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[AWS Summit Japan 2025] 生成 AI を用いた自治体向けソリューションデモのご紹介

自治体においては、労働人口減少に伴い職員数の確保が難しくなっていることや住民へのインターネットの普及率の向上から、職員の業務効率化や業務のデジタルトランスフォーメーションが重要な課題となっています。近年の生成AIの登場は、これらの課題に対する有効なソリューションとして期待されています。生成AIを取り巻く技術は目覚ましい発展を遂げており、自治体での活用可能性もますます拡大しています。

こうした状況を踏まえ、2025 年 6 月 25 日・26 日に開催された AWS Summit Japan 2025 において、生成 AI 技術を活用した自治体向けのソリューションのデモ展示をいたしました。親しみやすいアバターを通して避難者情報を収集しカードの発行までを行う「避難所窓口対応ソリューション」と、電話上で自然な日本語を使って情報の検索や予約などが行える「Amazon Connect x 生成AI」、さらに書類不備の早期発見を助ける「AirDoc」の 3 つのデモを通じて、現在の生成 AI 技術が自治体でどのような可能性を秘めているかをご紹介しました。

本ブログでは、Summit 会場にてご紹介したデモの詳細を解説し、現在の生成 AI 技術が自治体の業務改善にどのように貢献できるかを、より多くの皆様にお伝えしたいと思います。動画で実際に動く様子も見ることができますので、ぜひご覧ください。

目次

  1. 避難所窓口対応ソリューション
  2. Amazon Connect x 生成AIエージェント
  3. Airdoc – PDF書類のAI OCR・JSONデータ抽出ツール
  4. まとめ

避難所窓口対応ソリューション

生成AIエージェントを用いた窓口アバターです。
避難所AIアバター

解決したい課題

  • 避難所での、被災者情報を取得し各種申請を行なったり、罹災したことを証明する避難者カードを発行するという業務
  • 高齢者や子供など、すべての人がタブレットなどの端末から自分で情報を入力できるわけではないため、完全セルフサービスにしてしまうのも問題がある

生成AIを利用したソリューションアプローチ

上記課題を踏まえて、今回のデモでは生成AIを用いて避難者情報の対話型収集を行い、JSON形式で情報を記録するとともに、そのデータを加工してHTMLベースの人間が閲覧しやすく印刷もできる避難者カードを発行する、というソリューションを開発しました。

生成AIの自然な日本語によるヒアリングで、プライバシー設定や怪我の有無などを聞き出し、避難者カードに必要な情報を収集します。その後、生成AIが収集した情報を使ってJSONデータを作成し、さらにコードを実行してそのデータを決まった形のHTMLカードに整形します。

生成AIが対応するため、動画にある通り、「私は無事ですが、花子は怪我をしています」などの曖昧な指示をしても、「私」が誰であるかや「怪我」とは被害のことであることを認識し、出来上がったカードでは正しい名前とともに 無事です/被害があります/不明です のいずれかにチェックがされています。

避難所AIアバター

技術的なポイント

ローカルのアプリケーションから、基盤モデルは Amazon Bedrock を、音声読み上げは Amazon Polly を、音声認識は Amazon Transcribe を活用しています。
AI エージェントを用いることによって、ローカルでコードを実行してJSONデータを加工し、生成AIの挙動に左右されることなくいつも同じ形式のHTMLカードを作成することができます。
AWSがサンプルとして提供するオープンソースソフトウェアであるBedrock Engineer をベースとして、Generative AI Avatar Chat を組み合わせる形で作成しました。

避難所AIアバターの仕組み

期待できる効果

  • 電子機器に不慣れな市民についても、人間を介することなく対応できる
  • 職員数を確保することが難しい災害時において、申請・発行業務に割く人員を削減できる
  • より必要な支援を住民に届けることができる

実際に稼働させる場合に考慮すべきこと/コスト

  • ローカルでアプリケーションを動かしていることから、AWS上で発生するコストは基盤モデル、音声読み上げ、音声認識のAPI使用料のみです。詳しくは Amazon Bedrock の料金ページAmazon Polly の料金ページAmazon Transcribe の料金ページをご覧ください。
  • ローカルでアプリケーションを動かしデータもローカルに保存するため、端末の取り扱いや端末のネットワーク接続に気をつける必要があります。

Amazon Connect x 生成AI

RAG(情報検索)、生成AIエージェント、人間へのエスカレーションといった機能を持つコールセンター自動応答ソリューションです。

解決したい課題

  • 電話対応
  • マニュアルから引用して答えれば事足りるもの・予約などの事務手続き・複雑で専門性が求められる問い合わせなどが混在
  • 一部は自動化きるが一部は人間の対応が必要

生成AIを利用したソリューションアプローチ

上記課題を踏まえて、今回のデモではお問い合わせをしてきた住民の要望を判別し、情報検索を行って回答したり、データベースアクセスできる予約エージェントに繋いだり、人間にエスカレーションしたりすることができるコールセンターAIを実装しました。

生成AIコンタクトセンターの概要

下の音声では、

  • 情報検索を行って回答するケースとして、子ども医療費助成制度の案内を行なう
  • 予約エージェントに繋いで、場所や希望日時などを収集し、予約情報をデータベースに保存する
  • 複雑な相談や苦情対応では、人間のオペレータへ適切に引き継ぐ

