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【開催報告】AI エージェントは創薬研究をどう変えるか: 製薬企業向け Claude Code on AWS ワークショップ
2026 年 8 月 4 日、「製薬企業向け Claude Code on AWS ワークショップ 〜創薬研究を加速する AI コーディングエージェントの活用〜」を開催しました。10 社以上の製薬企業から創薬研究者と研究 IT のご担当者にお集まりいただき、ハンズオンを中心に、実際に Claude Code on AWS の導入を進める第一三共株式会社とJCRファーマ株式会社、および Anthropic Japan 合同会社による登壇セッションも実施しました。
参加者は、AI コーディングエージェントを初めて使う方から、既に研究業務で Claude Code を活用している方まで様々でしたが、アンケート(回答 47 件)の総合満足度は 4.70 / 5.00 であり、「ワークショップに参加して世界が変わった」「わずか半日で欲しい研究アプリが作れたことに感動した」「自社で利用していく際のイメージが掴めた」といった声をいただくなど高い評価をいただくことができました。
本記事では、イベントの背景や当日の様子をお届けいたします。
目次
- ワークショップのゴール
- 開催の背景:AI for Science の現在地と実践
- ハンズオンの内容: 創薬研究の仕事はどう変わるか
- ハンズオン実行環境:Claude Code を組織で安全に活用するには
- お客様登壇: 先行する創薬研究現場での実践
- Anthropic Japan 合同会社様登壇: 研究者自身が AI エージェントを使う意義
- 体験を組織の実践へ
- まとめ
ワークショップのゴール
本ワークショップが目指したのは、Claude Code の細かな機能やプロンプト技法の習得ではありません。参加者自身の研究テーマや興味のある題材を用いて、AI とともに創薬研究の様々な業務に取り組み、研究の進め方や研究者の役割がどう変わるかを体感していただくことです。何を AI に任せられ、何を人間が行うべきかは、実際の業務に近い領域で使い込んでこそ初めて見えてきます。そのため、いち早く実践を始め、 AI が創薬研究にもたらす可能性と人が担うべき役割を見極め、今後の研究の進め方を考える契機にしていただくべく、本ワークショップを企画しました。
開催の背景:AI for Science の現在地と実践
ライフサイエンス業界を取り巻く現状として、AI が具体的な創薬成果につながり始める一方、組織展開には大きな隔たりがあります。 Deloitte 社の調査によると、ヘルスケア・ライフサイエンス企業を対象とした調査で、AI をうまくスケールできたとの回答は 22%、AI への取り組みで大きなビジネス成果を得たとの回答はわずか 9% にとどまりました。その一方で、例えば Insilico Medicine は AI で創出した特発性肺線維症の治療薬候補について Phase III 臨床試験を開始したと発表しているなど、AI 活用を実際の創薬成果に繋げる企業と展開に苦戦する企業との差が開きつつあります。
一度の回答から情報収集、計画、作業、検証という一連の仕事へと広げる AI エージェントは、仮説を立て解析や実験を行う創薬研究とも重なり、研究者は問いと判断に集中するという新しい役割分担を可能にします。ただ多くの企業が同じフロンティアモデルを利用できるいま、差を生むのはモデル性能やツール導入ではありません。自社の知見や業務の型を AI エージェントに正確に与え、AI エージェントに何を任せどこで人が介入するかを設計して初めて、研究現場で大きな成果を生む形になります。こうした設計の力は、実際に近い業務で試行錯誤しなければ体得できず、その第一歩になればと今回のイベントの企画に繋がりました。
今回題材としたのは、Anthropic が開発する代表的な AI コーディングエージェントである Claude Code です。コード生成に限らず、調査や分析、成果物の作成など研究の様々な業務で活用できます。AWS と Anthropic は戦略的協業を結んでおり、AWS は Anthropic のプライマリクラウドプロバイダーとして、お客様が Claude をセキュアかつ大規模に活用できる環境を提供しています。
ハンズオンの内容: 創薬研究の仕事はどう変わるか
ハンズオンは二部構成でした。前半では研究上の判断を支える調査とレポート作成を行い、後半ではその判断プロセスないし関心のある研究業務を Web アプリケーションとして AWS 上に構築しました。用意されたプロンプトを順番に貼り付けるのではなく、参加者自身が目的と基準を言葉にし、Claude Code に作業を任せ、結果を確かめながら方向を調整しました。詳しいシナリオや当日の操作手順に興味のある方は、こちらの URL をご覧ください。
前半の題材は、薬の作用先となる複数の分子候補の中から研究で優先するものを選定する「Target Prioritization ( 標的の優先順位付け) 」です。例えば 「原発性高コレステロール血症」という疾患では、 HMGCR、NPC1L1、PCSK9 などが標的候補となりますが、対象患者、既存治療との違い、安全性など、重視する基準を複数定めることによってアプローチするべき候補の優先順位が変わります。
