などに着目してフルクラウド化に舵を切ることにしました。」
ゼンリンデータコムは 2020 年のフルクラウド化に向け、既に AWS 上に展開している 2,400 台の仮想サーバーに加え、オンプレミスの VMware vSphere 上の仮想サーバー 1,800 台を VMware Cloud on AWS に移行。AWS のネイティブサービスとの連携を活用して Oracle Database を Amazon Aurora に移行するほか、高精度地図データの生成に Amazon SageMaker の機械学習モデルを採用するなど、AWS サービスの活用範囲を年々拡大しています。
地図サービスや位置情報を利用した IT ソリューションを提供するゼンリンデータコム。『いつも NAVI』などの個人向けの地図アプリや、法人向けの地図サービス開発用 API、動態管理、テレマティクスなど、幅広いサービスを提供しています。
同社は IT リソースの効率的な利用に向け、2010 年からサービスのベースとなるサーバーを VMware の仮想化ソリューションに集約。さらに、一部の商用サービスや API サーバーで Amazon EC2 を利用し、クラウドへの切り替えに乗り出しました。「当初の目的は、急激なサーバーアクセスへの対応でした。渋滞や大雨が発生したり、メディアで紹介されたりしてアクセスが集中した際にも、AWS ならリソースが柔軟にスケールできると考えました。」と語るのは、同社の取締役 執行役員 技術本部長の奥正喜氏です。
その後、2017 年までに実機サーバーをすべてオンプレミスの仮想サーバー 1,800 台と、AWS 上の仮想サーバー 2,400 台に集約。さらに、2020 年以降に向けた中長期の方針として、仮想サーバーをすべて AWS 上に集約するフルクラウド化を決断しています。
「改めてコストを試算したところ、オンプレミスと比べ、スケーラブルな AWS に完全移行したほうが、圧倒的にメリットが大きいことがわかりました。機能拡張を行いながら、定期的にコスト削減を進められることもフルクラウド化に踏み切るポイントになりました。」(奧氏)
当初は仮想サーバー上で稼働しているシステムをそのまま AWS に移行する計画でした。しかしその場合、OS やミドルウェアのバージョンアップ、プログラムの改修、運用手順の変更などが発生し、大幅なコスト増と開発期間の長期化が予想されます。移行を担当する開発部門からは「システムの新規開発に集中させてほしい」、営業部門からは「移行コストに見合うだけのメリットはあるのか?という声が上がることが想定されていました。
こうした中で登場したのが、Amazon EC2 上で VMware の仮想マシンを稼働する VMware Cloud on AWS です。技術本部 技術統括部 副部長の渡邊大祐氏は「システムの機能、人材、ノウハウ、運用の仕組みなどの既存資産を活かしながら、ハードウェアの管理からの解放というクラウドのメリットも得られることを評価しました。」と語ります。
そこで同社は 2018 年 2 月、オレゴンリージョンで 1 回目の PoC を行い、基本動作を検証して当時の課題を洗い出しました。2018 年 10 月には東京リージョンで 2 回目の PoC を実施し、更新されたサービスの機能面の強化やオンプレミスからの移行方法を確認できたことから VMware Cloud on AWS を正式に採用しました。
移行プロジェクトは 2019 年 2 月にキックオフ。環境設計、基盤構築を経て同年 4 月からオンプレミス環境で稼働しているシステムの移行に着手しました。2019 年 10 月時点で開発環境の仮想マシンが約 400 台、本番環境の仮想マシンが約 400 台、合計約 800 台が移行を完了しています。
技術本部 副本部長 兼 技術統括部長 兼 先端技術推進室の城戸拓也氏は今後の計画について、「2020 年 6 月頃までには、現在オンプレミスにあるすべてシステムを VMware Cloud on AWS と AWS のサービスに載せ換えて約 50 種類の商用サービスを稼働させ、同年 9 月にはオンプレミスのサーバーを運用するデータセンターの廃止を予定しています。」と語ります。
本番環境の移行中もオンプレミスの VMware 環境は停止せず、VMware Cloud on AWS と並行運用しながら、準備ができたシステムから切り替える方針です。移行中はオンプレミスとクラウドの二重管理が発生しますが、完全移行を終えた1年後からコスト削減の効果が出ると試算しています。
また、VMware Cloud on AWS への移行では、仮想マシンを作り替える必要がないため工数はほとんど発生せず、移行後のテストもわずかで済みます。管理者は VMware の管理ツールを利用して、移行前と変わらない環境でオペレーションを継続することが可能です。
なお、同社では オンプレミスで稼働しているデータベースを、Oracle Database から Amazon Aurora に移行するプロジェクトも進めています。「リソースを自動的にスケールできる拡張性の高さと、商用データベースに匹敵する可用性の高さを評価しました。」と渡邊氏は語ります。
現在は商用データベースの更新タイミングである 2020 年 7 月に向けて、Amazon Aurora への移行作業を進めています。
「ライセンス料金で年間数千万円の削減を見込んでおり、データベースの保守料金も合わせると相当のコストメリットが得られると試算しています。」(城戸氏)
今後ゼンリンデータコムでは、アプリケーションの変更が難しいサービスには VMware Cloud on AWS、アクティブで革新的なサービスには AWS と、ハイブリッド運用を極めていく考えです。「VMware Cloud on AWS 環境では VMware 社が展開予定であるコンテナサービスの検討や AWS ネイティブ環境では Amazon EKS の活用など、スケーラブルなインフラの構築にチャレンジしてみたいと思います。」(渡邊氏)
AWS の活用は IT インフラばかりでなく、次世代の地図サービスにも拡大しています。例えば、交通情報を提供するリアルタイム配信基盤に AWS のマネージドサービスやサーバーレスアーキテクチャの活用を推進。車載カメラやドライブレコーダーから取得した動画・静止画から道路交通標識や看板を認識して地図情報の更新を自動化するシステムや、道路上の落下物や障害物を認識してリアルタイムに通知するシステムで利用する機械学習モデルの構築に Amazon SageMaker を採用し、エッジデバイスのコンピューティングリソースに AWS IoT Greengrass を使ったプロトタイプを構築しています。
「AWS のマネージドサービスを活用すれば、社内で一から構築する必要がなく、開発期間の短縮や管理負荷の軽減が可能です。さらにエッジコンピューティングを使うことでエッジ側のデータをセキュアに取り込み、管理することもできます。」(城戸氏)
Amazon SageMaker と AWS IoT Greengrass を使った交通情報認識システムは PoC まで実施済みで、現在はベータ版のリリースに向けて準備が進んでいます。奧氏は「今後も AWS から最新情報の提供を受け、お客様ニーズとマッチングさせながら、地図サービスの高度化・デジタル化を進めていきます。」と展望を語っています。