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ポスト量子暗号で将来の量子リスクからシークレットを守る
本ブログは 2026 年 4 月 24 日に公開された AWS Blog “Protecting your secrets from tomorrow’s quantum risks” を翻訳したものです。
AWS のポスト量子暗号 (PQC) 移行計画で説明したとおり、harvest now, decrypt later (今すぐ収集し、後で復号する) 攻撃 (HNDL) のリスクへの対処は、ポスト量子移行計画の重要な部分です。量子耐性のある機密性をサポートするためにワークロードのクライアント側をアップグレードすることは、PQC 責任共有モデルにおいてお客様側が担う重要な側面です。PQC アップグレードの計画と実行のタイムラインは、リージョンや業界によって異なり、お客様自身のビジネスリスクプロファイルに依存します。詳細については、AWS の PQC に関するよくある質問を参照してください。
AWS Secrets Manager は SSL/TLS を使用して AWS リソースと通信し、現在すべての AWS リージョンで TLS 1.2 と 1.3 をサポートしています。この機能をサポートするクライアントに対しては、ハイブリッドポスト量子鍵交換を使用した TLS 1.3 をサポートしています。ハイブリッドポスト量子アプローチは、従来の暗号 (X25519 など) とポスト量子アルゴリズム (ML-KEM) を組み合わせて TLS 接続を確立することで、現在の古典的な攻撃と将来の量子コンピュータの脅威の両方からシークレットを保護します。ワークロードが Secrets Manager にどのようにアクセスする場合でも、HNDL によるシークレットへのリスクに対処するために必要なのは、このクライアント側のソフトウェアアップグレードだけです。保管中のシークレットは、AWS Key Management Service (AWS KMS) が管理するキーを使用して、すでに暗号化されています。適切に実装された対称暗号は量子耐性があると考えられていますが、非対称暗号は量子の脅威に直面しています。詳細については、AWS re:Inforce 2025 – Post-Quantum Cryptography Demystified をご覧ください。
クライアント側のアップグレードにおける開発者の負担を軽減するため、以下の Secrets Manager クライアントが、Secrets Manager への接続を開始する際にポスト量子 TLS を有効化して優先するようになりました。対象となるのは、Secrets Manager Agent (v2.0.0 以降)、AWS Lambda 拡張機能 (v19 以降)、Secrets Manager CSI Driver (v2.0.0 以降) です。SDK ベースのクライアントの場合、ハイブリッドポスト量子鍵交換はサポートされている AWS SDK で利用できます。有効化の要件は、言語、バージョン、オペレーティングシステムによって異なります。お使いの SDK クライアントについては、以下の表を参照してください。
このリリースは、システムをポスト量子暗号に移行し、お客様の移行も容易にするという AWS の継続的な取り組みの一環です。詳細については、ポスト量子暗号を参照してください。
クライアントのハイブリッドポスト量子鍵交換の要件
以下の表は、各クライアントの動作をまとめたものです。クライアントがハイブリッドポスト量子鍵交換をサポートするようにアップグレードされると、Secrets Manager のサービスエンドポイントは TLS ハンドシェイク中に自動的にこれを選択します。Secrets Manager API を呼び出す際にワークロードがハイブリッドポスト量子鍵交換を使用し始めるために必要なのは、表に記載されているバージョンへのアップグレードだけです。
| クライアント | 要件 |
| Secrets Manager Agent | TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がデフォルトで優先されます (v2.0.0 以降) |
| AWS Lambda 拡張機能 | TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がデフォルトで優先されます (バージョン 19 以降) |
| Secrets Manager CSI Driver | TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がデフォルトで優先されます (v2.0.0 以降) |
| AWS SDK for Rust | TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がデフォルトで優先されます (2025 年 8 月 29 日以降のリリース) |
| AWS SDK for Go | TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がデフォルトで優先されます (Go v1.24 以降) |
| AWS SDK for Node.js | TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がデフォルトで優先されます (Node.js v22.20 および v24.9.0 以降) |
| AWS SDK for Kotlin | Linux で TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がデフォルトで優先されます (v1.5.78 以降) |
| AWS SDK for Python | AWS SDK for Python (boto3) は、TLS に OS が提供する OpenSSL を使用します
TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換には、OpenSSL 3.5 以降がインストールされたシステムでの実行が必要です |
| AWS SDK for Java v2 | AWS SDK for Java v2 では、postQuantumTlsEnabled を使用して設定する場合に、PQ TLS をサポートする AWS CRT HTTP クライアントが必要です |