今回、創薬研究者の方々には、関心のある疾患や実際の研究テーマを自ら選んでいただき、選定基準と 2〜5 件の標的候補を Claude Code と対話しながら決めていただきました。創薬研究に馴染みのない方には、AWS 側で事前にシナリオを用意しました。
テーマと基準が固まると、Claude Code が Open Targets、Europe PMC、ClinicalTrials.gov などの公開 API や、AWS が幅広いオープンデータの公開と利用を支援する Registry of Open Data on AWS に掲載されたデータセットも参照しながら根拠を集め、候補比較のレポートを作成します。参加者は出典や反証を確認し、条件を変えた際の順位を検証しながら、判断の理由と不確実性を判断メモにまとめていきました。
後半では、前半の判断プロセスや参加者が関心を持つ研究業務を題材に、AI エージェントが動くアプリケーションを AWS 上に構築しました。Claude Code の質問に答えながら要件を固め、設計書を確認して GO を出すと、コード作成、テスト、インフラ構築、デプロイまでが進みます。参加者はコードを書かず、作るものを人と AI で合意してから実装へ進むプロセスを体験しました。
ハンズオン実行環境:Claude Code を組織で安全に活用するには
当日は、Claude の呼び出しに Amazon Bedrock を利用しました。Amazon Bedrock では、入力と出力はモデル提供者に共有されず、基盤モデルの学習にも使用されません。AWS IAM による権限管理、AWS CloudTrail による操作記録、AWS PrivateLink によるプライベート接続など、既存の AWS のセキュリティ統制の中で Claude Code を利用できます。さらに、データレジデンシー要件がある場合は、対応モデルで日本国内クロスリージョン推論 (Japan Cross Region Inference) を利用することで、推論処理を国内リージョンに限定しデータを日本国内に留めることもできます。
一方、組織への展開には、モデル利用のガバナンスや、会社支給 PC への導入、研究データの扱い、認証・権限、利用者ごとの環境差といった課題があります。研究部門の方々と普段お話しするなかでも、こうした点が個人の試行から組織利用へ進む際の壁として挙がります。
それを解決する選択肢の一つが、今回利用した RADS ( Remote AWS Development Station ) です。 RADS は、Amazon EC2 ベースのクラウドワークステーションを Web ポータルから構築・管理することができる AWS 公式サンプル実装であり、GitHub で公開されています。Web ポータルから Claude Code などがインストールされた AI コーディング環境を作成・起動・停止し、Amazon DCV によるリモートデスクトップ、ブラウザの Code Editor、SSH 等で接続して使うことができます。以下のような特徴があります。
- AI 環境がプリセット済み:Claude Code などを Amazon Bedrock 向け設定込みで導入済み
- API キー配布や初期設定が不要:ワークステーション (EC2) の IAM ロール経由で自社アカウント内の Bedrock を呼び出す
- PC を閉じても稼働継続:長時間タスクをエージェントに任せられ、マシン性能も変更可能
- ローカルに影響しないサンドボックス: 各環境が独立した EC2 インスタンスのため手元の PC に影響が及ばない
お客様登壇: 先行する創薬研究現場での実践
当日は、ハンズオンでの体験を実際の業務へつなげる材料として、Claude Code on AWS の研究現場への導入・展開を進める 2 社に、研究部門と IT 部門それぞれの視点からご登壇いただきました。
第一三共株式会社
第一三共株式会社の田村様からは、「Coding Agent で変わる創薬 DRY 解析」と題してご発表いただきました。田村様が所属されている研究部門にて取られた DRY 研究員への社内アンケートでは、92% が「Coding Agent がなくなると業務に影響する」、85% が「時間やスキルが理由で以前はできなかった業務を遂行できた」と回答したとのことです。具体例として、十分な作業時間を確保できず、4 か月間着手できずにいた大量の化合物データの SAR 解析を Claude Code との対話で約 1 時間で完了した事例や、100 件以上の非構造情報を含む文献や特許からデータを抽出した事例、AWS Parallel Computing Service (AWS PCS) と連携した解析の取組みなどを紹介いただきました。また、定型業務は Agent Skills や プライベート Plugins として GitHub 上のプライベートレポジトリで共有し、個人の成功パターンをチームで再利用できる仕組みも整備されています。ハルシネーションを 100% 防ぐことは原理上できなくても、後段の解析や実験で結果を検証できるため、創薬研究は AI エージェントを活用しやすい領域ではないかとの見解も示されました。
JCRファーマ株式会社
JCRファーマ株式会社の東本様からは、「Claude Code on AWS で創薬研究・業務を加速する」と題してご発表いただきました。チャット型 AI では、提示された手順やコードの実行、エラー対応を利用する人間側が担わねばなりません。AI エージェントは、作成・テスト・修正までを自ら進めます。その様子を AWS から提供したワークショップで実際に体感されたことで、自律実行への懸念から、従来の手間を解決できるという見方へ変わったといいます。
