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消費財企業のデジタルコマース: ソリューションは作るべきか、買うべきか

ヘッドレスコマースや MACH アライアンスについて、またこれらが消費財企業にとってデジタルコマースの世界において何を意味するのかご存知ですか? ご存知ないのであれば、Justin Honaman のヘッドレスコマースに関するブログ「ヘッドレスコマース: 消費財企業にとってなぜ重要なのか」をぜひご覧ください。MACHアライアンスについてはこちらをご覧ください(*)。よくご存知だという方はデジタルコマースの進化に十分に対応されていらっしゃるということですので、称賛に値します。あなたは次のような会社の長期的なデジタル戦略について尋ねられたか、考えてきたのではないでしょうか:

  • デジタルコマースを促進するためのロードマップ
  • デジタルコマースソリューションを買うべきか作るべきか
  • ベストプラクティスに沿っているかどうか

このブログでは、企業のデジタル成熟度に応じたデジタルコマースロードマップを作成するために役立つガイダンスを提供し、最良の戦略を決定するお手伝いをします。

(* 訳注: MACH アライアンスとは、エンタープライズ向けのテクノロジーエコシステムを提唱している非営利団体。MACH とは、Microservices based, API-first, Cloud-native SaaS and Headless の頭文字をとったもの。)

消費財企業がデジタルコマースに注目する理由

パンデミックがデジタルトランスフォーメーションを加速させる以前から、以下のような理由で多くの消費財企業はデジタルコマースへの旅を始めていました:

  • 消費者の商品閲覧と購入が、実店舗からオンラインストアへと徐々に移行していた
  • 新しく革新的でデジタルネイティブな商材ブランドが、驚異的なスピードで市場シェアを獲得していた
  • こういった市場変化を捉え、消費財企業の多くが上記のような傾向に対応すべく、消費者により近づき、消費者のニーズにより適切に応じようとしていた
  • 2023 年末までにサードパーティのマーケティング Cookie が廃止される予定

4 点目のマーケティング Cookie の廃止についてもう少し深く掘り下げたいと思います。このトピックについては次のブログもぜひお読みください:「サードパーティ Cookie がなくなりつつあります: 小売業者はどのように対処すべきでしょう?」、「小売業者へ: サードパーティ Cookie 廃止の前にデータ主権者となりましょう」。 このマーケティング Cookie に関する大きな変化により、消費財企業のマーケターは、これまでのように簡単には消費者向けオンラインターゲティング広告を出すことができなくなります。これにより広告のパフォーマンスが低下する可能性があります。消費財企業がサードパーティ Cookie によるターゲティング広告と同等の効果のマーケティングキャンペーンを展開するには、デジタルコマース機能が不可欠となります。電子メールや住所といったファーストパーティデータ(**)を収集、分析し、オンラインおよびオフライン広告でターゲットを定めるための洞察を得る必要があります。

(** 訳注: 自社の顧客情報や自社ウェブサイト訪問者に関して収集した情報のこと。)

デジタルコマースエコシステムを買うべきか、作るべきか

これは、デジタルコマース戦略について消費財企業の皆さまから AWS によく頂く重要な質問です。残念ながら、買うか作るかという質問に対する簡単な答えはありません。それは各消費財企業のデジタルコマースの成熟度に大きく依存する、というのが答えになります。消費財企業が特定の地域で投資しようとする予算も、買うか作るかの決定に大きく影響します。多くの場合、買う・作るの両方を組み合わせるというのが一般的な答えになります。

デジタルコマースエコシステム全体は、以下のようなさまざまな機能領域の組み合わせで構成されます:

  • 商品情報管理(PIM)
  • デジタルアセット管理(DAM)
  • 分散型オーダー管理システム(dOMS)
  • 倉庫管理システム(WMS)
  • e コマースフロントエンド
  • ヘッドレス e コマースエンジン
  • 静的コンテンツ管理システム(CMS)
  • ユーザー生成コンテンツ(UGC)
  • 支払いと不正防止
  • 税計算
  • 商品評価とレビュー
  • 顧客データプラットフォーム(CDP)
  • レポートと分析
  • マーケティングと広告
  • 顧客サービス
  • 物流とロジスティクス
  • フルフィルメントと配送
  • 返品のための逆物流管理(リバースロジスティクス)
  • カスタマーロイヤルティ

デジタルコマース戦略のロードマップを作成するにあたり、以下を自問してみてください:

  • 既にどのようなシステムが導入されているだろうか? 消費財企業の多くがPIM や DAM、税計算といったシステムを既に有しているでしょう。特にファッション、アパレルのサブ業界では当てはまるでしょう、なぜなら消費財企業と実店舗を持つ小売業者は多くの商品コンテンツとデジタルアセットを共有しており、消費財企業は自社の税計算サービスを必要とするからです。このシナリオに従って既存のシステムを識別し、デジタルコマースに対応できるよう既存のソリューションを拡張する機会とコストを評価する必要があります。多くの場合、IT チーム、あるいは SI パートナーが、既存のシステムと e コマースフロントエンド、ヘッドレスエンジンの両方とを統合するための API レイヤーを構築できます。
  • さまざまな e コマースシステムを構築するスキルはあるだろうか?消費財企業ごとに社内の IT 人材は異なります。あなたの会社が社内でソリューションを開発・保守する能力と対応力を持っているなら、その能力を試してるチャンスです! 私たちが関わってきた消費財企業の多くには、コンテンツ豊富なウェブサイトを構築・運営できる有能な IT 担当者がいました。e コマースウェブサイトのフロントエンドを作成し維持することは、通常、チームの既存ワークストリームを自然と拡張していくものです。

