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コンタクトセンターのリーダーは生成系 AI によるカスタマーエクスペリエンスをどう評価するか
生成系 AI は、多くの企業にとって関心のある分野です。Gartner は、2024 年までに、エンタープライズアプリケーションの 40% に会話型 AI が組み込まれると予測しています。2020 年には、この数字は 5% 未満でした。AWS では、さまざまなビジネスセグメントで生成系 AI をどのように使用できるかお客様から頻繁に聞かれます。カスタマーエクスペリエンス (CX) は特に大きな関心を集めている分野です。
この 3 部構成のブログ投稿シリーズの第 1 部では、生成系 AI とは何か、それが CX の状況をどのように変えているか、そしてそれがもたらすビジネス成果について説明しました。また、Amazon Connect による生成系 AI の活用例のデモも紹介しました。
シリーズの第2部では、ビジネス上の課題を解決するために、他の方法と比較してどのような場合に生成系 AI を使用すべきかに焦点を当てます。また、問題提起から逆算して、ユースケースに適用できる最適なテクノロジーの決定をお手伝いします。
顧客体験の向上に向けた大規模言語モデル (LLM) の適用
ほとんどの LLM は、基盤モデル (FM) を使用して構築されています。 FM は、広範囲にわたる一般化されたデータとラベル付けされていないデータに基づいてトレーニングされます。FM は、言語の理解、テキストや画像の生成、自然言語での会話など、さまざまな一般的なタスクを実行できます。FM は、他のモデルを構築するための基盤となります。また、FM 自体を直接使用することもできます。
LLM で作成された出力は、まるで人間が書いたかのように見えるため、カスタマーエクスペリエンスアプリケーションにおける人間とテクノロジーのインターフェースとして理想的です。ただし、他のテクノロジーと同様に、生成系 AI の使用には賛否両論があります。適切な用途を判断するには、これらを慎重に検討する必要があります。
適用機会のある領域
生成系 AI は、他の機械学習技術では簡単には実現できない顧客体験を向上させる機会を提供します。LLM は非常に柔軟です。同じモデルで、質問への回答、文書の要約、言語の翻訳、文章の完成など、複数のタスクを実行できます。自然な「人間が作成したような」コンテンツを生成できるため、定型化された情報に頼る必要がなくなり、回答を高度にパーソナライズできるようになります。生成系 AI の実際のユースケースを見てみましょう。
Amazon.com では現在、生成系 AI を使用して、1つの製品に関する複数のレビューを要約しています。以下の例では、Amazon.com は生成系 AI を使用して、ストレージキャビネットに関する 3,000 件を超えるレビューを、読みやすく、データが豊富な 1 件のレビューにまとめています。購入者は時間をかけて複数のレビューを熟読する代わりに、このまとめを見ることで、購入について迅速に決定を下すことができます。
生成系 AI は、知識集約型の自然言語処理にも使用できます。これは、 LLM がナレッジベースのアーカイブにある特定の質問に答えるために使用する手法です。これはコンタクトセンターのエージェントを補助するアプリケーションで非常に役立ちます。
以下の例では、顧客がレンタカー会社に連絡してキャンセル料について問い合わせています。
音声文字起こしを使用して、キャンセルに関する質問があったことをシステムが検出し、インテリジェント検索を使用してその質問に関連する内部文書を検索しました。そして、生成系 AI は、それらの文書から導き出された回答を要約することで、このユースケースを強化します。
エージェントが顧客に提供できるソリューションを含む簡潔な応答を生成系 AI が返しました。これにより、エージェントは複数のナレッジ記事を熟読して回答を作成するための時間を節約でき、平均処理時間 (AHT) を節約できます。
生成系 AI の活用例のデモの中でもこのシナリオの全容を説明しています。
課題がある領域
適用機会だけでなく、生成系 AI にはいくつかの課題もあります。これには、対応の正確さ、コスト管理、スピード、使いやすさなどがあります。LLM は非常に大規模で強力なモデルであるため、他の従来の AI モデルや代替の自動化技術よりも処理速度が遅く、コストも高くなる可能性があります。また、他の方法よりもリスクが高い場合もあります。例えば、一見もっともらしく見えるコンテンツが生成されたり(ハルシネーション)、偏見が含まれていたり、会社の特定の価値観に沿っていないようなアウトプットを生み出すことがあります。アウトプットを完全にコントロールできないと、ガバナンスやコンプライアンスに影響を与える可能性があるため、それらを考慮する必要があります。
生成系 AI の課題への取り組み
AWS では、設計、開発、デプロイ、運用全体を通じて責任ある AI を念頭に置いて FM を構築しています。AWS は、正確性、公平性、知的財産と著作権に関する考慮事項、適切な使用、プライバシーなど、さまざまな要素を考慮しています。これらの要素は、トレーニングデータの取得プロセス全体、FM 自体、またユーザープロンプトの前処理や出力の後処理に使用する技術
