AWS Startup ブログ
世界展開を目指す BoostDraft 社。AWS の支援を最大活用しユーザーに価値を届けるアーキテクチャへ
AWS の特徴として、「お客さまのビジネス成長のために必要な、様々なご支援を行っていること」が挙げられます。オンラインでの技術相談に限らず、オフサイトでのディスカッションやハンズオン、登壇機会のご提供や他社のご紹介まで、多岐にわたるサポートを行なっているのです。
「技術で日本発のグローバルスタンダードを作る」をモットーに事業展開する株式会社BoostDraft は、そんな AWS のご支援を有効活用しているスタートアップです。同社は法律専門家向け総合文書エディタ「BoostDraft」を提供しています。創業から世界展開を見据え、台湾やインド、アメリカ、マレーシアなど世界各国のメンバーでチームを構築。プロダクトリリースから約 2 年、外部からの資金調達なしで 6,500 人以上の有料ユーザーを抱える成長著しい企業です。
今回は BoostDraft 社へのサポートを行うアマゾン ウェブ サービス ジャパン スタートアップ事業本部 スタートアップアカウントマネージャーの山田 隆太朗とソリューションアーキテクトの原 拓也が、BoostDraft 社 CEO/共同創業者の藤井 陽平 氏とエンジニアの水野 孝久 氏、藤野 知之 氏にお話を伺いました。
* 藤井 氏は現在アメリカで生活しているため、オンラインでインタビューに参加しました。
多くの法律専門家を惹きつけるエディタ「BoostDraft」
山田:まずは BoostDraft 社の創業経緯からお聞きします。
藤井:「BoostDraft」のサービスのコンセプトは、共同創業者の渡邊と一緒に考えました。かつて、私は渡邊が契約書を作成しているのを見かけたのですが、業務時間のうち 3 割くらいを、文章のフォーマット調整や他の箇所の情報確認などに費やしていたのです。
ソフトウェアエンジニアの世界では、この問題はすでに解決されています。現代のエンジニアは、メモ帳ではなくコードエディタや IDE(統合開発環境)で開発をしますよね。それらのツールでは、インデントが自動的に調整されたり、特定の変数にマウスカーソルを合わせるだけで必要な情報が表示されたりします。それと同じように、法律専門のエディタがあればいいなという思いから「BoostDraft」が生まれました。
一般に、弁護士や企業の法務担当の方々は、Microsoft Word を用いて文書を作成します。そこで普段お使いの Microsoft Word に導入するだけで、フォーマット調整や誤りの自動検出、ツールチップによる用語の解説などが行えるアドインとして 「BoostDraft」を作りました。これにより、法務文書を読んだり編集したりするときの面倒な作業を自動化・効率化し、全く新しい体験を提供します。
「BoostDraft」の主要な顧客は弁護士事務所です。日本におけるトップ 30 の弁護士事務所のうち 25 事務所が、「BoostDraft」を導入してくださっています。ある弁護士事務所で働いていた方が転職先でも「BoostDraft」を紹介してくださるなど、口コミで広がっています。また、様々な企業の法務部でもご利用いただいており、合計で 6,500 人以上の有料ユーザーがいます。
原:プロダクトがユーザーを増やして成長する、素晴らしい状態ですね。グローバル展開の状況はいかがでしょうか。
藤井:弊社は創業当初から「技術で日本発のグローバルスタンダードを作る」をモットーにしています。「BoostDraft」は既に英語に対応しており、現在は私がアメリカに在住し北米のお客様と接しています。
社内では、3 人目の社員として英語話者の方が参画したタイミングで「公用語を英語にする」という決断をしました。当初は戸惑っていたメンバーも今では英語でスムーズにコミュニケーションが取れています。それ以降、採用の幅が広がり、事業や社内文化にもポジティブな影響が生まれています。
難解な法務文書を読みやすく。生成 AI サービスの Amazon Bedrock の導入が精度向上にも寄与
山田:BoostDraft 社はスタートアップ支援プログラムの AWS Activate を活用されていますね。どのようなきっかけでご利用いただいたのでしょうか?
