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ヘッドレスコマース: 消費財企業にとってなぜ重要なのか

ヘッドレスコマース。この言葉は 2021 年の流行語対象にノミネートしてもよいくらいでしょう。非常にホットなトピックになっています! ヘッドレスコマースとは何なのでしょうか。そしてなぜ重要なのでしょうか? このブログでは、eコマース領域で最も議論されつつあり、一方ほとんどまだ理解されていない、この新しい言葉について解説します。 消費財企業リーダーとテクノロジーチームがヘッドレスコマースを理解すれば、アーキテクチャを実装するための戦略構築を始めることができます。

ヘッドレスコマースの概要とその利点

ヘッドレスコマースは e コマースアーキテクチャの 1 つであり、そのフロントエンド(ウェブサイトやソーシャルメディアチャネルといったユーザーインターフェイス)を、バックエンドコマース機能から分離することができます。フロントエンドとバックエンドが独立しているため、フロントエンドのユーザーインターフェイスに妥協したり干渉したりすることなく、基盤となるテクノロジを更新、編集できます。その逆もまた同じです。ヘッドレスコンテンツ管理システムをご存知であれば、それと類似した仕組みだとご理解ください。

2013年に commercetools の共同創設者である Dirk Hoerig 氏により生み出された用語ですので、かなり以前から存在しているということになります。ガートナー社はコンポーザブルコマースという言葉を好んでいるため、ヘッドレスコマースの代わりにコンポーザブルコマースを聞いたことがあるかもしれません。

ヘッドレスコマースは、クラウド上にデプロイされたマイクロサービスにビジネスロジックを入れ込んでしまうという考え方です。つまり、お好みのフロントエンドユーザーインターフェイスでそのマイクロサービスを包含することができます。小売店の POS 用のユーザーインターフェイス、e コマースウェブサイト用のユーザーインターフェイス、モバイルアプリ用のユーザーインターフェイスなどがあるでしょう。このコンセプトにより最新の販売ソリューションが実現できます。

ヘッドレスコマースの特徴的な利点は以下のようなものです:

  • ユーザーエクスペリエンス – 開発者が既存の社内スキルセットとコンテンツ管理システムへの投資を再利用することができるので、さまざまなユーザーエクスペリエンスを作成できます。
  • カスタマイズとパーソナライズ – ブランドが e コマースプラットフォームによる制約を受けません。最高の消費者体験を提供する販売チャネルとプレゼンテーションフレームワークを選択できます。
  • スケーラビリティ – 消費財企業は、自身のブランド用に選択した消費者体験を作成してグローバルに拡張できます。
  • 実験の自由 – 基盤となる e コマースサイトのエコシステムに影響を与えることなく、フロントエンドインターフェイス上で新しいアイデアや機能を簡単に試すことができます。 開発者がフロントエンドとバックエンドのコードを同時に編集する必要がないため、自由にテストし学習できます。

従来型 e コマースとヘッドレスコマースとの違い

従来型 e コマースシステムは、Web という 1 つのチャネルのために構築されてきました。コンテンツ、コマースエンジン、それらの管理作業が対象としているのは Web チャネル一つなのです。従来型 e コマースソリューションでは、顧客とのタッチポイントが増えると、IT チームはフロントエンドインターフェイスとバックエンドシステムの両方を更新しなくてはならず、アーキテクチャの管理がより複雑になります。

ヘッドレスコマースアプローチを採用すると、バックエンドに影響を与えたり変更したりすることなく、フロントエンドユーザーインターフェイスだけを変更できます。つまり、ブランドが、ニーズや販売目標、ターゲットオーディエンスに応じたさまざまなユーザーインターフェイスを構築できるということなのです。これにより、小売ブランドは、顧客からの期待やトレンドの進化、あるいは COVID-19 パンデミックに伴う急激な変化などといったビジネス環境の大きな変動に対応できるような、敏捷性と柔軟性を手に入れることができます。安全に多くのチャネルや地域に拡張できるような最高クラスの消費者体験を追求する組織にとって、ヘッドレス e コマースシステムは理想的です。

もう一つ、重要な差別化要素があります: ヘッドレスアーキテクチャのフロントエンドインターフェイスに新しいコンテンツを追加すると、その変更はほぼリアルタイムに反映されます。従来型コマースアーキテクチャでは、インターフェイスの変更に数分あるいは数時間要することがあります。

