もはやオンプレミスに聖域はありません。これからは既存システムをAWS をはじめとしたクラウドに移行していくことが前提と考えています。それを実現していくためにも、AWS には大きく期待しています。
1912 年に創業したヤンマー株式会社は、世界で初めて小形で実用的なディーゼルエンジンを市場に提供しました。同社は独創的な小形ディーゼルエンジンを核に、マリン事業、農業機械事業、建設機械事業、さらにエネルギーシステム、大形エンジン事業を世界で展開しています。2012 年に迎えた 100 周年を期に、プレミアムブランドプロジェクトとしてオニヤンマをモチーフにした新ロゴ『フライング Y』を作成し、ブランドイメージの再構築が行われました。
ヤンマーでは『A SUSTAINABLE FUTURE -テクノロジーで、新しい豊かさへ。-』をコンセプトとして掲げ、省エネルギーな暮らしを実現する社会、安心して仕事・生活ができる社会、食の恵みを安⼼して享受できる社会、ワクワクできる心豊かな体験に満ちた社会、という 4 つの社会の実現を目指しています。B to B の物売りビジネスから、顧客の課題を解決するソリューションを提供するビジネスへと転換し、世界の食とエネルギーの課題を独自の高い技術力で支援しています。
これら 4 つの社会の実現に向け、ヤンマーではグローバル IT 戦略を立て実施しています。その中では売りを作る『攻めの IT 化』と、効率化、省力化を中心とした社内コスト削減のため『従来の IT 化』の両立が必要です。ヤンマーでは、攻めの IT として次世代テクノロジーを利用した顧客への新しい価値の提供に取り組んでいます。その 1 つとして農業機械事業では、ICT、IoT、M2M を活用し迅速確実なサービスの実現と、顧客の経営への貢献を行う『SMARTASSIST』を展開しています。さらに力を入れているのが、ロボットトラクターです。GPS やセンサーなどを活用し、有人の伴走トラクタと無人のロボットトラックを同時運用することで、複数台での協調作業や複数同時作業で農作業の効率化を図り、人手不足や技術ノウハウの継承などに取り組んでいます。ロボットトラクターは、SMARTASSIST とも融合し農業が抱える課題解決をサポートしています。
「SMARTASSIST は、ICT を核とするこれからの新しい農業のカタチです。農業機械とそれを利用する顧客をつなぐことで、顧客の農業経営をサポートしています。」と言うのは、ヤンマー株式会社 執行役員 ビジネスシステム部 部長の矢島 孝應 氏です。SMARTASSIST ではセンサーなどを通して稼働機械情報をヤンマーのリモートサポートセンターに集め、顧客の状況を 24 時間 365 日見守るとともに、集められたデータからどのくらいの収量があるのか、作業によるロスはないかなどを分析する仕組みとなっています。さらに、稼働状況に応じたメンテナンスを提案し万一の機器トラブル時にも迅速にエラー箇所を把握することで、予防保守も実現しています。
さらにヤンマーの中央研究所での研究活動においても、農業分野はもとより、エネルギー、舶用エンジン、工場製造環境など様々な分野で IoT 活用の検討が必要になってきており、これらの取り組みをいち早く実現するためにも、柔軟で安定性の高い IT インフラ基盤が必要でした。
ロボットトラクターの仕組みを構築する際にヤンマーでは、AWS のクラウドを採用しました。AWS にはすぐに利用できるツールが揃っており、IoT のような新しい仕組みを迅速に開発できる点が高く評価されたのです。また、AWS のグローバル規模のクラウドサービス基盤により、できあがった仕組みを世界中に展開しやすいことも評価されました。
SMARTASSIST の環境は、当初オンプレミスで構築し運用されていました。しかし今後のビジネス拡大のスピードに合わせるため、さらには先進技術をいち早く取り入れて世界中でサービスを提供するために、今後はクラウドを活用すべきだとヤンマーでは判断しています。そしていくつかのクラウドサービスを比較した結果、AWS を採用する方針を決めています。「AWS に決めた最大の理由はパフォーマンスが高いという点です。SMARTASSIST では、うなぎ登りでつながる機械が増えて行くことが予想されています。それに十分対応できる性能が発揮できると判断されたのが AWS でした。」(矢島氏)