藤井:実は BoostDraft を創業する前、事業のアイデアを温めていた時期から AWS Activate を利用していました。在学していたマサチューセッツ工科大学の起業プログラム経由で、無料クレジットを含めたサポートを提供してくれるとご紹介いただいたのです。AWS Activate は、他企業の支援プログラムと比べてもかなり使いやすいですし、クレジットの金額も大きく、インフラコストの削減につながっています。
原:AWS を活用して、どのようなアーキテクチャを構築中なのか教えてください。
藤野: まず、Amazon Bedrock を用いて開発中の新機能について説明させてください。私たちは、大規模言語モデルの「読む力」に注目し、専門家にとっても難解な法務文書を読みやすくすることを構想しています。具体的には、契約書の内容の大まかなトピックを提示したり、それが詳しく解説されている箇所をハイライトしたりする機能を実現することを考えています。2023 年 10 月に AWS が開催した Amazon Bedrock Prototyping Camp に参加し、「Amazon Bedrock を使えばこの機能を実現できそうだ」と実感しました。
原:Amazon Bedrock Prototyping Camp は、サービス概要の説明をしたうえでハンズオンを実施し、ソリューションアーキテクトとディスカッションしながらお客さま自らその場で Amazon Bedrock を使ったプロトタイピングをする場でした。
藤野さんの場合は、もともと GPU でセルフホストしていた機械学習モデルで同様の機能を実現されようとしていましたよね。その部分を Amazon Bedrock に置き換えることでどのような改善が見込めそうですか。
藤野:Amazon Bedrock はフルマネージドなサービスなので、運用の工数を最小限にできることがうれしいですよね。最先端の大規模言語モデル を AWS 上で手軽に使えることで、できることの幅が広がりました。実際に Amazon Bedrock を用いて開発中の新機能の精度検証で、ContractNLI という契約書のクラス分類タスクにおいて、セルフホストしていたモデルと比較して約 5% の精度向上を見込んでいます。
Amazon Personalize を採用した推薦システムは、SA との相談会から生まれた
藤野:他の例についてもお話しします。これは、現在検討中の Amazon Personalize を採用したアーキテクチャになります。自然言語ならではの、記述誤りかどうか判断が難しい文章に対して、暗号化したログから統計情報を抽出し、推薦システムを用いて記述誤りの可能性が高い部分を提示する機能です。もともとこの機能を AWS Lambda や Amazon DynamoDB、Amazon EC2 などを用いて開発していましたが、ユーザーが増えるにつれて、メモリやレコード数の増大が課題になってきました。
そこで山田さん・原さんに相談したところ、Amazon Personalize の利用を検討することを勧めてもらいました。このサービスの導入により運用負荷が下がるだけではなく、スケーラビリティも向上することが大きいです。
原:そう言っていただけると、個別相談会を実施してよかったと感じます。
藤野:システムの運用を続けていくなかで、インフラの課題が表出して、改善する必要が生じるケースがあります。アーキテクチャ変更が急務になった際、AWS に詳しくない人間が、数ある AWS のサービスから適切なものを選ぶことは簡単ではありません。そんな場合に、気軽に専門家に相談できることはありがたいです。
「知らなかった情報」をキャッチアップできる場は大きな利点
原:水野さんとも、何度もディスカッションの機会をいただきました。
水野:「BoostDraft」の Word アドインを利用するお客さまには、アドインファイルというものを配布する必要があります。現在そのファイルは Google スプレッドシートや Amazon DynamoDB で管理・編集し、Amazon CloudFront と Amazon S3 を用いてお客様に配布しています。しかし現在の構成では、ユーザーごとに個別のアドインファイルを配布できないなどいくつかの課題がありました。
原:複雑なシステムなので、改善案を考えるためには対面で議論したほうが良いと考えました。そこで、AWS のオフィスに来ていただき、一緒に 2 時間ほどホワイトボーディングをしながら議論を進めていきましたね。
水野:AWS による支援で特に重要だと思っているのが、弊社のエンジニアが知らなかった AWS サービスの知識を教えてくれることです。
知っていることに関しては調べられますが、知らないことに関しては調べようがありません。だからこそ、「こういう選択肢があります」と教えてもらえることで、システム構築の幅が広がります。また、様々な企業の技術支援を行っている AWS だからこそ、他社事例のベストプラクティスを聞かせてもらえるのも役立っています。
原:ログ基盤に関しては、Amazon QuickSight の活用を提案させていただきました。また、この前段階として御社は Amazon QuickSight BootCamp にも参加されています。実際に参加してみていかがでしたか。
水野:「BoostDraft」ではプロダクトを利用したユーザーのログ情報をたくさん取得しており、1 日あたり 3 GB ほどの容量になります。このログ情報をなるべく簡単に可視化・分析する上で、Amazon QuickSight が役に立つと教えていただきました。そこで、利用方法について深く学ぶために、Amazon QuickSight BootCamp に参加しました。
Amazon QuickSight の情報をオンライン上だけで調べて、不明点を都度チャットで問い合わせをしていたら、構築にかなりの時間を要したと思います。BootCamp では困ったことがあればすぐエキスパートに相談でき、一日のうちにある程度の結果が出るため、スムーズに構築作業を進められました。
世界中のユーザーに向けて「BoostDraft」が更なる価値を提供
山田:今後の事業のビジョンについて教えてください。
藤井:大きく 3 つを考えていて、1 つ目は他言語展開です。今は日本語と英語をカバーしていますが、複数の言語に対応していき、世界中の方々に使ってもらいたいです。
2 つ目は、他のシステムとの連携です。たとえば、ソフトウェアエンジニアが使う IDE では、GitHub などと連携して便利な機能を実現していますよね。それと似たように、「BoostDraft」でもユーザーの皆さんが使う他のシステムとの連携を行えたらと考えています。
3 つ目は、弁護士事務所と大企業の法務部の間のやりとりのプロセスを改善する機能の提供です。日本のリーガルテックの中でも、両者を顧客に抱える点が私たちの強みです。そんな私たちだからこそユニークな価値提供ができるのではないかと考えています。
原:その目標を実現するにあたり、AWS へのご要望はありますか。
藤井:「BoostDraft」を改善するうえで、藤野が取り組んでいる自然言語処理の領域が特に重要になりつつあります。その際、セキュリティが問題として挙がることが多いです。AWS を活用することで、自然言語処理の領域において利便性とセキュリティの両立を実現する方法などを、今後もご提案いただけると助かります。
他にも、各種のカンファレンスなどに呼んでいただけるのは引き続きありがたいです。先日は KDDI ∞ Labo のイベントに登壇させていただき、広報にかなりプラスの影響がありました。また、AWS の紹介によって新規の顧客獲得につながるケースがあることも助かっています。
山田:今後もぜひご支援させてください。本日はありがとうございました。
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