| Secrets Manager キャッシュクライアント | Secrets Manager キャッシュライブラリは AWS SDK 上に構築されており、その TLS 動作を継承します。Java に関する注意: TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換を有効にするには、JDBC ドライバーフラグと Java キャッシュフラグを設定する必要があります |
Secrets Manager Agent、Lambda 拡張機能、または CSI Driver を使用している場合は、TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換をデフォルトとして使用するために、記載されているバージョンにアップグレードしてください。表に記載されているバージョンの AWS SDK for Rust、Go、または Node.js を使用しているお客様は、すでにアップグレード済みであり、追加のアクションは必要ありません。SDK が API コールに対してハイブリッドポスト量子鍵交換を選択します。AWS SDK for Python を使用しているお客様の場合、TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換には、ホストシステムに OpenSSL 3.5 以降が存在する必要があります。これを確認して有効化する方法については、AWS Secrets Manager ドキュメントを参照してください。AWS SDK for Java v2 を使用しているお客様の場合、TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換には AWS CRT HTTP クライアントの使用が必要です。これを有効にするには、CRT クライアントで postQuantumTlsEnabled(true) を設定する必要があります。
クライアントのバージョンが表に記載されている要件を満たした後は、接続が実際にハイブリッドポスト量子鍵交換を使用していることを検証できます。
接続がハイブリッドポスト量子鍵交換を使用していることを検証する方法
ML-KEM を使用したハイブリッドポスト量子鍵交換が Secrets Manager クライアントでデフォルトで有効になったため (前述の表を参照)、ほとんどのお客様にとって、正しい動作の検証やリグレッションの検出のための継続的なモニタリングは不要です。ただし、セキュリティチームやコンプライアンス責任者は、Secrets Manager API コールがハイブリッド鍵交換をネゴシエートしていることを確認したい場合があります。サーバー側では、AWS CloudTrail を使用して TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換を確認できます。クライアント側では、Wireshark などのユーティリティを使用するか、主要なウェブブラウザに組み込まれた開発者ツールを使用して、TLS ハンドシェイクの詳細を確認できます。
検証は 2 段階のプロセスです。まず、Secrets Manager クライアントを使用してシークレットを取得し、GetSecretValue API コールを生成します。次に、AWS CloudTrail で、そのコールがハイブリッドポスト量子鍵交換をネゴシエートしたことを確認します。
Secrets Manager クライアントを使用してシークレットを取得する
以下の例では、Secrets Manager Agent、Lambda 拡張機能、CSI Driver を使用してシークレットを取得する方法を示します。これらはいずれも、GetSecretValue API を呼び出す際に自動的にハイブリッドポスト量子鍵交換をネゴシエートします。
EC2 インスタンスで Secrets Manager Agent を使用してハイブリッドポスト量子 TLS を検証するには:
Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2) インスタンスにエージェントをインストールし、シークレットを取得するためのクライアントとして使用します。
- AWS Secrets Manager Agent の手順に従います
- EC2 インスタンスプロファイルが、シークレットを取得するための
secretsmanager:GetSecretValue権限を持っていることを確認します - プライベート EC2 インスタンスに接続します
- EC2 インスタンスにエージェントをインストールします
- エージェントを使用してシークレットを取得します
curl -H "X-Aws-Parameters-Secrets-Token: $(</tmp/awssmatoken)" localhost:2773/secretsmanager/get?secretId=<YOUR-SECRET-ARN> - CloudTrail がログを配信するまで約 5 分間待ちます
- CloudTrail イベント履歴に移動し、
GetSecretValueイベントを検索します
Lambda 拡張機能を使用してハイブリッドポスト量子 TLS を検証するには:
AWS パラメータおよび Secrets Manager Lambda 拡張機能を使用して、直接 API コールを介して Secrets Manager からシークレットを取得する Lambda 関数を作成します。
- AWS パラメータおよびシークレット Lambda 拡張機能の使用に従って、Lambda レイヤーと Lambda 関数を作成します
- 最新の拡張機能バージョンを選択します
- CloudTrail がログを配信するまで約 5 分間待ちます
- CloudTrail イベント履歴に移動し、
GetSecretValueイベントを検索します
Amazon EKS で CSI Driver を使用してハイブリッドポスト量子 TLS を検証するには:
Amazon Elastic Kubernetes Service (Amazon EKS) クラスターで、AWS Secrets Store CSI Driver プロバイダーを使用して Secrets Manager からシークレットを取得し、Kubernetes ポッドで使用します。
- インストールされているアドオンのバージョンが 2.0.0 以降であることを確認します
eksctl get addon --cluster <CLUSTER-NAME> --name aws-secrets-store-csi-driver-provider - シークレットをマウントするポッドを再起動するか、新しいポッドをデプロイして、シークレットの取得をトリガーします