においても対処されています。AWS は、お客様からのフィードバックを基に機能を積極的に改善していますが、モデルの学習には顧客データを使用しないため、ユーザーのプライバシーとセキュリティがより強化されています。
生成系 AI の利用者としては、考慮すべき緩和戦略があります。その鍵となるのが、人間に最新情報を伝えることです。企業が生成系 AI の使用方法を学習、適用する場合は、顧客向けのユースケースではなく、社内のユースケースから始めましょう。生成系 AI モデル (Anthropic の Claude 2 や Amazon Titan など) と直接やり取りする場合、プロンプトエンジニアリングの分野が重要になります。つまり、モデルが提供する出力を制御し、特定のニーズに合わせて出力を形作る入力を作成する方法を学ぶことです。プライバシーやセキュリティの問題に対処するには、Llama-2 などのモデルやホスト可能な他のモデルを自社サーバー上で完全にセルフホストすることを選択できます。ただし、これらの分野に重点を置き、確かな実績を持つ AWS のような信頼できるプロバイダーのマネージドサービスを使用することもできます。生成型 AI の利用者として、責任ある AI に対してできる最大の寄与できる点は、ユースケースを慎重に選択することです。
Working backwards: 生成系 AI に適したユースケースか判断する方法
Amazonでは、お客様のニーズから始めて、お客様が直面している問題の根源にたどり着くことを、「Working backwards」と呼びます。まず、ソリューションから始めるのではなく、問題から逆算して、適切なソリューションが何であるかを評価してください。次に、その業務に適したツールを見つけます (複数ある場合もあります)。問題から逆算していくうちに、その問題を解決するためのさまざまなアプローチが見つかるかもしれません。場合によっては、手動によるプロセスを採用したり、ロジックやルールを適用したりすることもあります。また、従来の AI を使用したり、生成系 AI を利用することもあります。各選択肢を詳細に説明し、その長所と短所を評価します。このプロセスは、チェックリストというよりは旅のようなものであることに注意してください。
手動プロセス — 手動プロセスでは、プロセスの各段階で人員が必要です。このプロセスは単なるデータドライバーでなく、毎回意思決定が下されるような、少量で機密性の高いワークロードや複雑なワークロードに適しています。例えば、人命の損失に関する保険金請求業務では、人間が高い判断力と共感力をもって処理することを望むでしょう。しかし、エージェントや熟練した作業者が必要でいくつかの課題があるため、手動プロセスの拡張は困難です。トレーニング、スケジューリング、人員の減少/退職の管理や人件費が、この方法を大規模に展開する際の複雑さの原因となっています。
ロジックとルール — 単純で反復的なタスクは、論理的な意思決定に基づくフローを使用して解決できます。これらには生成系 AI は必要ありません。その一例として、従来の自動音声応答 (IVR) システムや、セルフサービス用のメニュー方式のチャットボットを使用して顧客をエージェントにルーティングすることが挙げられます。このような場合、フローは単純で、繰り返し可能で、論理的で、ルールに基づきます。この場合の利点は、コストが低く (非常にシンプルな自動化と複雑でないサービスが必要)、リスクが低い (監査/テスト/理解/変更が容易) ことです。また、多くの場合組織ですでに持っているスキルセットでもあります。このアプローチの課題は、より複雑な要件や意思決定に基づく要件には対応できないことです。
従来の AI — 問題がより複雑になり、単純なルールやロジックでは複雑になりすぎた場合、従来のAIが活躍するようになります。たとえば、IVR で従来の会話型 AI を使用してユーザーの意図を検出し、パスワードのリセットなどの簡単なタスクを処理できます。生成系 AI でも同じことができますが、ユースケースによっては、大きなハンマーを使って画びょうを打ち込むような方法になることもあります。従来の AI システムは 1 種類の仕事をするように訓練されていますが、一般的にこれは特定のタスクに対して非常にうまく機能することを意味します。特定の機能だけが必要であれば、より小規模な単一目的のモデルを実行する方が、一般的に低コストで高速です。
注目すべきは、従来のAIは、文字起こし、分類、自然言語理解などのコンタクトセンターのユースケースで依然として大きな役割を果たすということです。生成系 AI は、既存の AI ソリューションに取って代わるのではなく、より強化するものです。Amazon Connect は従来の AI をさまざまな方法で活用しており、AI を中核として開発されました。たとえば、Amazon Connect Contact Lens は、文字起こしと理解モデルを使用してコンタクトセンターの分析を行います。
生成系 AI — この項目で説明したいのは、生成系 AI が差別化要因となり、他に着目しているオプションに比べて大幅に改善するユースケースです。こうしたシナリオは、多くの場合、(従来の AI では実現できなかった) 新しいアウトプットを生み出すことが鍵となるシナリオです。たとえば、先ほどの Amazon.com のレビューの例から、生成系 AI は要約に優れていることがわかります。
コンタクトセンターではどうでしょうか?
