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「フィジカル AI 開発支援プログラム by AWS ジャパン」キックオフイベントを開催しました

2026 年 3 月 3 日、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社(以下、AWS ジャパン)は、「フィジカル AI 開発支援プログラム by AWS ジャパン」のキックオフイベントを東京の AWS 目黒オフィスにて開催しました。本プログラムは 2026 年 1 月 27 日に発表し、応募受付を開始したもので、多数の応募の中から厳正な選考を経て採択された皆さまをお迎えし、約 6 ヶ月間にわたる開発支援の幕開けとなりました。

フィジカル AI の可能性

フィジカル AI とは、物理世界で動作する AI の総称です。ロボットや自動運転車、ドローンなど、現実世界のセンサー情報を理解し、自律的に判断・行動する AI 技術を指します。近年、大規模言語モデル(LLM)の急速な進化を背景に、言語だけでなく視覚情報と行動を統合的に扱う Vision-Language-Action(VLA)モデルをはじめとしたロボット基盤モデルの研究開発が世界的に加速しています。

日本は製造業やロボティクスにおいて世界をリードしてきた歴史があります。この強みと、生成 AI の最新技術を掛け合わせることで、日本発のフィジカル AI イノベーションが生まれる大きな可能性があると私たちは考えています。

AWS ジャパンは 2023 年の LLM 開発支援プログラムを皮切りに、生成 AI 実用化推進プログラムや経済産業省 GENIAC へ参画するお客様の支援など、これまでに 300 を超える企業・団体の生成 AI 開発を支援してきました。本プログラムは、その知見と実績をフィジカル AI 領域に展開するものです。

プログラム概要

本プログラムは、AWS 上でロボット基盤モデル等を開発する日本の企業・団体を包括的に支援するもので、データ収集・前処理からモデルトレーニング、シミュレーション、実環境へのデプロイまでの一連のパイプライン構築をカバーします。

  • 技術支援: ソリューションアーキテクト(SA)によるアーキテクチャガイダンス、Prototyping & Cloud Engineering(PACE)チームによるサンプルコード提供、生成 AI イノベーションセンター(GenAIIC)によるロボット基盤モデル開発支援
  • コスト最適化支援: AWS クレジットの提供(計算リソースおよびデータ保管等の利用を支援)
  • コミュニティ形成: フィジカル AI コミュニティ Powered by AWS として、技術勉強会・ワークショップの開催、エンジニア間の交流促進、業界横断の知見共有
  • GTM 支援: モデル開発企業と製造業などロボット導入企業とのマッチング機会の提供、実証環境の提供支援、スタートアップ間の技術連携促進

支援期間は 2026 年 3 月から約 6 ヶ月間で、成果発表会を予定しています。プログラムの詳細は発表時のブログ記事をご覧ください。

キックオフイベントの様子

キックオフイベントは、採択企業の皆さまと AWS の支援チームが一堂に会する初めての機会となりました。

ご挨拶

イベントの冒頭では、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 代表執行役員社長の白幡 晶彦よりプログラムに対するビジョンについてお話しさせていただきました。

Amazon Robotics の取り組みについて

続いて、アマゾンジャパン合同会社 オペレーション技術統括本部 技術開発本部長 ダイレクターの内田 昌宏より、Amazon Robotics の取り組みについて講演いたしました。

Amazon のフルフィルメントセンター(FC)では、商品の入荷から出荷までの一連のオペレーションにおいて、AI とロボティクスの融合が進んでいます。講演では、自動レシーブ、AI による在庫配置最適化、Amazon Robotics の自動倉庫システム、そして触覚センサーをもつ棚入れ・棚出しロボット Vulcan など、実際の物流現場で稼働するフィジカル AI の事例をご紹介しました。

特に、Vision と深層学習で作業者の手の動きをトラッキングしてロケーションデータを自動確定する Intent Detection System(IDS)や、ML と Vision を活用して在庫の過不足を自動検出する Visual Bin Inspection(VBI)といった、現場の課題を AI で解決する具体的な取り組みをお伝えしました。さらに、ML アルゴリズムによる最小梱包の自動指定や、生成 AI を活用したオペレーションマネジメントなど、AI が物流オペレーション全体に浸透している様子を共有いたしました。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 代表執行役員社長 白幡 晶彦
白幡 晶彦
アマゾンジャパン合同会社 オペレーション技術統括本部 技術開発本部長 ダイレクター 内田 昌宏
内田 昌宏