一方中央研究所は、AWS の柔軟な拡張性や、利用しているエンジニアが多く入手できる情報量が圧倒的に多かった点を評価し AWS を採用しています。中央研究所ではエンジンなどのハードウェアを開発する環境は整っていたものの、エンジンにセンサーなどを搭載しデータを集めて活用する IoT のためのソフトウェア開発環境は十分ではありませんでした。「研究開発段階では、ビジネス現場のインフラ環境を利用するわけにはいかず別のものが必要でした。また、IoT の研究開発ではコンピューティングリソースをどのくらい使うことになるかが予測しにくいという理由もあり、クラウドを利用すべきだと考えました。」と言うのは、中央研究所 基盤技術研究部 知能情報グループ グループリーダーの大林 正之 氏です。
「ヤンマー様 ロボットトラクター システム構成図」
ロボットトラクターでは、トラクタとヤンマーのデータセンター間で安全にデータをやり取りするために、Amazon Cognito を用いた ID 認証とデータ同期を活用しています。加えて、IoT の根幹の仕組みとなるセンサーからトランザクションデータを収集し、ヤンマーのデータセンターのサーバーに効率的に格納する仕組みでも Amazon SQS などを活用しています。AWS のサービスをうまく組み合わせたことで、迅速な開発が実現されています。
迅速に開発したロボットトラクターの IoT の仕組みをビジネスとして本番運用へ移行する際にも AWS 利用のメリットがあります。本番サービスに必要な IT インフラの可用性の確保や必要なセキュリティ機能などが AWS には備わっているので、インフラ構築や運用に手間がかからず、ヤンマーではサービスの中身の部分の開発、運用に注力できるのです。また、AWS クラウドを利用することになったことで、IT インフラのコストを月ベースで費用化することができ、IT 投資を見える化しやすくなったことで投資に対しどのような効果があるかを経営側面からも明らかにしやすくなっています。
中央研究所でも AWS IoT の利用によるメリットを感じています。「AWS IoT はとても使いやすいので、開発のスピードが以前より上がっていると実感しています。また、大規模なサーバーを用意する際、従来は年単位で計画して調達する必要がありましたが、AWS なら数分もあれば必要な開発環境がすぐ用意できます。事前に詳細なキャパシティープランを行う手間もなくなり、これもまた迅速な開発につながっています。」(大林氏)
AWS の利用は、中央研究所のメンバーの研究開発に対する意識も変えています。「何か良いアイデアがあれば、すぐにチャレンジするようになりました。AWS のサービスを活用してまずプロトタイプを作り、それを評価しながら改善していくのです。AWS を使えばすぐに動くものを見せることができるので効果もイメージしやすく、メンバーのモチベーションの向上にもつながっています。」(大林氏)
ヤンマーでは、今後ロボットトラクターを制御するための仕組みやロボットトラクターの新たな機能開発などを、順次 AWS IoT をはじめとする AWS サービスへ切り替えていく予定です。ヤンマーでは、攻めの IT にエンジニアがチャレンジしやすい環境を実現するため、仕事時間の 3 %を好きなことに自由にチャレンジできるようにする取り組みも始めています。「これまで企業の IT 部門には守備の強さが求められていました。野球で言えばフライが 100 本打ち上げられたらそれを全て確実に捕球し、1 球でも落とせば叱責されました。野球では打率 3 割でも優秀な選手ですが、これからのIT 部門は、100 回打って 5 回でもヒットが出れば成功でしょう。まずは 100 回打ちに行く攻めの姿勢を持ったエンジニアが求められます。そのためには多様なサービスが揃った AWS が、当社のエンジニア達の強力な武器になると考えています。」(矢島氏)
今後もヤンマーでは、センサーやロボット、リモートセンシング技術などの最先端技術を積極的に活用し、新たなソリューションを提供していく予定です。さらに、現在オンプレミスで動いている既存の IT システムを全てクラウド化する構想もあります。「もはやオンプレミスに聖域はありません。これからは既存システムをAWS をはじめとしたクラウドに移行していくことが前提と考えています。それを実現していくためにも、AWS には大きく期待しています。」(矢島氏)
AWS クラウドが IoT ソリューションにどのように役立つかに関する詳細は、AWS IoT の詳細ページをご参照ください。