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Amazon Connect と Amazon Lex によるセルフサービス導入と継続改善:JBR コンタクトセンターの業務効率化の取り組み

はじめに

ジャパンベストレスキューシステム株式会社(以下、JBR)は、日本全国で展開する生活救急サービスのリーディングカンパニーです。住宅のカギの紛失や水まわりのトラブル、ガラスの破損など、日常生活で発生する様々な緊急事態に対し、24 時間 365 日体制で駆けつけサービスを提供しています。「困っている人を助ける」という企業理念のもと、生活救急事業を中心に事業を拡大しており、現在では年間約32万件の救急対応実績を誇り、全国 47 都道府県をカバーする約 2,000 の協力事業者ネットワークを構築しています。

このブログでは、JBR がカスタマーサービスの品質向上と業務効率化を実現するために、Amazon ConnectAmazon Lex でセルフサービスを導入し、目標数値の 75% の自動応答化とエージェントの業務時間削減に成功した事例についてご紹介します。

課題背景

JBR では Amazon Connect を活用したコンタクトセンター運営を行ってきましたが、以下のような課題に直面していました :

  • 業務量増加に伴うエージェント対応の維持、拡大
  • 目標応答率の安定的な達成
  • 顧客層により求められるサービスレベルの違い(人による対応重視 vs 受付完了優先)
  • 対応時間の約 40% を占める定型的なお問い合わせ、要件確認の効率化

これらの課題を解決するため、音声ボットの導入を検討することになりました。

ソリューション選定

複数の音声ボットソリューションを比較検討する中で、以下の理由から Amazon Lex の採用を決定しました :

  • 既に運用中である Amazon Connect 環境との統合の容易さ
  • 実環境での検証 (PoC) が可能
  • クライアント企業への展開を見据えたスケーラビリティ

プロジェクト推進と工夫

対象窓口(対象回線)の選定

JBR 様のコンタクトセンターでは、主に一般のお客様からの緊急対応依頼とパートナー店(工務店)や作業員からの業務連絡の 2 つの異なる顧客層からの問い合わせがあります。今回は、業務インパクト、クライアントへの事前周知、エージェントと顧客の会話のパターン化、の観点から業務連絡の窓口を対象としました。

インテント設計

以下は、Amazon Lex を構成する要素の一部です :

  • ボット (Bot): アプリケーションの最上位コンテナで、音声認識と自然言語理解により、ユーザーとテキストや音声で対話します。
  • インテント (Intent) : ユーザーが実行したい行動や目的を表します。例えば「注文する」「予約する」「問い合わせる」などです。
  • サンプル発話 (Sample Utterances) : ユーザーがそのインテントを表現する際の典型的な言い回しです。「ピザを注文したい」「大きいピザをお願いします」など、同じ意図でも様々な表現パターンを登録します。
  • スロット (Slot) : インテントを実行するために必要なパラメータです。注文インテントであれば「商品名」「数量」「配送先」などがスロットになります。

これらの要素を適切に設計することで、ユーザーの意図を正確に理解できるチャットボットを構築できます。

効果的なインテント設計を実現するために、まずエージェントと顧客の過去の会話ログを詳細に分析することからスタートしました。開発部門では会話録音から生成 AI を利用してインテントの候補となるサンプル発話、スロット案を抽出しました。実際のコンタクトセンターオペレーションを担当している CS 部門では、現状の運用業務観点でインテントやスロット案を検討、最終的には両者を統合させてまずはベースとなるインテント、スロット、サンプル発話を決定しました。

表:インテント、スロット、サンプル発話の例

Amazon Lex のテストと品質向上の取り組み

業務連絡用の窓口であっても後続の工程があるため、高い精度と品質が求められました。そこで、評価指標として過去の実績から Amazon Lex による対応で完結する着信を、全体の着信の約 20% と推定して評価を行い、実行テストに力を入れることにしました。まず、Amazon Lex 上で用意されているテスト機能を使用し、各インテント(意図)が最後まで正しく実行されるかを確認しました。このテスト機能はテキスト入力で行うため、想定される入力値と、システムが認識したインテントが合致しているかを視覚的に確認でき、非常に有用でした。このテストでインテントの認識に問題がないことを確認した後、テスト用の電話番号を用意し、実際の電話対応によるテストを実施しました。電話対応でも問題がないことを確認した後、テスト用の電話番号を公開し、案内文言の分かりやすさなど、多角的な視点からフィードバックを集めました。テストでは、Conversational Analytics with Amazon Connect を有効化し、会話データを収集・分析し、継続的なインテントの改善を行いました。そして、2025 年 9 月にリリースされた Amazon Lex の アシストつきNLR(Assisted NLU)も迅速に設定を適用しました。集めたフィードバックを Amazon Lex のインテントやコールフローに反映して再テストすることで、継続的な精度と品質の向上に注力しました。