Amazon は世界各国の物流拠点で 100 万台を超えるロボットを運用しており、こうした大規模な実践から得られた知見を、本プログラムを通じて日本のフィジカル AI 開発者の皆さまと共有していきます。

プログラム支援内容の紹介

続いて、プログラムの具体的な支援内容、支援チームのメンバー紹介、今後の進め方についてご説明しました。

本プログラムの技術支援の柱のひとつとして、Physical AI Scaffolding Kit(PASK) が紹介されました。PASK は、PACE チームが開発するフィジカル AI 開発者向けのツールキットで、開発ライフサイクル全体の課題を体系的に解決することを目指しています。

フィジカル AI の開発は、データ収集・前処理からモデル学習、シミュレーション、実機デプロイまで、多くのステップにまたがります。各ステップで必要となるインフラ構築やパイプライン設計に多大な時間を費やし、本来注力すべきモデル開発やアルゴリズム改善に十分なリソースを割けないという課題を、多くの開発者が抱えています。

PASK の第一弾として、Amazon SageMaker HyperPod 上で VLA のトレーニングを実行する環境のサンプルが 3 月後半に提供予定です。Physical Intelligence の openpi(π0)や NVIDIA Isaac GR00T のファインチューニングサンプルも含まれる予定で、プログラム参加企業へのヒアリングを通じて継続的にフィードバックを取り込み、PASK を進化させていきます。

また、PACE チームによるプロトタイピング支援も提供されます。参加企業が実現したいフィジカル AI システムのプロトタイプを、AWS 上に共同で開発するプログラムで、トレーニング可能な標準化されたデータパイプラインの構築や、スケーラブルなトレーニング環境の整備、Sim2Real 等の技術的ブロッカーの解決を支援します。

さらに、GenAIIC は、世界中の生成 AI エキスパートの知見に基づくベストプラクティスを共有し、VLA 開発の支援実績を活かしてソリューションの構築・展開を支援します。

採択企業によるピッチ

キックオフのメインセッションとして、採択企業の皆さまによるピッチが行われました。会場に参加いただいた企業を中心に、それぞれが取り組むフィジカル AI の課題とビジョンを共有しました。

ロボットメーカー、AI スタートアップ、製造業、大学研究機関など、多様なバックグラウンドを持つ企業・団体が集まり、産業用ロボットの知能化、自律移動ロボット、マニピュレーション、ヒューマノイドなど、幅広い領域のプロジェクトが紹介されました。参加者同士が互いの取り組みを知り、刺激を受け合う貴重な機会となりました。

なぜコミュニティが重要なのか – 日本のフィジカル AI エコシステムの構築に向けて

キックオフイベントの後半では懇親会が開催され、採択企業の皆さまと AWS チームが活発に交流しました。この「つながり」こそが、本プログラムが最も大切にしている要素のひとつです。

日本のフィジカル AI 業界の現状と課題

フィジカル AI の開発には、ソフトウェアだけの AI 開発とは異なる固有の課題があります。

データ収集の困難さ: ロボット基盤モデルの学習には、現実世界での大量の行動データが必要です。しかし、実機でのデータ収集はコストと時間がかかり、一社単独で多様なデータを網羅的に集めることには限界があります。シミュレーション環境の構築や合成データの生成といった技術的アプローチが重要性を増しており、本プログラムでもこうした取り組みを支援していきます。

ハードウェアとソフトウェアの融合: フィジカル AI は、AI モデルの開発だけでなく、センサー、アクチュエーター、制御系、通信といったハードウェア領域との密接な連携が不可欠です。日本にはロボティクスや製造業で培われた優れたハードウェア技術がありますが、最新の生成 AI 技術との統合には、異なる専門領域をつなぐ人材やコミュニティが必要です。

研究と社会実装のギャップ: 大学や研究機関で生まれた先端技術を、実際の産業現場で使えるレベルまで引き上げるには、エンジニアリング、ビジネス、規制対応など多面的な取り組みが必要です。研究者と事業者が直接対話し、課題を共有できる場が不足しています。