消費財企業にとってヘッドレスコマースが重要な理由

ここ数年間に見られるオンライン販売への急速なシフトにより、グローバル消費財ブランドの多くが Direct-to-consumer (DTC、訳注: 日本においては D2C と表現されることも多い) チャネルをグローバル規模で立ち上げています。CGT/RIS Executive Council による以下のデータを見てみましょう:

  • 2020 年に消費者の 43% が新しいブランドを試しました。これは 2019 年の 32% から増加しています。
  • COVID-19 のパンデミックの間、商品の供給不足や、直接購入ができなかったことで、70% の消費者がブランドを切り替えています。
  • 18〜45 歳の消費者の 57% 以上が、オンラインでの購買がさらに増えると期待しています。
  • 消費者の 50% 以上が、イマーシブテクノロジー(没入型技術)で定期的に関わりを持っているブランドを常に最優すると答えています。

こういったトレンドに対応するために、あらゆる消費財企業は DTC プラットフォームを機敏で柔軟性のあるものにして成長を促していく必要があります – 新しい消費者向け販売チャネルや商品をすばやく追加し、マーケティングキャンペーンを立ち上げ、ユーザーエクスペリエンスをパーソナライズし、顧客データを管理し、注文管理と商品の配送のための新機能を追加していくのです。

ヘッドレスコマースアプローチは、消費財企業に必要とされる俊敏で柔軟なデジタルプラットフォームをもたらします。私の主張を理解するために、デジタルコマースに関する Gartner の正確な情報を見てみましょう:

  • 2023 年までに、新しいコマース機能の 50% が API を中心とする SaaS サービスとして組み込まれていくでしょう。
  • 2023 年までに、コンポーザブルアプローチを採用した組織では、新機能の実装速度が競合他社を 80%上回ることになるでしょう。
  • 2023 年までに、コマース組織の 30% は、デジタルコマースアプリケーションとアーキテクチャを最新化するために API プロダクトマネージャーのロールを必要とするようになるでしょう。
  • 2024 年までに、デジタルコマース組織の 10% が、packaged business capabilities (PBCs、訳注: 特定のビジネス機能を中心に開発されたアプリケーションまたはサービスのこと) を使用してアプリケーションエクスペリエンスを構築するようになります。

AWS とヘッドレスコマース

AWS はワーキングバックワーズアプローチで課題を見出します: 消費財企業の皆さまが堅牢かつ柔軟な DTC プラットフォームを構築するにあたって我々ができる最善は何かを考えています。次に、課題を解決するための AWS あるいは、AWS パートナーオファリングを定義します。市場に投入したソリューションの一例として、VTEX をフロントエンドソリューションとして活用し、コンテンツ管理システムにはお好みのものをバックエンド統合したものがあります。任意のテクノロジーを使用してカスタムエクスペリエンスを構築することもできます。ベーシックな DTC プラットフォーム以上の拡張をご要望の消費財企業のために、我々は MagentocommercetoolsSAP Commerce CloudBigCommerce などのコマースエンジンとも連携しています。

AWS DTC ソリューションフレームワークの一部として、パーソナライズ、不正検出、ビデオコマース、広告、製品フルフィルメントといった独自のスケーラブルなグローバルサービスを提供しています。これらは前述の e コマースプラットフォームと統合することができます。

すでに始まっています

英国は世界で最も先進的なデジタル市場の一つであり、食料品だけでも 15% の e コマース普及率を誇ります。Co-op は英国全土に 2,600 を超える拠点と 460 万人の会員を擁する大手食品コンビニエンス小売業者です。彼らはデジタル消費者との足がかりを得たいと考えており、e コマースから消費者への配達まで、卓越したエンドツーエンドの顧客利便性を提供する必要性を認識していました。

Co-op は、配送とフルフィルメントのクラウドプラットフォームプロバイダーである Bringg、また受賞歴も持つオンライン食料品プラットフォーム Connected Commerce を提供する Naveo Commerceと提携することで、食料品のeコマースを迅速に展開、適応、拡張、最適化できるようになり、1,000 店舗以上に 2 時間以内の宅配サービスを提供することができました。

Bringg と Naveo Commerce による統合クラウドテクノロジーソリューションにより、Co-op はエンドツーエンドの e コマースのピックアップ&デリバリーも調整できるようになりました。Bringg の配信とフルフィルメントの統合クラウドプラットフォームにより、消費者の需要に応えられるよう、内部のフリートや Bringg Delivery にまたがる複数の配送モデルを管理、自動化、測定することができるようになりました。