A) 休暇のために予約をしているお客様からの電話の例を見てみましょう。以下は、通話の記録のスクリーンショットです。通話の書き起こしの横には、生成系 AI を使用して作成された、通話の詳細で簡潔な要約が表示されます。
通話をレビューするマネージャーやスーパーバイザーは、書き起こし全体を読む時間を費やすことなく、概要をすばやく閲覧できるようになります。
B) もう1つの複雑な例として、生成系 AI の推論機能を使用してエージェントコーチングツールを作成することが挙げられます。
このツールにより、生成された通話の書き起こしを基に、評価フォームの質問に対する答えをスーパーバイザーに自動的に回答できるようになります。下のスクリーンショットは、書き起こしのサンプルとそれに関連する評価フォームを示しています。評価フォームには、生成系 AI が提供した分析を使用した回答が自動的に入力されます。
単純な分類器とは異なり、質問には「はい」または「いいえ」以上の答えを得ることができ、答えの背後にある理由もわかります。これにより、スーパーバイザーとマネージャーは、生成系 AI が提供した答えをすばやく検証できます。その後、必要に応じてスーパーバイザーが答えを調整できます。
どちらの例でも、生成系 AI は人間によるプロセスを強化して効率を高め、スーパーバイザーやエージェントが顧客に集中できる時間を増やしています。ただし、これらのアウトプットを最大限に活用する方法についてスタッフを教育することが重要です。特定の会社やユースケースに最適なアウトプットが得られるようにシステムをチューニングするためには、ある程度の繰り返しが必要な場合があります。重要なのはこうした生成系 AI のアウトプットをやみくもに受け入れてはいけないことです。
上記の例では生成系 AI が問題を解決しましたが、すべてのユースケースに適しているとは限りません。私たちは、ユースケースの選択方法に責任を持つ必要があります。生成系 AI が適切なソリューションかどうかを判断するうえで参考になる質問をいくつかご紹介します。
- このユースケースは、AI を使用するのが無責任なユースケース(不正確な出力などによる潜在的な害が価値を上回るケース)ではないか
- このユースケースは、既存の方法ですでに解決されており、生成系 AI に切り替えても大幅に改善される可能性が低いのではないか
- このユースケースは、既存のソリューションで置き換えるよりも、生成系 AI を使って強化できるユースケースなのか
- 実験や効果の評価にはどれくらいの初期費用がかかるのか。既存のマネージドサービスやすぐに使用できる標準の機能はないか
- 反復して実装を安全にテストしたり、学習する時間を確保できるか
- この決定を下すのにふさわしいスキルがあるか
生成系 AI は強力なツールですが、習得するには時間と投資も必要です。各ユースケースやビジネスに独自の微妙な違いがあり、検討すべき点も異なります。
結論
生成系 AI は、まだ大きな可能性を秘めた非常に新しいテクノロジーであり、成長の余地があります。生成系 AI をいち早く試すことで、新しい機能が登場したときに、適切な機会にそれを採用する準備が整います。詳細については、AWS での生成系 AI をご覧ください。ここでは、その他の実際のユースケース、教材、Amazon Bedrock などのテクノロジー、そしてもちろん相談できる専門家も見つけることができます。私たちはカスタマーサービスのユースケースに適したテクノロジーソリューションを見つけるために、逆算して取り組む方法について、お客様と協力する準備が整っています。生成系 AI と Amazon Connect を使い始める方法については、アカウントチームに相談することをお勧めします。
著者について
翻訳はテクニカルアカウントマネージャー高橋が担当しました。原文はこちらです。