導入には、自社の AWS 環境から Amazon Bedrock 経由で Claude を利用する構成を選択しました。国内でのデータ保管、既存のセキュリティ運用の踏襲、従量課金で小さく始められることが決め手となり、AWS のイベントで体験してから約 10 日でリリースに至りました。研究者が環境構築やエラー対応から離れ、解析そのものに集中できる環境を整えられたとのことでした。実際に触れることが、構成の判断と迅速な導入につながった事例です。
詳しくはご寄稿いただいたこちらの記事もご参照ください。
Anthropic Japan 合同会社様登壇: 研究者自身が AI エージェントを使う意義
2 社の実践に続き、Anthropic Japan 合同会社の渡部様には「信頼できるフロンティア AI」と題してご登壇いただきました。Constitutional AI を含むモデル設計、能力の向上に応じて安全対策を強化する責任あるスケーリング、顧客データを学習に使用しない方針など、規制産業で活用するための信頼性への取り組みと、Anthropic が一般提供する中で最も高性能なモデルである Claude Fable 5 の最新動向が紹介されました。
Claude Code のハッカソン「Built with Opus」では、入賞した上位 5 組のうち 4 組が職業エンジニアではない非技術者だったといいます。実装の障壁が下がる現在、課題を深く理解している人の知見が成果を左右することを示す 1 つの事例と言えるでしょう。創薬研究でも、ドメインエキスパートである研究者自身がエージェントを使い、課題設定と評価を担うことが成果を生み出す鍵になります。
体験を組織の実践へ
クロージングでは、このハンズオンの中で、何故短い指示からエージェントが一連の作業を進められたのか、その背景をご紹介しました。今回のハンズオンでは、対象とする業務の前提や判断基準をコンテキスト(CLAUDE.md など)として与え、定型作業を Agent Skills として登録し、MCP で研究データベースや文献検索のツールにつなぎ、計画・実行・検証までのループを回す仕組みをあらかじめ設計し、参加者がハンズオンで利用する操作環境のなかに組み込んでいました。参加者には、その土台の上で Claude Code を使い一連の操作を進めていただきました。こうしたモデル周辺の仕組みは一般に「ハーネス」と呼ばれます。
同じモデルを利用できても、社内の知見、業務手順、システムとの接続は企業ごとに異なります。今回の環境のように、自社の知見や業務の型をハーネスに組み込み、実際に使いながら継続的に更新することで、モデルの進化を研究現場の成果へ素早く反映できます。その準備には、今から使い、学び、改善を重ねる時間が必要です。
エージェントが一連の作業を担うと、人はループの中ですべての工程を実行する立場から、ループの上で目的と進め方を設計し、結果を監督する立場へ移ります。任せる範囲を決め、結果に責任を持つのは引き続き人です。目指すのは、一工程ずつ数十 % の効率化を積み上げるだけでなく、仕事の形そのものを組み替えて数十倍の成果を生み出すことです。
では、こうした変化に向けて何から始めるべきでしょうか?
今回の参加者には、体験を各社へ持ち帰り、参加できなかった方も含めて、自社の研究テーマで AI に何を任せ、人がどこで判断するかを話し合う機会を作っていただきたいとお願いしました。対象者・人数・題材などを要望に合わせて、AWS とともに個社向けワークショップを企画・実施することも、その議論を具体化する選択肢になります。
また、今の人間中心の業務のやり方を変えていくことも重要です。業務プロセスを AI エージェント前提に組み替える AI-BPR (AI-driven Business Process Re-Engineering) や、開発サイクル全体を AI 主導で進める AI-DLC(AI-driven Development Life Cycle; AI 駆動開発ライフサイクル) の実践が選択肢の一つです。さらに、今回利用した RADS などを活用して、 Claude Code on AWS を組織的に利用・展開できる環境を早期に整えることで、個人の体験を組織の変革へつなげられます。
AWS は、お客様とともに課題と目指す姿を整理し、進め方の検討から実践、展開まで支援していきます。
まとめ
Claude Code のような AI コーディングエージェントが変革するのは、解析コードの書き方ではなく、創薬研究の進め方そのものです。AI が調査や実装を担い、研究者が問いと判断に集中する働き方は、すでに現実になりつつあります。
その変化を先取りするには、いち早く自らの研究テーマで触り、AI への任せ方と人の判断を組織で学ぶことが欠かせません。AI コーディングエージェントが自社の創薬研究をどう変え得るのか、まずは実際の題材で確かめてみてください。
AWS は、こうしたワークショップを起点に、AI エージェントへの理解と活用を組織に広げ、プロセスの変革と創薬加速につなげる取り組みを今後も支援していきます。ワークショップの実施やその先の組織展開などにご関心をお持ちの方は、担当の AWS アカウントチームまでご相談ください。