計算資源へのアクセス: VLA モデルをはじめとするロボット基盤モデルの学習には、大規模な GPU コンピューティングリソースが必要です。特にスタートアップや大学研究室にとって、これらのリソースへのアクセスは大きなハードルとなっています。

コミュニティがもたらす価値

こうした課題は、一社や一組織だけで解決できるものではありません。だからこそ、本プログラムでは「コミュニティ形成」を 4 つの支援柱のひとつとして位置づけています。

知見の共有と相互学習: 異なる領域で活動する企業・研究者が集まることで、技術的なブレークスルーや失敗からの学びを共有できます。キックオフイベントのピッチセッションでも、各社の発表に対して活発な質疑応答が行われ、分野を超えた知見の交換が始まっています。

エコシステムの形成: ロボットメーカー、AI 開発企業、部品サプライヤー、エンドユーザー企業、大学研究機関 — フィジカル AI の社会実装には、これらのプレイヤーが有機的につながるエコシステムが必要です。本プログラムは、その核となるコミュニティを日本に作ることを目指しています。

日本の強みを活かしたグローバル競争力: 日本のものづくりの精度、品質管理のノウハウ、そして産業用ロボットの豊富な運用実績は、フィジカル AI の開発において大きなアドバンテージです。これらの強みを生成 AI と融合させ、日本発のフィジカル AI ソリューションを世界に発信していくためには、国内のプレイヤーが連携し、互いの強みを補完し合うことが重要です。

コミュニティイベントの開催予定

本プログラムでは、キックオフイベントに続き、支援期間中に定期的なコミュニティイベントを開催していきます。技術的なディープダイブセッション、参加企業同士のコラボレーションワークショップ、外部有識者を招いた勉強会など、参加者の皆さまのニーズに応じた多様なプログラムを計画しています。

今後のスケジュール

時期 タイトル 内容
2026 年 3 月 24 日(火)午後 Physical AI on AWS アーキテクチャ勉強会 Physical AI 開発に必要なアーキテクチャの解説と PASK(preview)のご紹介
2026 年 4 月 3 日(金)16:30〜 フィジカル AI 開発支援プログラム Community Meetup #1 AWS Startup Loft Tokyo にて開催予定(内容調整中)
2026 年 4 月 9 日(水) 基盤モデル開発 Deep Dive AWS を活用した大規模モデルの学習から推論までを包括的に扱う終日セッション。午前は AWS ParallelCluster での分散トレーニングハンズオン、午後は SageMaker HyperPod アーキテクチャ、大規模 MoE モデルの推論最適化、AWS Trainium による基盤モデル構築、Physical AI モデル学習のスケーリングパスなどを解説
2026 年 4 月中 ロボット勉強会 AI 開発者がロボット業界に入っていく上で知っておくべき知識の共有(内容・日程調整中)
2026 年 6 月 25-26 日 Demo Day(中間報告会) AWS Summit Tokyo 2026(幕張メッセ)
2026 年 7 月下旬 最終成果報告会 AWS 麻布台ヒルズ オフィス 予定

おわりに

キックオフイベントを通じて、日本のフィジカル AI の未来を担う多様なプレイヤーが一堂に会し、熱気あふれるスタートを切ることができました。ロボティクスと生成 AI の融合は、製造業、物流、農業、医療、インフラなど、あらゆる産業に変革をもたらす可能性を秘めています。

AWS ジャパンは、本プログラムを通じて日本のフィジカル AI エコシステムの発展に貢献してまいります。採択企業の皆さまの挑戦と、成果発表会をどうぞご期待ください。

関連リンク:

木村 公哉(Kimura, Koya)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 シニアスタートアップソリューションアーキテクト。2023 年よりディープテックスタートアップを担当。支援プログラムの立ち上げなどに尽力し、2025 年よりフィジカル AI をはじめとしたロボティクス関連領域にも支援を拡大。2026 年 1 月に「フィジカル AI 開発支援プログラム by AWS ジャパン」を発足。VC・政府とのディスカッションを通じ、フィジカル AI・ディープテック領域のエコシステム形成にも取り組んでいる。