といった動作が確認できます。

また、Amazon Connect は音声通話にもチャットにも対応しているため、一度設定を行えば両方で対応することが可能です。

技術的なポイント

音声通話またはチャットが開始されると、まずAmazon Q in Connect (Amazon Connect と統合された Amazon Q) が対応します。このエージェントは情報検索(RAG)による回答や予約エージェントへの切り替え、人間へのエスカレーションを担っています。
予約エージェントは、AWS Lambda で動作しており、Amazon DynamoDB にある空き時間テーブルを見て住民に都合のいい時間帯を確認し、予約内容について了承が取れたら予約テーブルに新しい予約情報を挿入します。

期待できる効果

  • 自動化できる部分を自動化し、人間への適切なエスカレーションを行う
  • 職員の業務を効率化
  • 住民の待ち時間を減らす

実際に稼働させる場合に考慮すべきこと/コスト

  • 2025年8月現在、
    • 通話のユースケースでは以下の料金がかかります
      • Amazon Q in Connect の使用料 0.008 USD/分
      • Amazon Connect のサービス利用料金 0.018 USD/分
      • ウェブ通話の音声使用料金 0.01 USD/分
    • チャットのユースケースでは以下の料金がかかります
      • Amazon Q in Connect の使用料 0.0015 USD/メッセージ
      • チャット料金 0.004 USD/メッセージ
  • 2025年8月現在、既存の電話番号を移行することは基本的にできないため、既存の電話番号を利用する際は別途転送などの料金を考慮することが必要です。
  • 電話番号を取得しなくても、Web上に埋め込んだソフトフォンからチャット・音声通話を受けることができます。

最新の詳しい情報は、Amazon Connect の 料金ページ をご覧ください。

Airdoc

申請書類などのファイルデータ (PDFや画像) を⽣成 AI を⽤いて OCR (文字認識) し、JSON 形式のデータとして抽出するソリューションです。

解決したい課題

  • 日々多数提出される住民からの就労証明書や各種申請書類などのPDF書類
  • 記入内容の確認・不備のチェック・データ入力作業などを、手作業で行っていて処理に時間を要している

生成AIを利用したソリューションアプローチ

上記課題を踏まえて、申請書類のファイルに記入された内容をシステムが扱いやすいJSON形式のデータとして抽出する生成 AI ソリューションを開発しました。
具体的には、以下の 2 ステップで内容を抽出しています。

  1. サンプルファイル(就労証明書の記入例の PDF ファイルなど)からその書類の内容に合った JSON スキーマを生成 AI で自動生成。(JSON スキーマは必要に応じてユーザーが編集可能)
  2. ステップ 1 で作成した JSON スキーマに従って、実際に申請された書類の内容を、JSON 形式のデータとして生成 AI で抽出。

自治体のシステムに本ソリューションを組み込めば、(書類の内容が JSON データとして抽出されシステムで処理することが可能になるので)今まで職員が手作業で行っていたデータ入力作業や書類の内容を精査する作業を自動化出来るようになります。
AirDocデモ

技術的なポイント

AirDocアーキテクチャ

  • バックエンドには AWS Lambda、Amazon Bedrock、Amazon DynamoDB、Amazon S3 を組み合わせたサーバーレス構成を採用しています。
  • JSON スキーマの抽出、JSON スキーマの生成を担う部分には Amazon Bedrock で利用可能な Claude モデルを利用し、Few-shot プロンプトを追加することで精度を高めています。
  • フロントエンドには Vue.js を利用して、Amazon CloudFront と Amazon S3 でホストしています。
  • セキュリティの観点では、AWS WAF で IP アドレス制限をかけたり、Amazon Cognitoで認証認可を行っています。また、フロントエンドのアプリケーションから AWS Lambda の Function URL に API リクエストを送る部分では、SigV4 署名で IAM の認証情報を追加しています。

期待できる効果

  • 職員の業務負担軽減
  • 住民サービス向上

実際に稼働させる場合に考慮すべきこと/コスト

  • 月間の処理件数や書類内容のデータ量によって、Amazon Bedrock の利用料金(処理トークン数に応じた従量課金)が変動するため、事前の処理量見積もりが必要になります。詳しくは Amazon Bedrock の料金ページ をご覧ください。
  • プロンプトのチューニングやモデルの変更、書類の形式変更などによって、データ抽出の精度向上を検証する必要があります。
  • 生成AIの特性上 100% の精度は保証できないため、自動化された業務の最後に職員による最終確認フローを残す必要があります。

まとめ

本ブログでは AWS Summit Japan 2025 にて自治体向けブースで展示をした 3 種類のデモについてご紹介しました。
今回ご紹介したデモが、自治体の課題解決に役立てられれば幸いです。
最後に、本ブログでご紹介したデモに関して、ご興味・ご質問をお持ちのお客様はお問い合わせフォームもしくは担当営業までご連絡ください。また会場で投影した資料をこちらからダウンロードできます。
本ブログは、アマゾン ウェブ サービス ジャパン合同会社 パブリックセクターのソリューションアーキテクト、押川令、岸本尚大が執筆しました。