総保有コスト(TCO)が「買う」戦略を決定づける

消費財企業が(デジタルコマースソリューションを)買うという戦略に向かう場合、一般的に 2 つのシナリオがあります: 一つはバンドルされたエンドツーエンドソリューションを購入する方法、もう一つはアラカルトでコンポーネントを選択してシステムインテグレーターと協力してソリューションをまとめる方法です。ここでは消費財企業がバンドル戦略とアラカルト戦略、どちらの戦略を採用すべきかを判断するために、次の 2 つの収益マイルストーンを検討します:

  • 予測される年間収益が 1,000 万ドル未満
  • 予測される年間収益が 1 億ドル以上

予想年間収益が 1,000 万ドル未満であれば、企業の多くは e コマースの領域に足を踏み入れたばかり、あるいはデジタルコマースチャネルを、収益を上げることよりも消費者データの収集のためのものと捉えています。チャネルからファーストパーティデータを生成することに主眼を置いているのなら、まずはバンドルされたエンドツーエンドソリューションの購入から始めることをお勧めします。ただしマージンは減少するかもしれません。

一方、年間収益として 1 億ドル超を目標としており、バンドルされているソリューションのほとんどでマージンを切り詰められる場合は、デジタルエコシステム全体のさまざまな機能ごとにプロバイダーを選択することをお勧めします。このようなケースでは、TCO 削減のためにサービスまたは統合レイヤーを構築するために社内の人材も多くなるでしょう。

年間収益が 1,000万 ドルから 1 億ドルの間であればさらに興味深い状況になります。通常、この段階での目標はデジタルコマースにおける売り上げを急成長させることです。つまり、毎月のプラットフォームコスト(収益分配)、フルフィルメント(アイテム単位か出荷単位)、税計算(API 呼び出しごと)、クレジットカードの承認と決済(トランザクションごと)などから PL への影響をすぐに確認できるでしょう。多くのサービスプロバイダーは段階的な価格設定を提供していますが、ビジネス成長につれてサービスプロバイダーへの支払いが増大する可能性があります。したがって、運用コストを削減する方法を見つける必要があります。バンドルされたエンドツーエンドソリューション以外に目を向け、さまざまなサービスプロバイダーと条件や価格について交渉を始めるタイミングと言えます。

実は 3 つ目のマイルストーンがあります。e コマースチャネルの年間収益が 10 億ドルを超えると見込まれる場合です。これは重要なマイルストーンです。なぜなら、デジタルコマースウェブサイトを収益配分型のプラットフォームで運営していると、プラットフォーム費用を節約し、サービスプロバイダーに任せているものをすべて取り戻したくなるからです。デジタルコマースウェブサイトを自社で運営するのであれば、AWS で実行するのが最善の選択肢です。

最後に、「買う」か「作る」かという選択を IT 戦略全般に拡張することを考えているのであれば、Mark Schwartz のブログ「IT ソリューションを「買うか作るか」のジレンマに対する新しい解決策 – 「仕立てる」」を読んでみてください。

AWS における消費財向けの e コマースソリューション詳細については、AWS アカウントチームに連絡して、すぐに始めてみください。


著者について

Danny Yin

Danny(Yen-Lin)Yin は、消費財業界における AWS パートナーのグローバルテクニカルリードです。 E コマースアプリケーションの開発と運用に18年の経験を持ち、2018年に AWS に入社しました。Danny は、消費財企業が消費者に提供するデジタルユーザーエクスペリエンスを向上させ、さまざまな事業分野で運用効率を高める支援をしています。 Danny は、 AWS における消費財業界テクノロジーと、コンサルティングパートナーのソリューションアーキテクチャと技術支援も担当しています。 AWS 以前は、トイザらスでデジタルエンジニアリングのディレクターを務め、アウトソーシングしていた世界最大の玩具ウェブストアを、オンプレミスと AWS のハイブリッドクラウドのアプリケーションへと自社開発で移行することに成功しました。

Norman Kwong

Norman Kwongは、AWS 消費財業界における事業開発リーダーです。2019 年にAWSに入社し、消費財業界、小売業界、産業/卸売流通業界における販売、マーケティング、ビジネス変革を20年にわたり主導してました。AWS では、グローバルな消費財企業のお客様が、消費者に愛されるブランドを構築し、市場機会に対応するために組織の俊敏性を高め、AWS  の提供する業界固有の実証済みイノベーションとソリューションで運用効率を向上させる支援をしています。Norman は S.C.Johnson&Son Inc. から AWS に移り、セールスカスタマーマーケティング責任者として商用および産業向けチャネルにサービスを提供する、グローバルプロフェッショナル部門の立ち上げに成功しました。また、さまざまなブランドを主導し、新商品を開発し、S.C.Johnsonの消費者向け小売ビジネスで小売カテゴリの成長を推進してきました。

翻訳は Solutions Architect 杉中が担当しました。原文はこちらです。