Naveo のモジュール型マイクロサービス対応の Connected Commerce SaaS プラットフォームにより、e コマース小売店でのインストアピッキングとフルフィルメントのセットアップを管理、測定、最適化できるようになり、利便性の高い 1 時間以内の配送サービスの調整が容易になりました。

Co-op は Naveo と提携し、AWS コンピューティング、ストレージ、データベースサービスを使用してイノベーションを推進しています。Amazon Elastic Compute Cloud (Amazon EC2)、Amazon Relational Database Service (Amazon RDS)、Elastic Load BalancingAmazon OpenSearch Service (2021 年 9 月 8 日: Amazon Elasticsearch Service は AmazonOpenSearch Service に名称変更しました)、Amazon ElastiCache APIAWS LambdaAmazon DynamoDB で構成される柔軟でスケーラブルなマイクロサービスベースアーキテクチャーを手に入れ、俊敏、安全、スケーラブルなプラットフォームを構築しました。

12 か月以上に及ぶ Co-op のテクノロジースタックの改善により、店舗カバレッジが 25 倍以上に増加しました。2019 年にオンラインショップを立ち上げて以来、Co-op ではオンラインサービスを提供する店舗の数を 32 店舗から 1,000 店舗以上に増やしています。

従来型 e コマースアプリケーションアーキテクチャを分解し、ヘッドレスコマース戦略を実現する方法についてより詳しくは、Danny Yin の最近のブログ投稿「消費財業界においてマイクロサービスアーキテクチャに移行するための成功戦略」をご覧ください。ヘッドレスコマースに向けたジャーニーを始めたいと思われたら、今すぐ AWS アカウントチームにお問い合わせください。


小売・消費財業界の AWS パートナーのご紹介

VTEX

VTEX は、あらゆるチャネルにわたる顧客体験を包括的なエンタープライズソリューションに統合する、マルチテナント型コマースプラットフォームです。VTEX は、オンラインストアの構築や移行、すべてのチャネルからの注文の統合、サードパーティ販売業者の追加による提供商品拡大などに役立ちます。VTEX は、コマース、マーケットプレイス、注文管理を一つのプラットフォームに統合し、新たな収益源を開拓します。

VTEX へのお問い合わせ

Bringg

Bringg は、データ主導型の配送・フルフィルメント向けクラウドプラットフォームを提供し、企業がロジスティクス業務を拡大、最適化するのを支援します。Bringg の活用で、小売業者とロジスティクスプロバイダーは革新的な配送・フルフィルメントモデルを迅速に実現でき、それにより顧客体験を最大化し、ロジスティクスオペレーションを最適化し、成長のためにビジネスチャネルを拡大することができます。50 か国以上において世界的に著名なブランドが Bringgプラットフォームを利用しており、完璧なラストワンマイル体験を、複数の配信モデルに渡って再考の効率で提供します。

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Naveo Commerce

Naveo Commerce は、エンドツーエンドの e コマース、OMS、フルフィルメントテクノロジーの国際的企業であり、あらゆる小売セグメントにおいて中小企業から大企業まで、オンラインビジネスの管理と成長を支援します。Digital Goodie と Maginus の合併により 2020 年に設立され、クラウドベースのヘッドレスコマースの専門知識、注文管理システムやフルフィルメントソリューションを統合して、エンドツーエンドのコマース全体のサポートを小売業者に提供することのできる世界で唯一の企業です。

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Magento Commerce an Adobe Company

Magento Commerce Cloud は、独自のショッピングエクスペリエンスのために必要とされる柔軟性を損なうことなく、高可用性アーキテクチャ、弾力性と拡張性、グローバル展開オプションを事業者にもたらします。Magento のプラットフォームはすぐにお使いいただくことのできる機能が豊富にあり、カスタマイズやサードパーティのソリューションとのシームレスな統合を備えており、ユニークで魅力的なショッピング体験を創出する力が得られます。

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著者について

Justin Honaman

Amazon Web Services においてグローバル消費財領域の食品飲料組織を率いています。Justin のチームは、世界中の消費財企業のお客様に対するサプライチェーン、e コマース、データ分析、デジタルコマースソリューションの提供にフォーカスしています。

翻訳は Solutions Architect 杉中が担当しました。原文はこちらです。