また、Coversational Analytics によって文字おこしされた会話データは、以下の「エージェントソフトフォンへの会話要約表示」に活用することでエージェントのオペレーション改善にも繋げることができました。

エージェントソフトフォンへの会話要約表示

継続的なインテントやスロット、サンプル発話の分析のために、Coversational Analytics による会話内容のログ出力を継続しました。以前から CS 部門から会話要約表示機能の実装要望もあったことから、エージェントソフトフォンである CCP への会話要約表示機能の実装を Amazon Lex ボットの実装と並行して実施しました。会話要約は Coversational Analytics の文字起こし機能を利用して音声から文字に変換し、要約表示に必要なフォーマットに変換するために Amazon Bedrock を利用しています。文字起こしの結果は Amazon Bedrock を利用して要約することで、業務要件にあわせたプロンプト設定によって自然で実用的な日本語の要約を実現しました。JBR では通話後にエージェントが通話内容から必要な情報を抽出して、別システムに入力する業務があります。これを CCP に表示された要約内容をそのまま利用することが可能になり、エージェントの後処理時間 (ACW) の短縮にも繋がり、オペレーションの品質向上と正確性の確保も実現することができました。電話応対する現場からは「 受付内容を手動で入力する必要がなく、要約された内容をそのままシステムに転記できるので、作業時間が短縮されました」、「会話中にメモを取ることに集中するあまり、お客様の話を聞き漏らしてしまうケースがありましたが、この機能のおかげで対話に専念できるようになりました」といったフィードバックを得ることができました。

導入成果

初期のリリースでは、対象回線 3 回線、インテント数 19 で開始したところ、約 2,700 から約 4,000 件/月の着信に対して想定したインテントに振り分けられなかった着信が約 46%(エラー率)、Amazon Lex による対応のみで完結した着信が約 7%(ボット率)でした。この結果を受けて、 Coversational Analytics を有効化し、5 月間で約 16,000 件の会話データを収集・分析しました。会話分析では、文字起こしされた会話内容だけでなく、録音された音声データを確認し、通話時のまわりの環境音もインテントの判定に影響を与えているという発見もありました。この分析結果に基づき、うまく振り分けられなかった会話内容や録音を確認して、サンプル発話を追加したり、インテントの追加や集約など地道ながらも継続的な改善を行いました。

結果、初期リリースから 5 ヶ月後には着信数が 4,000 件/月に達するなかでエラー率が約 18%、ボット率が約 15% (評価指標に対して、約75% の達成率) となりました。さらに 3 ヶ月間の継続改善の結果、エラー率が約 2.8% に減りました。

今後の展開

継続的な改善として、Amazon Lex によって想定したインテントに振り分けられなかった着信について会話内容の分析を行なっていくとともに、より柔軟な対応を可能にするため、複数の Amazon Lex ボットを配置することによる用途別対応の検討も進めています。また、エンドユーザー向け窓口への Amazon Lex 展開も計画しています。

JBR  が扱うのは、鍵の紛失や水漏れといった日常生活における緊急事態です。このような状況では、お客様の不安や焦りに寄り添う人間的な対応が不可欠な場面も多く存在します。JBR では、「すべてを自動化する」のではなく、「適切な箇所に、適切なタイミングで、適切な技術を適用する」ことを重視しています。技術による効率化と人間ならではの温かみのある対応を最適にバランスさせることで、真にお客様に価値を提供できるサービスの実現を目指しています。

まとめ

JBR の事例は、Amazon Connect と Amazon Lex の組み合わせによって、以下の成果を実現できることを示しています:

  • エージェントのヒアリング業務負荷と ACW の軽減
  • 24 時間 365 日の安定したサービス提供
  • データ分析に基づく継続的な改善
  • 自動応答割合のコントロールが可能