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コンタクトセンターのリーダーは生成系 AIにどう備えるか

生成系 AI (Generative AI) への関心が広まったことで、ビジネス上の課題、特に顧客サービスの課題を解決するために AI の利用に再び注目が集まっています。生成系 AI は、会話、ストーリー、画像、動画、音楽など、新しいコンテンツやアイデアを生み出すことができる AI の一種です。マッキンゼーによると、カスタマーエクスペリエンス (CX) は生成系 AI のトップユースケースの 1 つです。同社は生成系 AI をカスタマーケア領域に適用することで、生産性コストが 30 ~ 45% 改善すると予測しています。
3 部構成のブログ投稿シリーズの第 1 部では、生成系 AI とは何か、生成系 AI が CX 環境をどのように変えているか、そして生成系 AI がもたらすビジネス成果について見ていきます。第 2 回と第 3 回では、生成系 AI を成功させるための重要な考慮事項と、CX 環境で大規模言語モデル (LLM) を使用する際のベストプラクティスについて詳しく説明します。

生成系 AI によるカスタマーエクスペリエンスの革新

生成系 AI は、大量のデータに対して事前にトレーニングされた非常に大規模な機械学習モデルによって実現されています。たとえば、 Amazon Bedrock で公開されている Anthropic の Claude 2 は、1370 億個のパラメータを使用してトレーニングされました。これらの事前トレーニング済みモデルは、一般に基盤モデル (FM) と呼ばれます。大規模言語モデル (LLM) は、人間のようなテキストの理解と生成に重点を置いた FM の一種です。

LLM は、コンタクトセンターが大量のデータを管理および処理する方法を改善し、リアルタイムで CX を強化できるため、CX のユースケースで素晴らしい可能性をもたらします。たとえば、LLM の備える人間並みのテキスト生成機能は、CX にとってすぐに活用できる分野です。テキスト生成により、会話の要約のようなテキストを生成したり、エージェントをリアルタイムで支援することに利用できます。

LLM はコンタクトセンターでの自動化を成功させるための基礎となる、音声やチャットボットの会話の自然言語処理も改善します。 LLM が会話のコンテキスト(通話履歴、以前の会話の記録、以前の取引など)として膨大な量のメタデータを活用できるためです。さらに、 LLM は複雑で非線形の文章構造をより簡単に理解できるため、連絡の意図を正確に判断できます。
発信者が自然言語理解 (NLU) 旅行ボットと対話する例を考えてみましょう。旅行者がこのボットに「ノルウェーの首都」へ旅行する意図を伝えたとします。従来の NLU ボットには、その意図を適切に解決するためのコンテキストがありません。 NLU ボットは、結果を得るためのデータセットがはるかに限られているため、通常、LLM ほどパラメータートレーニングの深さはありません。しかし、 LLM を統合すれば、ボットは顧客がオスロへの旅行を希望していることを「理解」するでしょう。これは、 LLM が膨大なパラメータ知識を使って顧客の意図を解決するという、非常に単純な例です。

LLM が生成する応答よりも予測性の高い結果を得るために、回答を特定の小さなデータセットに限定したいというユースケースがあるかもしれません。これらのユースケースとトレードオフについては、このシリーズの今後のブログ記事で詳しく説明します。

生成系AIでコンタクトセンタービジネスはどう改善できるか

私たちはカスタマーエクスペリエンスの向上は、生成系 AI のトップユースケースの1つだと考えています。それは、生成系 AI によって、エージェントへの支援、マネージャー向けの洞察、顧客向けのセルフサービス体験をさらに改善する機会があるからです。

生成系 AI がコンタクトセンターでどれほど役立つかを検討する際には、達成しようとしているビジネス成果から始めることが重要です。これにより、コンタクトセンターにおける生成系 AI の具体的なユースケースを絞り込むことができます。生成系 AI の次の 3 つのユースケースは、エージェントの効率を高め、データをより正確に処理し、顧客がより複雑なクエリへの回答を得られるようにすることで、すぐにビジネス価値をもたらします。

生成系 AI は、エージェントが顧客の問題に対応する際の効率性と正確性を向上させることで、処理時間をさらに短縮し、初回解決率を高めることに役立つ可能性があります。生成系 AI で企業のナレッジコンテンツから要約された回答やアクションをリアルタイムに生成することで、エージェントの能力を助け、エージェントが顧客の問題を迅速かつ正確に解決できるようにします。たとえば、顧客が自動車保険の請求について問い合わせるために電話をかけてきた場合、 LLM は顧客の請求と保険契約に関する情報、保険会社の Web サイトにある修理店の詳細、内部リポジトリの保険契約書を活用して、エージェントに包括的な対応と顧客の問題解決に役立つ次のアクションを提供できます。

また生成系 AI により、少量のサンプルではなくすべてのコンタクトを分析することで、対応中のリアルタイムおよび対応後の分析と品質保証の取り組みを強化することもできます。これにより、マネージャーは洞察をより迅速に特定し、エージェントがポリシーを順守していることを確認できます。生成系 AI を使用して会話を簡潔にまとめることができるため、エージェントやマネージャーが会話を引き継ぐ際にメモを取ったり確認したり、経緯を共有したりする時間を短縮できます。たとえば、生成系 AI は、回線契約の問い合わせに関する長い会話を「顧客がエージェントから提示された 10 ドルのリベートを拒否した後、回線契約をキャンセルした」と要約できます。また、 LLM は、エージェントの能力がビジネス成果をどのように左右するか、さらなる洞察をマネージャーに提供します。その後、コーチングポイントやエージェントトレーニングなどの推奨アクションを提供して、パフォーマンスをさらに向上させることができます。

さらに、セルフサービスエクスペリエンスを最適化して、様々なチャネルを活用し、自動セルフサービスエクスペリエンスの開発コストを削減したいと考えているかもしれません。生成系 AI はここでも、企業が顧客の意図の複雑なニュアンスを理解しやすくすることで役に立ちます。また、セルフサービス体験の設計、構築、更新を容易にするコンタクトセンターの構成を改善するための、 LLM を活用した推奨事項も提供できます。

Amazon Connect と生成系 AI の組み合わせによる可能性

2017 年に Amazon Connect の提供を開始したとき、統合された AI 機能をゼロから構築しました。これにより National Australia BankTraegerAccorJust Energy などのお客様が、処理時間の短縮や顧客満足度の向上などの成果を実現しています。私たちは Amazon Connect の既存の組み込み AI 機能を生成系 AI を使って強化することで、さらなるビジネス価値をもたらす機会があると考えています。

以下のデモでは、生成系 AI をコンタクトセンターの 3 つのユースケース (エージェントアシスタンス、マネージャーアシスタンス、カスタマーセルフサービス) にどのように使用できるかを紹介します。

効率的で効果的なサービスを顧客に提供しながら、コンタクトセンターの実際のビジネス成果を促進する生成系 AI のアプリケーションについて、皆様と協力できることを嬉しく思います。

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著者について

Mike Wallace  Mike Wallace は AWS でアメリカのカスタマーエクスペリエンス分野のソリューションアーキテクトをリードしています。
Andrea Caldwell Andrea Caldwell は AWS の Amazon Connect のプロダクトマーケティングマネージャーです。

翻訳はテクニカルアカウントマネージャー高橋が担当しました。原文はこちらです。