- CloudTrail がログを配信するまで約 5 分間待ちます
- CloudTrail イベント履歴に移動し、
GetSecretValueイベントを検索します
CloudTrail を使用してハイブリッドポスト量子鍵交換を確認する
CloudTrail ログには、Secrets Manager API コールの tlsDetails フィールドが含まれています。TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がアクティブな場合、tlsDetails の keyExchange フィールドに X25519MLKEM768 が表示されます。各 CloudTrail レコードには、暗号スイートと、利用可能な場合は TLS ハンドシェイク中にネゴシエートされた鍵交換グループを含む tlsDetails フィールドが含まれています。
CloudTrail 用の AWS マネジメントコンソールまたは AWS コマンドラインインターフェイス (AWS CLI) を使用して、CloudTrail イベント履歴を操作できます。
コンソールを使用して CloudTrail イベントを検索するには:
- 正しい AWS リージョンにいることを確認します
- CloudTrail コンソールを開き、[イベント履歴] を選択します
- [ルックアップ属性] フィルターで、[イベント名] と [GetSecretValue] を選択します
図 1: イベント名で CloudTrail イベント履歴を検索
- イベントを選択します
図 2: イベントを選択
- ページの [イベントレコード] セクションで出力を表示します
図 3: CloudTrail – GetSecretValue イベント
AWS CLI を使用して CloudTrail イベントを検索するには:
AWS CLI を使用して、最新のイベントを選択し、出力を確認します。
GetSecretValue API コールの CloudTrail イベントの例:
以下の例では、userAgent フィールドは、Secrets Manager への接続にクライアントとして使用されたものを反映しています。
注:
userAgentの値は、使用するクライアントによって異なります。
keyExchange フィールドに X25519MLKEM768 が表示されている場合、TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がアクティブです。X25519 などの従来のアルゴリズムが表示されている場合は、クライアントが ML-KEM のサポートを通知していないため、クライアントのバージョンと設定を確認する必要があります。
トラブルシューティング
クライアントを更新した後も Secrets Manager API コールが X25519MLKEM768 をネゴシエートしない場合は、この記事の冒頭付近にあるクライアントのハイブリッドポスト量子鍵交換の要件セクションに記載されているとおり、SDK バージョン、OpenSSL バージョン (Python)、ファイアウォールまたはプロキシの設定を確認してください。
次のステップ
このリリースは、より広範な移行における 1 ステップです。AWS は、AWS PQC 移行計画のワークストリーム 2 の一環として、AWS サービスの HTTPS エンドポイント全体で ML-KEM のサポートを引き続き展開しており、パブリック AWS エンドポイント全体での完全なカバレッジを目指しています。
ML-KEM の標準化前の前身である CRYSTALS-Kyber のサポートは、2026 年に AWS エンドポイント全体で段階的に廃止されます。CRYSTALS-Kyber のサポートのみを通知する古い SDK バージョンを使用しているお客様は、廃止されたアルゴリズムをネゴシエートするのではなく、従来の TLS に適切にフォールバックします。このフォールバックを回避するには、この記事に記載されている SDK バージョンにアップグレードしてください。
PQC 移行の道のりは、転送中のデータの機密性にとどまりません。AWS の PQC への取り組みやお客様側の責任共有に関する最新の動向を把握するには、AWS ポスト量子暗号ページをフォローしてください。
まとめ
AWS Secrets Manager は、シークレットの保護とコンプライアンスの取り組みのサポートに役立てるため、ML-KEM を使用したハイブリッドポスト量子鍵交換をデフォルトで有効にするようになりました。この更新は、最新のクライアントバージョンを使用しているお客様にとって、コード変更や設定の更新を必要としません。
この記事では、AWS Secrets Manager がハイブリッドポスト量子暗号を使用して TLS 接続を保護する方法、どのクライアントがこの機能をサポートしているか、そして harvest now, decrypt later 攻撃から接続が保護されていることを検証する方法について説明しました。
今回のリリースの恩恵を今すぐ受けるには、以下を実施してください。
- Secrets Manager クライアント (Agent、Lambda 拡張機能、または CSI Driver) を利用可能な最新バージョンにアップグレードして、ML-KEM を使用したハイブリッドポスト量子鍵交換を有効にする
- ワークロードがキャッシュクライアントではなく AWS SDK を使用している場合は、AWS SDK と基盤となる依存関係を、この記事に記載されている最小バージョンにアップグレードする
- Secrets Manager API コールの CloudTrail
tlsDetailsのkeyExchangeフィールドを確認して、TLS でのハイブリッドポスト量子鍵交換がアクティブであることを検証する - 企業のファイアウォールやプロキシを経由するネットワークパスを含め、環境内でエンドツーエンドのハイブリッドポスト量子鍵交換 TLS 接続をテストする
AWS は引き続きポスト量子暗号のサポートを展開していきます。より広範な移行の取り組みについては、AWS PQC 移行計画を参照してください。また、より広範な環境の最新の暗号インベントリを維持して、移行が必要となる従来の公開鍵暗号の他の使用箇所を特定してください。CISA Quantum-Readiness ガイダンスと AWS PQC 移行計画が、その良い出発点となります。
追加リソース