても良い」など、次回に向けた建設的なご要望もいただきました。これらの声は次回イベントの企画に活かしてまいります。
まとめ
今回のイベントを通じて、いくつかの重要な気づきが共有されました。第一に、AI はアジャイルを置き換えるものではなく、アジャイルの中に組み込まれて進化を加速させるパートナーであるということです。第二に、スピードと品質は二項対立ではなく相互強化の関係にあるということです。品質を担保する仕組みが手戻りを減らし、結果的にスピードを生みます。第三に、アジャイルの成果を語る言葉は多角的でなければならないということです。開発側、顧客側、運用側の指標を組み合わせて経営層に価値を提示する力が問われます。そして最後に、「自律と改善」のマインドセット、小さな成功を積み重ねる実践的アプローチ、業界を越えた情報交換の重要性、これらは AI 時代になっても変わらないアジャイルの本質です。本イベントで参加各社が得た知見が実務に反映され、次の一歩につながることを期待しています。
